「めぐりさんとどう? キスした?」
「ごふぉっ!」
土曜日。
つい一昨日、小町からめぐり先輩との関係を推理されてからまだ2日しか経っていないというのに、突然強烈なぶっこみを食らった。朝ごはんを2人で食べている時に話す内容じゃねぇだろ。しかも当たってるし。
盛大にむせながらも、何とか誤魔化しを試みる。
「ごふっ、げほっ、がほっ、ごふぁっ、はぽん……はて、我には何のことやらさっぱり……」
「なに中二さんみたいになってんの? キモいよ? そのキモい真似はどうでもいいとして、めぐりさんとキスしたの?」
悪・即・斬。
ばっさり斬るスピードがえげつねぇし、俺がキモいのか材木座がキモいのかわかんねぇし。あ、両方か。それでいて話題を一切逸らしてくれない。
「小町ちゃん小町ちゃん。川崎・毒虫・大志は元気か? 元気だったら残念なんだが」
「元気だよ。残念だったね。で、キスしたの?」
なんだろう、しなやかな木の枝を引っ張って脱線させようとしても、すぐに勢い良く戻ってくる感じ。川崎大志使えねぇなぁもう……! 折角お似合いのミドルネームまで付けてやったのに。ほら、略せばDだぞ?
「あ、そうだ。俺最近マジで早起きが習慣になってるから……小町、どうだ? 朝リフレッシュがてら一緒に軽く散歩して、勉強前の頭をすっきりさせたりとか――」
「キス、したね」
助けてー。
小町ちゃん、お椀と箸を手に持ったまま、一切表情を変えずに追及してきなさる。精神的圧力でお兄ちゃん瀕死です。
「いや、えーと、その……………………」
「早く認めないと、剥ぐぞ」
「何を!?」
身ぐるみを!? 家族なのに!?
「………………」
「お兄ちゃん。無言って大抵肯定にとられるよね」
あ、また言われた。一昨日ぶりです。
「………………」
負けた。ギブ。降参。
「……なんでそう思った?」
罪を認めた犯人が「いつ気付いた?」と言う流れとそっくり。妥当な返事は「最初から疑っていた訳ではありません」辺りか。
どんなミステリーチックな答えをしてくれるだろうかと勝手に期待していると、小町が人差し指を顎に当てて上を向いて考え始めた。うん、超可愛い。
そして顔をこちらに向けて、にゃはっと笑う。
「女の勘、ってやつ?」
「……そうか」
勘だった。ミステリー感0。おのれ……取り敢えず十角館辺りから読ませるか。なんでだよ。
ていうか中学生でそんなに女の勘って働くもんなの? 早熟なの? もしここから育つとしたら、こいつ大人になる頃にはエスパーにでもなってるんでなかろうか。
妹の将来について杞憂を重ねていると、小町がずいっと身を乗り出す。追及をやめる気はまるで無いようだ。わたし、気になります!
「で? お兄ちゃん、せっかくそういう仲になったんだから、遊び行ったりしないの? いくらヒキコモリッキーなお兄ちゃんでも、流石にそうも言ってられないでしょ? めぐりさんとの仲を深めるためにも」
「ヒッキーの正式名称みたいな雰囲気で言うな」
しかも、もはや完全にめぐり先輩との仲を認定されている。間違っているとは言えないからもう何も反論出来ない……。
むん。
頭をがしがしと掻いて、窓から見える外を見ながら答える。
「あー……や、うん、今日の昼、ご飯食べに行く」
「ほーん? ほーん? ほーん?」
小町の目がきらりと光った。ヤマピカリャー。音も無くお椀と箸をテーブルに置いて、俺の後ろに忍のごとくするりと回り込み、肩を揉んでくる。気持ち良いけどここに至るまでの過程が気持ち悪い。
「それはお兄ちゃんが誘ったの? それともめぐりさんから?」
なんだこいつ。むふーむふーって鼻息が荒いぞ。絶対目もびかびか光ってる。
どこまで根掘り葉掘り聞かれるんだ……とため息を吐きながら、小町の顔をちらりと見てまた視線を戻す。やっぱり目が光ってた。
「……先輩から」
昨日の夜、めぐり先輩から電話があった。ど頭にやはり「勉強出来なくてごめんね?」と謝られてから、「お詫びというか……あ、いや、うん、こういう言い方はよくないかな。わたし、比企谷くんともっとお話したいな。明日、ご飯行かない?」と誘われていた。どきどきしすぎて、どんなテンションで返事をしたのかは覚えていない。
渋々感全開で答えると、小町の手がぴたりと止まった。
「ほほーう? 年上お姉さんがお兄ちゃんに夢中とな? ほーん? ほーん?」
うぜぇ……。肩とんとんすんなよ、気持ち良いだろ……力加減うめぇなもう……。
「はいはい。ごちそうさま。美味かったよ、愛してるぞ」
「お粗末さまー。そのセリフ、そのうちめぐりさんにも言ってあげてね」
「言ったら死ぬから無理だ」
名前を言ってはいけないあの人のごとく。
答えると、小町が肩を掴んで揺すってきた。
「なんで! なんでさお兄ちゃん!」
や、やめろ、酔う……! 住み慣れた家で酒も無しに酔うとか斬新すぎる……!
