食事の前の手洗いって、こんなにハードな行程だっけな。
そんなことを思いながら、陽乃さんと手を繋いで部屋に戻る。
「んむっ?」
部屋に入ってドアを閉めるなり、陽乃さんが身体の向きをくるりと変えて口付けをしてきた。陽乃さんの唇のぷるんとした心地良い感触にほんの一瞬浸ると、陽乃さんはすぐに唇を離してクッションの上に座り込んだ。
「…………」
今さっきまで陽乃さんの唇と交わっていた自分の唇をもぞもぞと動かす。妙に寂しい。この人、手口が巧妙すぎるでしょ……。ほら、笑ってる! 俺のリアクションを見て笑ってるよこの人!
俺の忌々し気な視線など歯牙にもかけずにテーブルの上を眺めてから、陽乃さんはぱっと俺に顔を向けた。
「さ、ご飯食べよ?」
「…………」
「比企谷くん?」
「え、あ、すいません。そうですね」
……言えない。クッションの上で綺麗な正座をしている陽乃さんのスカートから伸びる足があまりに美しくて目を奪われてたなんて。ましてスカートが短い分、これはもしかしたら何かの拍子にさっき見ることが叶わなかったスカートの奥が見えるのではなどと思っていただなんて言えない。言えないよ……。
「あ、ちなみにスカートの中身って案外見えないからね」
「あれ!?」
なんかすんごいナチュラルに心を読まれた!? あれ!?
動揺しながら陽乃さんの隣に腰を下ろす。何でバレたのかと悶々としながら胡座をかくと、太ももに陽乃さんの手がそっと触れた。
「比企谷くん」
「は、はひっ、なんでしょう」
にっこり笑顔が怖すぎて、久しぶりに裏返った。陽乃さんは俺の返事にくすりと微笑んで、もう片方の手を自身の太ももに置く。
「わたしの足、見すぎだよ」
「……すいません」
超バレてた。死にてえ。
「あと、スカートと足の境目を見すぎだね。『その中を見せてくださーい!』って顔に書いてあったよ。それはもうはっきりと」
「……はっきりとですか……」
もはや軽やかに死にてえ。
小町のご飯を目の前にしながら絶望に沈んでいると、陽乃さんが俺を見てけらけらと笑う。くっそ、楽しそうでほんと腹立つしやたら可愛い……!
「それじゃ、ご飯食べよっか。ご飯食べてる途中もしくはその後でスカートの中見せてあげるね」
「え」
「いただきます」
「え」
「ほら、比企谷くんもちゃんと言わないと」
「え、あ、いただきます」
「ん、よし」
なんかすんごい爆弾を放り込まれた状態で、陽乃さんとの食事が始まった。
× × ×
「…………………………………………………………」
陽乃さんから放り込まれた爆弾により。
「…………………………………………………………」
気も、そぞろ。
「…………………………………………………………」
そぞろそぞろ、大そぞろ。
「ん、美味しいね」
「……ですね。…………………………………………」
「小町ちゃん、ほんと可愛いし家事も出来るし……良い義妹を持てて幸せだなぁ」
「……………………」
「今度小町ちゃんと遊び行こうかな。そこで比企谷くんの弱点とか色々聞いちゃおっと」
「……家事が出来ることをいつの間に把握してたんですか……あと義妹とか言わないでください恥ずかしいから……」
「小町ちゃんと結託したら、今後比企谷くんいじり……いじめがもっと楽しく出来そうだなぁ。あー楽しみ楽しみ」
「……俺抜きで小町と外出とか小町が心配過ぎるんですけど……」
「あ、小町ちゃんとたくさんお話しておいて、小町ちゃん伝いで比企谷くんにわたしの良いところを話してもらうのもありかな」
「……なんでいじりをわざわざいじめって言い直したんですか……」
「比企谷くん」
「……何でしょう?」
「会話、一つずつずれてる」
「……あ」
コントみたいなことをしていた。何だこの器用なボケは。
「ご飯食べ終わったのも気付いてないでしょ?」
陽乃さんの指摘により、ちらりと視線を手元に下ろして、とっくにご飯を食べ終えていたことに気付く。
……や、俺、どんだけ気になってんだよ……。
「比企谷くん」
「……っ」
急にずいと近寄った陽乃さんの息が耳にかかり、意識が一気に覚醒する。
「……な、なんでしょう?」
めいっぱい首を逸らしながら答えると、陽乃さんの手が顔に伸びて、目線を彼女の方に強制的に向けられた。陽乃さんはいたずらっぽい笑みを浮かべていて、これから何を言われるのかと心臓がばくばくする。
「もう……どれだけ気になってるの? わたしのスカートの中」
「っ……や、そ、そんなことは……」
精一杯平静を装うが、この人の前では意味は無さそうだ。
陽乃さんの手が太ももに添えられて、肩が密着する。柔らかな二の腕の感触と甘い香りにくらくらしていると、陽乃さんがにやりとワルそうな笑みを浮かべた。
「どうするの? わたしがクマさんパンツだったら」
「またすごい例えを出してきましたね……」
まさかの流れに却って冷静になった。く、クマさんかぁ……陽乃さんが履いてたらギャップがあってそれはそれでかわい……いやでもなぁ……。
「今、わたしの下着姿想像してたでしょ」
「……………………そんなことは…………」
超あった。
なにこれ、俺陽乃さんにスカートの中一つでどんだけ振り回されてんの……と悲しみにくれていると、陽乃さんがにっこり微笑んで、テーブルの上の食器を手際よく片付けた。
「うおっ……?」
俺の首にするりと手を回して、滑らかな動きで押し倒される。動きのあまりの流麗さに、自分が押し倒されているのだと分かっても身体が途中で動くことはなかった。
カーペットの上に倒されて仰向けで天井を仰ぐと、いつもと違う見え方をする蛍光灯に目が釘付けになった。その光にすっと影が差して、何事かと目を凝らすと――陽乃さんが膝立ちになって俺の両腕を足でがちっと挟み込んで固定していて、顔だけ俺の真上にぬっと覗かせいた。これはもしやと思って視線を下にやると、陽乃さんの手はさりげなくスカートを固定していて、中が一切見えないようにしていた。うーん、残念。
影になって表情がはっきり見えないまま、陽乃さんの声が真上から降り注ぐ。
「わたしからすれば、こんなのチラッと見せればそれで終わりなんだけど……どうやら比企谷くんは焦らした分だけわくわく感が止まらなくなるみたいだね。よしよし、面白くなってきた。……たっぷり興奮してくれてた方がこの後都合が良いから……いーっぱい焦らしてあげる」
「……なっ……」
抗議したいこと、質問したいことが多すぎて、却って一言も言葉に出来なかった。
ごくりと息を呑んで次の展開を待つと、陽乃さんがスカートを押さえる手をぱっと離した。その行為を目撃して、反射的に視線を下に向ける――よりも先に、陽乃さんの顔が目の前に来たことで固まってしまった。
「……今、見ようとしたでしょ?」
「……や、そ、そんなことは……」
言いながら目を逸らすと、陽乃さんの手が俺の両耳の横のカーペットに置かれていることに気付いた。やだ、これが床ドン……?
