お昼時、目的地へ向かってめぐり先輩と2人でとっとことっとこ歩いていく。道行く人の視線を妙に気にしてしまうのは何故なのか。
すれ違う人、すぐ左のガードレールの向こうを通り過ぎていく車に気を向けながら、何とはなしに隣のめぐり先輩をちらりと見やる。めぐり先輩が俺の視線に気付いて小首を傾げた。
「? どうしたの?」
「や、なんでもないです」
上機嫌なめぐり先輩を見て、思わず顔がふやけそうになった。
「ふふふふふふふふふふふふふ~ん」
「!?」
え、なに!? 今の鼻唄!? すげえ詰め込んでたけど!? 字面で見ると笑ってるようにしか見えないし!
「せ、先輩、今のは……?」
人の鼻唄に言及するなんて野暮かとも思ったが、あまりに気になったのでつい尋ねてしまった。めぐり先輩はくりっと首を傾げて、ああ、この曲ねと言ってにっこり笑う。
「知ってるかな? アリアナ・グランデって人。その人の歌なんだけど。とっても可愛いしすごい歌が上手なんだよ。この間テレビで出てるのを見てすっごい素敵だなって思って」
「そ、そうなんですか……」
初めて聞いた……と思う。アリアナ? 蟻穴? や、いくらなんでもこんなしょうもないボケを脳内でやってもしょうがない。落ち着け。取り敢えずさっきの鼻唄は、英語の歌詞でダカダカと畳み掛けて歌っている部分らしい。めぐり先輩のほんわかボイス&ハミングで歌われるとただの発声練習にしか見えない。
「…………」
そこからしばらく歩いて、ふと自分の手元を見やる。俺の右手はめぐり先輩の小さな手に包まれていて、とても温かい。身体的に温かいのはもちろんなんだけど、心理的にも緊張してしまって、もはや暑くさえ感じる。今の気持ちを端的に表せばうれしい! たのしい! 大好……何でもない。
しかし、めぐり先輩は俺とはちょっと違うことを考えていたらしい。
「…………」
「……?」
めぐり先輩が、繋いだ手をじっと見ている。歩いてるんだから前は気を付けてほしいんだけど、そこは致し方無いと判断して俺が気を付けることにする。大丈夫、ぶつかりそうになったら庇えば良いし、絡まれたら神速の土下座で何とかしよう。
「…………」
「……ど、どうしました?」
尚も見つめ続けるめぐり先輩にしびれを切らして尋ねると、めぐり先輩はひょいと顔を上げてにっこり微笑んだ。
「手、やっぱり素手だと寒いね」
「ああ、そうですね。まあでも、繋いでる分にはそんなに寒くは……」
「手、結構寒いね」
……んん?
「……手袋、はめますか?」
「ん、そうじゃなくて。手、結構寒いよね?」
え、何この禅問答? 答えを見つけるまで店には一生辿りつけないのかしらん?
「……ん」
めぐり先輩の視線を辿ると、繋いだ手ではなく俺のコートのポケットに向けられていることに気付く。
……えー? それ、……えー? 恥ずかしくないです?
俺の表情の変化を察したのか、めぐり先輩が歩きながら身体を寄せてくる。にっこり笑顔に明らかに含みがあって恐いんですけど。
「手、結構、寒いよね?」
なんで文節で区切って圧をかけてきたのこの人?
えーと、その、つまり、まあ……アレだよな、アレ。
「……俺のポケットの中で繋ぎますか?」
頭をがしがしと掻いていつもの半分くらいの声量で言うと、めぐり先輩の目がぱっと輝いた。
「うん! ……やった……」
呟くように言った後半部分と頬を赤らめた笑顔は可愛すぎるのでスルーすることにした。死んじゃう。
道の端に寄って、一度立ち止まる。そして手を離して先に俺が右ポケットに手を入れると、めぐり先輩が口元をもにゅもにゅとして、こきゅっと喉を鳴らした。え、なに、そんなに? そんなに緊張するイベントなの? 俺まで緊張しちゃうんだけど。
「じゃ、お邪魔……します」
「あ、はい……どうぞいらっしゃい」
めぐり先輩の妙に丁寧な挨拶に思わず乗っかってしまった。何このお宅訪問のテンション。
めぐり先輩の左手がポケットに入ると、冬の外気の冷たさが無い上に素肌の温もりが加わって、ぽかぽかと温かくなった。ぬくぬくだにゃー。
「えへへ……温かいね」
そう言って、めぐり先輩が腕が触れ合うくらい近付いてくる。
「……そうですね」
気の利いた言葉も返せなくて歯がゆいとは思ったが、今はマジでもう緊張しすぎて声が裏返らなかっただけマシだと思うんだ。ほんとに! 褒めて褒めて!