「うぐぉ……小町は身内だから言えるんだよ」
「じゃあ、めぐりさんも身内になれば良いんだよ。比企谷めぐり……ふおぉぉぉ!」
「うぜぇ……」
一人ですげぇテンション上がってる妹が超うざ可愛い。
「大体、比企谷めぐりだとあれだ、苗字と名前で同じ文字を繰り返すキャラが多いこの世界の法則を乱しちまう」
「何の話してんの?」
「なんでもない」
どこぞのでかいリュックを背負ったツインテール少女のごとくメタな話をしてしまった。
小町が食器を台所に運びながら、んーと唸る。
「じゃあ、婿入り? 城廻八幡?」
「なんかすげぇごつい響きになったな……」
戦国時代に居そう。
「ま、お兄ちゃんが外に出るのは良いことだね! 小町がまたコーディネートしてあげよう!」
小町が言いながら、くるりと振り返って人差し指を立ててキラッと笑った。マジでアイドルとしてデビューさせたい。しかし川崎大志的毒虫が大量発生するのはいただけん。やはりどこにも出さずにおこう。
この後、午前中はのんびりするつもりだったのに、まさかのコーディネートのみで丸々午前が潰れるという事態に陥った。正確には小町の「お兄ちゃんが小町無しでもまともな着こなしをする為の養成講座」が開講されたために時間をくったんだけど。や、まあ、為になったんでいいんだけどね。超疲れた。寝ないので精一杯。
× × ×
「あ、比企谷くん。こんにちは」
「ども」
待ち合わせの場所に行くと、既にめぐり先輩が待っていた。おっかしーなー、まだ30分前なのになー?
今日はここ最近の中でも特に冷え込んでいて、昼時だと言うのにめぐり先輩の吐く息は白い。俺も、ポケットに手を突っ込んでなければ凍えそうだ。
「……先輩、いつから待っててくれたんですか?」
いつから待っていたのか分からない先輩の身体が心配で、「ごめーん、待ったー?」「ううん、今来たとこ」みたいなテンプレート会話をする余裕も無い。
俺の問いに、めぐり先輩が一瞬目を泳がせる。
「え? ん、うーん、ほんの5分前くらい……だ……よ……へくちっ!」
恐ろしい程可愛いくしゃみに戦慄する。
「え、可愛いっ、え?」
思わず口に出すと、めぐり先輩が目をぱちくりさせた。
「え?」
「あ、や、なんでもないです」
「え、でも、今、可愛いって……へくちっ!」
「殺す気ですか俺を」
「なんで!?」
しまった、まただ。
「なんでもないです」
「え、だって今可愛いって言ったよね? あれ? 気のせい?」
めぐり先輩がずずいっと迫ってくる。下から可愛らしい顔が迫ってくるとちょっとキスしたく何でもありません。
顔をぐぎぎと逸らしながら答える。
「気のせいかもしれないですし、気のせいじゃないかもしれません」
「何それ!? ……もう……」
俺が誤魔化し続けたのがお気に召さなかったのか、めぐり先輩は両手でバッグを持ったまま、頬を膨らませてぷいっとそっぽを向いてしまった。眉根を寄せて目を閉じている。うーん、ちょっと可愛すぎますねー。引き続き俺を殺そうとしていらっしゃいますねー。
「先輩……?」
「…………」
「せんぱ~い……?」
字面だけ一色、再び。
「……つーん」
「!?」
え!? 口で言ったのか今!? つーんって!? 効果音だろそれ!?
