そんなこんなで、冒頭に戻る。
雪乃の家にも、流石に十一人で囲めるようなテーブルは無かったので(普通無いとは思うが)、輪になってるようなそうでないような不思議な形で座っていた。
普段リビングに置いてあるテーブルは脇にずらして、適宜何かを置くことにした。
さて。
『…………………………………………』
……この地獄みたいな構図を、どうしようか。
はい、まずは列席者の情報整理。
奉仕部のメンバー(敏感少女)。
奉仕部のメンバー兼クラスメイト(巨乳忠犬)。
先生(発情期)。
後輩(とろとろキス魔)。
妹(オールマイティ)。
クラスメイト(泣き顔ドM)。
先輩(紅茶タンク)。
先輩(ド敏感魔王)。
中学生(照れ顔天使)。
奉仕部のメンバー兼クラスメイトの母親(エロ魔人)。
うん。
やべえ。
自分の所業(性的)に頭を抱えていると、左隣で借りてきた猫のように小さくなっている留美が俺の袖をちょこんとつまんだ。
可愛すぎて反射で撫でると、ほわんと頬が緩んだ。うん、可愛い。
「八幡……この人たち、八幡の何なの?」
『…………』
留美が発した消え入りそうな声が、部屋の隅々まで染み渡ったような気がした。
そしてそれに上塗りするようなぴりりとした空気。
やだどうしよう、スパイシーにも程がある。
取り敢えず、右隣で恐ろしい程の冷気を放っている子を何とかしたい。
隣に座ってるだけで右半身が氷漬けになりそう。
これで左半身が燃えればフレイザードになれるんだろうか。フィンガーフレアボムズ撃ってみたいなぁ。
「えー……こほんこほん」
懐かしの悪役に思いを馳せていると、いろはが可愛らしく咳払いをして、俺をちらりと見た。そしてちろりと舌なめずりをして妖しく目を細める。
や、なんでだよ。
ほら、留美がめっちゃジト目を向けてんだろ、俺に。右隣はもう氷結地獄です。
俺の焦った様子を微笑ましい目で見て(腹立つ)、いろはがもう一度小さく咳払いをした。うん、可愛い。
「えーっとですね、冒頭からつい飛ばしちゃいましたが」
『?』
いろはの言葉の意味が分からないメンバーが、きょとんとした顔をする。
そしてさっきまで奉仕部の部室に居たメンバーが一瞬で顔を逸らす。
俺と雪乃は顔を逸らした先で目が合って、また更に顔を逸らした。何今の恥ずかしいくだり。
いろはが小町にちょいちょいと手招きをして、耳打ちで何やらこしょこしょ。この光景が既にちょっと和む。
間もなくして、二人が小さく『せぇの……』と声を合わせた。
『それでは! 《比企谷八幡と皆さんの爛れた関係を確認する会 第二弾》を始めたいと思いまーす! どんどんぱふぱふ~♪』
入りからえぐかった。
全然和めない。
吐血するのを堪えていると、左手がぺちぺちと叩かれた。
何かしらと振り向くと、留美が膨れっ面をしている。
「八幡……爛れた関係ってなに?」
「うぐ……っ」
答えられる訳がねぇだろうと思って顔を逸らすと、川崎とばっちり目が合った。
川崎は口をあわあわとせわしなく動かし、顔を逸らしてちらりと流し目を送ってきた。
さりげなく色っぽいからたまらない。……や、そうじゃなくて。
「おい、小町、いろは。そのタイトルコールは洒落になんねぇぞ」
ジト目を向けて言うと、小町といろはが並んで同じ向きにくりっと首を傾げた。尋常でない可愛さに雪乃もぴくっと反応して、悔しそうに唇を引き結んだ。なんでだよ。
「お兄ちゃん、それなら何て言えばいいの? 香ばしい関係?」
「それちょっとベクトルが違う」
「おにいちゃん。きちく?」
「お前それただ真似したいだけだろ」
同じガガガだから許されると思ってるのか、ガンガン真似してきますねこの子。
言い方は真似てるけどセリフ自体はかなりやばいし。
「……………………」
……しかし。
この場の空気、どないせぇっちゅうねん。動揺しすぎてキャラがぶれぶれだ。
前回も参加したメンバーを見渡す。
