…と言う訳で、翌日。早速4人で遊びに行くことになった。
それにしても、昨日の今日とは…小町さん、仕事早すぎません?やはり将来はこの子に養ってもらうしか…。
朝食をのんびり食べて、全く急ぐこと無く着替えをしながら、妹との将来についての妄想を膨らませていると、小町に脇腹を小突かれた。
「ほら、ごみいちゃん、行くよ」
妄想がばれたのだろうか、最初からごみいちゃん呼ばわり。俺そんなごみごみしいの?
とにかく、二人で集合場所へ出発した。
集合時刻は午前10時。
あと10分もすれば集合場所に着くと言う状況で、現在時刻は午前9時半。
ここまで念を入れなくて良かった。何なら行かなくていいまである。
「なあ、小町」
「なあに?」
比較的混み合っている電車の中で、窓から見える街の景色を眺めながら話し始める。
「時間も結構余裕あるしさ、ちょっと寄り道しないか?そんで好きなもの買ってやるから、そのまま二人でぶらついて帰ろう」
我ながら完璧なプラン。これなら誰も傷を負うことが無い。大志もデートしたらしただけ辛くなるのは目に見えてるし。
…あ、それならデートした方がいいのか。
「…あー、…やっぱり4人で遊ぼう」
すぐ切り替えた。思考の柔軟性に我ながら惚れ惚れする。
「どっちなの…」
すんごい冷たい声で言われて、ちょっと心がひしゃげたけど気にしない。
そんなことを話している内に、電車が目的地最寄りの駅に着いた。
「お兄さん、おはようございます!この間はありがとうございました!」
「黙れ毒虫。お前にお兄さんと呼ばれる筋合いは無い。今すぐ帰れ」
俺はこう言う熱いタイプは別に嫌いでは無い。興味が無いだけだ。
しかし、妹にその毒牙を向けると言うなら話は別だ。
いつも何度でも、身体のどこかしらをへし折ってやろう。なんなら名前の一部を奪って家に帰れなくしてやる。
「…うちの弟に何暴言吐いてんだあんたは」
冷たいの声の元を辿ると、川崎が大志のすぐ後ろから、それはそれは凍えるような視線を飛ばしていた。
雪ノ下と似ているようで、違う冷たさ。
もっと言うと、川崎自身もいつもの冷たい感じと、今のように大志関連で冷たくなる時とでは若干異なる。
全く、ブラコンめ・・・。可愛いもんだ。
そんな風に考えると、こいつのこのキャラもほとんど怖くなくなる。
いざ見られるとなんやかんやで結構怖いけど。
あ、やっぱ怖いや、うん。
「よし、揃ったな、んじゃ行くか」
怖さを克服して微笑み返すなんて言う高等なことは出来なかったので、素早く切り替えることにした。
「…」
4人で歩いているとき、ふと今日のメンバーの服装に目をやった。
小町は薄緑のワンピース。可愛い。活動的な格好も、こう言う女の子らしい服装も似合ってる。つまり、ただの天使だ。
大志は普通のTシャツに普通のジーンズ、そしてショルダーバッグ。
ああ、お前は普通だ。だから小町天使とは身分も種族も違う。諦めろ。
川崎は、黒のキャミソールの上に1枚羽織って、下は青のジーンズとシンプル。バッグは手に持ち、手首を返して肩に乗せながら歩いている。
そんなシンプルな服装で何気なく歩いているだけでも、彼女のスタイルの良さが際立つ。
…あれ、開いた胸元に目が行く。いかん、乳トン先生再び。
目を高速で泳がせていると、川崎がこちらを見ていることに気付いた。
俺の視線を追って、どこに目を向けていたのかに気付いたようで、急に顔が赤くなって
「…どこ見てんだよ」
とぼそっと呟いた。どこの青木さん?
