「……さむ……っ」
早朝の澄んだ空気に身震いしながら、公園でめぐり先輩を待つ。
二人で運動することでめぐり先輩のダイエットに協力するということになったため、休みの日にも関わらず凄まじく早い時間帯に起きて、ジャージに着替えて公園に来ていた。こんな気合の要るイベントを行った事が無いので、どうしたものかとそわそわしてしまう。寒いしこれから運動するということもあり、ベンチにも座らず公園の土を踏みしめながら屈伸をしたり伸脚をしたり、震脚をしたり……俺そんな達人じゃねぇな。とにかく落ち着かずにあれやこれやと試す。
早朝にも関わらず、いやむしろ早朝だからこそなのか、公園には俺たちと同じように運動に励む人(俺たちはこれからだけど)が沢山居た。腕を大きく振ってウォーキングをしている中年女性の2人組、一体どれだけ走ったのか、まだ冬だと言うのに半袖シャツにスパッツ姿で汗ばみながら走っている20代と思しき男性。それに向こうの広場では太極拳をやっている。やっている人は皆お爺さんお婆さんのようで……って、んん? あの女子大生みたいな人、つい最近どっかのカフェで見たような……? ……うん、気のせいだな。気のせい。なんであの人蟷螂拳の構えしてるのか分かんねえし。太極拳やれよ。ついでに、何故かあの人に向かい合って蛇蝎拳の構えを取ってるどっかのカフェで店員として見たような女性も全然記憶に無い。記憶には無いけどツッコミたいから言うけど、太極拳やれよ。あと何で真剣勝負の雰囲気を醸し出してんだよ。周りは叱りでもするのかと思いきや、各々真面目に太極拳を行いながら、「ここから、どうなるんだ……!?」という目つきでこのアホ2人を見つめてる。ノリ良いなぁ。ていうかあの人たち、もうすっかり友達じゃねぇか。おおっと、あの人たちは知らない人知らない人……。
「あ、比企谷くん。おはよう」
ぽわんとした癒しの声音に呼びかけられて振り返ると、落ち着いた色のジャージを着用しためぐり先輩が居た。彼女はいつものおさげ髪ではなく、ポニーテールにしていた。お、おお、新鮮……! 今思ったけどめぐり先輩にメイドさんくるりんをやってもらったら俺死ぬんじゃなかろうか。思考に脈絡が無さすぎてびっくりした。
俺がほわーと見蕩れていると、めぐり先輩が「あれ?」と呟いて、俺の後ろに視線を向けた。
「あの人たち……」
「気のせいです。行きましょう」
「え、でも」
「ここでヤツらと絡むとそれで1話分終わっちゃいますから、行きましょう」
「それ何の話?」
「何でもないです、行きましょう」
「えええ……? う、うん……」
メタい話をしつつも、その場を離れる。ついめぐり先輩の手を掴んでしまったが、めぐり先輩が一瞬だけ目を見開いて驚いたものの、すぐに顔を綻ばせて目を細めたから安心した。というかときめいて死んだ。ちなみに背後から「ほわたぁぁぁ!」とここの作風に合わない無駄に気合の入った声が聞こえてきたけど気にしない。お互い素手の筈なのにぎゃりーんという金属音がしたんだけど、これどういうことなのん? まあ気になるけど気にしない。
× × ×
「うぅぅ……寒いね」
「そうですね……」
深く霧が立ち込めた公園の中を進みながら、2人して凍える。
いきなり走るのも大変かということで、まずは大股で歩くことにした。めぐり先輩よりも歩幅は大きくなるが、その分足の動きそのものを遅くすることで帳尻合わせをする。変な所に力が入ってぷるぷるしながら歩いていると、めぐり先輩が身体をぶるりと震わせた。
「…………」
ここでふと、めぐり先輩に何を言おうか考えてみる。
最近はめぐり先輩に対してふざけた事を言うのもだいぶ慣れてきたので、例え早朝であろうと自分のユニークセンスを発揮することも厭わないくらいのメンタルの強さを身に付けていた。寒さで凍えるめぐり先輩にちょっとしたジョークを言ってみよう。
「本当寒いですよね、俺が温めましょうか」
「………………………………………………………………あ、えぇっと……………………」
うん。
スベった。
めぐり先輩がこれ以上無い程苦々しい苦笑いを浮かべて、掛けるべき言葉を探す様子があまりに悲しくて恥ずかしい。私は貝になりたい。
うあぁぁぁぁ! 俺何してんの!? 何調子に乗ってんの!? 最近俺結構幸せなんじゃねえかとかもうちょっと明るくしてみようかとか要らんこと考えるから! ああもう!