変わったことがいくつかある。
まず、結衣といろはとは、行為の最後まで及んだ。
そしてこの二人と雪乃のことを名前で呼ぶようになった。
そして、めぐり先輩は前回から大躍進して(本人にこの言い方したら顔を真っ赤にして怒られそうだけど)、結構な所まで来ている。
何ていうかもう全裸の関係だ。
全裸って言っちゃったよ。
次に、今回初参加のメンバーを見渡す。
陽乃さんはもう今回マジで怖い。
怖いって言っちゃったけど、怖いもんは怖い。
何を言うか分からないっていうのもあるけど、この人が色仕掛けでもしてこようもんなら例えどんな状況であっても誘惑に乗ってしまいそうでまずい。
これただの俺の理性の問題だな。
由比ケ浜マ――彼女もやばい。今回は何気に爆弾魔……間違えた、ダークホースかもしれない。何についてのダークホースかも分からんけども。
そして留美。前回のめぐり先輩みたいな立場といえばそうだけど、年上と圧倒的年下とでは、この状況に慣れる時間にかなりの差がつくだろう。慣れてほしくもないんだけど。
うん、今日はなるべく留美を守るように動くといいか――
「先輩って、最近わたしのこと寝起きで犯すの好きですよねー」
「おぉぉぉい!? いろは!? 何でそれ今言ったの!?」
決意が一瞬で揺らいだ。
泣きそう。
留美の「え……?」という視線と他のメンバーの「うわぁ……」という視線がアイアンメイデンばりに身体を貫く。それもう死んでんな俺。
「あ、すいません。先輩がぬぼーっとした顔で考え込んでる間、小町ちゃんと色々話してまして。先輩、朝わたしが起きると大体身体を撫で回してますよね?」
「待って待って待って。土下座か。ジャンピング&スライディング土下座すれば良いのか」
射場さん的なね。
「そんなのいいですよー。その代わり単発で寝起きのいちゃいちゃシーンを書いてもらいますから」
「ちょっとメタすぎて何言ってるのか分かんない」
いろはと軽快な(?)やりとりをしていると、いつもならここでとっくに喋っていそうな人が腕を組んで押し黙っていることに気付いた。
「むぅ……」
先生に視線を向けると、難しそうな顔をして唸っている。
「静さん……どうしたんですか?」
俺の問い掛けに、先生はぴくりと反応してほんのり頬を赤らめた。
しかし女の顔はすぐに引っ込めて、先生としての顔に切り替わる。
「静さん、本当にどうしたんですか? いつもならもっと飛ばし」
「こら、やめろ、やめんか、やめてくれ」
怒るというより必死な制止を受けた。制止の三段活用を初めて見た。
本当に何事だろう。
捲し立てるようにして俺の言葉をかき消した先生が、恥ずかしそうにこほんと咳払いをして、視線を隣に滑らせる。
……ああ、そういうことか。
「その、なんだ、教師という立場に居るとな、流石に教え子の親御さんがいらっしゃると……色々と、な」
先生が苦笑いを浮かべる。
……確かに、そりゃそうだよなぁ。びっくりだよ、自分が。
ちなみにお互いの紹介もそれなりにしかしていないので、川崎なんかは先生の言葉に目をむいて、結衣と彼女を見比べて「え!? 似てるなって思ったけど……お姉さんじゃなくてお母さんなの!? え!? 比企谷何してんの!?」という戸惑い兼糾弾の視線を送ってきた。精神が摩耗してゆく……。
彼女は、先生の言葉で初めてぴんと来た顔をして(ほんわかとしてて可愛い)、胸の前でぽんと手を合わせた。
そして頬に手を添えて、にっこり笑って皆を見渡す。
「あらあら~。今は保護者とか教師とか生徒とか、そんなこと気にしなくて良いですよ~」
いつもののほほんとした口調で喋ったかと思うと……視線をつと俺に向けて、妖しく目を細めた。
空気感の落差を皆が敏感に感じ取って、誰かが喉を鳴らす音が聞こえた。
そして。
「ここにいる人はみ~んな……ヒッキーくんの牝なんでしょう?」
『ぶふぉあっ!?』
予想の斜め上にも程がある答えに。
