動き出した電車と一緒に、鼓動も速まっていく。
どきどき☆淫猥電車の旅、スタート!
無理だ。どんなテンションでタイトルコールしたってテンションなんて上がらない。というより落ち着かない。
陽乃さんと繋がれた手を見ると、いつの間にか恋人繋ぎになっていた。道理でやたらと手が気持ち良い訳だ……じゃなくて。
……この人、本気で何考えてんだ? まったく……。
乗り込む際の簡略過ぎる説明に対する抗議の意も込めて、陽乃さんにジト目を送る。
電車に乗り合わせた人たちの視線は、街中と比べるとそこまで直接的でないものの、それでもやはりちらりちらりと陽乃さんの下へ向けられていた。これだけ綺麗な人だと、もはや痴漢さえ気後れしそうな気がする。まあ、勇気を出して痴漢をした場合のその後は想像したくもないけど。なんで陽乃さん今手をにぎにぎしたの?
視線と言うものは好奇にしろ嫌悪にしろ、肌に刺さるものだろうに。こんな視線慣れたもので何ともないとでも言うように、陽乃さんは涼しげな顔で窓の外の景色を眺めている。なんで陽乃さんまた手をにぎにぎしたの? ちょっとやめて! もうちょいされたら本当に変な反応しちゃうから!
「…………」
電車が動き出してから、陽乃さんは一言も喋っていない。憂いを湛えた目で窓の外を眺めるその光景は、あまりにも絵になる。こんな感想を考えてる間も手をにぎにぎするのさえやめてくれればなぁ。
――ふと、陽乃さんの表情を見て、考える。
陽乃さんが言っていたように、彼女の事情を全部漏れなく聞いた所で、今の彼女を理解出来る訳では決して無い。
でも……それでも。
もう少しくらい、彼女の遊びに付き合っても良いかな……なんて考えていると、陽乃さんがふっとため息を吐いた。この完璧美人のため息はなんでこんなにも、ドラマの女優と並んでも遜色無い程に様になるのか。
物憂げになる理由はなんだろうか、聞いても良いのか、聞いても仕方ないか等と逡巡していると、陽乃さんがこちらへくるりと振り返る。正面から向かい合う形になった。
「……ここで出しちゃうのは流石にまずいよねぇ」
前言撤回。
あんたは雪原の青か。いいえ魔王でしたね。
「……絶対ダメですよ」
ジト目を向けながら言うと、陽乃さんがうーんと首を傾げる。なんかわがままな妹キャラみたい。あくまでキャラな。
「じゃあキスは……」
あぶねぇ。
噴くとこだった。鼻血ではない。
「……声抑えてください」
こんな会話、誰にも聞かれたくない。もっと言えば二人きりでもしたくないけど。
俺の返しを聞いて、陽乃さんが更にむむむと唸る。
「ん、じゃあ声を抑えてのキスなら良いの?」
「――っ!?」
甘えたように、拗ねたように唇を尖らせながら、空いた手をそっとへその辺りに置いてきた。
「ちょ、ちょっと……っ、だめです、声を抑えてのキスもダメです」
心臓がばくばくするのを感じながら、へそに置かれた方の手首を掴むと、手首の先の指がまるで別の生き物のように艶めかしく蠢いた。あかん、これだけで勃起する。
両手が塞がった状態で、陽乃さんはふてくされた表情を浮かべる。
「なになに~、日本の電車は倫理観が厳しいの?」
「や、なによくラブコメにいがちなスキンシップ過剰な外国人美人キャラみたいな体で話してんすか」
ツッコむと一瞬陽乃さんはきょとんとした顔になり、その後くすくすと笑った。その微笑みには作ったものは感じなくて……って、んん?
……そう言えば、一昨日から陽乃さんと接してるけど、仮面を被った感じがあんまり無いような……?