てっきり思い切り睨まれると思ったんだが、恥じらうようにこちらを一瞥しただけで、その後は別段何も言ってこなかった。
ん、何この反応?逆に俺が恥ずかしくなってきた。
俺たちの様子を見ていたのか、小町が興味深げに話を振ってくる。
「お兄ちゃんと沙希さんって、どこで知り合ったんですかー?」
何この馴れ初め披露。んなもんどっちかの家族に結婚の挨拶に行ったときに聞いとけ。行かないけど。
「ああ、あたしが屋上の給水塔でくつろいでたら、同じく屋上に来てたこいつの進路希望の紙が風で飛んで来て…そのときかな、初めては」
「ああ、そうだな。あの時鮮やかに見えた黒のレー…」
「ん?」
川崎がぴたりと立ち止まった。
やっべ。ここで誤魔化しをミスったら即座に死ぬ。視線による凍死か打撃によるショック死。
「…―ルガンってすげえよな、通常の銃弾に比べて遥かに早い弾速で相手を吹っ飛ばせるんだもんな」
「…はあ?何の話をしてんだ?」
あっぶね、雑だけど何とか誤魔化せた。
ありがとう、黒猫さん。
「ふむふむ。じゃあ、そのときの第一印象は?」
引き続け質問を続ける小町。そんなん言われましても。
「ああ、こいつ進路希望に専業主夫なんて書いてて、現実見てねえなと思ったよ」
そう言うと川崎は、ふっと笑った。
その笑い方は、出会った当初より少しだけ柔らかくなったように思える。
ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、俺の言葉にどう反応するのか気になった。
なので、少しだけ揺さぶってみる。
「俺は、ああ、綺麗だなーと思った。冷たい印象はあったけど、スタイル良いし、顔立ちも整ってるし、泣きぼくろが妙に色っぽいし」
どうだ。キモがられたらそれまでだけど、そんなのもう慣れてるから平気だぜ!ちょっと夜に枕を濡らす程度だぜ!
「!?な、な、な・・・そ、そんな、え・・・」
あれ、ん、あれ?
めっちゃ照れてらっしゃる。
顔を真っ赤にして、手を顔の前でわたわたと交差させてる。
ちょっと可愛いかも。あれ?
まあ、可愛いからと言って俺がどうこうする訳でも無いからそれまでなんだけど。
「…そっか、綺麗…そっか…」
髪を指でよりよりしながら俺の言葉を繰り返すのやめて、恥ずかしいから!
これで『えへへ…』とか言ったらもう何ヶ浜さんだよって話になるぞ。
あっれー、なんか反応が予想以上に…あっれー?
俺が面食らっていると、小町の目がヤマピカリャーみたいに光った。イリオモテヤマネコのことだにゃー。
「おやー、この感じ…沙希さんが将来きっちり働いて頂けるなら、お兄ちゃんをお任せ出来るかもですねー?」
目がすんごいらんらんとしてるぞ、妹よ。ヤマピカリャー。
「!?な!?だ、だから、そんなの有り得ないって…!」
川崎さんの顔が更に赤くなった。ちょっと待って、あんまそう言うリアクションされると俺まで変な気持ちになっちゃう。
ふと、会話に全く参戦出来ないでいる大志と目が合った。
分かる、分かるぞ、会話に加われない寂しさ、疎外感。
だから俺は、彼の肩に手を置いて優しく語りかけた。
「大志…帰っても、良いんだぞ?」
「!お兄さん、ひどいっす、帰らないっす!」
「誰がお兄さんだ誰が。帰っても良いは優しすぎた。お前、帰れ。土に」
「死ねってことっすか!?」
そろそろ川崎が止めに入るかなーと思ってそろりと目線を向けると、顔を真っ赤にしたまま「そんな…お任せ出来るかなんて…大体いきなり綺麗とか言われたら…」とかってぶつぶつ言ってる。
乙女全開の表情やめて。なんかすごい恥ずかしくなってきた。
夏に恥ずかしさで体温上がるとか即座に死に繋がるから。
ほんとに!
顔が赤くなってるであろう俺の耳元に、小町が近付いて囁いて来た。
このまま抱きしめて良いのかな?良いよね?
「お兄ちゃん、どう?」
「どうって何が」
「フラグ、もうびんびんでしょ?」
「言い方言い方」
年頃の女の子がびんびんとか言わないの。
って言うか年頃じゃなくても言わないの!