空を仰いで心の中で「このおーぞらーにーつーばーさーをーひろーげー」と熱唱していると、めぐり先輩がつと足を止めて、顎に手を当ててむむむと考え出した。
「……どうしました?」
比企谷だだスベリ事件における心の傷はまだ癒えていなかったが、めぐり先輩の様子の変化に気になって声を掛ける。この状況で俺の心の傷とかどうでもいい。ただの自爆だし。
俺の質問にハッとして、めぐり先輩が顔を上げた。
「……それ、意外と、結構……あり、かも」
「え……」
きっと、気まずさ抜群の笑顔で、両手でガッツポーズを胸の前でしながら「う、うん、大丈夫だよ! 頑張って温まるまで歩こう!」とか言われて切なさに死ぬんだろうと予想していただけに、思いも寄らぬ返答に心底驚く。ていうか俺の予想が悲しすぎる。
めぐり先輩を見やると、顔を逸らして婀娜っぽい流し目を送っている。いつもぽわぽわと癒しオーラを放っている彼女だけに、こういう雰囲気を醸し出されるとそのギャップでくらくらする。
めぐり先輩が突然乗り気になった事に動揺しつつも、視線は自然と周りを巡って、人目に付かない場所を探していた。
「あ、そ、その、控えめで良いから、その」
「あそこ良さそうですよ。行きましょう」
「早いよ!?」
めぐり先輩のテンション高いツッコミが入った。はいはい超可愛い超可愛い。
× × ×
向かった先は屋根とベンチがある休憩所のような所で、木の柱とベンチが趣を感じさせる場所だった。この時間ならばまず人の目にはつかないだろう。その内家で落ち着いてしたいなぁという願望も湧いたが、今はこの状況を楽しもう。
朝、それも早朝だと言うのに、めぐり先輩とこういうことが出来ると分かった途端にテンションが上がってしまい、今はもう寒さなどほとんど感じなくなっていた。人って変わるもんだなぁと思う、獣に。李徴かよ。
「ひ、比企谷くん……ひあぁっ!?」
場所に着くなり、いきなりめぐり先輩の首に吸い付いた。隣を歩いているとき、髪を上げていることでちらちらと見えるうなじにずっとどきどきしていて、もう我慢出来なかった。めぐり先輩に抱きついて首の側面に吸い付きながら舌でつつくと、甘い香りを漂わせながらめぐり先輩がびくびくと震えた。
「あぁっ、ひっ、あふぁっ、だ、だめ、比企谷くん、こんなっ、あんっ、わ、わたし、ただ、ちょっと身体を寄せ合えたらって思ってただけなのに……」
震える声で宥めてくるが、その声音に俺を本気で説得しようとする力は無く、興奮で荒くなった吐息は劣情を煽ってくる。
「そうですね、もっと温め合わないと」
「え、そ、それ……はぅぅっ!」
抱きしめる力を強めて、めぐり先輩の身体を立ったままぎちぎちに拘束する。めぐり先輩のお腹に隆起した肉棒がズボン越しに押し付けられると、めぐり先輩が泣きそうななりながら真っ赤な顔で、
「や、やぁっ……硬いよぉ……っ」
と耳元で囁いた。
前回の経験で分かったことがある。
めぐり先輩は今の関係ならきっと、こういう行為を戸惑いながらも受け入れてくれる……それは前回のめぐり先輩の行動から感じたこと。
しかし、もちろんここでがっついて怖がらせたくはない。ましてめぐり先輩のピュアすぎる反応を見てしまっているから、尚のこと気を付けねばならない。
だから、ゆっくり、徐々に、進めて行きたい。出来ればこうやって、めぐり先輩のスイッチが入った時に。今この場で出来ることは限られるから、その中でも出来ることをしよう。
周りに視線を巡らせて、人気の無い状態であることを確認する。
「先輩、今日は……この間よりもっとじっくり触ってみてください」
「え……?」
俺の腕に拘束されたままのめぐり先輩が、上気した声を上げて俺を見つめる。香ってくる甘い匂いはいっそう増していて、互いの理性がゆっくりと削られて行っているのが分かる。
めぐり先輩の瞳が、色香を纏ってゆらりと揺れる。
めぐり先輩の腕が、俺の背中にそろりと回される。
めぐり先輩が俺を抱きしめる腕にきゅっと力を込めると、めぐり先輩の手が背中から徐々に下に降りてくる。
ざわりと、股間が疼いた。
続く。
☆☆☆祝・UA1500000突破☆☆☆
これも毎日たっっっくさんの方にご覧頂いているおかげです。本当にありがとうございます(^^)!!引き続きよろしくお願いします!
めぐりんでした。モブキャラのくだりは突然思い付いてねじ込みました。この後もどこかで出るかもしれないし、出ないかもしれません。今回も「早朝」「太極拳」というワードが浮かばなかったらまず書かなかったのでw
今日は出かけるので、明日の分も予約投稿しておきます。
それでは、また明日ここでお会いしましょう(^^)!
今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!