「……やっぱり。八幡だ」
驚きで目を見開いたままの少女が、もう一度確認するように呟く。
鶴見留美。
夏休みの千葉村で、彼女を取り巻く人間関係を破壊して。
海浜総合高校との合同クリスマスイベントで再会して、ほんのわずかばかり距離を縮めた気になって。
春を迎えた今、3度目の邂逅だった。
「……八幡、久しぶり」
「……お、おう」
留美の成長が見える、慣れないなりに気を遣ってくれた挨拶に、俺はまともに答えることが出来ない。
何故なら、彼女がたった数ヶ月であまりにも成長していたから。
別に、一気に身長が20cm伸びたとかそんな成長期の男子みたいな話ではない。
雰囲気込み込みで、様々な変化が起きていた。
まず、彼女がこの近くでよく見かける中学のブレザーの制服を着ているのに驚く。
流れるような黒い艶髪は健在で、俺の拙い返事に対して首を傾げた時にさらりと揺蕩う様に、以前までとは違う艶っぽさを感じて陶然とする。
顔つきや表情は更に大人びたものになっていて、雑誌の表紙に写っていたとしても何ら違和感の無い程美しい。
あとは……。
…………。
「……八幡?」
「うぼごろっぴぇ」
「何言ってんの? キモい」
突然覗きこまれて、幻影旅団に襲われたマフィアばりの奇声を上げたら、突き放すような冷たい言葉を浴びせかけられた。留美の罵倒……これ、冗談抜きでハマってしまう人がいるんでないだろうか。切れ味がえげつないんですもの。
まあ、ある部位の成長に目が行ってたなんて口が裂けても言えませんけどね!
「……八幡、今どこ見てたの?」
「なんでもなーいーなんでもなーいー」
「……何その歌」
世代の差か、誤魔化しで歌ったあずきちゃんのOPも冷たくあしらわれた。ごめんよあずきちゃん……。
何とか話題を逸らして(すげぇ睨まれてるけど。すげぇ睨まれてるけど)ふぃーと息を吐く。
改めて、留美をきちんと見る。話す時の視線の高さの差は、前よりも縮まっていた。
……綺麗な睫毛だなぁ。
や、そうじゃなくて。
「お、こほんこほんけぷこーん。……久しぶりだな、ルミルミ」
「だからルミルミ言うな。キモい。あとその咳払いなんなの? 人間?」
「…………」
腹いせに材木座をぶん殴りたい。
千葉村で会った時から、ルミルミは(腹立つから地の文ではルミルミと言うことにする。地の文って言っちゃった)ミニ雪ノ下という印象があった。
そんなルミルミが美しく成長した事で、一層雪ノ下に近付く部分もあれば、そうでない部分も出てきた。
うん、特定の部位については雪ノ下が見たら泣きそうだから今度言ってやろうかしら。俺最低すぎて清々しいな。
ちなみに毒舌は雪ノ下のボキャブラリーを除いて刃先を鋭くした感じ。成長したら言い回しが増えそうで怖い……。
「…………」
それにしても。
久しぶりにあって、この連続毒舌は中々しんどいものがある。材木座なら1週間くらい家に引きこもるまである。俺材木座を話に出しすぎだろ。好きかよ。嫌いだよ。
「まったく……久しぶりに会ったっていうのに……八幡、ひどすぎ」
留美(地の文でルミルミと言うのが飽きた)が眉根を寄せて、ため息を吐く。
「お前……な……っ」
追い打ちをかけすぎだろうと思い反論しようとしたら――さりげなく髪をかき上げる仕草に思わず見惚れてしまった。
え、あれ、この子中一ですやん? なんでこんな綺麗……え?
まあ、娘が綺麗に成長したようなもんだ。嬉しい限り。ちなみに妹の座は小町が永久に確保しているので空きは無い。
髪をがしがしと掻いて、仕切り直し。
「わりいな、留美。久しぶりすぎてはしゃいじまった」
「なんではしゃぐの……まぁ、良いけど」
ついっと顔を逸らす彼女の顔は、不機嫌に見えて実際はどこか嬉しそうだ。
さて、ここからどうしたものか。
会って気ままに長いこと話す友達なんて俺には戸塚くらいしか居ないし(材木座は除外する)、かと言って立ち話をするにはこの時間帯は――
「くしゅんっ」
……寒いよなぁ。
両手で覆って口元を上品に隠した留美の頭を、何とはなしにぽんぽんと撫でる。
「……寒いよな。早めに家に帰っとけ。じゃあな」
「え……?」
留美が大きく目を見開いた。や、なんでって顔をされても……。
時刻を確認する。夕飯時にはまだ早いが、それでも用が無いなら早く帰るに越したことはないだろう。わざわざ親御さんを心配させる必要は無い。
「ちょ、ちょっと……」
何か言いたそうな留美を見て、もう一度ぽんぽんと頭を撫でる。ううん、撫で心地が良い……。
「なんか用事があったのか? あるんなら早めに済ませとけよ。お前可愛いんだからすぐ絡まれるぞ。俺が手伝えるなら周りに怪しまれない程度に手伝うし」
「……………………」
「……え?」
なんか、留美が急に後ろを向いてぷるぷる震えだした。気に障ること言ったかしらん?