普通逆だろ、いや俺はやらねぇか……と思ったけどさっき反撃で襲ってたわ俺……などと悶々としていると、陽乃さんが手を自分の胸元に寄せて――ただでさえ大胆に開いた胸元を、更に広げた。
「ちょ、ちょっと……っ!?」
腕を固定されているが為に手で顔を覆うことも出来ず、全力で目をつぶる。柔らかそうな双丘が大きく覗いた瞬間にむわっと甘い牝の匂いが香って、下半身に血液が一気に流れ込んでズボンの下で痛い程に勃起した。
「あはは、男の子は興味があるものが多くて大変だね」
「……?」
陽乃さんがくすくす笑いながら、すっと俺から身体を離した。急に自由を取り戻したことによる浮遊感と、スカートの中身を見せてくれるはずだったんじゃ……と結局ばりばり期待している自分に呆れる気持ちとで頭の中がごちゃまぜになっていると、陽乃さんがいやらしく目を細めて妖艶に微笑んだ。
「……今ここで見せてあげようかと思ったけど、ちょっと予定変更しようかな。ここまででも十分興奮してくれてるみたいだし」
「え……」
「比企谷くん。ゲーム、しよっか」
「……っ?」
陽乃さんからの突飛な提案に、思考が働かなくなる。なに、ゲーム? どういうこと……?
「大丈夫、やることは簡単だし、別に勝ち負けがある訳じゃないから」
言って、俺の胸に手を這わせて妖しく蠢かせる。的確に指の腹で乳首を捉えてしゅるしゅると撫でてきて、ぴくぴくと反応してしまう。
「ね、どう? やる?」
「うっく……うぉっ……や、やるしか選択肢はないんでしょう?」
用意された回答が「イエス」「はい」「ぜひ!」くらいしか無いんだもの。
「あはは、分かってるじゃない」
陽乃さんは笑って、俺の首に手を回したかと思うとそのまま滑らかに俺の身体を起こした。そして俺にちゅっと軽い口付けをして、目を細める。
「それじゃ、ルールを説明するね。まずは――」
陽乃さんの妖しい熱を持った言の葉が耳朶を打つ。
慣れ親しんだ部屋の空気が、甘く歪んでいくような気がした。
続く。
はるのんでした。
最近、生活の中に今まで無かった要素が入ってきていて、読書の割合が減っています。読もうと思えば読めるのに読んでなかったんですが、その分ここで書き続けていて新しい表現があまり書けなくなっていることに気付きました。これでは書いていてテンションが上がらないので、また色々読み始めようと思います。
そんな読書ですが、以前勧めて頂いた「黒先輩と黒屋敷の闇に迷わない」、文のテイストが好きだと思った官能作家の作品「とろり半熟妻」「快楽の封筒」の3冊を買ってみました。黒先輩と~が今まで読んだことのなさそうなテイストで非常に楽しみなんですが、まさかの2冊買いをしてしまいました。なんてこったい。Amazonの返品手続きとやらをやってみようと思います。ミスった……。
一話に数ヶ所ずつ「これ、意図が伝わりづらいだろうな、読みにくいよな」と思う場所が確実にあるんですが、そこを丁寧に検討する余裕があるかどうかが自分の疲労度を測る指針になっています。
それなりのクオリティでならいくらでも書けるんですが、そろそろもう一皮剥けて、さらりと書けるレベルを今よりも上げたいなーと。試行錯誤中です。
ちょこちょこと、且つふと思うんですが、1時間前後の執筆&20分前後の推敲で書いているものを、毎日8500人程の方に読んで頂いているというのは……とても不思議な気分です。本当にありがとうございます。
今日は休日出勤なんですが、早く帰ることが出来るよう祈ってます、自分に。何かしらある方は一緒に頑張りましょう。感想の返信が滞っています、すみません。飛び飛びになるかとも思いますがご了承くださいませ。
それでは、また明日ここでお会いしましょう(^^)!
今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!