「ふー、美味しかったね」
「そうですね」
食後のコーヒーを飲みながらのんびりする。料理は思ったよりも量があって助かった。美味かったし。「思ったより多いね……比企谷くん、ごめん、ちょっと食べてもらって良い?」と言われて了承した後、めぐり先輩が「じゃ、じゃあ……こほんこほん、……………………あ、あーん……」と危険球を投げかけたので、「そうですね、アンコールワットってほんとすごい遺跡だなと思います」と適当に言ったら、ぷんぷん可愛く怒られたもののなんとかうやむやに出来た。危なかった……人前であんな恥ずかしいことやったら死んでしまう。ちなみにその時隣を見たら、どこの古典部部長だってくらい好奇心でいっぱいの目を爛々と輝かせて、女子大生らしき人(もういちいち言うのが面倒なので、女子大生のえる、略してJDEと呼ぶことにする。……なんかどっかで見たような……?)が頬に手を当てて「わー、わー、年上のお姉さんとちょっとひねた感じの年下の男の子……わー、わー……っ!」と小さく騒いでいた。一人で。この人絶対良い人だろ。
コーヒーカップを口元に寄せて、めぐり先輩がふわりと漂うコーヒーの香りを嗅いで穏やかに目を細める。
子どもっぽかったり、可愛かったり、お姉さんだったり、大人っぽかったり。
どうして女の人は、こうもたくさんの顔を持ち合わせているんだろうか。ころころ変わる表情にいちちどきどきする身にもなってほしい。要するにもっと色んな表情を見てみたいってなんだ俺、なにJ-POPの歌詞みたいなこと言ってんだ。
めぐり先輩がコーヒーをこくっと飲む姿に思わず見惚れていると、ぱちっと目が合った。
「…………」
最初は片手でコーヒーカップを持って飲んでいためぐり先輩が、俺と目が合うと急にきょろきょろしだした。何事かと思い引き続きじっと見ていると、一度コーヒーカップをソーサーに置いてふぃーと息を吐く。そして今度は両手でカップを持って、ふーふーと念入りに冷ましてさっきよりも顔が隠れるようにしながらくぴくぴと飲んで、その状態で俺を見つめ返してきた。無邪気な瞳がカップの上からひょっこり覗きこんできて、小さな妖精と出くわしたような、そんな幸せな気分になる。マジめぐリエッティ。
……ていうか、なんで顔を隠したんだ?
めぐり先輩の、理由が分からないがとにかく尋常でない程可愛い行動を見つめていると、めぐり先輩がカップをソーサーに置いて、一度目を伏せた後上目遣いでこちらを見つめてきた。
「ひ、比企谷くん……そ、そんなに見ないで……? は、恥ずかしいよ……」
「……っ」
ほんのり頬を赤らめて、口元をもにょもにょさせて言うめぐり先輩があまりにも可愛くて、思わず声を上げそうになった――その時。
「ぐはぁっ!」
『!?』
俺が声を上げる直前に、隣の席のJDEがコーヒーを噴き出して机に突っ伏した。コナンくーん、出番ですよー?
先程のテンションで女性店員が「だ、大丈夫ですか!? 事件ですか!?」とか言いつつもちゃんと布きんを持ってきた。んなわけねぇだろ。JDEはびくんびくんと痙攣しながら、顔だけぐりんとこちらに向けて「うへへぇ……お姉さんキャラでその上恥じらいも見せるとか……ええのぅ……日本の文化じゃのう……」とか言ってきた。駄目だこいつ……早くなんとかしないと……。今初めて見た(気がする)けど、多分興奮のあまりキャラ崩壊してるということだけは分かる。女性店員はJDEの狂った呟きを聞いてるのか聞いてないのか、コーヒーを拭き取りながら「ああ、一度で良いからこんな現場に出くわしてみたかったのよね。コーヒーに毒……まるで十角館のようだわ。いやしかしでも、誰がこんなことを……? 落ち着いて、私はエラリイ、推理小説研究会の名探偵よ……いやでもエラリイだと最後がアレか……」などという、縁起でもないこと言っている。だから死んでねぇっつの。あんたが勝手に死亡判定出してる人、すぐ目の前でめぐり先輩を見つめながらうへへとか言ってるぞ。
「な、なんか大変なことになってるね……」
事態は呑み込めていないようだが、取り敢えず自分が凝視されていることには気付いているらしく、めぐり先輩はJDEの視線から逃れるようにして苦笑をこちらに向けてくる。メニューでめぐり先輩の顔を隠した方が良いんでなかろうか。
「あの……」
あまりに変態的な瞳でめぐり先輩が視姦間違えた凝視されているので、たまらず声を掛ける。俺のそろりとした物言いで察したのか、JDEはアッと声を上げて、がばっと起き上がってぺこりと頭を下げた。顔を上げるとその表情は真剣そのもので、ほんの数秒前までとのギャップに驚く。
「ごめんなさい。あまりにも微笑ましかったもんでつい吐血しちゃいました」
真面目な顔なのに……。
微笑ましく思って吐血って、それどういう身体の仕組みなのん?
「本当に申し訳ないわ……こういう時、ついつい我を忘れちゃうのよね……こんな性格のせいで一日何回痙攣することか……」
なんだろう、すれ違う人みんなにスタンガンくらってるのかなこの人?
