※この作品はR-18です。

俺ガイル 日常の何気ないエロス。   作:高橋徹

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(3)

 自転車を駐輪場に停めて、留美と一緒に見慣れた街をぽてぽて歩く。

 俺を急かすように数歩先を歩く留美の表情は明るく、なんだかご機嫌が良い様子。

 うん、やっぱりこの子は可愛いし美人になる。引く手数多になるだろう。もうちょっととっつきやすい性格になれば言うこと無しだ。……俺、何様なのん?

 

「ねえ、八まふっ」

「あ」

 

 どこに行ったら良いもんかと辺りをちらちら見まわしていたら、急に立ち止まってくるりと振り返った留美に突っ込んでしまった。まふっ。

 二人の体格差から、俺が留美に突っ込んだというよりも留美が俺に突撃してきたように見えてしまう。

 

「……痛い」

「わりぃ。大丈夫か?」

 

 綺麗なおでこをさすさすと撫でながら、ぶすっとした声音で留美が呟く。なんで俺の胸元から離れないのかは分からないんだけど……。

 留美が顔を上げると、綺麗な眉がくいっと寄せられていて、ご機嫌斜めになっているようだった。むーと頬を膨らませているのが年相応に可愛らしい。目つきはわる……怖いけど。言い直した意味あんまねぇな。

 

「ごめんって。な?」

 

 もう一度謝って、いつの間にか俺の制服の裾を摘んでいる留美のおでこをそっと撫でる。つるつるの肌にこぶが出来ていないことを確認して、ほっと胸を撫で下ろした。

 俺が撫でると留美は気持ちよさそうに目を細めた。妹接待スキルは今日も健在である。

 しばらくとろんとしていた留美が、はっと我に返ってぽっと頬を赤らめた。踵を返してててと数歩離れた所でゆっくりと振り返る。おでこをさすりながら、不機嫌なような、恥ずかしがっているような、嬉しがってるような――そんな、いくつもの感情が混ざった不思議な表情をしている。

 

「……仕方ないから許してあげる」

「や、お前、さっきのはお前が急に振り返るから――」

「お前じゃない、留美」

「……さっきのはルミルミが」

「だからキモいって」

 

 留美が口ではきついこと(変にぞくぞくするんだけどこの気持ちは何だろう)を言いながらも、ふっと呆れ笑いを漏らした。

 とことこと留美の下へ歩いていき、頭をぽんぽんと撫でる。

 

「サイゼが見えた。あそこにしよう」

「…………」

 

 その不満げな顔は、あなた様の頭に置いている手に対してのものでしょうか、それともサイゼに対してなんでしょうか……。

 しばらく俺をじっと見ていたかと思うと、俺の手に留美がぽすりと手を重ねた。

 

「……しょうがないな。行ってあげる」

「お前な……」

 

 何このわがまま全開のお姫様……?

 呆れるように見ていると、俺の手を頭からぺいっと離して、てててと駆け出した。そして元気良くくるりと振り返ると、艶やかな黒髪がふわりと舞った。

 

「ほら、八幡。行くよ」

「だからなんでペット扱いなんだよ……」

 

 俺のツッコミを聞きもせず、楽しげに微笑んで留美が駆け出す。

 留美の笑顔を見る度に、心の奥底に沈殿して凝固していたものが少しずつ解けて、心が軽くなって行くような気がした。

 

       ×  ×  ×

 

「いらっしゃいませ。何名様ですか?」

 

 入口で元気の良い女性店員に人数を聞かれる。意味は特に無いが、ちらりと振り返って半歩後ろにいる留美を確認して、2人ですと答える。

 

「あっ、はい、かしこまり……ました。禁煙席でよろしいですか?」

 

 んん……?

 テンプレートの会話の中に、微かなノイズが混じる。店員に2人って伝えた時の反応は一体……?

