※この作品はR-18です。

俺ガイル 日常の何気ないエロス。   作:高橋徹

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雪ノ下陽乃の傍にいると、意外と見えてくるものもある。
(1)


 冬のある日。

 部活(という名の読書&ティータイム)を終えた後、足早に行きつけの大型書店へ向かった。

 愛読しているラノベのシリーズ最新刊が発売する日であったため、新刊コーナーでそれを見付けると速攻で手に取り購入。

 書店を出て、寒風吹き荒ぶ中コートのポケットに手を突っ込むと、それと同時に身体がぶるりと震えた。

「さて……」

 明日は休日ということもあり、ある程度ゆっくり出来る。

 そんな浮かれ気分と新刊を早く読みたい気持ちとで、帰る前にさわりだけでも読んでおこうと思い帰り道でカフェに寄った。

 さわりだけと言っても、そのまま勢いで半分、もはや全部……と読んでしまいそうで怖いけど。しかもその場合集中しすぎて小町に連絡を忘れるから、後でこってり絞られる。中学生の妹にがっつり怒られる高校生の兄というのもいとをかし。……やっぱり、いとすさまじ。

 カフェで適当に食べ物とコーヒーを頼み、甘々にする為にガムシロップをいくつかトレイに乗せ、くつろげる場所を探す。

 店内はあまり混んでおらず、空いた2人用のテーブル席を視界の奥に見付けることが出来た。

 片方はソファになっている席で、テーブルにトレイを乗せると、そこにもふっと腰を下ろす。はー極楽だにゃー。

 コーヒーにガムシロップをがんがん投入し、これが角砂糖ならなんかLっぽいなあとか若干懐かしい事を思いながら本を取り出そうとすると、隣で本を読んでいたお姉さんがこちらを向いたのが視界の端に見えた。

 ……んん?

「ありゃ、比企谷くんだ。ひゃっはろー」

 …………。

 聞き慣れた声にげんなりして振り向くと、ソファに座って同じく本を読んでいる陽乃さんがいた。

 立ち襟の白ブラウスに赤のカーディガン、上品さが漂うロングスカートを身に纏っていて、小洒落たカフェの中でも一際存在感を放っている。

 ……俺、この人とのエンカウント率高すぎない? ゲーム序盤の草原でがんがん魔王が出てくる感じ。何それ一生引きこもりたい。

「……あ、ども」

 うわー会っちゃったー感を出さないよう気を付けながら軽く会釈をして、流れるように再び本に視線を落とす。

 なんでこのタイミングで……せっかくの新刊を楽しむ時間が……。ううむ、これはさっさとコーヒーを飲んで退散するか……。

 などと心の中で嘆いていると、不意にソファの真横の部分がもふっと沈み込んだ。

「うお……っ?」

 不自然なまでにソファが沈み込んだ為に右側によろけ、次の瞬間柔らかくて良い匂いがするものに顔が包まれた。

 え。

「あらあら、比企谷くんったらだいたーん」

 心のこもっていない声が頭上からして、状況を把握した。

 俺は陽乃さんの胸にうずまり、左手で顔を固定され、ばっちりその豊満なお胸様の中で休らぐ形になっていた。

「……………………っ」

 ……いや、この人何してくれちゃってるのん?

 一瞬思考が停止したが、すぐさま顔を仰け反らせ離れる。陽乃さんが左手に力を入れてたら、首がぐきって言ったかもしれない。

「あん、そんなにすぐ離れなくてもいいのにー」

 陽乃さんが無邪気にくすくすと笑う。相変わらずなんなんだこの人は……超良い匂いだし……。陽乃さんの身体が一瞬震えているように見えたが、次の瞬間には止まっていたので気のせいなのかどうか分からなかった。

