「ゲームって言うのはね、一言で言うと『脳内デート』だよ」
「え……?」
何ぞそれはと首を傾げる。
陽乃さんは胡座をかいている俺の横に回り込んで、俺の肩に体重を預けて座っていた。この時点で興奮しすぎてどうにかなりそうなんですけど。
しかし、脳内デートって?
想像してもさっぱり分からんのだけど。
俺の疑問が前面に浮かんだ表情を見て、陽乃さんがくすりと笑った。
「ちゃんと説明するから大丈夫だよ。……とは言っても、実際にやって見せた方が……いや、正確に言えば『言ってみせた方が』分かりやすいかな。取り敢えず始めてみるよ」
「え、え、え?」
取り敢えず始めるという言葉に胸騒ぎを覚えながら、なんであんた俺の内腿のかなり際どいラインを撫でてんだよというツッコミを心の中でする。
「始めれば分かるから。あ、でも最低限必要なことだけ言っておくね」
「はい」
「これはあくまで『言葉による』ゲームだよ。わたしが取り敢えず喋るけど、比企谷くんもいつ喋ってもオーケー。喋った内容はよっぽど支離滅裂じゃない限り、わたしは全部受け入れるから。……だから、わたしが言う内容も全て受け入れてね?」
「……っ」
耳元で囁かれた妖しい言葉で、下腹部にぞわりと紫色の快感のもやが立ち込める。
「あと、これも言っといた方が良いかな。……『言葉による』ゲームではあるけど……比企谷くん、わたしの身体、触りたくなったらいつでも触って良いからね? 断りも入れなくて良いから。……わたしも触るからね」
「……っ!?」
耳元に息をふっと吹きかけられて、心臓が止まりそうな程の衝撃を受ける。
「じゃ……始めよっか。あ、それと」
まだあるのかというのを顔に出さないようにしながら、続きを促す。
「……現実でのわたしたちの関係を気にせずに、比企谷くんがやりたいようにやること。いい?」
「……? はい」
「ん、よし。それじゃちゃんとイメージしたいから、お互い目を閉じよっか。いい?」
何が何だか分からぬままに。
「……はい」
声を震わせながらこくりと頷いて、ゆっくり目を閉じた。
× × ×
「まずは待ち合わせだね。場所はショッピングモールの入口かな」
「あ、そういう感じですか」
陽乃さんの最初の言葉ですぐさま感じが掴めて、胸を撫で下ろす。
要は、「互いの言葉でデートの具体的な状況や会話を作り上げる」ということだろう。「何処其処に行って、どんな会話をして、どんなものを見て……」などといった感じだろうか。
……正直、普通にやったらこれ以上無い程つまらないものになりそうだ。それなら直接行けよって話になるし。一体どうやってこの話を面白くするんだ……まぁ、面白くならなくても良いんだろうけど。しかし陽乃さんの意図がいまいち読めない。
著しく疑問に思っていると、陽乃さんがくすりと笑う声がした。目を閉じているだけで、妙な緊張感が走る。
「服装は何が良いかな……じゃあわたしは、比企谷くんに命令されたってことで、コートの下は全裸かな」
この人頭おかしいんじゃなかろうか。
「却下です」
「えー? わたしが言ったこと、全部受け入れてくれるんじゃないの?」
「あそこで俺は何も返事はしてませんよ」
「でも最後に『はい』って言ったでしょ? あれでもう全てに対して『はい』って言ったことになるよ」
「なりませんよ、理不尽すぎるでしょう」
「じゃあ黒ビキニ?」
「その路線から離れてください」
コートを脱いだら黒ビキニってシュールすぎるだろ。痴女だろそれ。陽乃さんは俺のつっぱねに対して、不満げにむーと唸る。多分今顔を見たら頬を膨らませてるんだろう。そんなのわざとやったって俺はなんとも……やっぱ超見たい。でも見たら多分すぐバレるからやめておく。バレそうという根拠は無い。本能。
「でも水着は見たいでしょ?」
ほらこの人、こういう絶妙に痛いとこ突いてくんだもん。鬼畜かよ。
「……………………ノーコメントで」
ためにためて答えると、陽乃さんがあらあらと楽しそうに言いながら内腿を撫でてきた。やめてやめて、指を立ててつつつーっとなぞるのやめて!
