どうしよう。
「………………」
無言でシャーペンをノートに走らせながら、ちらりと隣を見やる。
めぐり先輩の様子が、昨日までとどこか違う。
ぱっと見は何も変わらない。いつも通りのただの天使だ。ただの天使ってなんだよ。ただの紅茶タンク、いやただの駄女神……ああ違う違う、混乱しすぎだ。めぐり先輩の髪の毛はピンクじゃないのに。
どこか違うのは、めぐり先輩のもっと奥深くの何かだ。
昨日までの、俺が数学の問題を解いているのを見守る表情は、真剣でいて且つ包容力のある母のような暖かみのある表情……だったのだけど。今はその表情に、何だか熱っぽい視線が加わっている。最初はもちろん自意識過剰だと思った。もちろんって言うのも悲しいけど。
しかし、確認しようと思ってめぐり先輩を見てみた時、頬をかぁっと赤らめて顔を背けてしまったのを見て、一気に考えが変わった。
や、まあ、ついさっき2回キスしといて何言ってんだって話だけども。
俺としてはさっきのはギリ夢オチも有り得ると思っていたので、今尚続くこの熱に浮かされた感じが非常にむずむずする。まさか現実だったとは。
「比企谷くん、どうしたの? 手が止まってるよ?」
「あ、すいません」
全力で煩悩を巡らせていたら、手がばっちり止まっていた。なんで最後に計算した数をaを代入するだけの所で止まってんだって話。
「あ」
変な位置でシャーペンを止めていたせいで、手を動かした瞬間ノートに不要な線を書き加えてしまった。何やってんだかと思いながら消しゴムに手を伸ばすと、小指が何かに当たる。
『あ……』
めぐり先輩の小指と再びぶつかった。前回はめぐり先輩が茹でダコになって手を引っ込めたけど――。
「…………」
「え……」
めぐり先輩がぽわんと熱に浮かされた表情で、自分の小指を俺の小指に絡めてきた。右手の小指に触れてくるめぐり先輩の左手小指の動きが妙に艶めかしい。
「せ、先輩……?」
声を掛ければ正気に戻るだろう――と思ったのだけど。
「ん、なぁに?」
見た事の無い色っぽい顔でふわりと微笑み、可愛らしく首を傾げる。
心臓が止まる、マジで。
一体どうしちまったんだ……と思っていると、めぐり先輩がごく自然に顔を寄せてきた。待って待って、なんでうっとりとした表情で目を閉じてんの!?
「ん……」
なんで俺の顔の目の前で止まったの!? 俺からじゃないとダメなやつなの!?
頭の中がワニワニパニック状態に陥っているが、いくらあわあわと慌てふためいた所で、めぐり先輩は一向に目を開けてくれない。完全に待ちの状態だ。
「うぐ……」
こんなどきどきの場面で漏らす声じゃねえよなと思いながら。
僅かに首の角度を変えて、めぐり先輩の唇に自分の唇を重ねた。
「んぅ……っ」
めぐり先輩の甘い息が鼻腔を満たす。唇の柔らかさは、もはや毎日でも堪能したくなる程甘美なものだった。
もっと味わいたい――そう思い、右手が自然とめぐり先輩の右耳の上に伸びて、髪ごとめぐり先輩を引き寄せる。
「んんっ……! ……ふぅっ……」
めぐり先輩は一瞬目を見開いたがまたすぐにうっとりと薄目になる。
唇と唇を押し当てているだけなのに、なんでこんなに気持ちが良いんだろうか。
髪をくしゃりと撫でると、めぐり先輩の身体がぴくりと反応する。その反応が可愛らしくてたまらなくなり、ゆっくりと手のひらを上下に動かして撫でると、耳の上を通過した時が一際大きく反応した。
俺の手の動きに触発されたのか、めぐり先輩の手がそっと俺の太腿に乗せられた。何か明確な目的がある訳でもなかったのだろう、緩慢な動きで漫然と撫でさすってくる。だがその目的の無い動きが何とも言えず心地良い。
そのまま、互いの満足が行くまで唇を重ね合わせ続けた。
× × ×
「……ぷはっ」
口を離すと、妙に口周りが寂しくなる。出来ることなら、もっとしていたかった。
めぐり先輩が俺の太腿を撫でながら、微かな苦笑いを浮かべる。
「比企谷くん……ごめんね? 勉強しなきゃいけないのに……。……その、我慢出来なくなっちゃって……」
「……っ、や、まあ、その、良い息抜きになってると……思います、から、大丈夫だと思いますよ?」
恥ずかしそうに頬を赤らめて上目遣いでそんなことを言われたら、何としてでも擁護したくなる。
「あ、そ、そっか……ありがとね。……あの……」
ん、あれ、まだ何か?
