とてとてと歩きつつ、今までテレビで見たり小町経由で聞いた話について、記憶の糸を手繰り寄せる。
「えーっと……先輩は短期的に痩せたいんですか? それとも長期的に痩せたいんですか?」
聞くと、めぐり先輩が目を閉じて顔を上げながらうーんと唸る。
「んー……長期的に、かな。別に直近で海に行くから痩せたいとかって訳でもないしね」
「なるほど……ははっ」
「? どうしたの?」
「や……小町が前、夏休みに入ってから『海に行くから痩せるんだー! くびれを作るんだー!』って言って腹筋してたのを思い出しまして。急にすみません」
「あはは……小町さん、可愛いなあ。……それにしても、比企谷くん、本当小町さんのこと好きだよね」
「ええ、そりゃあもう。どこに出しても恥ずかしくないまであります」
まあ、どこにも出さないけどな。
「はは……すごいなあ……」
あれ、またちょっと引かれた感。
むう。
小町推しはやりすぎない方が良いのかしらん?
……超今更だけど。
や、むしろ、めぐり先輩と仲良くなったらその分だけ小町を売り込んで行けば良いのか。やり方次第だな!
……ちょっと自分に引いた。
あと、めぐり先輩とそんなに仲良くなるという展開なんて有り得るのだろうか? ううむ。
まあ、良いか。その時はその時だ。
こほん、と咳払いをして、視線を前方の風景に戻す。一瞬戸部が見えたけど気のせい気のせい。
「それで、長期的に、徐々に……と言うのであれば、スイパラで先輩が言っていた大股早足っていうのはとても良いと思います」
「ふむふむ、やっぱりかー。でも、効く理由はあんまり知らないんだよね。やってみたらきついって言うのは分かるんだけど」
「俺も色々な所でかじり聞きしたくらいなんであまり詳しくは知らないんですけど……」
きちんと前置きをして、ちらりとめぐり先輩を見る。
めぐり先輩、歩きながらだけれど、よっぽどこの話に興味があるのか、視線が2割前方、8割俺になってる。良いのかな、危なくないんですかね? むう。
「筋肉がきちんと付いていると基礎代謝が上がる、っていうのは知ってますか?」
「うん、それくらいなら」
「で、その筋肉を付ける為の筋トレなんですが、例えば二の腕を痩せさせたいからとダンベルで腕の筋トレだけをする。お腹を痩せさせたいからと腹筋だけをする、という風にしても、ちょっと効率が悪いんです」
「え、そうなの?」
「はい。単純に二の腕やお腹だけだと、筋肉量自体があまり無いから、そこだけ頑張って鍛えても基礎代謝があまり上がらないそうなんです。脂肪を燃やせるようになるには、筋肉量が多い下半身を鍛えるのが良いみたいですね」
「あ、だから大股早足なのかな?」
「そう、みたいです。下半身、特に太腿はかなり筋肉があるので、そこをきちんと鍛える事で、身体全体の基礎代謝をアップして脂肪を燃やす……って寸法ですね。例えば……」
以前かじり読みした記事を思い出す。
「腹筋500回=スクワット15回なんて言い方をしているものを見ました。同じ筋肉量を増やそうとしても、それだけ労力が違うみたいですね」
具体的な数字を出すと、めぐり先輩が目をむいた。
「ほわあ、そうなんだ……スクワット15回ならなんとかなりそうだけど、腹筋500回なんてやったら……次の日、起き上がれそうにないなあ……」
言って、めぐり先輩がちらりとお腹を見やる。今度はお肉はお肉でも、筋肉について考えているようだ。むむむと唸るその表情がやたらめったら可愛い。
――でも、スクワットを15回、とは言っても……と、めぐり先輩が顔を上げて言葉を続ける。
「筋トレって中々続かなそうなんだよね……」
「それもそうですね。だからこそ、普段の生活の中で大股早足で歩くのは効果的みたいです。ジョギングも良さそうですけど、足を着地したときに自分の身体もきちんとその上に乗るので、足の筋肉への負担があまりかからないんだとか。なので、大股で歩いて、ふくらはぎに負担が来るなあと感じるくらいの歩幅で歩くとかなり効くみたいですよ」
「へええ……へえええ……」
めぐり先輩が目を爛々とというかもはや燦々と輝かせて、トリビアみたいな声を上げている。懐かしいなあ、『メロンパン入れになってまーす』……。
めぐり先輩がふんすっと気合を入れて(なんか腹筋してる時の小町みたいだ)、俺をちらりと見やる。
「こんな感じかな?」
「あ、ちょっと……」
俺の反応を見る前に、ずんずんと大股早足で歩き出す。
ほとんど前を見ていなかったのに、いきなりそんな事をしたら危ないだろう。
――注意を呼びかけようとしたら、その前に。
「あう」
ぽふんっ、と。
売り物なのか、歩道の端に置かれた小さなテーブルに紐の先を括りつけられて、自由を制限されながらもぷかぷかとのんびり浮いていた風船群に――めぐり先輩がそれなりの速度で突っ込んだ。
……何この、超和む風景。
「はわわ、ごめんなさい!」
めぐり先輩が慌てて抜け出して、風船の所有者らしき女の人に謝る。
女の人も、俺同様和んだのだろう。なんら怒ることなく、それどころかおかしそうに笑いながら「大丈夫ですか?」とめぐり先輩に聞いた。
「だ、大丈夫です。や~、お恥ずかしい……」
たははと笑うと、その女の人と俺だけでなく、現場を目撃していた周りの通行人もほわんと和んでいた。めぐめぐ☆めぐりんは世界を救う……! なんだか、めぐり先輩のポテンシャルを垣間見た気がしました。なんだこの締め方。
めぐり先輩がてててと俺の下に戻ってくる。
「たはは……やらかしちゃった……」
てへっと笑いながら、可愛らしく舌を出す。
……うおお、マジか。
本当に舌を出しちゃったよ、この人!
内心尋常でない程の喜びと興奮を覚えながらも、なんとか平静を装う。
「まあ、だひじょうぶですよ、これくらい。向こうの人も笑って許してくれてましたし」
「そうだね……って、どうしたの? 声裏返らせて」
「…………」
全然、装えてなかった。
「こほん、ま、まあ、行きますか」
「ん、そうだね」
下手にも程がある切り替えを行って、なんとかこの場を切り抜けた。
……それにしても。
なんで俺、めぐり先輩にこんな、ダイエットトレーナーばりの指導をしてるんだろう……。
「…………」
ちらりと隣に目をやる。
今度は前をきちんと見ながら、大股だけれど俺を追い抜かないようにスピードを調整している為か、どこかぎこちない歩き方をしているめぐり先輩の真剣な表情が見えて、その微笑ましさにくすりと笑った。
続く。
めぐりんでした。溢れ出す癒し。
それでは、今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!