胡坐をかいて座る俺に、陽乃さんが一糸纏わぬ姿で密着している。
背中と首を蠱惑的に包み込む腕。
腰を締め付ける妖艶な足。
胸を柔らかく圧迫する乳鞠。
極上の肢体が俺の肉体を拘束して、甘え縋るような濃厚な視線が俺の心を拘束する。
「それじゃ、ベッドに行きましょうか」
口付けで全身を戦慄かせた陽乃さんの背中を撫でながら、ゆっくりと囁きかける。
陽乃さんの肉体は火照りきっていて、衣服越しでも発熱しているのではと錯覚する程の温度を感じる。
「んっ……ちゅっ」
陽乃さんはぽーっとした表情で俺の言葉を聞くと、名残惜しそうにもう一度唇を優しく添えた。
むにゅりと押し付けられた柔らかい感触の愉悦に浸りながら、陽乃さんの肩を掴んで立ち上がらせる。
案外簡単に立ち上がってくれるんだなと思ったのは内緒。
この人の場合、油断するとどこまでも思い通りに行かないからなぁ……。
「やったぁ……比企谷くんに襲われるぞぉ……」
前言撤回。
二人で立ち上がった直後に爆弾を放り込まれた。
にへらっと笑う陽乃さんに対して、この笑い方初めて見たなーなんて呑気に思っていたらこれである。
「その言い方やめてください、マジで恥ずかしいんで」
「えー? でも、何も間違ってないでしょ? 今から比企谷くんは私とベッドで繋がるんだよ。それで最初はわたしのこと気遣ってすごく優しくするんだけど、段々獣になっていくんだよね?」
「待って待って、やめて」
なんで付加疑問文なの? なんで既に打ち合わせしたかのような言い方なの?
「ちなみに獣は『けもの』じゃなくて『けだもの』の方ね」
「口頭の会話だったらどう表現すれば良いんですか今のくだり」
それもそうだねー、と陽乃さんがくすくす笑う。可愛いな……マジなんなの……。
「わたしも比企谷くんを挑発するようなことを沢山囁いて、比企谷くんの理性の皮を一枚一枚丁寧に剥がすの。そしたら比企谷くんはたまらなくなって、わたしの肩を思い切りベッドに押しつけて、すごい形相でわたしの中をかき回すんだ。四つん這いにするのも良いね。わたしの腕を引っ張ってすごい勢いで腰を打ち付けるの。わたしの胸がぶるぶる震えるのを見て、好き放題詰るのも良いね。わたし、きっともっと感じちゃうな」
「ティッシュ使います」
「まだダメなんだ……」
全くもって、ダメだった。
嬉しそうに卑猥な妄想を語る陽乃さんが、一転して呆れ顔になる。
しかしその表情の中にも、どこか愛おしいものを見るような優しさが混じっていて、照れくさくなって顔を逸らす。
「一応耐性は上がってるつもりなんですけど。雪ノ下さんの火力を上げられちゃどうにもなりません」
「比企谷くん、わたしの名前って知ってたっけ?」
「……陽乃さん、です」
「はるのさん? わたしの名前、『雪ノ下はるのさん』って言うの? 名前長いね~」
え、呼び捨て確定なの。
さっきのは勢いで言ったに過ぎないんだけども。
……それならば、これはどうだろう。
「……雪ノ下のお姉さん」
「なんで出会った頃くらいに戻ったの……」
ハードルが高すぎて、思わずくぐった結果がこれである。
陽乃さんが俺の頬に手を添える。
俺の頬は、きっと火が出る程熱くなっているんだろう。
くすくすと笑う陽乃さんは、子どものようないたずらっぽい表情を浮かべている。
この人の素直な表情を見る度に、心を鷲掴みにされてしまうから困ったものだ。
「ほれほれ、呼んでみ? 呼んでみ?」
「うぐ……」
う、うぜぇ……可愛い……。
あ、なんか小町に抱く感情と同じ感じがする。
…………。
恥ずかしいので、そっちの方向の思考はやめた。
陽乃さんの腕に手を添えて、目を泳がせる。
「……陽乃」
陽乃さんの顔が、幸せそうに綻んだ。
「……ん、よし。もう十回ね。はいスタート」
鬼嫁か。
……今のはなしで。死んじゃう。
「ちなみに今のはあんまりわたしの目を見てなかったから、次からはきちんと目を見ながら言わないとカウントに入れないからねー」
手心を加えるつもりは無いらしい。泣きそう。
はい、深呼吸。
「……陽乃、陽乃、陽乃、陽乃、陽乃、陽乃、陽乃、陽乃、陽乃、陽乃、陽乃」
「比企谷くんが大好きなのは?」
「小町」
「ぶれないね……」
ちょっと予想してました、うん。
ちなみに他の回答候補としては戸塚が挙げられる。
「まあ、今何気に十一回言ったのはポイント高いね。そんなにわたしの名前を呼びたかったかー」
予想外の方向から矢が飛んできた。ただの数え間違いなんだけど。
「や、そんなことは」
「比企谷くん。部活のメニューでさ、『五回三セット』みたいな言葉、よく聞かない?」
指摘するだけして思い切り話題のハンドルを切ったぞこの人。
俺の言葉もぶった切るという気持ち良さ。
……ていうか、この言い方は……えぇ……?
