「…………」
「…………」
さっきの恥ずかしいやりとりがあってから、どうも……お互いにぎこちない。
互いになるべく変に意識しないようにしているのだが、それでも読書を続けながら俺はちらちらとめぐり先輩を見てしまうし、俺が本に視線を落としている時はめぐり先輩からの視線をちょくちょく感じる。
……あゝ、恥ずかしい。
たまにばちっと目が合うと、二人して超速で目を逸らす。めぐり先輩はその直後、毎回頬を赤らめながらちらりと見てくる。死んじゃうよぉ! ちなみに目を逸らした時の俺の勢いは若干首を痛めかけるレベル。
「そ、そういえばっ」
「え、あ、はい」
めぐり先輩が違和感ばりばりながらも話題を切り出してきた。年上お姉さんとしての余裕がまるで感じられない。だがそれが良い。……だいぶ重傷だな、俺。
「比企谷くんは進路はどんな風に考えてるの?」
思いの外手堅い話題だった。しかし今は何を話しても裏目に出そうなので、こういった話の方が助かる。
「そうですね、俺は……専業主夫一択です。愛する妻が一生懸命働くのを全力でサポートすることにします」
「あ、愛す……っ!?」
「え?」
「あ、や、なんでもないよ、そ、そか、うんうん、へえ……っ」
手をぶんぶんと振って、顔を真っ赤にするめぐり先輩。や、そんな反応されるとすげぇ恥ずかしくなるんですけど……。
「で、でも、大学には行かないの?」
すはーすはーと控えめな胸を上下させて、めぐり先輩が尋ねる。
「そうですね、大学には行きます。けどその後プータロ―になる時期は作りたくないので、卒業するまでには相手を見付けて、俺が働かなくても良い状況を作りたいです」
いつもの調子で答えた――のだけど。
「…………」
「……先輩?」
何やら固まっていた先輩が、俺が呼び掛けた瞬間にハッと目を見開き、慌てて手をぶんぶんと振る。
「っ! あ、ご、ごめん、そ、そか、うんうん、へえ……っ」
…………。
こ、この人、自分で掘り下げては俺を巻き込んで自爆してくる……! 腹にダイナマイトを巻き付けてタックルかましてくる感じ。
ふいーふいーと控えめな胸を上下させて、めぐり先輩が尚も話題を続ける。なにこの共倒れの旅路。
「……ふーっ。……ふう。……どの辺の大学を狙ってるの?」
どんだけ落ち着くのに苦戦してんですか。
「そうですね、私立文系を狙ってます」
以前から変わらず考えている進路計画を話す。や、まあ、私立文系→専業主夫ってだけ言うと壮絶なまでにアバウトな計画にしか聞こえないんだけど。
「そっかー。私立文系っていうと、受験教科を絞れるよね」
「そうなんですよ。俺は入学して早い段階で決めてたんで、数学を早々に捨てました」
要らない事を言ったな、と思った。
めぐり先輩は俺の言葉を聞くと、眉をぴくりと動かす。
「ん、数学を捨てたって……今は成績どれくらいなの? 例えばこの間の期末テストは?」
んんん? なんかまずい流れになっている?
「え、やー、その……」
別にやましいことをしている意識は無いのだが、物凄い勢いで目が泳いでしまう。ふぁふぁふぁふぁって効果音が付くレベル。
「……そんなに悪いの?」
「う……」
なんだろう、怒るとかってよりかは、なんか悲しむような目で見られてる……。
うぐぐと唸って、自分が叩き出した数字をぽろっと告げる。
「……9点、です」
「え」
「……だから、その、9点、です」
「……10点満点の小テスト……じゃないよね?」
「うぐ……や、その、100点満点の、普通の期末テスト、です」
「その期末テストで、え?」
え、何これ、返ってきたテスト結果の報告を母親に強制されるのび太の気分。
「……その、期末テスト、で、9点、です……」
「…………なんと…………」
すんごい渋面。すんごい渋面。すんごい渋面。3回言っちゃった。
改めてこう言われると、ダメージが半端じゃない。他の人に言われてもさらりと流せるんだけど、めぐり先輩みたいなタイプは周りに居ないから、この攻められ方はどうにも慣れない。
コナン君よろしく左腕で右腕の肘を抱き、右手の指をあごに当ててむむむと唸りながら考えこむめぐり先輩。
ここからどんな展開が起きるのかと戦々恐々としていると、めぐり先輩が長考を終えて顔を上げた。
「比企谷くん、お節介なのは分かってるし、これはあくまでわたしの考えなんだけど」
「は、はい」
「数学、勉強し――」
「ません」
「早いよ!?」
クロスカウンター。
ここでめぐり先輩に押し切られると、ろくな流れにならなそうだ。負けない!
「や、比企谷くん、あのね」
「今日は暖かいですよねー。もう夏かなってさえ思えますね」
「コート着てちょうど良いくらいだよ!? だから、あのね」
「恥ずかしくなるのも厭わずに言わせてもらえば、先輩すげぇ可愛いです」
「かっ、かわっ……!? や、だから、あのねったら」
「本当に可愛いです」
「はわわわわ……っ! や、だから、その」
「…………」
めげないめぐり先輩にとどめを刺すべく、例のラノベのカラーイラストをぺらり、ちらり。
「ほわあっ!?」
はい、湯気どーん!