 俺の警戒心ばりばりの顔を見て、陽乃さんが底冷えのするような笑みを浮かべる。

「比企谷くんはずーっとわたしのこと怖がってるよね」

「…………っ」

 喉元を禍々しい手で押さえられたような感覚。

 口調は軽いし表情もにこやかだ。けれど、目が全く笑っていない。

 恐れで手が震え出すのではないかと思いながら、ちらりと陽乃さんを見やる。

「そうですね、雪ノ下さんは底知れない怖さがあるんで」

「ふーん、きみはわたしに恐怖を感じた時、具体的にどんな風にわたしのことを捉えるの?」

 陽乃さんに質問(詰問)されて、うーんと考える。

 …………。

 少し間を置いて。

「……心臓に悪いなこの人、って思います」

 答えた瞬間、陽乃さんは一瞬目を見開いて、

「あっははははははっ!」

「……え……」

 まさかの大爆笑。

 陽乃さんの突然の爆笑に戸惑っていると、けらけらと笑いながら俺の頬をぷにぷにと突いてきた。ついでに腕に抱きついてきた。近い近い近い柔らかい近いいい匂いもっとしてくださ間違えたやめてやめて!

「あーお腹痛い。もー最高! 比企谷くんは正直で良いよねー。……でもわたしとしては、比企谷くんでもっと遊びたいから、もうちょっとくらいその抵抗を減らしてもらって仲良くなりたいなって思ってるんだよね」

 ……比企谷くん「で」ってはっきり言っちゃったよこの人……。

 絡められた腕を外そうともぞもぞしながら(そのもぞもぞに合わせて、更に指やらなんやらを絡めてくる。なに、この人前世はクラ―ケンかなにかなの?)、何と言ったものか考える。変なとこは触らないように注意せねば……。

 答えあぐねていると、陽乃さんは言葉を続ける。

「その怖さ、ってさ。仮にわたしが『今までこうこうこう言うことがあって、その度にこうこうこう言う風に考えながら生きてきた結果、こうなりました』なんて全部余す事無く説明したところで、君の中で和らぐものではないよね」

「そう……ですね」

 確かに、それもそうだ。

 俺は、率直に、この人が怖い。

 その理由を、仮に余すことなく聞いたところで、その恐怖が目減りする訳ではないのだ。

 貞子や伽耶子が怨念を残すに至った経緯を知ったところで、テレビ画面から出てくる貞子が、天井裏から這い出てくる伽耶子が、怖くなくなる訳ではない。いや、むしろ尚更怖くなるかもしれない。

 だから、これから先どれだけこの人のことを知ろうとも、その恐怖が根本的に無くなることはないのだろう。

 ――だからね、と。

 俺が考えてることなどお見通しなのか、陽乃さんは言葉を繋ぐ。

「わたしに抱く恐怖を和らげるには、単純に上塗りしてあげたら良いと思うんだ」

「あー……なるほど」

 割とすんなりと腑に落ちた。

 確かに、下手に恐怖を抱く対象ばかり睨んでうんうん考えるよりも、そのやり方の方がよっぽど効率的な気がする。

 ……って、なんか……いつの間にか、俺が陽乃さんへの苦手意識を克服する流れになってる……?

 これは抵抗しないと何か取り返しのつかない事態に至るのではと危惧を抱いていたのだが(嫌いな食べ物を克服するのとは訳が違う。嫌な予感しかしない)、陽乃さんは気にせずに話を続ける。

 人差し指をぴこんと立てて、一言。

「例えば、素の私を見せる――とかね」

「……それは、例えばどういうことですか?」

 訝しみの目を向けると、陽乃さんがふっと微笑む。

 そしてこほんと咳払いをして息を整えると、穏やかな目で俺を見つめる。

「笑顔」

 言うと、陽乃さんがにこっと笑った。

「う……お……」

 固まってしまった。

 笑顔自体は陽乃さんは意図的に作ったものなのは間違いない。

 だけれどその笑顔には何も含みがなく、今この場にいることを心から楽しんでいるような、幸せな表情をしている。

 陽乃さんの初めて見る本気(であろう)の笑顔に、心臓を撃ち抜かれたような感覚を覚えて、鼓動がどんどん速まっていく。

 心臓を労わって胸に手を当てていると、陽乃さんがふっと表情を緩めた。

「……どう? そうそう見れるもんじゃないよー? わたしの本気スマイル」

 そう言ってにっこり微笑む陽乃さんの表情もまた、陰の無い素敵な笑顔だった。

 顔が熱い。なにこれ、超熱い。なにこれ!

「や、その……良いと思います」

 あっれー? 陽乃さんってこんなに……あっれー?