うーむ、がっつりへそを曲げられてしまった。
髪をがしがしと掻いて、先輩に気になっていたことを聞くことにする。この話題ならばきっと振り向いてくれる……はず。
「先輩、なんで店で直接集合にしなかったんですか?」
初めは店の前もしくはどちらかが先に店に入って……という流れになるのかと思ったら、集合場所は外だった。目的地も聞いていないので、どれくらい歩くのかも分からない。何故わざわざ……? と思う。
尋ねると、そっぽを向いていた先輩がぱちりと目を開けて、ちらりと目だけこちらに向ける。その頬は寒さのせいか、ほんのり紅潮している。
「あ……えっとね? その……」
「え……」
めぐり先輩がもじもじしたかと思うと、左手の手袋を外して、素手になった手を差し出した。
「えーっと……握手ですか?」
「怒るよ」
「はい、すみません。ほんとすみません。準備します、すぐ準備します」
何を求められているかは分かっていながら悪ふざけをしたら、明らかに温度低めの声で返された。めぐり先輩が怒ったら超怖いんでなかろうか。やべぇ、叱られたい。そして癖になりそう。どうしたんだ俺。
手袋を外そうとしながら、ふと思う。
めぐり先輩の圧が地味に怖い。なんで笑顔なんだよ。フキダシでごごごごって台詞を作って持ってる幻覚さえ見える。
「あ、やべ……」
右手の手袋を外す所なのに、慌てたら間違えて左手の手袋を外してしまった。これではめぐり先輩と逆を向いて歩くシュールな絵面になってしまう。後ろ向きでウォーキングしてるおばちゃんたまにいるよね。
「ふふ、比企谷くんはおっちょこちょいだなぁ」
「……っ」
今のミスはあなたの圧によるものです……なんてとてもじゃないが言えない。そしておっちょこちょいという言葉をめぐり先輩が使うと異常なまでに可愛いという事実に戦慄する。
ようやく右手の手袋を外して(左手の手袋は再びはめた。寒いし)、めぐり先輩の左手を握る。俺が慌てている時間が長かったのか、めぐり先輩の左手はひんやりとしていた。
「ん、ありがと。……えへへ、ちょっと、こうやって歩きたかったんだ」
「わかりました。取り敢えず15kmくらいですかね」
「そんなに歩かないよ!?」
はっ! いかん、照れ笑いするめぐり先輩が可愛すぎて、やたらストイックな散歩をするところだった。
「それじゃ……行こうか」
「はい」
行き交う人をぼんやり眺めると、カップルも沢山見かける。彼・彼女らの見え方が今までと何か違うなと思いながら、2人で歩き始める。
握ったときはひんやりしていためぐり先輩の手が、もう温かくなっていた。
続く。
めぐりんでした。
あら、10月。
この作品を書き始めたのが原作の10.5巻が出た直後だったので、ヒロインのエピソードはサキサキを除いてみんな冬の設定で書いているんですが(冬のある日という書き出しをよく使っている気がします)、こちらの季節もそれに追いついてきました。時系列や展開などは、原作が終わってからの方が自由に書ける気がしています。八幡たちが3年生になってからとかそれ以降とか。
いつもたくさんのご感想ありがとうございます。全部逐一読んでます!仕事でへろへろになって返信が滞っていますが、後で返信しますので^_^!本当にありがとうございます!
西尾維新先生のやり方を真似てみようとストップウォッチを買ってみました。仕事終わりに即座にスポーツ店にw最近執筆時の集中力が落ちていたので、がっつり集中出来るように持って行きます。
平日はあと2日!頑張りましょう。
それではまた明日、ここでお会いしましょう(^^)!
今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!