翌日。
昨日同様、朝も早くからきいこきいこと自転車を漕いで学校へ向かう。真冬の早朝という、本来なら寒くて絶対外になぞ出たくない状況であるにも関わらず、ペダルを動かす足は軽い。心なしか息も弾んでいる。
「…………」
ペダルをこぎながら、自己分析をしてみる。
俺はあれか、浮かれているのか。
ここ数日のことを考えたら、恥ずかしさで死にそうになった。
なんで俺、めぐり先輩と一緒に本屋まで歩いて、のんびり本屋で過ごして、カフェでめぐり先輩にラノベのエロいイラストを見せてんだ? そこだけ切り取ると俺がただ変態みたいだな。否定はしない。
……それに、昨日から始まった勉強が……今日これから、また……。しかも明日以降も……。
…………。
いかん、更に寒さが和らいできた。日が昇ってきたから? 違う、身体が熱くなっている。
「…………」
どうにも、1つの結論に至らざるを得ないらしい。
俺の普段の女性に対する距離の取り方はどこへやら。
俺は、この勉強会を、めぐり先輩と過ごす時間をどうやら心待ちにしているらしい。
ゆっくり移動しているにも関わらず、学校へ着く頃にはうっすら汗ばんでさえいた。
× × ×
「あ、ひ、比企谷くん、おは、おはよう……」
「あ、ど、どもです……」
昨日同様、昇降口前で俺を待っていためぐり先輩と挨拶を交わす。のっけからもう恥ずかしい。やめて、そんな顔を背けながら目だけちらちらと向けないで! そんでおさげの先を指でくりくりっとするのやめて! くっそ、なんだこれ、くっそ! なんだよこのめぐり先輩、超可愛いなもう!
「じゃ、じゃあ入ろうか」
「あ、はい」
並んだ所で、2人ともテンパりにテンパって――
『あ』
2人同時にドアに手を伸ばし、互いの手の甲がつと触れる。
「ごごごごごめんね!?」
「い、いえ、全然大丈夫です。ほんともう全然全く以て大丈夫です」
もう、校舎に入る前から。
しっちゃかめっちゃかだった。
× × ×
舞い上がりながらも、本来の目的は忘れまいと昨日同様の勉強を続ける。めぐり先輩も俺という厄介な数学ポンコツ生物の生態を掴めてきたのか、定義や問題の解き方のコツなどの教え方がスムーズになってきた。だからなんで俺は偉そうな言い方をしてんだ。
「それじゃちょっと休憩しよっか。ちょっと外出るね」
「あ、はい」
昨日と大体同じくらいの時間に、めぐり先輩が席を立つ。
ぱたぱたと柔和な足音がして、からりと図書室のドアが開いて閉まる。
「…………」
ふと、昨日の出来事が蘇る。
あの時は、俺が寝てて、その間にめぐり先輩が俺の頭を……。
「……いやいやいやいや、何考えてんだよ俺。いくらなんでもそんなことする訳……」
リアクション集団の十八番のようなフリを心の中でやって(ぼっちだからこういうのには慣れている)、言葉とは裏腹に机に突っ伏す。どきどきして、きっと寝られはしないだろう。でも、それで良い。そうじゃないと、あの天国をきちんと認識して、味わえないから……。
× × ×
「ただいま~。……って、あれ? 比企谷くん、また……?」
おうふ、「ただいま」なんて素敵な台詞を言ってくれてたんですか。なんですかもう一緒に住みたいレベル。
めぐり先輩は小声で「んんん……?」と訝しんで唸りながら近付いてくるのが気配で分かる。ちなみに俺の視界は真っ暗。机の傷を暗がりで鑑賞中。
やがて、ゆっくり顔が近付いてくるのを感じた。どうやら間近で観察しているらしい。しかし突っ伏しているため判断出来ないと思ったのか、顔を離して隣に腰を下ろす。
「お~い、比企谷く~ん、起きてる~?」
小声でぽしょぽしょと呼び掛けてくる。なんでこんな声がけ一つからして可愛いんだこの人は。
何度か同様に声掛けをするも、俺に返事が無いと諦めたのか、「ふむふむ……」と何か納得したような声を出して、その直後に頭上に仄かな熱を感じた。
髪の上から、柔らかな感触が心地良く乗せられる。めぐり先輩の顔が近いのか、シャンプーの香りがふわりと鼻腔をくすぐった。
ああ、また撫でてもらえた……なんて、本当に俺なのかと疑いたくなるようなことを考えていると、髪の上に乗せられた手がゆっくりと前後に動き始める。
「……寝てるのかな……ふふ、可愛いんだから……」
「……っ」
わー! きゃー! ぎゃー!
独り言として呟くとか、それマジのやつですやん! わーーーー!