「こ、こらー! いい加減にしなさーい!」
「いやです、断固として俺は戦います、抗います、逆らい続けます」
カラーイラストをめぐり先輩の目の前にかざしながら、他の客の迷惑にはなるべくならないように互いに小声で応酬。
(ぎゃーぎゃーぎゃー)
(ぎゃーぎゃーぎゃー)
(ぎゃーぎゃーぎゃー)
……すごいシュールだった。
5分後。
「はぁ、はぁ、はぁ…………」
「ぜはぁ、ぜはぁ、ぜはぁ…………」
互いに疲弊しきって、テーブルに突っ伏す。カフェで絶対見ない光景だろう。テーブルに鼻を付けていても、周りからの視線がよく分かる。超突き刺さってる。
「はぁ、はぁ、はぁ……比企谷くん、お願いだから、少しで良いから話を聞いて? ね?」
「うぐぐ……ここまで粘られたのは先輩が初めてなんで、渋々聞くことにします」
「渋々って言わなくても良いよね!?」
なんか、この5分間でめぐり先輩とやたら仲良くなった気がする。
× × ×
コーヒー1杯ならおかわり可というありがたいサービスで、2人共にコーヒーで一息。ふひー。
「……でね、さっきの話なんだけど」
ついさっきまでの壮絶にショボい争いがよっぽど応えたのだろう、仄かに苦笑いを浮かべている。
「君のやり方自体はありだと思う。ただ、例えばわたしがこの話をあと半年後くらいに聞いてたらもう方向転換しようもないから何も言えないと思うけど、受験まで……少なくともセンターまで1年弱ある今の段階でなら、まだ何かしら言えそうだから言っておくね」
コーヒーを一口飲んで、柔らかな笑みで俺を見つめる。
「もし、君がここからの1年間で、新しくやりたいことを見付けて、あ、やりたいことっていうのは勉強でもそれ以外でも何でもありで考えてね? で、もしそのやりたいことに取り組むのに適した環境が国立の大学にあった……っていう事態になったとき、例えその大学のレベルがそこまで高くなくても、数学の実力がほとんど0に近い状態では一気に望みが薄くなると思うんだ」
「……そう、ですね」
確かに、一理ある話ではある。もちろん大学によっては傾斜配点等があるだろうが、センターで数学だけ2割とか笑える点数を出しては、大抵の場合合格から大いに遠ざかってしまうだろう。
「だから、別に今から数学を得意教科にしよう! とまでは行かなくても、もし受験に必要だって状況になった場合に、本番までに足を引っ張らない程度に点数を伸ばす最低限の地盤を築く……くらいはしていても良いんじゃないかなって」
「…………」
先輩の言葉を聞きながら、コーヒーの水面に視線を下げる。
「それに、数学を切り捨てるからと言って、数学の授業時間を丸々他の教科の勉強に割り当てるなんて訳にはいかないでしょ? 今だと寝てたりするのかな?」
「あ、や、まあ……その場合が多いですね。あとたまに内職したりもしてます」
「こらこら。……ふふ。あまり、集中出来ないでしょ?」
「……まあ、そうですね」
「うんうん。……仮にどんなに先生の授業が退屈で分かりづらかったとしても、『自分は今目の前で行われていて、皆が当たり前に受けている数学の授業から目を背けている』っていう負い目は出てきちゃうと思うんだ。それならいっそ、ほんの少しでも良いから向き合ってみたらどうかな。それで少しは楽になって、物理的に他の教科の勉強時間が減ったとしても、精神的には、数学に向き合うようになるまでよりテンポ良く勉強出来るようになると思うよ」
「…………」
内心、驚いていた。
まさかめぐり先輩がここまで考えてくれるとは……。
しかし、それでも丸2年近くかなぐり捨てていた数学だ。平塚先生ならまだしも、数学の先生に今更飛びついた所で良い顔をされるとはとても思えない。俺の授業態度やばいし。
それでも、めぐり先輩の言葉には様々な経験に裏打ちされた、流石1年間先輩で且つ推薦を勝ち取っていると言える芯が通っている。
うんうん唸っていると、めぐり先輩の様子が急に変わった。真面目な顔から一転して顔を綻ばせ、そして微かに頬を紅潮させてこほんこほんと咳払い。
何事か――と思っていると、めぐり先輩が口を開いた。
「……良かったら、わたしが勉強教えようか?」
「はい?」
……はい?
…………はい?
続く。
当初から考えていたこの展開にようやく。ここからの流れで結構どきどきしそうなくだりを昨日思い付きました。やる気むらむら間違えためらめらです。
ちょっと体調良くないのーって思ったので、有給を取ってだらけてました。スーパー銭湯でだるんだるんと。
がんがん本を読んで、それ以上に新たに本を買ってました。掟上今日子シリーズの最新作が出ていたのに今日気付いて即買い。あとはGJ部の続きと官能小説の類をちらほら購入。GJ部は気付いたら6巻まで読んでましたわ……。
以前から気になっていたことを。
この作品を読まれている方はどういった場所に住まわれているのかなーというのと、男女比がどうなっているのかなーなんて疑問を前から持っています。
以前関西に住んでいるとおっしゃった方がいらして「うおお……」となった事があったもんで。あと男女比はずっと1000:0くらいに思ってるんですがどうなんでしょう。そういう傾向が全く分からないもので。
ふわっとした問いかけですが、メッセージででもご回答頂けたら嬉しいです!「へー!」という反応しか出来ませんがw
平日は明日で最後ですね。頑張りましょう!
それでは、また明日ここでお会いしましょう(^^)!
今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!