夜もぼちぼち更けてきた。眠りに就くまで何かしようとベッドに寝転がりながら、ペーパーバックを斜め読みする。ううん、やっぱり俺はラノベの方が好きだなぁ……。読めない訳ではないのだけど、これをメインに読もうとはあまり思わない。単純に好みの問題だけど。
「……ん」
ふと、枕元に置いてあるiPhoneにLINEの通知が届いた。こんな時間にLINEしてくれる人なんて限られている。ちなみに2番目に多い相手は小町で、内容は「お兄ちゃん。笑い声うるさい。ふひひとか言わないで。もぐぞ」という鬼のようなもの。可愛くてしょうがないけど最後の1フレーズが毎回怖い。そんで1番多いのは材木座だけどまあそれはどうでも良い。
iPhoneを手に取り、一体誰から来たのかと確認すると、思わず小さい声で「うぉっ」と唸ってしまった。
連絡してきたのは由比ケ浜のママ、略して由比ケ浜マだった。相変わらず略せてない。せめて本名を知りたいけど、結衣に「お前のお母さんの名前教えて」なんて聞けない。変な空気になるのが目に見えている。
眠りかけていた頭が途端に冴え渡って、どきどきしながらトーク画面を開いた。
以下、LINEでのトーク。
『ヒッキーくん、こんばんは。いつも結衣がお世話になっています』
『こんばんは。いえいえ、こちらこそお世話になってます』
『うふふ、何だか堅苦しくなっちゃうわね』
『まあ、初めてLINEで会話したらこんなものじゃないですかね』
『あはは、ヒッキーくんは素直で面白いわね~』
『いえいえ、そんなことないですよ』
俺の言葉に既読が付いた瞬間、電話がかかってきて驚く。相手は予想通り由比ケ浜マ……彼女だった。
「もしもし~? ヒッキーくん?」
「はい。どうされたんですか?」
「あら、もっとくだけて良いのよ?」
「そうは言いましても……で、どうしたんですか?」
わざわざ電話をしてきた目的を問うと、電話の向こうで彼女が「んー」と小さく唸る声が聞こえた。その年齢を感じさせない可愛らしい声音に、きっと今電話の向こうで、結衣がいつもしているような仕草をしているのだろうかと思うと、自然と頬が緩んだ。
「声を聞きたくなっちゃった、っていうのはどうかしら?」
「…………………………………………………………………………はぁ、どうもです」
……なに、その、すげぇ可愛いけどこの先の展開が全くもって謎に包まれそうな不安に駆られる言葉?
「あら、やっぱりヒッキーくんは結衣が話してた通りねぇ」
「え、それどういうことですか」
「うふふ、秘密~」
「うぐっ…………」
今の関係になる前から結衣は俺の話をしていたみたいだし……、やばい、恥ずかしくて死にそう。
俺の唸り声を聞いて彼女はくすくすと楽しそうに笑う。その声はとても聞き心地が良くて、ずっと電話していても良いかもしれないと思った。
「ヒッキーくん」
「は、はいっ」
急に雰囲気が変わった彼女の声に驚いて、寝転がっていた状態からがばっと起き上がり、ベッドの上で正座をした。
彼女は電話の向こうで微かな呼吸音を聞かせるだけで、何も喋る気配が無い。たっぷり10秒程経ったところで、耐え切れずに口火を切る。
「あの、一体何の」
「ヒッキーくんは、明日の結衣の予定を知ってる?」
「……………………え、ええ、まぁ」
え、なに、クロスカウンター待ちだったの? 何だったの今の間は? 俺の心臓をいじめたかったの?
取り敢えず答えた後に、ようやく彼女の質問の内容を正確に脳内に落とし込んだ。
明日は、結衣は雪ノ下の家にお泊りする予定だ。俺との関係がどうなろうが、あそこの仲は不変なんだろう。むしろ百合百合しさが進化してるまである。やだ、結衣が一妻一夫一妻状態に……! 恐ろしく恥ずかしいことを言ってしまったので黙ろう。
俺の答えを聞いて、彼女が「うん、よろしい」と嬉しそうに言った。本当に、見た目も声も若くて、結衣のお母さんというよりはお姉さんという感じがする。
「それでなんだけど……ヒッキーくん、明日の予定は空いているかしら?」
「え、や、俺はその、えーと、アレです、アレ」
「良かった、何も無いのね」
「や、それは何て言うかその、えーと」
「良かったわー、もしヒッキーくんに用事が入ってたら、この貴重な機会を逃すところだったから」
「や、だから、その」
「それでね? 明日なんだけど」
「…………」
…………。
……話、聞いてくれないよぉ……。どっちにしろ予定は無いから、遅かれ早かれ追い詰められるんだろうけど。追い詰められるって言っちゃったよ。
大体、この流れはいやな予感しかしない。平塚先生然り、陽乃さん然り、一色然り。やだ、厄介な人だらけ……! しかも今挙げた人は皆して美人もしくは可愛いもんだから余計扱いに困る。
ここからの流れに漠然ながらも明確にいやな予感を覚えていると、彼女がわくわくした声で次の言葉を紡いだ。
「よし、じゃあヒッキーくん、明日うちに来てもらえないかしら?」
「え」
え、なに、どういうこと? 結衣は居ないんだよ? あの子はもう……居ないんだよ!? 動揺しすぎて無駄にドラマチックにしてみた。彼女は俺の声音から動揺を読み取ったのか、少し迷ったような声を漏らす。
「あー、えぇっとね? あの子が居ない時に、ヒッキーくんからあの子の話を沢山聞いてみたいのよ。言うなればヒッキーくんは由比ケ浜家を家庭訪問する訪ねる先生の役割ね」
「……ああ、そういうことですか」
確かに、普段結衣が居ては話せない事は沢山あるだろう。いやしかし、それでも緊張するしなぁ……と思っていると、彼女が「うふふ……」と怪しく笑った。
「そして家庭訪問の先生は大抵の場合その家の奥さんと怪しい関係になるわ」
「ごふぁっ!」
盛大に吹いた。
え、この人、何言ってんの? あとそれ何の官能小説?
