2人でのんびり歩いて、ようやく行きつけの大型書店に辿り着いた。
「ふー、やっと着いたね」
めぐり先輩が指を組んで、んーと伸びをする。なんかちょっと猫みたい。
ですね、と短く答えると、めぐり先輩に釣られて俺も身体をぐいっと伸ばす。
冬とは言え、昼時だしここまで歩いてきたこともあってか、身体は凍えるどころか火照ってさえいた。
……いや、こんな理由を並べてはいるけれど、もちろんこれらもきちんと理由には含まれているのだけれど。
実際の所は、さっきめぐり先輩に頭を撫でられながら抱きしめられた事による、尋常でないどきどきを思い切り引きずった事が、理由としては一番大きかった。
なんで一緒に道を歩いただけでこんなどきどきしてんだ――と悶々としていると。
「比企谷くん? どうしたの?」
「はひゃいっ!?」
びっくりしすぎて飛び跳ねた。
めぐり先輩から見れば、俺が書店の入り口を凝視して顔をしかめて考え事をしているようにしか見えない状況だった。俺バカすぎるよお……。
ここであまり狼狽えて怪しまれてもしょうがないので、何とか無理矢理表情を通常モードに戻して、平静を取り繕う。
「あ、だ、大丈夫です。取り敢えず中行きましょう。寒いでふしね」
「? うん、そうだね」
めぐり先輩は俺の様子を不思議に思って、首をくりっと傾げながらも了承してくれた。ふわりと踊るおさげに心が安らぐ。
テンパりすぎて声が裏返って軽く死にたくなったのは内緒。でふしって何だ、でふしって。
そんなこんなで、ようやく書店に足を踏み入れた。
× × ×
「ほわ~、いつ見ても凄いなーこの店」
めぐり先輩がぽわんとした調子で、感嘆の声を漏らした。
「まあ……そうですね」
この店は俺が信頼しているだけあって(言い方が鬱陶しい)、品揃えがかなり良い。純文学からライトノベル、R-18の本まで充実していて、まだまだ踏破するに至っていない。
店員さんも文学に精通したベテラン店員や、ラノベやコミックに精通した若い店員などが居て、ちょっと探し物をしている際もかなり聞きやすい。質問すると大体、「ああ、それはこの辺りに……あ、ありましたね」というくらいの時間で解決してくれる。神速の店員の集いである。
ちなみにR-18コーナーはめっちゃ興味あるけど、昼に入るのはきついし、夜に行くと帰りが遅くなって小町に怪しまれるから中々行けない。やだ、兄思いな小町の自慢になっちゃった!
「比企谷くんはどういう本を買いたいの?」
めぐり先輩から言葉をかけられて、数秒前までの説明感たっぷりの思考があっと言う間に霧散した。
「ああ、俺はあっちのコーナーにある本を買おうかと」
言って、ラノベのコーナーを指す。
「へー、わたし読んだこと無さそうなジャンルだ」
「そうなんですね。先輩は?」
「わたしはあっちのコーナーだね」
振り向いた際におさげ髪が揺れて、爽やかな香りがふわりと舞った。後頭部に鼻を押し付けて匂いを嗅ぎたいとか信じられない煩悩が過ぎったけど、漏れなく放送カットしました、俺の脳内で。
めぐり先輩が指差したのは文学コーナーだった。うん、イメージ通り。
「じゃあ、ここで別れて今日は解散ですかね。お疲れ様でした」
ぺこりと礼をして顔を上げると、めぐり先輩がきょとんとした顔で俺を見た後、ははあんと唸った。え、なに、いつもと違う雰囲気……。
腕を組んで瞑目し、むむむと唸ると、呆れたような、それでいて愛情一杯の笑みを浮かべる。
「なるほどなるほど……比企谷くん、こんな感じなんだね」
「え、や、いつもこんな感じですけど……なにか?」
何が何やらと混乱しながら答えると、めぐり先輩が斜め上を見て、何かを考えている。
「……雪ノ下さんと由比ヶ浜さん……それに最近は一色さんもかな? 中々苦労してそうだなあ」
「え、え、え? 何のことですか?」
なんかすげえ恥ずかしいこと言われてる気がするんだけど。
なんか前もこんな感じのこと言われた気がするなーなどと呑気に考えていると、めぐり先輩がふふっと笑った。
「しょうがないなー……」
言って、とてとてと俺の背中に回ると、
「よいしょっとー」
両手のひらで、俺を押し出すめぐり先輩――えらく可愛らしい突っ張りもあったものである。
「ちょ、ちょっと……」