全員が盛大に噴いた。
見渡すと、程度の差はあれど皆して、咳き込みながら「何だこいつ……」という目を向けている。
ちなみにその中に結衣も入ってます。母娘関係ないのねこういう時って。
この人マジでボマーだなと思っていると、先生がこほんと咳払いをした。
「……ま、まあ、それもそうですね。私も比企谷には日々身体の奥底まで貫かれている訳だし」
「静さん。待って待って待って」
「なんだ比企谷。いつもは私が待ってと懇願した所で更に強く腰を打ち付けてくるくせに」
「あんた開き直りすぎだろ!? 俺の性癖をばらすなよ! ああ、先輩、物悲しい目で見ないで!」
先生が見ていて清々しいくらいに晴れやかな笑顔になっている。
いつも通りどころかここまで我慢してた分更にひどくなりそうなんだけど。
「城廻。注意しておけよ。比企谷は一度ハマったらとんでもない獣になるからな」
「え、え、え……!?」
相次ぐ飛び火と流れ弾。
白目になりかけていると、先生が点けた火に、満面の笑みでガソリンを注ぎにくるやつがいた。
「でも、めぐりさんも中々ですよね? だって髪撫でられると他の人と明らかに違った反応をするじゃないですか? あと公園の隅に行ってお口で……」
「わー! わー! わー! こ、小町さん!? なんで知ってるの!?」
「え、当てずっぽうだったんですけど……もしかして当たってたんですか?」
「…………」
めぐり先輩が両手で顔を覆ってやんやんと首を振っている。死ぬほど可愛い。
小町はそんなめぐり先輩を見て「これで夜になると猫耳を生やして下着姿でうろつくようになれば完璧なんだけどなー……あ、でも胸をもっと大きくしないとだめか。お兄ちゃんに頑張って揉んでもらわないとなー」などというツッコミどころしかないセリフを呟いていた。マジこの子なんなの。妹ですよね分かってます超可愛いよ。
「…………」
それにしても。
この時点で、既にかなり疲れている。俺はもちろんだが、女性陣も心持ちしんどそうだ。
帰りたい……あ、ここで寝ればいいのか。やだ皆に襲われちゃうごめんなさい何でもないです。
「八幡……」
「ヒッキー」
「おぉ……」
俺の表情から疲れを察したのか、雪乃が俺の手をにぎにぎして、結衣が俺の頭を撫でてくれた。
幸せで死ぬという危険を今初めて実感している。
……まあ、話は大体こんなもんだろう。帰ってゆっくりするとしよう。
そう思って、ふっと吐息をこぼすと――不意に、背中をふわりとした柔らかい感触が包んだ。
振り返ると、陽乃さんが怪しい笑みを浮かべている。
イヤな予感――を通り越した確信が、疲れた思考の靄を稲妻のごとく切り裂いた。
「比企谷くんはさぁ……クリスマスイブは、誰と過ごすのかな?」
『…………っ!』
蠱惑的な笑みを浮かべた陽乃さんが、甘露のような声音で発した言葉に、その場にいた全員が目を見開く。
あかん。これ、マジであかん。
……わー、もう終わると思ったら……状態が悪化しちゃったよー。
逃げたい。しかし逃げられない。それは分かってる。分かってるけどそれでも逃げたい。
「……おぉぅ……」
リビングの中が、互いを牽制するような空気に染まっていながら、雪乃と結衣は俺を労わる手を止めないのがシュールすぎた。安らぐんだけどね。
何気に留美も左手をにぎにぎしてるのに気付いて超和んだ。どっちにしろこの空気はやばいんだけどね!
「……っ」
メンバーの一部が陽乃さんの言葉をきっかけに、明らかに顔つきを変えとぺろりと舌なめずりをした。
この後の展開を考えただけで、得体の知れない感覚がぞくりと背中を駆け抜けた。
続く。
好き放題とはこのこと……。
もうしばらく、好き放題続きます。
それでは、また明日ここでお会いしましょう(^^)!
今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!