気まずい。
こんな言葉を一言目に持ってきてしまうくらい、抜群に気まずい。
あーどうしよう。
俺の背中に抱き付いた陽乃さんの発言により、この会の目的が「比企谷八幡との関係の進捗報告」から「クリスマスイブはこいつ誰と過ごすんじゃいこら、ケリつけたるさかい」になった。
後者の口調が荒いのは今この場の空気を察してのものです。流石にちょっと盛ってるとは思うけど。
「さーて、どうなるかなぁ……アピール合戦だね」
「んむっ」
陽乃さんが離れ際に俺の首の向きを変えて、軽く触れるだけのキスをして元居た位置に戻った。
おのれ……本編で覚えてろよ……あと唇柔らかいな……。
陽乃さんに向けてぐぬぬと唸っていると、留美が俺の左手を小さな両手できゅっと握った。
視線を向けると、頬を朱に染めて目を泳がせている。
「私は……別に……八幡となんて……」
これが。
ツンデレか。
ちらちらとこちらを見ては恥ずかしそうに目を逸らす留美があまりにも可愛くて、反射的にその頭をぽふぽふと撫でた。
留美は何も言葉を発することなく、とろんと気持ち良さそうに目を細めた。やだ癖になる……。
「ひゅおぉぉぉ……」
なんか変な声が聞こえると思って視線を巡らせると、小町がえびみたいな恰好で悶え狂っていた。えび反りというか本当の海老の方。
なんかこのまま後ろ向きにぴょんぴょん進んでいきそう。あれって非常時限定の動きらしいな。超どうでもいいなこの情報。
「むふぁぁぁぁ……義妹かぁ……それもありなのかも……可愛いし」
すごい悩んでらっしゃる。
「お兄ちゃんの倫理観にはこの際目を瞑って……」
いらんこと言うな。こちとら常に通報の危機と闘ってるっつの。通報の危機って言っちゃったよ。
純粋無垢な少女に兄妹揃って撃ち抜かれていると、留美が身体を近付けて、自分の頭に乗っている俺の手に小さな両手をぽふんと重ねた。
「……で、でも、八幡がどうしてもって言うなら……」
「がふぁっ」
「八幡!?」
頭の上で手を重ねての上目遣いというコンボは予想外の凶悪さで、思わず吐いた。砂糖を。
や、やべぇ、留美は結構どころかかなりアリなんじゃないかと思えてきた。
良いじゃん、クリスマスイブにささやかなパーティーを開いて、ささやかなプレゼントを交換し合って、ケーキ美味しいねと言い合って……どうしよう、幸せしか見えないぞ!?
それでパーティーが終わった後は……。
……パーティーが終わった後は……?
…………。
自分を殴った。
「八幡!?」
頬に食らわせたのはビンタだったんだけど、煩悩を必死で振り払う俺を留美が血相変えて心配してくれた。
ちなみに雪乃と結衣は「引くわこいつ……」という目で見ている。付き合いが長いとそうなるよね。
「八幡……どうしたの? 大丈夫?」
いつになく優しい口調で頬をさすってくれる留美。
俺の属性って半分アンデッドみたいなもんだから、撫でられている頬が癒える代わりにダメージが他の部位に来てる感じがする。足の先から灰になる感じ。
留美がさりげなく第一候補に躍り出た所で、視界の隅で先生と由比ヶ浜マ――彼女が何やらこそこそと相談しているのが見えた。
ざわり。
× × ×
一段落して、身体にどの異性も触れていない状態になると(すごい表現だ)、先生と彼女がぱっと同時に俺を見て、にやりと目を細めた。
そしてすっくと立ち上がり、とととと足早に俺に迫ってくる。
留美も雪乃も結衣も、危険を察知したのか速やかに退避した。良い判断だ。
先生と彼女は俺の両脇にすとんと座り、不自然なくらいにこにこしている。正確に言えば彼女は割といつも通りで、先生はいつもよりエロ邪な笑みを浮かべている。
……「えろよこしま」って表現、超怖いなこれ。
「ヒッキーくん」
「比企谷」
「は、はいっ」
『目を閉じて』
「? はい……っ?」
横から同時に呼びかけられてびくっと反応して、言われるがままに目を閉じる。
むにゅん。
「……んん……?」
手が、正確に言えば前腕の半分くらいまでが、何か柔らかいものに包まれた。
……これってまさか……。
カッと目を見開くと、案の定、先生と彼女が胸元を大きく開いて、その中に俺の手を収納していた。なんでそんなに優しい表情をしてるんでしょうか。
ツッコむべきことはたくさんある。それは分かっているんだけれど。
「ほふぅ……」