コート越しとはいえ、背中にめぐり先輩の手のひらの感触を感じてどきどきしていると、めぐり先輩がにこっと笑った。
「ここまで来たんだから、一緒に本を見て回ろうよ。ね?」
「……っ、は、はい……」
俺の背中を押しながら、目を細めて首を傾げるめぐり先輩の仕草に、死ぬほどどきっとした。
……ん、うん。やっぱり、年上も良いな。むしろ最高まである。
「…………」
とはいえ。
……そろそろ手を離してくんないかなあ……。恥ずかしくて死にそうなんだけど。
めぐり先輩は俺を押すのが楽しくなったのか、「ほれほれ~♪」と妙にうきうきした調子で俺を煽っていた。この人は徹頭徹尾俺を癒しで浄化しにかかっているようだ。
……なんだこれ。
× × ×
最初に来たのは、めぐり先輩がお目当ての文学コーナーだった。俺の趣味に興味があるらしく、楽しみは後にとっておきたいとのこと。ご飯の時にめぐり先輩がどんな順番で食べるのかっていう主義を聞いた感がある。
「買いたい本があるとは言ったんだけど、実際はいくつか候補があってね。シリーズの新作が出てるかどうかちょっと曖昧なのがあるんだけど、それを確認するついでに他に良さそうな本が無いか探してみようと思ったんだー」
めぐり先輩が頬に指を当てて、書籍を眺めながら語る。
時折本を手にとってはぱらぱらと捲る様はとても知的で、普段とのギャップに思わず見惚れそうになる。めぐり先輩がちらりとこちらに目を向けたので、慌てて視線を別の書棚に移した。
「ええと……先輩は好きな作家はいますか?」
所在無げに視線をうろつかせながらめぐり先輩に質問すると、本をぱたんと閉じてしばし黙考。
「んー、海外の作家だとヘルマン・ヘッセやサリンジャー辺りが結構好きで、日本の作家だと恩田陸とか綿矢りさ、吉本ばなななんかが好きかなー」
「へえ……」
ううむ、なんか分かりやすいようなそうでないような。
実際、同じ作家でも作品によってテイストががらりと変わることはよくあるしな。今度めぐり先輩に本を借りて読んでみて、趣味が合うかどうか確認するのも悪くな――って、んん?
……なんか俺、めぐり先輩にすごい深入りしようとしてない? どうした俺? どれだけ癒しを求めてるんだ? そんなに日々の疲れが溜まってるのか?
「まあ、言ってはみたものの、今挙げた人の本だって精々3~5冊ずつ読んだくらいだけどね」
「や、十分じゃないすか? その人の作品を何十作も読まないと語っちゃいけないなんてルールは無いですし」
「ふふ、それもそうだね……お、あったあった」
めぐり先輩はお目当てのものを見付けたようで、手に取って上機嫌に表紙と帯を眺めている。
「どんな本なんですか」
近くに寄って裏表紙を眺めながら聞くと、めぐり先輩が「うーん、結構好きなんだけど、どう説明すると良いかなー……あ、そうか」と言って、帯の売り文句を読み始めた。
「『――ほんわか先輩女子と根暗後輩男子のウブな恋愛絵巻、シリーズ3作目。先輩女子の卒業を前に、2人を取り巻く環境が一気に動き出す――』……あ」
「え……」
二人同時に、ぴたりと止まった。
「…………」
「…………」
なんだこの空気。
めぐり先輩の顔は本に向いたままぴたりと止まり、その横顔しか見ることが出来ない。
「と、取り敢えず、他の所に行こっか。また後ででも買えるしね! うん、そうしよう!」
「え、あ、ちょ、ちょっと……っ」
めぐり先輩が頬をほんのり紅潮させて、ぱたぱたと歩いて行く。
慌てながらもきちんと丁寧に戻された本の表紙を見ると、制服を着た男女が手を繋いだ表紙絵が淡いタッチで描かれていた。
……深くは、考えないようにしよう、うん。
…………うん。
続く。
めぐりんでした。
むやみに睡眠時間を取るよりも、ちょっと走って汗を流してお風呂でさっぱりしつつ、ちょっと昼寝をするという方がよっぽど効果的だったようで、平日の疲れが吹き飛びました。
今日は皆さんに勧めて頂いた小説の一部を購入しつつ、読書に没頭していました。
良い感じにエネルギーを循環させつつ、精力的に楽しみたいと思います。
また平日が始まりますね。今週も頑張りましょう!
それでは、今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!