めぐり先輩に可愛らしく手招きをされて、戸塚ショックを引きずりながら付いて行く。
なんだろう、何事だろう?
ていうかもう、めぐり先輩が微笑みながらとてとて歩いていく姿が可愛すぎて、何かもう付いて行きながら浄化されそう。身体の前面から羽になって分解していく感じ。言ってて怖くなった。
めぐり先輩はきょろきょろしながら、「ん~……ここなら大丈夫かな? やっぱりもう少し奥にしようかな……」などと呟いて、ゆっくり歩みを進めていく。
やがて、通行人をほとんど見かけない場所にやってきた。道から少し逸れた林の中だった。
「ん、この辺なら良いかな」
めぐり先輩が頬に指を当ててうんうんと頷き、後ろ手を組んでくるりと振り返った。即死する程癒されるという矛盾。
「……ここ、ですか?」
「うん、そうだね」
……え、なに、なに?
変な動揺が身体の中を駆け巡る。
ひと気無いですよ? ん、んん? ていうか俺らひと気の無い場所好きすぎる感が否めない。
めぐり先輩がふっと目を細めて、にっこりと微笑む。
「ここなら、あまり人が通らないないからね」
「え……」
戸塚ショックの落ち込みから。
急転直下、違う、恋の滝登り、鬱陶しい気取り方しちゃったよ違う、剣呑剣呑、これは作品が違う。
えーと、えーと、えーと。
取り敢えず。
もの凄い勢いでテンションが上がった。
× × ×
めぐり先輩がくるりと後ろを向く。小さな声で「うん、よし、がんばるぞ……」と小さく気合を入れている声が聞こえる。めぐり先輩に応援されたら100mのタイムが14秒8くらいから一気に11秒2くらいまで縮みそう。もはや別人だわそれ。
気合を入れ終えたのか、めぐり先輩がくるりと振り向いた。
「さ、どうぞ」
「え……」
頬を紅潮させてもじもじしながらも、めぐり先輩が俺に向かって両手を広げた。え、なに、外国式の挨拶?
「あ、えーと……お邪魔します……?」
よく分からないままに。
ぎゅー。
「ふわぁ……っ」
めぐり先輩の招きに応じて立ったまま抱き付くと、耳元で果てしない癒しボイスが聞こえた。
「えーと、先輩?」
「うん」
取り敢えず、今更だけどめぐり先輩の行動の真意を知りたい。
「なんでまたこんな柔らか」
「え」
間違えた。
「何でもないです。なんでまたこんな良い匂い」
「え!?」
間違いの上塗り。
「ほんと何でもないです。えーと……なんでまたこんなことを……?」
聞くと、めぐり先輩が手が俺の頭をぽんぽんと撫でた。自然と身体の力が抜けてめぐり先輩に体重をかけてしまい、二人しておっとっとと後ろに数歩よろめいた。
「すいません」
「いいよいいよ。……比企谷くんが元気ない理由は分からないけど、何とか元気出してほしいなーって……ね?」
めぐり先輩が俺の両頬に手を添えて正面から見つめて、にっこり微笑んだ。
…………。
……………………。
………………………………。
「……将来、毎晩俺をこうしてくれて会社の愚痴を聞いてくれたら、俺は馬車馬の如く働きます」
「えっ、えぇっ!?」
「あ」
癒されすぎて、10年先の未来まで見据えてしまった。
「すいません、何でもないです」
「え、や、えぇっ? ひ、比企谷くん、今のは……」
めぐり先輩の身体がみるみる熱くなっていく。分かりやすいなぁ。俺も超熱いけどね!
