身に纏うものを全て脱ぎ去って、捕らえられた蝶のようにベッドの上でもぞもぞとしながら、自分の手を自分の胸に近付ける。
ぴとりと触れる。
「あっ」
――火傷した。
一瞬、そんな錯覚さえ覚える程の熱さを感じた。先輩のことを考えただけで、わたしはこんなにも……っ。
先輩、今頃こっちに向かってるのかな。
わたしのこと、考えてくれてたりするのかな。
そうだったら、わたしは嬉しい。
「んはぁぁ……っ」
先輩ともうじき会えると思いながら指を胸の肉に沈めていくと、自分でも驚くほど甘い声が漏れた。そうか、先輩はわたしのこの声にくらくらきてるんだな。もっといっぱい聞かせてあげよう。そしていっぱい愛してもらうんだ。
「くひぃんっ!」
ぴんと張り詰めた先っぽを、試しに両方同時に摘んでみたら……意識が飛ぶ程の快感が脳内を突き抜けた。
だめだ、だめだ、だめだ。
わたし、先輩のことを考えながらすると、もう――本当に、だめだ。もしこれが、今日この後先輩と会う予定は無いと言う状態だったのなら、振り切って最後まで夢中でやっても良いかもしれない。それこそ失神して――あられもない顔をして意識を手放すまで。あ、でもそれだと起きた時先輩が居ないから寂しいなぁ……って、そうじゃなくて。
このままじゃ、先輩がこの部屋に入ってきたとき……わたしがどうなってるのか、本当に予想がつかない。
いや、本当は予想はついてる。でも、それを今は考えたくない。
「や、やってみるだけ、試してみるだけ……」
繰り返し心の中に予防線を張りながら、左手で胸を揉み続けて、右手をそろりと下半身に伸ばした。
× × ×
部屋の前に来て、ふと立ち止まる。時刻は12時50分。小町とのやりとりを含めればまあこんなもんだろう。いろはがこんなに早く来たのは流石に驚いたけど、まあ……楽しみにしてくれていたのなら、結構……いや、かなり嬉しい。
しかし今、立ち止まったのはこういったことを考えるためではない。
立ち止まったのは、ある違和感を感じたからだ。いろはが居ると分かった上での、大きな違和感。それを突き止めるべく、部屋に入る直前で歩を止めた。
「…………」
ドアノブに手を掛けたところで、静かに息を潜める。
「うぅぅ……うぅん……っ」
「……っ?」
微かに、それでも確かに聞こえる、苦しそうな声。
ごくりと、喉を鳴らす。
「……まさか……っ」
いろはが、俺が来るまでに体調を悪くしたのか――? 昨日までは元気だったし、小町の話を聞いた限りでは特に体調が悪いとは思わなかった。ということは、何か急な症状が出たのか――?
ドアノブを握る手を震わせながら、そんな心配をしていると、
「うあぁぁぁ……せんぱいぃ……っ!」
中から、一層苦しそうな声が漏れてきた。俺を呼ぶ声を聞いて、いてもたってもいられなくなる。
「いろはっ!」
いろはがどこかに行ってしまう――そんな恐ろしい想像をして、跳ねるようにドアを開けた。
――すると。
「……へ?」
何とも素っ頓狂な声が、部屋の入口とベッドの上から聞こえた。
× × ×
「はぁ、はぁ、はぁ……んっ、ひぅぅっ!」
恥丘からお尻の穴にかけてのラインを緩慢な動きでなぞって、小さな膨らみと膣口を繰り返し刺激すると、もう何度目か分からない絶頂に達した。さっきまでは、四つん這いの状態で先輩に思い切り突かれるのをイメージしながら指を激しく抜き差しして沢山イって、今は仰向けで先輩のおっきくて逞しいものに焦らされるようにアソコをこすられるのをイメージしながら自慰をしていた。
……や、やばい。
どうしよう。
先輩との行為を思い出しながら思いつくままに一人で色んなことをするのって、超楽しい。本当に楽しい。何これ。
……ただ、これの何が困るって、先輩のことがもっと好きになっちゃって、頭の中が本当に先輩のことだけでいっぱいになっちゃうことが困る。
あ、それ別に困ってないな。
なら良いか。
…………。
いや、やばいでしょ。
ベッドのシーツ、もうぐしょぐしょだし。わたし、どれだけやってるの?