思わず、温泉に浸かっているかのような声が漏れた。
極楽浄土を味わっていると、向かいからジト目の圧力を感じる。
「むぅ……」
いろはが嫉妬しているような、ごみを見ているような、複雑な感情(ただし全て負の感情)がこもった顔をしていた。
「いろは、その感じ久しぶりだな。最近デレてばっかりだもんな」
「なんですか先輩こういう目で見られるの好きなんですかやっぱりそうですよね先輩ってほんと変態ですえっちしてる時もわたしが『ばかぁ……っ』て言うと毎回物凄く興奮してますもんねほんと変態ですでもそんな所も大好きですずっとそばにいてください」
「性癖を暴露した上にプロポーズだと!?」
両手が年上爆乳の谷間に埋まった状態で。
後輩にどさくさまぎれのプロポーズをされた。
TPOがこれ以上合っていないプロポーズがこの世にあるだろうか。
事態の急展開具合に付いていけず白目になりかけていると、結衣と川崎が俺の近くまで来て、何やら話し合っている。
「沙希。あたしたちもやろう。腕は埋まってるから……足かな?」
「え、ええ!? それは流石に……」
「待て待て待て待て。やるなら足じゃなくて顔にしてくれ」
巨乳に四肢を挟まれるって何の罰ゲームだよ。すげぇ気持ち良さそうだけど。
一応真っ当なツッコミをしたつもりだったんだけど、先生と彼女の後ろ側から、強烈な二つの冷気を感じた。
ぞっとして視線を向けると、雪乃と留美がそれはそれは恐ろしい表情で睨んでおった……。
思わず日本昔ばなしテイストになるくらい動揺している。留美、お前まで……!
『八幡……?』
あかん。
絶対零度の瞳が四つ。
雪女コンビの誕生である。
やめろ、そんな目で見るな! あと自分の胸に手を添えて「私だって……」なんてセリフを呟くなよ! しかも二人共全く同じことやってるし! 可愛いなぁもう!
あらゆる方向からあらゆる攻めと責めを受けていると、視界の端で陽乃さんとめぐり先輩が隣り合ってこちらを見ていることに気付いた。
陽乃さんはにやりと口の端を吊り上げていて、めぐり先輩は優し気な苦笑いを浮かべている。
「比企谷くん……。…………」
「先輩、せめて何か言ってください……っ!」
切実な懇願だった。
× × ×
ちょっと時間が経ったんだけど、未だに何も解決していない。
依然として二本のれいとうビームが飛んできているし(たぶん80回くらい死んでる)、先生と彼女は胸をどう動かすと気持ち良いのかを勝手に話し合っている。
先生が「こうですか?」と言いながら互い違いにたわわな乳房を動かすと「そうですね~、ゆっくり動かしてヒッキーくんが気持ち良さそうな所を探すと良いですよ~」などとアドバイスをしている。
本当に何これ。今後が楽しみでしかない。
どうしたものかと途方に暮れていると、めぐり先輩がすっと立ち上がった。
「雪ノ下さん、紅茶でも淹れてひと息入れない?」
「あ……はい」
雪女モードを解除して(心持ち髪の毛が浮いていたのは気のせいだろうか)、雪乃が戸惑い気味に頷く。めぐり先輩は嬉しそうに頷くと、今度は留美に顔を向けた。
「えーっと……鶴見さん、だよね? あなたも手伝ってもらっていい? 雪ノ下さん、紅茶を淹れるのが上手だから、習ってみると良いよ」
「あ……はい」
雪乃と同じ流れで、留美も答える。
答える時に俺をちらちら見ては迷っていて、内心悶えたのは内緒。
三人で行こうかという運びになりかけた時、今度は陽乃さんが立ち上がった。
「めぐり。わたしも行くよ。雪乃ちゃんがちゃんと淹れることが出来るか見てみたいしね~」
「鬱陶しい……」
雪乃が物憂げにため息を吐くのを見て、陽乃さんが笑う。
そして俺と、何故かいろはをちらりと見て、にっこりと笑った。
笑みの意図が分からぬままに、陽乃さんはめぐり先輩、雪乃、留美の三人を促してキッチンへと消えて行った。
リビングのドアがぱたんと閉まり、束の間の静寂が訪れる。
……んん?
……これ、まずくない?
気付いたところで、後の祭りとでも言おうか。
自分に注がれる視線が、不意に獣性を帯びた。
続く。
書いてて楽しいっす……!
それでは、また明日ここでお会いしましょう(^^)!
今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!