「もうちょっとで着くからね」
「ひゃい」
油断した瞬間にやってしまった。
顔が熱くなるのを感じながらちらりと隣を見やると、めぐり先輩が目を細めてくすりと笑う。
「ふふ……比企谷くんは可愛いなぁ」
「……行きましょう」
「ふふ、うん、行こっか」
今すぐめぐり先輩の肩を掴んで、「あんたの方が可愛いわー!」とビックリマーク50個分くらいのテンションで叫びたかった。
× × ×
先輩が連れてきてくれたのは、お洒落で落ち着いた外装のカフェだった。
「前にここを通り過ぎた時に見付けて、いつか入ってみたいなーって思ってたんだ」
めぐり先輩が嬉しそうに言いながらカフェの入り口まで行くと、あっと小さく声を上げた。その視線は2人分の手がすっぽり収まっているポケットに注がれている。
「……お邪魔しました」
「あ、はい……またお越しください」
めぐり先輩が手をポケットから抜くと同時にまたしても丁寧に挨拶してきたため、慌ててしまいそれを上回る珍奇な返しをしてしまった。めぐり先輩が頬を赤らめながらふっと目を細めるのを見て、どうしようもなく気持ちが浮き立ってしまう。
ドアを開けると、からんからんと心地良い音が鳴った。外装は新しかったが、店内を見ると結構長いこと営業していると思われる、どこか渋さのある空間だった。中はそれほど広くなく、カウンター席が5つと、テーブル席が3つ程あった。昼時のピークを少し過ぎているからだろうか、俺たち以外の客はカウンターでのんびりコーヒーを飲みながら本を読んでいる落ち着いた雰囲気の中年男性と、テーブル席で女性向け雑誌を読んでいる女子大生らしき人がいるだけだった。んん……? あの女子大生っぽい人、どこかで見たことがあるような……?
「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ」
女性店員に言われて、女子大生らしき人の隣にテーブルに腰を下ろすと、彼女がこちらを見るなり小声で「こ、高校生カップル……っ! 初々しい……っ!」と興奮気味に呟く声が聞こえた。そして「お、落ち着け、落ち着けわたし。そ、そうだ、コーヒーを飲んで落ち着こあっつ!?」と、まだ熱いコーヒーに悶えていた。なんだこの愉快で可愛い生き物。店員さんがさっき俺たちに応対した時より明らかに高いテンションで「だ、大丈夫ですか!? おしぼり!? 水!? 氷要りますか!?」などと言いながら駆け付けてきて、「だ、大丈夫です! ほら、なんともないですよこのコーヒー美味しいですねあっつー!?」とコントみたいなやりとりをしていた。この人たちなんなのん? めぐり先輩は目をぱちくりさせながら一連のやりとりを眺めていた。頭撫でたい。
メニューを見て、無難な品を注文する。こういうカフェランチって、雰囲気やコーヒーを楽しむというのが主目的にあって、腹が減った男ががっつりと食べにくる場所では無いよなと思う。
まあ、もしかしたらこういう場所に行くのではと予想して、朝ごはんは結構がっつり食べてきたんだけど。それでもめぐり先輩との道中で妙にエネルギーを使ったから、それなりに腹は減っていた。
注文した料理が届くと、2人で手を合わせる。
「それじゃ、いただきます」
「いただきます」
めぐり先輩の穏やかな声に続いて、俺も挨拶をする。
「…………」
幸せそうに料理を口に運ぶめぐり先輩を見て、ふっと頬が緩む。
お店の中ではあるけれども。
2人で食卓を囲うという状況が、たまらなくむずがゆかった。
続く。
☆☆☆祝・200話&お気に入り登録数4000達成☆☆☆
200話って……それにお気に入り4000って……!!
アクセスも多い時は1日9000人に到達しそうな勢いになっています。
もう、ただひたすらに、皆さんの後押しのおかげです。本当にありがとうござます!!
まだしっばーらく続きますが、どうぞお見守りくださいませ(^^)
ちなみに200話記念にメタネタを書こうと思ったんですが、「〇月△日時点」と書こうとすると1話で書かなければならず、かつそうすると書きたいことが書き切れないなと思いやめました。もう少ししたらエロ満載のメタネタハーレムを書こうと思います。
<今回のお話>
めぐりんでした。や、もう、本当にただのラブコメですね。なんだこれ、マジか。めぐりんの話は大半が全年齢向けになりそうですw
<感想のお話>
ざっくりなんですけど、常連の方の顔ぶれが時期によって移り変わっているなと感じます。忙しかったりなんだりで移り変わるのでしょうが、現在は第4波・第4世代くらいかなと思っています。初期からずっと書いてくださっている方も居てありがたい限りなんですが、最近は全然書いてないなーという方もまたぜひ書いて欲しいです(^^)初心(?)に戻れますので!
<読書>
戯言シリーズのクビキリサイクルを読み始めたんですが……いやはや、気付いたらどんどん読み進めてます。恐ろしや西尾先生。
それでは、また明日ここでお会いしましょう(^^)!
今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!