「うぅぅ……うぅん……っ」
あごを上げて、甘い陶酔感に浸りながら指でこすり続ける。
時計をちらりと見る。
12時50分。
流石にもう、先輩が来るかもしれない。あの人は律儀だからきっと13時より早く来るはずだから。一応声は抑えてるけど、それでも限度はある。下手をすればわたしがしてるのが部屋に入らなくてもバレてしまうかもしれない。何それ恥ずかしくて死んじゃう。
でも、でも、でも……。
自分の下半身に目を向ける。
何にも意識してないのに、足は物欲しそうにもじもじとくねっていて、悶々と考え事をしながらも手は一切動きを止めることなく動いて、膣に入れたそうに周りをぐちゅぐちゅといやらしい音を立てて愛撫している。
……今なら、ほんのちょっとだけでもイケるはず。
「あと、一回だけ……」
そう言い聞かせて、アソコをちゅくちゅくとこねくり回していた手の指を膣口に宛てがい、中指と薬指をずぶりと挿れた。
じゅぷんと指が沈み吸い込まれた瞬間、頭の中を電気が駆け抜けた。
「うあぁぁぁ……せんぱいぃ……っ!」
いくら抑えていても、流石に限度があった。高まりに高まった身体の内側に指を侵入させる快楽は絶大で、入れただけで全身が悦んで反応してしまう。
すぐイキたい、すぐイキたい、すぐイキたい……!
我ながら、信じられない程えっちなことを考えてるなと思うけど……今はそんな冷静なことを考えている場合じゃない。先輩にのしかかられてめちゃくちゃにされるのをイメージしながら、指を曲げてぐっちゅぐちゅにかき回して、最後に思い切りイクんだ――そう思った、その時。
ドアが跳ねるように押し開けられて。
「いろはっ!」
先輩が血相を変えて、部屋に乗り込んできた。
「……へ?」
2人揃って間抜けな声を上げたのは、全く同じタイミングだった。
× × ×
――いろはが急に体調を崩して、苦しみながら俺に助けを求めていた――そんな状況なんだと、そう信じきって部屋に入ったら……目に入ったのは、ベッドの上で横たわって一糸纏わぬ姿で夢中で自慰行為にふけるいろはの姿だった。すげぇ、女の子が一人でする時ってこんな感じになるのか……じゃなくて。
「いろ……は……? 無事、だったのか……?」
呆然としながら、安堵と共に湧いた疑問を投げかける。
「え……?」
いろはがきょとんとしながらも身体をぶるりと震わせる。一瞬寒いのかと思ったけど、ちがう。こいつ、指をアソコに入れたまんまだぞ。え、なに、会話しながらしてんの? まさかね?
俺同様、いやそれ以上に呆然としているいろはに説明をする。
「や、だって、部屋の前に来たらお前の苦しそうな声が聞こえて……」
言うと、いろはの顔が真っ赤になった。
「あ……そ、それは、その、声を抑えても我慢出来なくて……」
ほーん? なんかすごいこと言い出したぞー?
「じゃ、じゃあ、俺を呼んだのは?」
聞くと、いろはがぐるんとすごい勢いで横を向いて俺に背を向けた。白く滑らかな背中が見えてどきりと……って、そうじゃなくて。なんで背を向けたの? あと手を内股に挟んでるのはなんで? もぞもぞしてるのは行為を続けてるからじゃないよね? そんな訳ないよね?
いろははしばらくもじもじとした後ぴたりと動きを止め、身体をわずかにこちらに向き直して、ちらりと視線を送ってきた。
「……せ、先輩のこと、考えながら、ずっと、その、一人で……してたんです」
ほーん? なんか更にすごいこと言い出したぞー?