「どうしました?」
もじもじとするめぐり先輩に続きを促すと、手をきゅっと両手で握られた。
「比企谷くんと……立って、その、ちゃんと……したいんだけど……良い、かな?」
「え?」
めぐり先輩、どうやら俺よりもハマってしまったようだ。
× × ×
椅子から立ち上がって、もう少し奥まった所に行く。ここからは多分……誰かが近付いてきても、気付くことは出来そうにない。
おずおずと俺の正面に立つめぐり先輩の初々しさが、たまらなく愛らしい。なんで上から目線なんだって話だけど。
「比企谷……くん……」
「は、はい……っ」
背の高さの関係上、自然と上目遣いになるめぐり先輩の熱っぽい視線に、一撃で撃ち抜かれる。
めぐり先輩が目を閉じてすっとあごを上げた。
めぐり先輩の肩に手を置くと、めぐり先輩がぴくりと反応した。周りを見て、耳を澄まし、誰も近くに居ないことを確認する。
目を閉じためぐり先輩のあごをくっと指で持ち上げて、唇をゆっくり重ねると、
「んっ……」
甘い声を漏らして、めぐり先輩がそっと俺を抱きしめてきた。それに応えて、左手をめぐり先輩の背中に、右手を頭に回してきゅっと抱きしめる。
「んふぁっ……んん……っ」
もじもじと腕の中で身体をくねらせる様が妙に色っぽい。
早朝の学校の図書館で何てことを……とどきどきしていると、
「……んんっ……?」
不意に襲った未知の感触に、疑問形の調子で声が漏れた。
めぐり先輩の舌が、俺の唇に当たっている。めぐり先輩の目を見るとうっすら開いていて、その目は今さっきとはまた別種の熱っぽさがある。
ぞくぞくっと期待が背中を駆け抜ける。
口を開けてめぐり先輩の舌を迎えると同時に、めぐり先輩の頭をゆっくりと撫で始める。
「んふぅぅ……っ! んふっ、あふぁっ、ちゅっ、ちゅぴっ、ちゅるるっ、ちゅくっ、んんん……っ」
「~~~~~~~~っ!?」
待て、待て、待って。
めぐり先輩、なんで俺をこんなにきつく抱きしめてるの? なんでそんなに瞳に火が点いてるの? なんで……なんでこんなに情熱的に舌を絡めてくるの?
予想もしていなかっためぐり先輩の濃厚な舌の動きに、指先が固まって視界が明滅する。めぐり先輩の舌は拙いながらも極めて能動的に俺の口内を舐り回してくる。密着するめぐり先輩の身体が悩ましく動くことで身体の前面がこすれ合い、口内の快感と相俟って勃ってきてしまった。
「~~~~っ…………」
ここで、ふと思う。
……なんで俺は、責められっぱなしになってるんだろう? めぐり先輩からねだってきたし、めぐり先輩から舌を入れてきたのは事実だ。
でも、だからと言って俺が責めていけないということにはならないだろう。
……よし。
「んはぁっ!?」
反撃に転ずるべく、両手でめぐり先輩の髪に触れながら耳を撫でると、めぐり先輩が弾けるように唇を離した。
「はぁっ、んっ、んくぅっ、ひ、ひきがやくっ、んっ……だっ、だめ、だめぇ……っ」
両耳と髪をさわさわと撫でつけると、めぐり先輩の甘ったるい声が耳朶を打った。だめと言いながらもその顔はとろとろに蕩けていて、その両腕は俺をきつく抱きしめている。汗もかいているのだろうか、元々纏っていた甘い匂いに汗の匂いが混じって、劣情を煽る官能的な匂いが立ち込めて鼻腔に染み渡る。
「先輩……今度は、俺からしますね」
言うと、めぐり先輩が驚きで目を見開く。
「あっ、そんなっ、あぁっ……!?」
戸惑うめぐり先輩を追い詰めるように、撫で続けながら首にちゅっと口付けをする。
「……俺から、しますね」
もう一度、目を真っ直ぐに見据えて言うと、
「…………っ」
半開きにした唇を震わせて。
めぐり先輩が、こくりと頷いた。
その瞳は興奮に揺らめいていて、本当にあのめぐり先輩なのかと思う程に劣情的な光を宿していた。
続く。
めぐりんでした。
めぐりん編の話数も遂に20話達成。まだまだ続きます。キスシーンが好きだなあ自分はとつくづく。めぐりんがどんどん……。
週末から、いろはす編ラストスパート行ってみたいと思います。
もっと、でーんと構えて執筆したいなーと思いました。超然とするくらいのつもりで。
平日は連休で途中まで休んでいようと、金曜夜になるとだいぶ疲れてるもんだなーと。だいぶ眠いです。今日は早めに休みます。
それでは、また明日ここでお会いしましょう(^^)!
今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!