 もう一度振り返って、留美の顔を見る。

 ……ああ、そりゃそうか。

 

 店員に案内されて、留美と向かい合って座る。夕飯時にはまだ早いからか店内は空いていて、近くのテーブルには誰も他の客はいなかった。仕切りもあるために入口側からも見えない。留美とちょっとした打ち合わせをすることに急遽相成ったので(自分の脳内で)、こういう状況になるのはありがたい。

 留美はというと、外を歩いていた時と比べて今は幾分落ち着いている。店員や他の客という、他の人の目があったからだろうか。さっきはさっきで往来の人の目はあったんだけども。

 

「……留美、一つ決めておいて良いか?」

「なに?」

 

 メニューをじっと見ていた留美がついと顔を上げる。何をそんな熱心にと思ったら間違い探しか……。後でこの子より先に全部見付けた上でルミルミって呼んでやろうかな。性格悪すぎるだろ俺。

 テーブルの上で手を組んで顎を乗せ、ゲンドウモードになる。

 

「人前での設定として、留美は雪ノ下の妹で、俺は今日雪ノ下にお願いされて留美と遊んでる、ってことにしておいてくれ」

 

 言うと、留美がぶすっと不機嫌そうに頬を膨らませた。さっきの不機嫌さの15割増しくらい。要するに怒ってる。

 

「……なんで」

 

 こわっ。ルミルミさんマジこえぇっす。

 もうちょい怒ったら氷の城が作れるんじゃあるまいかと思うくらい、ピリッピリにピリついている留美を見て慎重に言葉を選ぶ。

 

「や、さっきの店員の反応見ただろ? 高3男子と中1女子が2人で飯食ってるって状況は周りから見たら中々奇妙だぞ。全然似てないから兄妹とも言えないし。だからそういう設定にしといてくれ」

 出来るだけ穏やかに、留美を宥めるように言う。

「……だからって、何であの人の妹なの?」

「それはアレだ、お前と雪ノ下ってなんか似てると思ってたからだ。数少ない共通の顔見知りだし」

「? 似てるって……友達が少ないこと以外に似てるとこある?」

「それ自分で言うと哀しくなるぞ……」

 悲しいではなく哀しいというのがポイントな。

「? なんで? 私はそんなに友達はいらないからそうしてるだけだよ。八幡と違って」

 

 流れ弾が身体を透過して心を抉る。

 俺の心を抉っても留美自身はけろっとしたもので、「何をそんなにダメージを受けているの、この衆愚は?」くらいの表情で首を傾げている。末恐ろしいっていうか既に今ももう恐ろしい。

 精神的ダメージから回復を試みていると(回復法:戸塚のことを思い出す)、留美が眉をひそめて首を傾げた。

 

「他には?」

「他って……ああ、そのことか」

 

 相変わらず、ちょこちょこと言葉が足りない子だ。慣れない人の前だと、テンパって噛みまくりながらも何とかしようとしてしまい、思い付くままやたらめったらと喋って駄々スベりする俺とは大違いだ。これ俺の方が重症だな。

 ほんの一瞬だけ留美が置いたメニューに視線を逸らして、留美の目を見る。

 

「あとは……アレだ、留美は可愛いからな」

「……っ」

 

 言うと、留美は俺を見たまま耳まで真っ赤にして、素早い手つきでメニューを取って物凄い速度で読み始めた。ファミレスのメニューの速読って初めて見た……。

 これでも尚ダメージが受け流せなかったのか、メニューをばふっとテーブルに置いてすっと立ち上がった。

 

「お、おい、留美。どうし――」

「み、水。ほら、八幡、。水取ってきてあげる。水好きでしょ?」

「や、俺にそんな設定はな――」

 

 俺の言葉を二連続で最後まで聞かぬまま、未だに茹でダコ状態の留美がぱたぱたと行ってしまった。忙しい子だなぁ。

 ……ていうか、あのリアクションは可愛すぎるだろ。なんだあの破壊力……。

 

       ×  ×  ×

 

 水を取りに行くにしては妙に時間が経った後、留美が戻ってきた。

 

「…………」

 

 席に着くと、留美がさも私は全くもっていつも通りですよと言わんばかりに冷静な顔をしていた。まあ、あまり追求したら本当にこの建物が氷の城になりそうだからやめておこう。

 ……って、あれ?