――なんて浮かれていると、めぐり先輩の手の動きが止まった。
「……比企谷くん、起きてるでしょ?」
「……っ」
思わぬ指摘に息を呑む。その声は怒気を孕んではおらず、むしろいたずらっぽい声音だ。いや待て待て待て、カマをかけてるかもしれないじゃないか、きっとそう――
「今、ぷるぷるしてたの見えたよ?」
うっぷす。
さっきの動揺がもろに行動に出てたよ。あかん。いやでもそれでも、ここでしらを切って寝てるフリをすればきっと――
「正直に言わないと~……?」
語尾に向かってテンションが上がっていくような言い方をしたかと思うと、めぐり先輩の声が途絶えた。代わりにさっきよりも更に気配が近付いたことに気付く。
……何事? と思っていると。
「……ふーーっ」
「~~~~~~~おひゃふぃ〇×△◇▽×〇!?!!!?!?!」
「わわわっ!?」
「うおぇあっ!?」
「わーっ!」
「なーっ!」
突然の「耳ふー」に死ぬ程驚いて、朝の静寂を派手に打ち破る奇声を上げる。その声に驚いためぐり先輩を見て更に驚き、そんな俺を見てめぐり先輩がまた驚き、そのめぐり先輩を見て俺がまた驚いてクラクションみたいな声を上げる。地獄みたいな連鎖だ。
……周りに誰も居なくて、本当に良かった。
「なななな何やってんですか先輩!?」
「ややややっぱり起きてたんじゃん!」
「今起きたんですよ! 『可愛い』なんて、そんなこと言う方が可愛いだろと思うような言葉聞いてないですし」
「思いっきり起きてるじゃん! ってきゃー!? なんか今すごく恥ずかしいこと言われた!?」
「あっ、えっ、やっ……なーーー!」
クラクション再び。
1分程お互いに声を上げまくった。図書館で。ここでこれだけ好き放題大声を出すなんて、その自由さは正に純・ゲバル。マジヤイサホー。
『はぁ……はぁ……はぁ……』
色気も何もあったもんじゃない、本気の息切れ。お互いに机に突っ伏して、腕をぴろ~んと伸ばしている。なんだ俺ら。
「はぁ……はぁ……ひ、比企谷くん、なんで、寝たフリなんかしたの……?」
顔だけぐりんとこちらに向けて、めぐり先輩が問うてくる。俺も同じように顔だけめぐり先輩を向いた。
「はぁ……はぁ……や、その……昨日のが、ですね……思いの外心地良くて、その、ええっと、また、してくれないかな~、なんて……」
言って、恥ずかしくしなり再び突っ伏す。
「……?」
反応が無いので、恐る恐る顔をめぐり先輩に向けると、既に普通の姿勢で座っていた。しかし手は指を絡ませてもじもじとしており、顔も赤い。
「……そ、そっか、だから、ね……なるほど、うん、それならしょうがない……」
「え、あ、はい、まぁ、そんな感じ……です……」
納得して許してもらえたのなら何より。
……何より、なんだけど……。
「……そ、そっか、うん、うん、なるほど……」
俺をちらちら見ながら、何度も自分に言い聞かせるかのように同じセリフを繰り返すめぐり先輩を見て、妙にどきどきした。めぐり先輩のこの不自然な仕草を見るまでは、この寝たフリのくだりはこれで終わり……と思っていたのだけど。
……どうにも、期待のような不安のような、不思議な予感がしてならない。
結局この日は、このくだりの後は何事も無かったかのように勉強会は続いた。前日の反省をちゃんと生かせてますね!
続く。
大雨で影響が出た方がたくさんいらっしゃると思います。ここで少しでも癒えて頂けるのならいくらでも読んでいってくださいませ。
閑話休題。
めぐりんでした。手が触れるとか頭を撫でるだけで16話行っちゃいましたよ、なんというピュアさ。
めぐりんはエロまで行かなくも良い気がするという声がちらほら聞こえますが、実際エロに入ったらそんなこと言ってられなくなりますぜ(多分)!
載せるのはまだ先になるんですが、いろはすアフターの冒頭をちょっと書いてみたらあっと言う間に1話分に。今までとは違う書き方になっています。糖分の濃度が更に増してやばいことになりそうです。
この小説でもオリジナルでも良いから、1週間で4万字書こうと思います。昨日決めました。多分本当に書いてる時はそれくらい書いてたと思うんですが、最近執筆も読書も若干ペースが落ちてたので、集中力を上げがてらがんがん書いてみようかと。その方がエネルギーが湧きますし。
平日の終わり!お疲れ様でした!僕はこれからある程度書いてある程度読んで寝ますん。
それでは、また明日ここでお会いしましょう(^^)!
今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!