 元々半端ない美人なのは分かってたけど、そのどきどきも今まで怖さで中和されてたのに……。

 ……あ、これあかんやつや。

 だめだぞ、俺。ちょろすぎるぞ。今ものすごく現在進行形で陽乃さんに弄ばれてるぞ。勘違い、ダメ、絶対。ちょろ谷、ダメ、絶対!

 陽乃さんは俺の感想を聞いて、満足げにうんうんと頷く。

 そして、俺に顔を急に近づけて、いたずらっぽく目を細める。

「よしよし、順調だね。こうやって丁寧に逢瀬を重ねていけば、比企谷くんもきっと誠実なわたしに心を許してくれるはずだ!」

 逢瀬って言うな、逢瀬って。素敵じゃねえか。あと誠実って言うな、戸塚に謝って!

「や、俺そんなちょろくないんで……」

「えー? 今結構ときめいてたでしょー? ほれほれ!」

「ちょっ……」

 やめてやめて、頬を指でぐりぐりしないで! あと身体の色んな部分をくっつけてこないで!

「うーん……」

 陽乃さんが俺の頬をぐりぐりし続けながら、ふと何か考えるように唸る。

「やっぱり雪乃ちゃんのものにするにはもったいないかなー……」

 何かすごい恐いこと言ってる。なんか凄い怖い事いってる!

 冷や汗をだらだら流していると、陽乃さんは更に恐ろしい事を言ってのける。

「よーし、比企谷くん、わたし暇だか……忙しい合間を縫って、これから毎日お姉さんが遊んであげよう!」

「今暇だからって言いかけましたよね?」

 9割5分言ってからの言い直しとか、悪意しか感じないんだけど。

 ていうか、え? 毎日? はい?

「あはは、君のそういう、細かい所をちゃんとツッコむとこ好きだよー」

 俺のツッコミを笑って聞き流し、肩をばんばんと叩いてくる。

「や、あんまり触らな――」

 ――いでください、と、まるで乙女のようなセリフを言いかけた所で、不意に陽乃さんが俺の後頭部に腕を回してそのまま耳に手を添えて俺の首をロックして、もう片方の腕を腰の前面に回した。隣にいる陽乃さんに、前後から上半身をがっちり拘束される。

「いいからいいから。君が気張ってもアレだから、遊びに行くとしても行き慣れた場所にするよ? 大丈夫大丈夫、お姉さんに全て委ねて良いから。……ぜーんぶ委ねちゃいなよ、楽になるよ?」

「~~~~~~~~っ」

 今のセリフの状況説明。

 陽乃さんの身体が思い切り密着していて、俺の右肩に豊満な双丘が押し当てられた状態で、耳元で甘ったるい声で囁かれた。心地良い陶酔感のする声に、思わず本当に身を委ねてしまいそうになる。

「…………」

 下をちらり。

 ……あかん、下半身が変な感じになってる。

 俺の動揺などお見通しなようで、陽乃さんは視線を下に滑らせると、くすりと笑う。

「ふふ、なあに? 身体は正直だねえ比企谷くん。性格はひねくれてても、健康な男子高校生だもんねえ」

「…………っ」

 死にたい。

 制服のズボン越しでもはっきりと分かる山を見られた。しかも陽乃さんに。

 あゝ、死にたい。書き方を変えたら無駄にそれっぽくなった。

 羞恥心で今すぐ天岩戸に潜りたい欲求に塗りたくられた俺に、陽乃さんからとどめのお言葉。

「明日からたっぷり比企谷くんと遊んで、比企谷くんがわたしにちょっとは心を許して、わたしも比企谷くんのこと良いなー、可愛いなーって改めて思ったら……そういうこと、してあげてもいいよ?」

「え」

 え!?

 なに!?

 そういうことって、どういうこと!?

 いかん、俺がこういう感じになった時に冷たい目でツッコミをしてくれる素敵な女の子たち及び天使な妹が居ないから、煩悩が暴走する!

 心の中でどんちゃん騒ぎ(町内の盆踊り大会くらい)をしていると、陽乃さんからとどめに次ぐとどめのお言葉。

「ちなみに、『そういうこと』っていうのは……君が想像してる事と多分一致してるし、それ以上の事も含まれてるからね」

「え」

 はーん!?

 それ以上ってなに!?

 はーん!?

