「……とは言ったものの」
ぱふぱふ(意味深)を終えて、ここからまたテンションを上げるのかと思いきや、小町は急に落ち着いた。お前自由すぎるだろう……。
俺のジト目など一切意に介さず、小町が仕切りを続ける。
「順番に回してくと妙に緊張しちゃうと思うので、まあ適当に雑談しながらそれとなく聞いちゃいましょう!」
「出た! 細かい所で適当になる小町の謎の癖!」
「小町さん、なんで毎回細部が雑になるのかしら……」
雪ノ下がこめかみに手を当てて呆れている。ツッコミ義務に伴って復活したのん?
「まあまあ。聞くのは今の話でも過去の話でも今の話でもいいですよー! ……今の話が良いですよー!」
「おい、過去はどこに行った、どこに」
言うと、小町が振り向き、神妙な面持ちでかぶりを振る。
「お兄ちゃん……過去よりも、今を見つめた方が大事な時はたくさんあるんだよ?」
「うぜえ……」
ものっそい怪訝な目で小町を睨んでいると、雪ノ下が妙に優しく微笑んだ。
「そうね、あなたにとって過去とは全て、見ないフリをして、見捨てて、切り捨てるべきものなんですものね」
「なんで俺の過去が全て黒歴史前提なの? 一応それなりの時間部活で一緒に行動してたよね?」
雪ノ下の強烈な心的攻撃が胸を抉る。俺は別にこの攻撃で胸が減っても何ら問題は無――。
「……何を考えているのかしら?」
読まれた! なんでかしら!
誰か助けて!
うわっ、怖っ、睨むなよ、あれ、何か心臓の動きが鈍く……ぎゃーっ!
「ヒッキー、なんかよく分かんないけどキモいよ」
「先輩、とにかくただただキモいです」
「…………」
…………。
脳内で一人ではしゃいでただけなのに、激しく罵倒された。
がっくりと項垂れていると(心の中で)、一色が由比ヶ浜を突っつき始めた。むふふって感じで笑ってる。超分かりやすいな。
「結衣先輩はどうなんですかー?」
「えっ!? な、なにが!?」
目に見えて慌てる由比ヶ浜。この話になる時点で、ある程度覚悟はしとけよ……。
ていうか一色、さっき由比ヶ浜と協定結んでたんじゃないの? のっけから裏切るとかいい性格してるわ……めっちゃにやにやしてるし。
「もー、分かってるくせにー!」
「え、や、やー、その、あはははは……」
ガハマさん、汗かきすぎです。動揺しすぎだよ。あなたが汗かくとメロンも相俟って妙に色っぽく見えるからちゃんと調整して!
「そ、そだ! ゆきのん! ゆきのんは!?」
「え……っ」
やべえ。
泥仕合だ。
「あら、たしかに、雪ノ下さんのそういう話聞いたことなかったな。わたしも聞いてみたいなー」
「え、え……っ」
ここでまさかのめぐり先輩参戦。
「雪乃さん、どうなんですかー、好きな人、いないんですかー?」
小町が越後屋よろしく、悪そうな顔をしながら雪ノ下にすり寄る。あれ、なんか雪ノ下包囲網が出来てる?
「あ、そ、その、い、いえ、そんな人は……」
「ほーん? じゃあ、そんなにはっきり『好き』と言える人がいなくても、気になる人はいませんか?」
小町の攻めがえげつねえ。
「あ……ええっと……」
雪ノ下があごに手をやり、真面目に考え出す。ばか、そんなまともに取り合うな!
「……あ」
不意に、雪ノ下と目が合った。
そしてその瞬間、雪ノ下の顔が見る間に赤くなり、背を縮こまらせて俯いてしまった。
……なんで?
それを見て小町が大興奮する。
「お、お、おおお? もしや、もしや……っ?」
なんでこいつ、もしやを連呼しながら俺を見てんだ? 俺のこと好きなの?
