このままそれとなく電車が空いていったら、どんなに良かっただろうかと思う。
しかし、今目の前にいる美し過ぎる魔王、雪ノ下陽乃に遊ばれているこの状況下で、そんな俺に都合の良い展開など待っている訳が無かった。
「……もうちょっと詰めますか」
「そうだねー、ふふ」
――はい、順調に混んでます。順調にピンチに陥ってます。
何この人、まさかこの路線の今の時間帯の混み具合とか把握してんの? 混んでくるペースは緩慢で、良~い感じで俺の神経をさりさりと削ってくる。泣きそう。
絶望している俺の様子を見て、陽乃さんがそれはそれは楽しそうに笑った。お楽しみ頂けているようで何よりです……くっそ……!
「ふふ、順調に二人の距離が縮まってるねぇ」
「90年代のドラマ展開の説明みたいな実況は止めてください。物理的な距離は確かに縮まってますけど」
「この状況でもツッコむとかやるねー。うりうり」
「ちょ、ちょっと、脇腹突っつくのやめてくださいって、ちょっと――」
「……えいっ」
「……~~~~~~っ!?」
あっぶねえ!
めっちゃ変な声出るとこだった!
何でこの人、可愛く脇腹を突っついた後に急に手を下げてったの!? 腰から更にちょっとだけ下げたよね!? やばいとこまで下げかけたよね!?
すーはーと静かに深く呼吸をして、陽乃さんにジト目を向ける。
「……雪ノ下さん、いい加減に」
「えいっ」
「~~~~~~っ」
だあぁぁっ! なんで2連続!? しかもなんで今度は手のひらを上に向けてついっと撫でながら手を離したの!?
ぬぐぐと唸っていると、陽乃さんがあまりにわざとらしく、あざとく、そして凶悪なまでの可愛さを纏って頬を膨らませた。
「……だって、比企谷くん、触ってくれないんだもん」
「なんすかそのビッチ発言」
「『比企谷くん専用ビッチ』とか、どう? 響きエロくない?」
「すげぇやばい気分になるんでやめてください」
「じゃあ、キスしてもいい?」
「キムチでもいい?」
「え?」
「なんでもないです」
突然の花澤・東山ペア。なんで声優で言ったんだ俺。しかしはぐらかすには最適だった。だってキムチだぞ?
しかし、多少のはぐらかし程度で魔王の猛攻が止む訳もなく。
「比企谷くん、本当は触りたいんでしょ? ほれほれ~、触りなよ~」
「やめてくださいやめてください。そんなことじゃ俺という巨大な牙城は崩せ――」
「比企谷くんが触ってくれないんだったら……わたしが触っちゃうよ?」
「え――」
心臓が一瞬止まるかと思った。
そのとんでもない発言に口をぱくぱくさせていると、電車が止まり、ドアが開いた。
そう言えば、この電車旅のゴールが決まってないってことは、この責め苦のゴールも決まってないんだよな――と今更ながらに気付き、どくんと心臓が跳ねた。
× × ×
どかどかどか――と聞き慣れない大きな足音と共に、大勢の外国人が入ってきた。妙ににぎやかで、今から皆でどこかを回るのだろうか、聞き慣れない言語で楽しそうに会話していて、会話の端々に聞き覚えのある地名や建物の名前が聞こえる。この路線でこういう人たちを見かけるのは珍しい。
――この、予期せぬ外国人観光客の乗車の影響は大きかった。みんな体格ががっしりしていて、一人一人が占めるスペースも大きい。
……となると、自然と……。
「うおっ!?」
「おっとー」
俺は慌ててしまい、陽乃さんは呑気な声を出す。
何もしていなくても、俺の鼻が陽乃さんの髪の毛の香りをがっつり嗅いでしまう程近付いていた。こう言うと俺、変態みたいだな。一切間違ってねぇけど。
……ていうか、このままだと……。
「比企谷くん、そろそろ触らないでいるのは限界があるんじゃない?」
わくわくした顔で、嬉しそうに陽乃さんが言う。
俺の手は現在、両手で1つの吊り革にぶら下がっている状態。陽乃さんからくっついてくる時以外は極力彼女の身体に触れないようにしていた。
しかしそんな抵抗も虚しく、限界は刻一刻と近付いてきていた。
これ以上車内の密度が増したら――と危惧していると、次の駅に着いて電車のドアが開く。さあ、どう転ぶ……と神にすがるような気持ちで目を閉じると、次の瞬間ぎゅむっと背中が押された。
「うおっ――とぉっ」
「んっ……?」
不本意ながら。
吊り革に掴まっていられる位置から更に前方に押された為、結果として陽乃さんの顔の両脇に手を付く形となった。所謂壁ドンである。しかも両手バージョン。
「おお~……比企谷くん、やるねぇ。そんなにわたしのこと落としたいの?」
死にてぇ。
なんでこの人、この状況ですんごい嬉しそうににひっと笑ってんの? すげぇ可愛いからやめてほしい。
「全然そういうんじゃないんで。神様が俺にこういう体勢をとれと言ってるんですよ」
「比企谷くん、神様とか信じてなさそうだよね」
「何言ってんですか、いざという時に都合良く助けてくれる可能性を少しでも上げておこうと、毎年きちんと初詣に行ってますよ」
「で、ここから比企谷くんはわたしにどんな風にアプローチしてくれるのかな?」