取り敢えず、今日と言う日がすんなり終わりそうにない予感がすんげえする。
「お兄ちゃん、どこから行くー?小町行きたい場所があるから、そこ行ってる間に考えといて!」
あれ、大志の意見とか反映されないんだ。普通に頷いてるけど、いいのか?
まあ、こいつの希望なんて聞く気は芥程も無いけどな。
「わかった。どこ行きたいんだ?」
「えっとねー、映画館!見たいのは決めてないんだけどー」
おうふ、アバウトですね。
しかしまあ、いきなり4人で積極的に遊ぶのも中々厳しいしな。そう言う意味では中々良いチョイス。流石です妹よ。
「わかった、んじゃ行くか」
二つ返事で承諾して、映画館に向かうことにした。
映画館に入った時間は10時20分くらいだった。
上映時間が近いものと、見たいジャンルで絞り込みを行う。
ふと、ある映画に目が行く。
それは普段ならまず見ることは無いのだが、今日はちょっと興味が湧いた。
「じゃあ…これにするか」
「え、お兄ちゃん、これ…?」
「こ、これは、中々っすね…」
「へ…これ?これ見るのか?本当に?」
3人が一様に固まるのも無理は無い。
俺が希望した映画は、最近話題のジャパニーズホラーだった。
時折深夜のCMで、メインのキャラと思われる、黒髪で長髪の白い服を着た女性が古びた画面の中に映し出され、不意にズームアップしたかと思うと女性の充血した左目がどアップになり、
ミンナヲ ウラム
と言う血文字が画面の上下におどろおどろしく出て来て、次の瞬間にざざざっと言う音と共にその文字が左右反転して女性の目が白目を剥くと言う、えげつない映像が放映されている。
以前小町とリビングに居るときにそれを二人で見てしまい、小町が俺に泣きながら抱き付いて来て、その後しばらく泣き止まなかったのは記憶に新しい。
…あれ、苦情出てるよね絶対。
「お、お兄ちゃん、ほんとにこれ見るの?
だってこれ、前CMで見たやつだよね・・・?」
小町もしっかり覚えていたようだ。
本当なら兄として妹を怖がらせるような真似などしたくないのだが、今日はちょっと、川崎の泣き顔を見てみたいと言う衝動に駆られてしまった。
だから、怖いけど見てみたい。超怖いけど。俺一人で見たら多分泣いちゃう。
「大丈夫、兄ちゃんが付いてるから」
そう言って、小町の頭をぽんぽんと撫でた。
「あ、あ、あたしも、これ…見る…の?」
川崎が心底怯えている。
「なら、小町と川崎は俺の両隣に来いよ。大志は最前列に一人で良いよな?」
「俺だけ一人っすか!?怖くて死んじゃうっす!やばいっす!」
そうだね、でもそれが俺にとっての最善っす。
なんやかんやで3人の了承を得て、席は右から大志、川崎、俺、小町と言う並びになった。
ただの俺得で、大志はただただ悲しい。
だから言ったろ?諦めろって。
俺の心の中でしか言ってねえけど。
席に座って、初めのうちは小町とぽそぽそと雑談をしていたのだが、川崎は最初からずっと、怖がってびくびくしている。
どうしたものか。
「川崎、大丈夫か?」
「あ、だ、大じょ…いや、やばいかも…」
始まる前にこれはどうなんだ。
なんかすごく申し訳無くなって来た。
映画が始まると、小町は最初からビビりにビビっているので、序盤から手を握ってやった、と言うより、いつの間にか握ってた。お兄ちゃんスキルはオートで発動するのです。
それで少し安心したようだったが、物語が進み、結構最初の方から登場していた主人公と仲の良い女性が無残に殺されたシーンで、涙目になって『ぴゃあああ…』とか細い声を上げた。何この子可愛い。
しょうがないので、お兄ちゃんスキルの上位技を発動。
左手で小町の左肩を抱いた。
『へ?』と言うリアクションを最初はされたんだが、すぐに身を委ねて来た。よっぽど心細かったんだろう。
小町を心配して小町にばかり構っていたのだが、途中でふと川崎の様子が気になった。
さっきから何の声も聞こえないんだけど、生きてる?