「…………」
雪ノ下、だんまり。
あ、顔を手で覆っちゃった。天岩戸モード突入です。邪神三姉妹を呼ばないと。
結局この後、雪ノ下はいくら質問されても、顔を手で覆ったままふるふると首を振るだけだった。なんだお前、可愛いなもう。
× × ×
「そういえばー」
雪ノ下冬の陣を終え、皆が一息をついていると、一色があごに人差し指を当てて話を切り出した。
「なんだよ?」
俺が問うと、一色は一度俺に視線を向け、そこからその視線をめぐり先輩へと滑らせた。
「城廻先輩が恋愛事情って聞いたことないんですよー。城廻先輩、どんな恋してたんですか、それかしてるんですか?」
一色が目を輝かせて、めぐり先輩を見た。うおお、超JKっぽい……! まあ正真正銘JKなんだけど。
めぐり先輩はどんな反応をするのかと皆固唾を呑んで見守っていると、手に持ったティーカップを一度見やり、んーと小さく悩まし気な声を漏らして、やがてやや苦笑気味に顔を上げた。
「んー、あんまり恋愛らしい恋愛はしてこなかったかもなー」
「え、そうなんですか、意外です!」
小町が程好い相槌を打つ。うん、小町と一色と由比ヶ浜という空気読みの達人たちが居れば何とでもなりそうだ。雪ノ下はどんな表情をしたらいいのか分からないという顔をしている。ほんとこういう話に縁が無かったのね……。や、違うか。こういう話をするような女子に嫉妬され続けてきたんだよな。ううん、大変ざます……。
「もちろん、憧れの先輩みたいな人も居たけど、遠くから見てるだけだったなー」
「わあ、わあ、わあ、そうなんですか、へー!」
由比ヶ浜が頬を紅潮させながら楽しそうに言う。すげえ女子女子してんなこいつら……。
めぐり先輩はその食いつきの良さを見て少し話しやすくなったのか、どことなくあった身体の強張りが少し取れたように、頬を緩めた。
「じゃあ、告白……されたりとかは……?」
一色がそろりと聞くと、小町と由比ヶ浜がきゃー! と騒いだ。うるせえなあ……話を集中して聞かせろよ! 我らがめぐめぐ☆めぐりんのお話だぞ!
質問を聞いてめぐり先輩は目をぱちくりとさせると、ふっと優しく微笑んだ。
「うーん、何度かあったかな。なんか私、こんな感じだからなのか分かんないけど……ちょっと大人しめな子によく告白されてたっけ」
たははと苦笑いを浮かべて、めぐり先輩は紅茶を一口くいと飲んだ。
うおお……予想通りだ。めぐり先輩みたいなぽわぽわタイプは地味男に告白されまくるんだな。
「お、お、お? 『よく』と言いますと……?」
小町がテーブルに身を乗り出して、目を超キラキラさせて質問する。うぜえ、超可愛い……。
「うーん……小学校の時と中学校の時とここに入ってからを合わせると……うーん」
こめかみに人差し指を押し当てて、うにゅにゅと悩み始めた。
……え、なに、数えきれないの? 恐ろしい……!
や、そんなことよりも。そんなことって言っちゃって良いのか分からんけど。
やべえ、めぐり先輩、悩む姿すら和むだと……!? もっと悩んでください! この際思い出せなくても良いんで! もっとうにゅにゅってして下さい! うにゅにゅって下さい!
一人興奮していると(気持ち悪い)、雪ノ下が小さく頷いたのが見えた。
「……分かり、ます」
めぐり先輩にだけかろうじて聞こえるような声だったので、他の3人には届いていなかっただろう。俺に聞かせるつもりはなかったようで、俺と目が合うと恥ずかしそうに目を逸らした。めぐり先輩はそんな雪ノ下に優しく微笑んでいた。
と、めぐり先輩と雪ノ下が密かなやりとりをしているのをよそに、一色と小町は腕を組んで大げさに頷いて、由比ヶ浜はたははと苦笑を浮かべていた。え、なになに? なんなの?
「分かります、その感じ。小町もあんまり来られると大変なんですよね……」
「わたしもなー、もうちょっと上手いこと告白前に躱したいんだけど……」
「え……マジで?」
こ、こえぇ……この子ら怖いよ……!
と、視線を横に逸らすと、由比ヶ浜と目が合った。
「あ、あはは……あたしも、それなりに大変だったかなあ……」
…………。
何このモテモテ集団?