「……………………」
ルミルミ、引き続き無言。
「……………………」
小さな背中を見つめる俺も、無言。
「……………………」
「……………………」
「……………………」
「……………………」
「……………………」
……賑わう往来で、何をやってんだ俺たちは。
しばらく黙りこくっていた留美だったが、俺がじーっと観察しているの気配を感じたのか、振り向くと小さく「……変態」と呟いてこほんと咳払いをした。罵る言葉のチョイス……。
「……別に、大丈夫。用事はもう済んだし」
言いながら、留美がすいとスマホを取り出す。何か買い物のメモでも確認したんだろうか。
「あ、そうなのか」
「うん……今はもう、目的は果たしたから」
「……? まあ、そっか。それなら家に」
「八幡、久しぶりに会う女の子とお店でじっくり話さないってどういうこと?」
「えぇぇ……?」
絶望の吐息に陰鬱の声音が乗った。
あ、やべ、留美が怒ったっぽい。背後がちりちりしてる。
「や、お前、今からどっか行ったら俺と晩飯食うことになるぞ。流石に親御さんに」
「お母さんに連絡しといた。良いよって。ただしなるべく早く帰ってくるようにって」
「…………」
いつの間に? あ、さっきのスマホか。手が早いお嬢ちゃんですねぇ……。
外堀を手際良く埋められていることにぐぬぬと唸っていると、留美が何か迷うように俯いて、やがてゆっくり顔を上げた。
「……ずっと、話したかったことがあるから」
その言葉に、途端に気持ちが揺り動かされる。
「……っ。……しゃあねえな」
留美の表情は真剣そのもの。乗らない訳にはいかないらしい。生憎こっちは暇してるし(勉強のことは除く)。
スマホを取り出して、小町に電話をする。
ご飯は外で食べると言ったら「だれと!? ねえ、だれと!? ☆☆☆」っていうハイにも程があるテンションで尋問された。超うぜえ……可愛い……。
留美の様子を見る限りあまり待たせたくはないし、話の内容によってこれからの雰囲気はだいぶ違うだろう。
中途半端な説明は避けて、小町には「後で説明してやるよ」とだけ言って切った。ううん、後が怖い……。
俺が電話を切って頷くと、留美が小さく顔を綻ばせた。感情をそのまま素直に表さない、表せないこの子の性格が見て取れていじらしい。
「八幡。ほら、行くよ」
「なんでペット扱いになってんだ俺は……。ていうか場所は」
「そんなの八幡が決めて」
「はいはい分かりましたよっと……」
俺の数歩先を歩く留美を見て、どこか楽しそうな様子に安心する。
俺がこの子にしたことは、今でも正しいかどうかは分からない。
けれど、今この子はこうして笑っている。
願わくば、いつもいつでもとは言わずとも、この子がこうして笑顔でいられますように。
「八幡、早く決めて」
「へいへい……」
……わがまま姫だけど、笑顔でいられますように。
サイゼで良いかなぁなどと考えながら、ぼんやりと空を見上げる。
もうすぐ沈みそうな夕陽を見上げて、過去から現在に渡ってぐるぐると渦巻き続けている思いを茜色の空にそっと溶かした。
続く。
<業務連絡>
明日は仕事と用事でまるで時間を取れないので、久しぶりに休載します。いつでも休めるしーと思ってたら、前休んだのが10月28日でした。あらまあ。
閑話休題。
ルミルミ編第2話でした。いろはす最終話手前~最終話に引き続き、沢山のご感想ありがとうございます。ちょっと今返信の余裕が無いので申し訳無いですが……逐一読んで元気を頂いています。ありがとうございます。
ルミルミのキャラ及び2人のやりとりはまだまだ模索中です。原作でのルミルミの特徴を一つずつ切り取って描写して、この場面ならこうするかなという想像をちょっとずつ足していって、どう書けばとびきり可愛くなるか模索します。
それでは、また<明後日>ここでお会いしましょう(^^)!
今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!