いやな予感しかしない。
どうにか逃れたい、この蟻地獄から。
「俺体育会系の部活に入ったことないんで知らないです」
ちなみに奉仕部は体育会系でも文化系でもなく、言うなればGJ部系である。
紅茶飲んでるし、ゆるゆるだし。
「ふーん、そっか。じゃあ十回十セットね」
話聞いてくれないよぉ……。
「スクワットですか。そんなにやったら明日動けるか心配です」
「どうせ明日はわたしも動けないから大丈夫だよ。仲間仲間」
「え、ちょっと今なんて」
「はいスタートー」
とぼけてみたらえげつない返しをされた。
俺の小ボケを叩き潰して、陽乃さんがわくわくとした顔で俺を見つめる。
なんでこんな楽しそうなのこの人……。
ちなみに、と陽乃さんが言う。
「結構時間かかるから、その間わたしの好きなとこ触っていいか」
陽乃さんが言い切る前に。
即座に胸を触った。
反射的行動にも程がある。
「……比企谷くん、本当にえっちだね」
よっぽど驚いたのか、陽乃さんは身体が反応するよりも呆れが勝っていたようで、お姉さん然としてふふっと笑った。
「……反省します」
言いながらむにむに。
今度は甘美な反応をされて、心臓が高鳴る。
「ん……っ、どうぞ」
「はい」
答えて、改めて陽乃さんの顔を見る。
……胸を触りながら、顔を直視して呼び捨てで名前を百回呼ぶ?
……どんだけ寿命が縮むか、想像もつかない。
× × ×
デスゲーム、スタート。
「えぇっと……陽乃、陽乃、陽乃、陽乃、陽乃……」
ひたすら陽乃さんの名前を繰り返す。本人が居なかったら完全に危ないヤツだ。
陽乃さんはにこにこした顔で頷きながら、時折恥ずかしさでどもる俺を煽る。「がんばれ♡がんばれ♡」とかどこで覚えたんだこの人……。
なんか癪なので、胸に添えた手に力を込めた。
「んはぁぁぁ……っ」
陽乃さんが口を開けて、甘ったるい息を吐き出した。
指がほとんど見えなくなる程乳肉にうずまる。
よし、反撃出来た――と思った矢先。
陽乃さんの足が子鹿のようにがくがくと震えて、支えを求めたのか俺の頬に添えた手を首に回し、くんと引き寄せた。
おでこ同士をぴたりとくっつけて、艶っぽく微笑む。
「……続けて?」
「……っ」
あかん。
事態が悪化した。
早めに終わらせないと、本当にやばい。
「えぇっと……陽乃、陽乃んむっ、……ぷはっ、陽乃、陽乃、陽乃んむぅ……っ、……ぷはっ、ちょっ、舌入れるのはマジでやばんむっ……………………ぶはぁっ!」
ぜんぜん。
終わらねぇ。
それでもめげずに名前を呼び続ける。
どうやら連続で呼ばなくても良いらしく、これだけのことをしながらも陽乃さんはきちんとカウントをしてくれているようなので(スペックの贅沢な無駄遣いだ)、細かいことは気にせずに無我夢中で呼び続ける。
こうしている間、しょっちゅう挟まれるキス攻撃に負けて、よろよろと後ろに退いていた。
俺の背中が、部屋の壁にぴとりと付いた時。
「――陽乃、陽乃、陽乃、陽乃、陽乃……どうですか」
「ん、オーケー。ばっちり百回言えたね。お疲れ様」
ようやく百回言い終えると、陽乃さんがうんうん頷いて、俺の頭をぽんぽんと撫でた。
ぐ……こんな単純なことが嬉しいだと……。
さてそれじゃあ――と、陽乃さんが楽しそうに言って目を細めた。
「ご褒美に、お姉さんが比企谷くんの服を脱がせてあげよう」
「……え……」
それが何を意味するのか、正直予想しきれないけれど。
陽乃さんが纏う空気感が変わって、俺の足の間に陽乃さんが足を差し込むと、下半身に急速に血流が集まるのを感じた。
続く。
お久しぶりのはるのんでした。さらりと書いてみたくだりが意外と楽しくなって丸一話分に。
当面は
①めぐりん
②はるのん、由比ヶ浜マ、ルミルミ
③いろはす、ゆきのん
という優先順位で書こうと思います。
何気に300話が見えてきたという。
それでは、また明日ここでお会いしましょう(^^)!
今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!