5人全員の今まで告られた人数を合わせたら、えらいことになりそう。やだ、中学までの俺だったら多分5人全員に告白して玉砕して気が付いたら学校全体に知れ渡って泣くまである。バッドエンドっていうかデッドエンドっていうか冒頭からエンドロールって感じだ。
4人それぞれのリアクションを見て、めぐり先輩がふっと柔らかく微笑む。
「ふふ、みんな大変だね」
それとなくまとめにかかったように思える台詞だったが、ここで由比ヶ浜が更に切り込んできた。
「城廻先輩、じゃあ、その、た、タイプとか、ありますか……? す、好きなタイプ……」
なんでお前はめぐり先輩のことが好きでチャンスがあるかそれとなく探ろうとしてる男子みてえなことやってんだ。
俺が由比ヶ浜にジト目を向けていると、めぐり先輩はあごに指を当ててんーと考え、首を可愛らしく傾げた。その拍子におさげ髪がふわりと揺れて、ほんわかした空気が辺りを包む。
「そうだな……わたしこう見えて、って言うのもおかしいかもしれないけど、結構年下に甘えられるのが好きかも。絶対って訳じゃないけどね」
「へえ……」
めぐり先輩の何気ない言葉に対し、俺が何気ない返事をすると、場の空気がぴしっと固まるのを感じた。あれ、おかしいな、めぐめぐめぐりん☆めぐりっしゅ効果が消失した……?
「……先輩、何にやけてるんですか? キモいです」
「へ、俺? にやけてた? へ?」
なんか一色に罵倒された。
「ヒッキー、でれでれしてる。キモい」
「へ、俺? でれでれしてた? へ?」
なんか続けざまに由比ヶ浜にも罵倒された。
「比企谷くんなら大丈夫よね、人への甘え方なんて知らないものね」
「おい、なんか妙に重々しい事を生温かい目をしながら言うな。なんか俺が親から愛情もらってないみたいに聞こえるぞ。小町もいるからなんか複雑な感じになっちゃうだろうが」
あれ。
なんか。
すんごい集中砲火食らってませんか? 俺。
何これ世の中理不尽過ぎると嘆いていると、小町だけ全く違う反応をしていることに気付いた。
一人だけ、ヤマピカリャー。
「お、お、お……? これは……チャンス? よし、お兄ちゃん、今日から甘えんぼさんになろう!」
「何言ってくれちゃってんの? 俺が甘えんぼさんとか気持ち悪いにも程が……っておい、雪ノ下、由比ヶ浜、一色。勝手に引くんじゃねえよ。泣いちゃうだろうが」
三者三様の引き方をしてる。面白い。雪ノ下さん、腕を抱く様にする感じはちょっとガチすぎるのでやめません? 俺が本気で襲うみたいになってんじゃん。
「うぐぐ……」
いかん、何を言っても裏目に出る。雁字搦めだ。
困り果てて目線を泳がせていると、めぐり先輩と目が合った。
「……?」
「……っ」
どうしたの? ときょとんとした顔で小首を傾げるめぐり先輩の仕草に、思わずどきりとする。
目を逸らすことさえ忘れて見入っていると、こほんと咳払いする音が聞こえた。
「……比企谷くん、私は奉仕部の部長として、部員、いえ、備品であるあなたが間違いを犯す前にそれを止める義務があるのだけれど……」
…………。
……ツッコミどころが多すぎる。
「備品が間違いを犯すってどういうケースだよ。俺は付喪神かなんかなの? 100歳越えてんの?」
「へ、ヒッキー、17歳でしょ? 何言ってんの?」
「…………」
雪ノ下に対するツッコミなのに、更にツッコミを誘発させるバカメロンが飛び込んできた。や、まあ、知らない人が居てもしょうがないか、こういう知識は。
よし、ちゃんと説明してあげよう。
「由比ヶ浜、ググれ」
「なんか雑にあしらわれた!?」
あれ、なんかさらりと流してしまった。ついね、つい!
こんなわちゃわちゃしたやりとりがしばらく続いたため、何の話をしていたのかもよく分からなくなり、俺の話もそれとなく流れてくれた。あぶねえ……。
……疲れたよぉ……。
つと横に目をやると、紅茶を飲んでいためぐり先輩と再び目が合った。
「うふふ、楽しいね、比企谷くん」
にこやかに目を細める様に、心の老廃物が物凄い勢いで排出されたような気がした。
……老廃物が全部出てったら、なんか俺の心、空っぽになりそうだな……。
続く。
のんびりのんびり。
それでは、今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!