答えてなお、陽乃さんの攻撃はやまない。
「じゃあ、今度温水プール行こっか、人があまりいないタイミングで。それともお風呂で水着着て挟んであげるのが良い?」
あかん。
「挟むって何をですか。パンでハムでも挟むんですか」
「え、何、わたしに具体的に言わせるつもり? 比企谷くん、変態さんだね~」
「うぐ……」
聞いてみたいとか思ったけど、それはまだやめておこう。まだって何だよ。
ああ。
なんか、分かってきた。
こんなのどうやったって面白くならないだろって思ったけど……この人が俺と遊んで、いや、俺で遊んでいた今までのやり方を考えて鑑みると、見えてくるものがある。
この人、こういうエロティックなくだりを逐一挟んでくる気だ。サイゼの時は実際あんなことをやったことに加えて、現時点で既に一度口でしたこの段階で、妄想でこんなことを話そうというのだから……もうどんなことを言われるのかと考えただけでぞくぞく……あ、いや、恐ろしくなる。
しかも、互いに目を瞑って、言葉だけでこの話をするという、この状況。
視覚を閉ざされて、今働いているのはメインで聴覚、そして嗅覚か。あ、触られてるから触覚もだな。さわさわ。一つの感覚を閉ざすとその他の感覚が鋭敏になるというから、今から聞く内容により起こる精神の高揚は並々ならぬものがあるだろう。
……ここから、もし陽乃さんが仕掛けてきたり、俺が我慢出来なくなるようなことがあれば(既に一回決壊してるしね、俺の理性)、一体どうなってしまうのか……想像しただけで喉を鳴らしてしまう。
とにかく。
これは、きっと。
回りくどいくらいに遠回りな、「言葉責め」なのだろう。
そう気付いた時、知らず知らずのうちに手を強く握りこんでいて、洗ったばかりの手には既にじっとりと汗が滲んでいた。
「比企谷くん、どこ行きたい?」
耳元で艶美な声で囁かれて。
「じゃあ、まずは……」
開けてはいけない扉を開けたような、そんな感覚を抱きながら、俺と陽乃さんの、言葉だけでのデートが始まった。
× × ×
「ふーん、映画館か。まあ悪くはないかな」
暗闇の中で、陽乃さんがいつもの調子で話すのが聞こえる。
ただいま、絶賛デート中。
ただし、脳内で。
一度言ったように、これが本当にただのデートを言葉で言うだけだったら、「何この想像力を養いますとかっていう名目で授業でやりそうなやつ」と思うだけの、退屈極まりないものだっただろう。
しかし、この人は、雪ノ下陽乃は。
絶対、そんな普通のデートで終わらせるはずが、ない。
「何を見ようか」
問われて思考する。なるべく当たり障りの無いもの……。
よし。
「……ポニョ、ですかね」
今。
すんごい小さな声で「……はい? ……はぁ」って言うのが聞こえた。すんごい小さい声で。
「時間設定が分かんないんだけど。今何年?」
「ごめんなさい、もののけ姫で」
陽乃さんの糾弾じみたツッコミに頭の中がワニワニパニック。T字路を直進する勢いで混乱している。
「なんで更に遡ってんの?」
どうしよう、すごい淡々とツッコまれる。
「じゃあわたしが決めちゃおうかな。――ね」
「え……」
陽乃さんが提案したのは、最近公開された、過激なベッドシーンが話題になっている映画だった。CMやテレビでの宣伝をよく目にする。
「えーっと、でも、俺それ見たことありませんよ」
「大丈夫、わたしも無いから。第一、映画の内容を話し合ったってつまんないでしょ?」
「あ、それもそうですね」
ここで誰と誰が言い争って、とか想像で言うなんて、想像したくもないくらいつまらなそうだ。
「そうそう。……だから、そういうシーンがある映画を見ていて、その間わたしたちが、暗がりの中で何をするかっていうことが重要なの」
「え」
「はい、じゃあ中に入るよー」
「ちょ」
「あ、その前に持ち物確認しとくね。えーっと……うん、ちゃんとウェットティッシュはバッグに入ってる。よし」
おい。
「ちょ、雪ノ下さん、それって」
「はい行こう行こ~」
言葉だけで話しているにも関わらず。
陽乃さんが俺の手を握って鼻唄混じりに引っ張って行く姿が、極めて鮮明に浮かんだ。
続く。
お久しぶりのはるのんでした。なんと2週間ぶり。ゲームのくだりの方向性が定まるまで書き進めては少し様子を見て、また書き進めて……と繰り返していました。ここからはまた近い間隔で更新して行きます。
<今後書くヒロインについて>
元々、書くヒロインは後はルミルミだけかなとずっと思っていたんですが、数日前くらいにふと折本を書いてみたくなりました。
原作を読み直して「やばい、改めて見ると折本めっちゃ可愛い!」と思った……とかでは全然無いんですが(可愛いですけども)、八幡とのやりとりや恋愛の質感など、折本独自のものが書けそうだなと。めぐりんとはまた違った味のあるラブコメになりそうです。
そんな訳で、結構先にはなると思いますが、というかなりますが、折本も書くと思います。気紛れなようで結構強固な意志だったり。由比ヶ浜マを書くかもと初めに書いた時と気持ちが似ています笑
<リクエストについて>
感想をがっつり書いて頂く方に多いような気がするんですが、感想の途中でさり気なくリクエストを書かれている方がいらっしゃいます。単純に忘れちゃうので(それも確実に)、ぜひ活動報告の方に書いて頂けると助かります。よろしくお願いします。
<読書>
二次元ドリーム文庫の本をもりもり買いました。いかん、読むペースが追い付かない……幸せです。もりもり読んで書いて学ぼうと思います。
平日、お疲れ様でした(^^)
それでは、また明日ここでお会いしましょう(^^)!
今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!