「恥ずかし過ぎて死にそうなんで忘れてください」
「そんなに!? ……わ、わたしは別に、それでも……」
「え」
「あ」
「え、先輩、今のは、え?」
「わーっ! なし! 今のはなしなし!」
「なしで良いんで、取り敢えずさっき言った言葉を復唱してもらって良いですか」
「それなしになってないよ!? もー!」
「むぐっ」
めぐり先輩は顔を真っ赤にして大慌てした後、誤魔化すように俺の後頭部を掴んで……自分の胸元に俺の顔をうずめた。ほゆんとした柔らかい感触に一瞬激しく動揺するも、それ以上の安らぎに目がとろんとする。
俺が黙ったことに満足したのか、めぐり先輩が愛おしそうに俺の頭をなでた。その手つきはとても優しい。
「ふふ……よしよし。元気出た?」
「……ふぁい」
変な篭り方をした声になった。
「……もうちょっとこのままでも良いですか」
目だけ上を向けてむぐむぐとお願いすると、めぐり先輩が穏やかに微笑んだ。
「ん、いくらでもどうぞ」
「……ほもです」
「え?」
「どもです」
発音が疎かになって恐ろしい勘違いをされそうになったので、顔を上げてきちんとお礼を言った。
× × ×
そこからしばらく、俺はめぐり先輩に抱き付いたままでいた。
なんかもう、癒されすぎて。
過去のぼっちトラウマが悉く洗い流されて、そう言えば俺結構人気者だった気がするなどという記憶の改竄まで起こりかけて、流石にそれは違うだろとセルフツッコミを入れた。
「ふ~ふふ~♪ ふ~ふふ~♪」
「…………」
立ったままなんだけど、めぐり先輩が俺の頭を撫でながら子守歌を歌ってらっしゃる。
言ってしまえば、今の体勢は俺より背の低いめぐり先輩の胸元に顔をうずめる為に結構シュールな姿勢になっているんだけど、そんなのは気にしない。
めぐり先輩が心地良く揺らしてくれるから、この体勢でも寝れそう。
たまに腰の角度を変えようと顔をもぞもぞ動かすと、
「あっ、んっ、ふあぁっ……? あん……っ、ふふ、もう……っ」
俺が甘えていると思ったのか、めぐり先輩が蕩けるような甘い声を上げた後、より一層愛おしそうに撫でてくれる。
なんだろう、めぐり先輩の頭なでなでサービスをやったら1回1500円くらいとれるんじゃなかろうか。
材木座とかが来たらちゃんと櫻子さんがはめてそうな薄いゴム手袋を着用してなでてもらうようにしよう。
多分摩擦で髪が引っ張られるだろうけどそんなのは気にしない。だって材木座だもの。
「……先輩、そろそろ大丈夫でふ」
まだ籠った発音になった。でふって何だよ。
「……そっか。じゃあ、はい」
めぐり先輩がぱっと俺を離した。少しだけ寂しそうだったのは気のせいだろうか。
俺の顔を下からまじまじと見つめて、うん、と小さく頷く。
「すっかり元気になったみたいだね」
「はい、おかげさまですげぇ柔らかかったし可愛かったです」
「え、ちょ、ちょっと!?」
「すいません、つい本音が出ちゃいました間違えたなんでもないです」
「あぅ……」
いかん、頭がぽけーっとして発言の線引きがゆるゆるになっている。日本語もなんか変だし。
めぐり先輩は両頬に手を当てて顔を真っ赤にしながらあわあわとあっちを向いたりこっちを向いたりしている。
……守りたい、この笑顔。
笑顔じゃねぇけど。
しばらくしてめぐり先輩が平常モードに戻ると、口に手を当ててこほんこほんと咳払いをした。
「それじゃ、また歩こっか」
「はい」
めぐり先輩が自然と差し出した左手を――左手で握った。
「ぐるぐる回っちゃうよ……」
「……すいません」
めぐり先輩が眉根を寄せて、困ったように笑いながらツッコんでくれた。
× × ×
今度はちゃんと手を繋いで、とことこと歩く。結局大股だの早足だのの話は流れて、老夫婦の散歩ばりののんびりとしたペースで歩いていた。
他愛もない雑談をしながら(学校のこととか、本のこととか、マンガのこととか)、景色を眺めていると……めぐり先輩が、俺の手を握る力を僅かに強めた。どうしたのかとめぐり先輩の顔を見ると、繋いだ手をじっと見つめていた。
「……どうしました?」
尋ねると、
「……ちょっとずつで良いから、もっと堂々と手を繋げるようになりたいね」
「あ……」
さっき戸塚と会ったとき、二人揃って手を離したことを思い出した。あの行動は戸塚に限らず、2人の知人であれば誰とでも同じ行動を起こすだろう。
そう思うと、何とも言えないもやもやが胸に立ち込めた。
材木座や川崎大志に会ったら見せつけてやるんだけども。
「……そう、ですね。ちょっとずつ、ゆっくりやってきましょう」
空いた手で頬をぽりぽりと掻きながら、繋いだ手を握り返す。
「……ん、そうだね」
言って、めぐり先輩がそっと寄り添ってきた。
互いの腕がふわりと触れて、心に温かいものが満ちていく。
どうにも俺は、この人のことを相当……あー、恥ずかしい。
顔が熱くなってるのは気のせいだよなと思いながら、しばらくの間、めぐり先輩の顔を見ることが出来ないでいた。
こうして、色々と盛り沢山だった2度目のウォーキングを終えた。
続く。
のんびりのんびり。
35話か……。
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<読書>
①昨日ホーンテッド・キャンパスの最新刊を購入して、自分には珍しく1日で読み終えました。待ちわびていた分もありますが、単純に面白かったのが大きいです。1作ごとにクオリティが上がっていく櫛木先生、半端ないっす。
恋模様が淡すぎて焦れったすぎて可愛すぎて……!あんな風な恋愛も書きたいです。
②バカとテストと召喚獣の1巻を、最初の数ページを読んだところでやめていたのをここ数日ようやく読み進め始めたんですが……するりと入ってくるギャグとラブコメが楽しくて、同じく今日読み終えました。2巻以降も既に何冊か購入しているので、読むのが楽しみです。
今まで小説なんて年に1冊読むかどうかという程度だったのに、この作品を書き始めた頃から急に読むようになったので、世界がぐんぐん広がる感覚が楽しくてしょうがないです。ラノベ(ざっくりした括りですが)とミステリーとホラーと官能小説と……ああもう楽しい。
それでは、また明日ここでお会いしましょう(^^)!
今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!