「そんな訳で、これ以上隣にいると迷惑かけちゃいそうだから、わたしはこれにて退散するとします! じゃ、またどこかで会えると良いね!」
「あ、はぁ、はい、どうも」
よく分からぬうちにぶわーっと捲し立てて、何やらJDEがメモ紙に何かをさらさらと書いて立ち上がり、めぐり先輩の前にぽすりと置いて、めぐり先輩にちょいちょいと手招きをした。めぐり先輩が何事かと耳を近付けると、JDEがぽしょぽしょと囁く。
「あ……え、いや、その……っ!」
囁かれるなり、めぐり先輩がぼっと顔を赤らめて慌てだした。二人とも明らかに俺を見てるのは気のせい?
「それじゃ、おさげのお姉さん、デレ捻くん、またね」
小町が俺に使う形容詞の業界用語バージョンみたいなことを言って、JDEがひらひらと手を振ってドアに向かう。からんからんと音を立てて――
「お客様、お勘定!」
「ああ、忘れてたごめんなさい!」
『…………』
女性店員に呼び止められて、コントみたいなやりとりをしていた。レジでお金を払いながら「600円……コーヒー大体噴いちゃって飲めなかったんで、200円くらいにしてもらったりとかしちゃったり出来ないですかねとか思ったり」「お客様の口に入った時点でもうアレなので600円です」「はい……」というやりとりをしている。コントの尺が結構長い。
お金を払い終えて、再びからんころんと音を立てて今度こそJDE退場。と思ったら、窓に顔を寄せて、俺たちに向かって投げキッスをしてきた。しかも窓に寄り過ぎていたため、投げキッスの手の動きで指の爪を窓ガラスにこつんとぶつけて悶絶していた。涙目で手を振りながら去っていく黒髪ストレートの残念美人の後ろ姿を2人で見届けると、ふーと一息ついた。
「先輩、J……あの人、何のメモを置いていったんですか?」
「ああ、これね」
聞くと、めぐり先輩がなんだかなーと笑いながらメモをこちらに見せる。そこにはよく見慣れた形式の11桁の数字が書かれていた。
「なんで電話番号……」
キザな男がやるやつじゃないのん? びっくりした。またどこかで会えると良いねって、あの人意図的にめぐり先輩に会う気満々じゃねぇか。
「あ、あと、さっきあの人はめぐり先輩に何て言ったんですか?」
言うと、めぐり先輩の頬がぽっと桜色に染まる。やだもう家に連れ帰りたい。
「え、えっと……そ、その……」
「? 何ですか?」
この後、追及なんてしなきゃ良かったと思った。何故なら次のめぐり先輩の言葉が、
「……『彼氏くん、素敵だね。優しいし、ちょっと捻くれてるけどそこが可愛いし。あと何気に顔もかっこいいし。仲良くね』って……」
「……………………………………………………………………………………そ、そうですか…………」
「う、うん…………」
「……………………」
「……………………」
『……………………』
恥ずかしさで。
死ねる。
二人して膝に手を置いて、顔を俯かせて黙りこくる。聞こえてくるのはカップを洗う女性店員の「あの人、多分二口くらいしか飲めてないわよね……」という絶妙な独り言だけだ。マジかよ。
ちらりとめぐり先輩を見やると、向こうもちょうど俺に視線を向けたようで、ぱちりと目が合った。顔が熱くなってまた目を伏せる。もう一度めぐり先輩を見やると、また目が合った。そしてまた目を伏せる……という流れを、幾度と無く繰り返す。
……は、恥ずかしい……! 恥ずかしいよぉ……! あの人、何言ってくれちゃってんの!? そしてめぐり先輩、何で一言一句違えずに俺に伝えちゃったの!? 聞いたのは俺なんだけども!
ちらりとレジの方に目をやると、皿洗いを終えた女性店員が椅子に座って完全にスイッチオフになっている。サスペンドしてる。お前はどこの小森さんだ。
店内に、うごかぬせきぞうが3つ。
そこから数分の間、カフェ内には無音が響き渡っていた。
続く。
めぐりんでした。モブ推し。
今まで、八幡とヒロイン以外のキャラは小町以外ほとんど出番が無かったので、実験と息抜きを兼ねてこういう書き方にしてみました。オリジナルにも活かしたいなーと。次回からまたがっつりと八幡&めぐりんの絡みを書いて行きますので。
いろはす編も特殊なスタートでしたが良いリアクションを頂けて嬉しい限りです。尋常でない程甘エロになるのでどうぞご期待ください(^^)!
<評価>
作品評価なんですが、10段階のうちの10点を付けてくださった方が100人に到達しました!!ありがとうございます!!そして9点も120人!!ありがとうございます!!
投票数が5人くらいなら平均得点も高くなりやすいですが、これだけたくさんの方に投票して頂いて且つこれだけ高い評価を頂けるとは……もう、本当にありがとうございます。引き続き頑張ります。どうぞ小町(更新心待ちの略。ある読者の方発案)っていてください!
<読書>
クビキリサイクルを買ったとき、「うーわ、550ページもあるってどういうことだよ、こりゃ読むのに時間かかりそうだな……」と思ったら、あっと言う間に読み終わりました。最後らへんの「えー!?」「えー!?」「えー!?」ラッシュが半端なかったです。一気読みしすぎて脳が疲弊。面白かった……!
それでは、残り2日も頑張りましょう。
また明日ここでお会いしましょう(^^)!
今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!