「…………や、その、えっと……」
たすけてー。話を逸らせないよー。
この状態の何がやばいって、通常の壁ドン(通常ってなんだ)なら腕をきっちりと伸ばして壁に手を付けて、顔がずいっと近付けるような流れをとるのだろうが、今は背中にかかる圧力の関係上、止むを得ない状況で行っている。
そんな状況のため、ほとんど腕立て状態なのである。
より具体的に言うと、俺が少し下を向いて、陽乃さんが少し顔を上げれば、簡単に唇と唇が触れ合う。
少しでも気を抜くと簡単に押されて、陽乃さんに密着してしまう。そのため必死にこらえてぷるぷるしていると、つっと陽乃さんの手がコート越しに胸に触れた。
「……ゆ、雪ノ下さん? 何を……」
「…………」
陽乃さんが、俺のコートのボタンを1つ1つ外している。上からは俯き気味の陽乃さんの顔は見えない。何も抵抗出来ずにただ茫然とその様子を眺めていると、全てのボタンを外し終えて、前面をぱらりと開けた。
「……何をって……い・た・ず・ら」
「……~~~~っ」
胸におでこを押し当てて、まるで心臓に直接響かせるように囁く。
……非常にまずい。
もう、ジーンズは痛い程張ってしまっているというのに。
× × ×
「あっ……うっ、あぁっ、やめ、やめてくだ……さい……っ」
陽乃さんの責めは、想像以上に大胆だった。
コートを開けたその中に腕を伸ばし、コートの内側で俺をぎゅっと抱きしめる。グラマラスな肢体が密着して、甘い匂いと共に信じられない程柔らかい感覚が身体の前面を襲った。
そして今現在、首に幾度となく息を吹きつけている。熱い吐息に理性がじりじりと焼かれていく。
「ふふ……可愛い声出しちゃって……ほぅら、もっと気持ち良くなぁれ~……」
陽乃さんのいたずら心たっぷりの声がしたと思うと、その次の瞬間――
「……ちゅっ」
「!?」
首に、柔らかくて熱い感触がした。焦って下を見ると、既に唇を離していた陽乃さんがぺろっと舌を出している。
「いきなり唇同士はハードルが高いみたいだったから、こっちにしてみたよ? どう?」
なにこの鬼みたいな質問。「はい! 超気持ち良いです!」とか言えば良いの?
「や、その……」
目を逸らして口ごもると、陽乃さんがむむむと唸った。
「なぁに、これじゃ足りないの? しょうがないなー」
この人頭おかしいんじゃないのか。
や、何言ってんですか……と、ツッコもうとすると。
それより先に、同じ場所に再び唇を押し当てられた。
しかも今度は、それで終わらない。
「ちゅっ……ちゅぴっ、ちゅぱっ、ちゅりゅ、ちゅぷ、ちゅぷぷ……んはっ、ちゅっ、ちゅっ、ちゅぷぷ……」
「~~~~~~~~っ」
言葉に出来ない。
陽乃さんは俺にだけ聞こえる程度の音量で、いやらしい水音をねちっこく奏でる。その淫猥なメロディーが耳朶を打ち、下半身を熱くする。
舌でなぞり、つつき、何度も吸い付いてきて、まるで「これはわたしのモノだ」と主張する為のマーキングを行っているかのようだ。
俺は陽乃さんを引き離す事よりも、恥ずかしさにより周りにバレたくないという意識が先立って、行動を起こした。
俺たちが居るのは、壁際は壁際でも車両の端なので、隠しようはまだある。
俺は壁に付いた手を片方だけ離して、その手でコートを掴んで陽乃さんの姿を隠した。
片側が壁になっていて、陽乃さんは俺よりも身長は小さいので、こうすれば見てくれは不自然でも陽乃さんの顔を隠すことが出来る。
――よし、これなら大丈夫――
ほっと仮初めの安心に浸っていると、陽乃さんが唇を離した。
「……んはぁっ、ふっ、ふっ……ふぅっ。なぁに、比企谷くん、わたしが他の人の目に触れないように庇ってくれてるの? それとも……誰にも邪魔されずに、わたしにいたずらされたいの?
「……っ」
ぶるりと震え、喉を鳴らす。
陽乃さんの言葉により、自分の行動に意図していない意図を見付けてしまったようで、急に顔が熱くなる。
「……まだまだ、いっぱいしてあげる」
囁かれた魔性の言葉で、身体中の血流がぎゅんと加速する。
俺はまだ、この電車旅のゴールを聞いていない――。
続く。
書き溜めしていたはるのんの分を投稿しました。キムチキムチ。
ちょっと最近疲れ気味で、読書ペースも落ちているしエロシーンを書く時に少し前は考えていた「新しい表現を2~3つ取り入れる」という事も意識出来ないでいます。無意識に書いている場合もあるんでしょうが。今日はきちんと休んで、とびきりエロかったり可愛かったり笑えたりする文をきちんと書けるよう頑張ります。成長していく方が書いていて楽しいですし!
リクエスト、引き続き活動報告の方で受け付けています。期限は無いので、いつでもご自由にどうぞ(^^)!
平日も終わりですね。今週も皆さんお疲れ様でした!明日も何かある人は頑張ってくださいませ!!
それでは、また明日もここでお会いしましょう(^^)!
今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!