 

「なあ留美」

「……なに?」

 

 ケンカ中の恋人に話しかけた時ってこんな感じなのかなと思う程、抜群に分かりやすいリアクションをされた。しかしこれは言わねばならぬ。

 

「……水は?」

「…………」

 

 物凄く滑らかな動作で立ち上がって、スタスタと足早に歩いていった。なんだろう、どっかで落ち着くまでずっと深呼吸でもしてたんだろうか……。

 

       ×  ×  ×

 

「はい、水」

「あ、ああ、ありがと」

 

 不機嫌な顔をしながらも、留美は水の入ったコップを丁寧にテーブルに置いた。話しかけづらい雰囲気に俺の返事も浮つく。

 席に着いた後も、二人きりだというのに俯いて顔を上げもしない。

 な、なんだろう、この倦怠期の夫婦みたいな空気感は……。実際はただの5つ下の知り合いなのに、こんな空気感が出せるものなのか俺たちは。やるな。何がだよ。

 

「……メニュー、決めたら」

 

 すっとメニューが差し出される。ちっちっちとわざとらしく(&鬱陶しく)指を振ると、留美が眉根をきゅっと寄せた。いかん、火に油を注いだ感が。

 

「俺は頼むものは毎回決まってんだ」

「ふぅん」

 

 すげぇサラリと流された。つら。

 俺に渡そうしたメニューを、留美は二人の間に置いて両方から見えるようにした。

 

「私、あんまり来たことない。何かおすすめはある?」

 

 言われて少し驚く。

 ファミレスのメニューなら、色鮮やかな写真を見て決めればいいだろう。それをわざわざ聞こうと言うのは、大なり小なりコミュニケーションのきっかけを掴もうとしているように思える。

 留美の成長に一人感動していると、留美がジト目で睨んでいることに気付いた。

 

「……早く教えて」

「お、おお、わりぃ」

 

 ふえぇ……怖いよぉ……。

 留美がメニューを覗き込もうと身体を前に乗り出したのに合わせて、俺も少々テンパりながら身体を前に乗り出す。

 

『……あ』

 

 気付けば二人の顔が目の前まで近付いていて、二人同時に小さく声を上げた。

 

「わりぃぐぇっ」

 

 謝りながら顔を離そうとしたら、それより先に留美がメニューをむんずと掴んで顔を隠した。留美がメニューを手元に引き寄せる軌道に俺の顔が入っていて、ばっちりはたかれた。精神的な流れ弾に引き続き、今度は物理的な流れ弾だ。

 

「あ、ご、ごめん……大丈夫?」

 

 メニューで顔を隠しながら、留美がちらっと目だけ覗かせる。何このフェアリー超可愛いんですけど。しかしやらかしたことは結構凶悪だ。

 

「あー、大丈夫。びっくりしたけどな」

 

 凶悪なやり口(言い方が悪い)ではあったが、実際問題メニューが当たったくらいで傷が残る程人類は脆くない。無駄に話の範囲を広げてしまった。

 留美は俺の言葉を目だけ覗かせたままで聞いて、やがてゆっくりとメニューを除けて顔を出した。

 

「……その、ごめん」

「や、だから気にすんなって。ほれ」

 尚も反省する留美にちょいちょいと手招きをする。

「……?」

 

 不思議そうに身を乗り出した留美の髪を、同じように身を乗り出してくしゃりと撫でた。そのまま梳くように撫でてやると、留美が気持ちよさそうに目尻を下げた。

 

「……八幡。これ……ずるい」

「ずるいって何が?」

「……何でもない」

 

 何が言いたいのか分からぬまま、留美がすっかり身を委ねてきたのを良いことに結構な時間頭を撫でていた。最近小町を撫でていない分を全力で発散した形だ。

 さらさらの髪と小さな頭の撫で心地は中々のもので、夢中になる余り店員が「あの……ご注文は……」とそろりとやってくるまでずっと撫でていた。店員が来た瞬間の二人の動作速度は尋常じゃなかった。

 

 

 

 続く。

 




ルミルミが言いそうなこと、やってて自然に見える且つ可愛い動きを模索中です。

明日からはちょっと久しぶりに他ヒロインのエロゾーンに突入します。

それでは、また明日ここでお会いしましょう(^^)!
今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!
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