 心の中でどんちゃん騒ぎ(ねぶた祭りくらい)をしていると、陽乃さんがぱっと離れた。

「あ……」

 長い時間味わった柔らかい感触が消えて、ほんの少しばかり名残惜しくて思わず声が――

「今、ちょっと名残惜しく思ったでしょ?」

「……………………そんな事は」

 ばれてた。

 もうあかん。

 助けて。

 恥ずかし過ぎて頭を抱えていると、陽乃さんがその様子を見てけらけらと笑う。ほんと楽しそうだなこの人……くっそ……。笑いながらも、微かに震えているように見えたのは気のせいだろうか。

 陽乃さんは本をしまってトレイを持って立ち上がり、俺の正面に来ておだやかな瞳で見下ろす。その瞳はただ優しく、胸が高鳴る。

「色々すごいこと言ってみたけどね、わたし、比企谷くんで遊ぶのが楽しいのは本当だよ? ……明日から、よろしくね」

「…………っ」

 いやいやいやいや。

 ずるいでしょ。それはずるいでしょ。え、なんなの? ギャップで籠絡的な?

 相変わらず比企谷くん「で」って言ってるのに! 明日から毎日遊ぶことなんて一切了承してないのに!

 何その純粋な感情の吐露は!? 純粋なんだよね!? もう訳分かんないんですけど!

 顔が物凄い勢いで熱くなるのを感じていると、陽乃さんがにひっと笑った。

「うん、うん。比企谷くんも、わたしの手にかかれば結構ちょろいね!」

「……っ!」

 ぴたっと止まった。

「じゃあね比企谷くん、また明日~」

「え、あ、ちょっと……」

 行ってしまった。

「…………」

 …………。

 …………ぬあああああぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!

 陽乃さんが視界から消えると、他の客が周りに居ないのを確認して、ソファの上で悶え転がる。

 なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ!?

 俺、短時間でどんだけ転がされてんの!? 掌の上で踊らされるにも程があるだろ! 恥ずかしい! 死ぬ! わー! きゃー! わー!

 うぐぐと小さく唸っていると、視界の端に何かが映る。

「……え」

 顔を上げると、もう去ったと思った陽乃さんが角から顔だけ覗かせて、口に手を当てて面白そうにこちらを見ていた。

 ……今の、見られた?

「…………………………………………」

 …………………………………………。

 恥ずかしさの限界を越えて、もはや声が出ない。

 そんな俺の様子を見て、陽乃さんはにやっと微笑みながら投げキッスをして、手をひらひらと振って今度こそ去った。何も言わずに。文面だと「~~♪」って感じ。

「……………………」

 ……………………。

 この夜、自室のベッドで布団にくるまりながら「恥ずかしいよーーーーー!」と叫んだ。小町にすげえ勢いで壁ドンされた。ご、ごめんなさい……。

 ……明日からの日々が、尋常でないレベルで不安になった。

 

 

 

 続く。




は  る  の  ん  。

ってな訳で、はるのん編開始です。もうなんか書き始めないといつまで経っても書けないなと思いました。今数えたら、現在進行中のエピソード(ゆきのん、ガハマさん、いろはす、めぐりん、小町)の合計話数が90話っていう。終わらねえええええかといって無理に終わらせたくねええええ って感じなので、取り敢えずスタートさせましたよという旨を。

ここで描くはるのんに関して先に言っておきます。
原作の闇深さに追及すると確実にこけるので(俺ガイル登場人物の中で、最も二次創作で火傷しそうなキャラだと思ってます)、「美人」「お姉さん」「巨乳」「頭が良い」「教養深い」「超絶腹黒」という面を抽出して書こうと思っています。
彼女の「らしさ」は大事にしたいので、この先書いていく上で、どんどん「あ、これってはるのんぽいかも」みたいな面が出せて行けたらなと。
「あ、このセリフとか動き、はるのんぽいな」と思いましたらぜひご感想などで書いて頂けるとありがたいです!非エロ・エロ問わずで!

はるのん編に関しては、甘さよりも妖しさが目立つと思います。それも物凄く。甘さが出せそうになったらその時は頑張ります。


閑話休題。
なんやかんやで今週20冊くらい本を買ってしまったので、元々買っていたものを含めてひたすら読みまくろうと思います。

昨日で70年か……。


それでは、また明日ここでお会いしましょう(^^)!
今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!
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