右を向いて見ると、画面を凝視したまま涙目になって震えている。
もう、目を閉じるくらいしても良いと思うんだけど…。
なんだろう、変な所が真面目なんだろうか。
「あー、川崎、ほれ」
「…え…」
普段怖いし、タメだし、普段すごく怖いけど、本当に怖がってるからしょうがない。
お兄ちゃんスキル、発動。手を重ねてみよう。
二人の間にある手すりを、手でぽんぽんと叩く動きをして招いてみる。
初めは何のこっちゃと言うリアクションをしていたのだが、すぐに俺の意図に気付いたようで、戸惑い始めた。
「え…あ、え?いや、そんな…」
わたわたと手を振る。腕もすらっと長いな…。
「いいから、ほれ。この後絶対、もっと怖いシーンが来るぞ」
「!…じゃ、じゃあ…」
そう言って、震える手を重ねて来た。
冷房が効いているせいか、手が冷たく感じる。
手が冷たい人は心が温かいなんて都市伝説程度にしか思っていないけれど、こいつは割と良い人なんだろうな、と何となく思った。
左手で小町を抱きしめ、右手を川崎と重ねた状態で15分程。
いよいよ大詰めと思われるシーンまで来た。
CMに出てためっちゃ怖い女性に、主人公が追い掛け回される。
追い込み方が怖すぎて、流石に俺も固まる。
と、俺が握っている右手が今まで以上にぶるぶると震えていることに気付く。
「おい、川さ…」
呼び掛けるまでも無かった。目を見開いて、涙目を通り越して涙をつつっと流して怯えてる。
あ、これは本当にだめなやつだ。
致し方ない、お兄ちゃんスキルの上位技、再び。
「川崎、ほら」
「あ、え…?」
右手で川崎の右肩を抱くと、なるべく優しくこちらに引き寄せた。
手すりがあるため密着することは無いが、それでも彼女の頭が目の前まで来て、ふわりと良い香りがする。
「あ…」
戸惑ってはいるものの、震えは止まったようだ。
良かった。セクハラによる怒りで震えてるんだったら、俺もうこのデートをほっぽり出して逃げてた。
…って言うか、肩を抱いてからずっとこっち見てる。どゆこと?
ちらりと視線をやると、川崎はぽーっとした表情で俺を見てた。
他のものや音を全く認識していないかのような、集中してるのか散漫なのか分からない目をしている。
どうしよう…恥ずかしいんですけど。
しかし、無理に映画を見させてもまたきついことになるし。
…こう言う風に見られる分には別に怖くないし、良いか、別に。
泣き顔からの乙女顔って流れは、反則だと思うんです…。
映画を観終わると、小町がいつもよりべたべたして来る。可愛過ぎて持ち帰りたい。
ま、毎日持ち帰ることが出来るんですけどね!
一方川崎は、気のせいじゃなければ、ずっと俺のことをぽけっと見てる。
え、本当にどうしたの?
恥ずかしいから、気を紛らわせる為に大志を罵ることにした。
「大志、映画どうだった?俺お前に興味無さ過ぎて全く様子を確認してなかったんだけど」
「お兄さんひどいっす!とにかく怖かったっすけど、ストーリーが緻密に練り込まれていてすごいなって思いました!」
「誰がそんな良い感じのコメントをしろと言った。海に帰れ」
「入水っすか!?」
こんなやりとりをしてる間にも、川崎は俺のことをぽけーっと見ている。
…んんん?
俺の腕に引っ付きながら、小町がその様子を見て再び目がヤマピカリャー。
「おお…お兄ちゃん、映画館で沙希さんのフラグを完全におっ立てたね!」
「なんでそうなる」
「はあ、これだからごみいちゃんは…」
俺を抱きしめながらため息を付かれましても…。
川崎の様子が、いつもとだいぶ違うのは分かってんだけどね。
「あ、そうだ、お兄ちゃんは次どこ行きたいの?」
…すまない、小町、川崎。
「お化け屋敷で」
「え、お兄さん、え?」
「お兄ちゃん、正気なの?」
「あ、あんた、それ、もう…」
試しに、もうちょっと煽ってみたくなりました。
続く。
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