なんでだろうかと疑問に思っていると、陽乃さんが俺のツッコミについてまだ考えていたようで、その点にふと触れてきた。
「何気に『美人』キャラって言う辺り、あざといねぇ比企谷くん」
そこかよ。
「や、まあ、事実を言ったまでなんで」
「やだもう。嬉しくて抱き付いちゃうぞ?」
「なんすかその脅迫……。色々まずいんで勘弁してください」
陽乃さんが目をぱちくりとした後、薄い笑みを浮かべる。
「ん、もう勃ってるんだから別に良いんじゃない?」
「え」
そろりと視線を下に。
「…………ええと、それでも勘弁してください」
めっちゃテント張ってた。
死にてぇ。
× × ×
「ん、混んできたね」
「そう、です……ね……」
電車に揺られて数駅程通過すると、徐々に車内も混み合ってきた。なんで腰の両側に手を添えられてんのかは考えない。なんでたまにさわさわと指を動かしてにこにこと俺の反応を見てくるのかも考えない。
や、もう。
本当にこの状況は、まずい。
向かい合った状態で、陽乃さんが壁を背にしていて、俺は片手を吊り革に、もう片手は所在無げにポケットの中をもぞもぞしている。
時折陽乃さんが「ん……」と甘い吐息を耳元で漏らして、ポケットの中に手を突っ込んで、俺の手に指を絡ませながら身を委ねてくる。ああだめだこれ。今日の夜は絶対、今のこの場面を思い出して抜いておこう。じゃないと身体が持たん。
どんな良いシャンプーを使えば、こんな馥郁たる香りを纏うことが出来るのか。鳩尾の辺りに断続的にもにゅもにゅと押し当てられる双丘の感触は、大量の血液を下腹部に送り込んでしまう。
……そして何より……。
「んっ……ふっ、んんっ、あっ、んふぅっ……」
「…………」
たすけてー。
俺の胸板に顔を押し付けながら、小さい声で喘いでるような気がするんですけど気のせいですか。周りの人には聞こえない音量で、しかも俺は胸にその甘い声が直接響くので、正直もう頭がおかしくなりそう。
「ゆ、雪ノ下さん、ちょっと……っ」
抗議の意を込めて小声で話しかけると、熱っぽい目で見つめてきた。
「ん、なぁに、キスしたくなった?」
何この凶悪に可愛い生き物。押し倒してやろうか。社会的その他あらゆる意味で死ぬのでやめておきます。
「んな訳ないでしょう。ていうか大丈夫ですか? このままで」
「ん、どう言う事?」
「だって、赤の他人と触れ合うなんて、雪ノ下さんの、その……体質的に、まずくないですか?」
言うと、一瞬目をぱちくりとさせ、やがてにこーっと笑った。
「ん、良いとこ突くねぇ。そうなんだー、だからわたし、あんまり電車乗らないんだよね」
あの豪華なリムジンで送迎? まさかね。
「や、だから、それならなんでこんな……」
しどろもどろに喋ると、雪ノ下さんがふっと目を細める。
「だから、こんな状況ならわたしが赤の他人に触れてひどく神経を害するか、君がわたしを守るかの二択になるじゃない? それで君なら守るって選択肢を選ぶはず。守るって選択肢を取るとしたら、『他の奴に触れられるくらいなら~!』って熱血な感じでわたしの事を抱きしめてくれるかなって思ったの。どう? このアイディア」
「……んな……っ」
驚きと呆れで声も出ない。
この人、俺で遊ぶ為にどれだけ……!
返事を練られずにいると、陽乃さんが再びにこーっと笑った。
「さ、楽しみにしてるぞ、少年!」
「…………っ」
…………。
……不安しかねえんだけど。
電車は相変わらず外のビル街を映しているが、俺は意識はそのほとんどが目の前の陽乃さんに向いていて、たたんたたんと言う電車の音も、どこか遠くの世界の物音に聞こえた。
続く。
なんやかんやではるのん書いてまう……。
現在のエロ分布図
エロ:ゆきのん、ガハマさん、いろはす
微エロ:はるのん
非エロ:めぐりん
今までのエピソードの展開(何話くらいでどんな関係になったか)を考えると、めぐりんのピュアさが異常な事に気付きました。非エロのところまで独立した作品で掲載しておいて、良い所で「続きは俺ガイル 日常の何気ないエロス。で!」とか言えば良いですかね。はいサイテー。
感想で続々と居住地の報告を頂いております。ありがとうございます。何気に北海道勢が力を増しています。
感想欄で「更新心待ち。略して小町。」と書いている方がいらっしゃってめっちゃツボったので、感想で何書いたら良いか分かんないやーと言う方は取り敢えず小町と書いてみてください。字数が足りないので小町連呼という地獄絵図になる可能性あり。
それでは、また明日ここでお会いしましょう(^^)!
今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!