俺の咳き込む音を聞いて、彼女があららと言ってくすくす笑う。
「あら、ごめんね? 間違えちゃった」
「げほっ、ごほっ、勘弁してくださいよ、もう……」
「『怪しい』ではなく『妖しい』ね」
「悪化してるじゃないですか!」
え、何この人!? 結衣も将来こんな感じになるの!?
動揺しまくっている俺の声を聞いて、電話の向こうで彼女がうふふと笑った。俺のテンションの上下はまるで気にしていない様子で、おっとりとした空気感を変わることなく纏っている。
「ごめんなさいね、つい。ヒッキーくん可愛いなって思ってたから、ついついからかいたくなっちゃって。……それで、明日、来てくれるかしら?」
「え、あ、や、その……」
一瞬どこのタモさんだよとか思ったけど、そんな雰囲気では無い。肝心の返答のタイミングの直前で激しく動揺した為に、思考と言葉が詰まる。さっきのって、別にこの場限りの冗談だよね? 俺が間に受けて彼女が「やだ~、ヒッキーくんたらエッチなんだから~」とかってからかうくらいだよね?
頭をがしがしと掻いて、何も無い壁をじっと見つめる。部屋の中は静かで、隣の部屋の小町ももう寝ているのか、物音一つしない。
まあ、結衣のご家族と親睦を深めることは良いことだろう。さっきの冗談は気になるけど。ものすごく気になるけど!
「あー、大丈夫です。伺いますね」
戸惑いながらもそう答えると、彼女は「あら~!」と嬉しそうに声を上げた。
「嬉しいわ~。ありがとうね、ヒッキーくん。それじゃ、明日結衣が出かけた後の、19時くらいで良いかしら? せっかくだからご飯でも」
「あ、ご飯は食べて行くので大丈夫です。ありがとうございます」
「……何か今、食い気味に言わなかった……?」
「あ、や、そんなこと、ないです、はい」
やべぇ、バレた。電話越しの表情を想像しただけで怖い。
ここからどうしようかと心の中で悲鳴を上げていると、ふーっと息を吐く音が聞こえた。どうやら許してはもらえるらしい。
「ふー……まぁ良いわ。それじゃ、比企谷くんはご飯を食べてから、19時に来てちょうだいね。うふふ、楽しみだわ~」
またおっとりとした声音で嬉しそうに声を上げる。
「あ、はぁ、よろしくお願いします……」
一体どんなテンションで臨めば良いか分からない状況に困惑していると、
「それじゃあ、比企谷くん」
「? はい」
急に彼女の息遣いが近付いて聞こえた。恐らく彼女は画面に口を近付けたのだろう。何事だろう――と思っていると、息混じりの艶やかなひそひそ声で、彼女がそっと囁いた。
「おやすみなさい」
「……っ、お、おやすみなさい……」
「うふふ~、じゃあ、失礼しました~」
正座したまま固まっていると、彼女から電話を切った。
iPhoneをベッドに置いて、がくっと力を抜いてベッドに寝転がる。
……なに、今の? 破壊力高すぎだろう。さっき彼女が言った冗談と相まって、どきっとするを通り越して若干……や、かなり、勃ってしまった。
「……明日、19時、か……」
天井を見上げながら、何とは無しに予定の確認をする。
どうなるか分からないけれど、それでも、心が妙なざわめきを覚えていることだけは確かだ。
……ていうか、訪問の時間帯明らかに遅いだろ……大学生の食事&飲み会かよ……と思ったのは、この後5分程経ってからのことだった。
続く。
ここから、ここから。
前話の最後だけ少し書き換えました。ご了承ください。
中々に疲弊しております。昨日は長めに寝ました。
Twitterアカウントをやっております。
takahashi_toru_
でやっております。ここではもう少し細かめに執筆のことを……まだそんなに書いてなかった。よろしければフォローお願いします。こちらのリプでの挨拶の方が気軽に出来るなーと思いました。
今日は午前中だけ仕事がありますぜ……頑張ります。何かしらある方がいましたら一緒に頑張りましょう。
それでは、また明日ここでお会いしましょう(^^)!
今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!