え、なに、いろはが俺の部屋で? 俺が来るまでに? 俺のことを考えて一人で? え、ほんとに? どういうこと? 世の中分からないことだらけ。
頭の中がワニワニパニックに陥っていると、いろはが急に目を見開いて、手を下半身から離した。そしてぺたりと女の子座り(裸で女の子座りって、見える光景が殺人的にエロいことを知った瞬間であった)をして、俺に向かってちょいちょいと手招きをする。なんぞや……と思いながら、とてとてといろはの下へ歩を進めた。
× × ×
見つかった。
先輩に。
動転しすぎて倒置法を使ってしまった。
どうしよう、わたしは貝になりたい。
それか出家しよう。
そして源氏物語の現代語訳をして、堂々と開き直った二番煎じとして脚光を浴びるんだ……わーい……。
…………。
驚きと恥ずかしさと恥ずかしさと恥ずかしさとで、思考が訳の分からない、まるで先輩みたいな飛び方をした。先輩いつもこういうこと考えてそうだな。どういうイメージだよって話だけど。
や、そうじゃなくて。
頭が真っ白になりながらも、2本指は膣内でくにくにと刺激を与えてくる。先輩と目が合った瞬間に抜こうとしたのに、抜こうとしたその瞬間に2本揃ってぐいっと曲がってわたしの頭をかき回して、わたしが引き抜くことを許してくれなかった。先輩と話してる間も続けてるなんて、あまりに失礼だよね……とは思いつつも、さっきから一つの事柄がずっと頭の中をぐるぐる回っている。
最後に一回、思い切りイこうとしたのに……まだイけてない。
どうしよう、どうしよう、どうしよう――そんな風に考えながら、先輩に背を向けて内股をすり合わせていると、ある考えが浮かんだ。わたしの今の状況を冷静に考えれば、この流れに持っていくのは難しくないはずだ。難しいとかどうとか言える立場ではないんだけどね。
こうすれば、きっとお互いハッピーだ……。
きっとこれなら、先輩も乗ってくれる。そう信じて――ぺたりと座り込んで先輩を手招きする。なんか座った途端にすごい凝視してきたんだけど、何かツボだったんだろうか。後で聞いておこっと。後学のためにね。
× × ×
いろはの目の前まで来ると、いろはは恥ずかしそうに顔を俯かせていた。
「いろは……?」
具合が悪いのではと心配になって声をかけると、いろはがゆっくり顔を上げた。その顔は上気しきっていて、欲情した雌の顔にしか見えなかった。
……ああ、この顔は見覚えがある。
この後、きっとこの子は――
「せんぱい……」
いろはが、俺の袖をちょんとつまんだ。潤んだ瞳で俺を見つめて、唇を戦慄かせて、泣きそうな顔で目を細める。
「……わたし、せんぱいが部屋に来てくれるのを待ちきれなくて、一人でしちゃいました。いっぱいしちゃいました」
「……ああ」
「わたし、いけない子です」
「……そうだな」
「だから……」
いろはが俺の両手をきゅっと握った。その柔らかで華奢な感触に心音がとくんと鳴る。
「わたしに……おしおき、してください」
ああ、やっぱり――とは思いながらも、目を見開いた。
今日はいつもと流れが違う。さあ、ここからこの子に何をしようか――そんなことを考えながら、いろはの目を真っ直ぐに見つめて、静かに、けれどはっきりと、頷いた。
続く。
いろはすでした。5話目にしてやっと2人が顔を合わせるという。
視点の切り替えや時間の数分単位での前後など、初めての試みをしてみました。こういうのをこれからも取り入れて行こうと思います。
予約投稿しようとして間違えて一旦投稿してしまいました。ふとした拍子にやってしまいます。日付が変わる前に投稿したのは推敲前のものなので、よろしければ推敲後のものもご覧ください。300字程追加しています。
それでは、また明日ここでお会いしましょう(^^)!
今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!