留美と久しぶりに会った日の夜。
家でいつも通り小町の愛妻料理を食べ、いつも通りに振る舞っているつもりが「お兄ちゃん、なんか顔ゆるゆるだよ? 気持ち悪いけど大丈夫? 病気?」と言われ(病気ではない)、自室である程度納得が行くまで勉強をして、今は寝る前のうだうだタイムを謳歌している。
途中の小町の罵りのダメージが地味にでかい……。
すいすいとスマホを弄っていると、ぽへーんとLINEの通知が来た。
まどろんでいるから効果音もふにゃりとした感じで聞こえる。
アニメでファイヤーシスターズの参謀担当が鬼畜変態の兄に抱きしめられた時の声くらいゆるゆるだ。今の例え超どうでもいい。
画面を見ると、案の定そこには『鶴見留美』と表示されていた。
あの子以外に連絡が来る当ては無いし、予想通りだ。何それ泣いちゃう。
少しばかり緊張しながら、トーク画面を開く。ぱひょっとね。
『八幡』
らしい一言目だ。
『おう』
『(スタンプ)』
ディスティニーキャラがフランクに挨拶してきた。何この子可愛い……。
『(スタンプ返し)』
アルカがナニカになって返事をしているスタンプで返してみる。
『キモい』
えぐい。
『おい、泣くぞ』
ぱぱぱっと返信をすると、少し間を置いて返信が来た。
『じゃあ、また撫でてあげる』
「うぐっ」
…………。
変な声を出して。
ベッドの上を転がった。
なんで忘れてたんだ俺。
そうじゃん。そうじゃん。
俺、年下の女の子の前で泣いて、しかも撫でて慰められてんじゃん。
はーん! 死にたいねぇ! 死にたいよ! このキャラ何なんだろうねぇ!
ベッドでしばらくぎしぎしごろごろ言っていると、隣の小町の部屋から強烈な壁ドンをくらった。『どん』っていうか『がどんっ』って感じ。後ろ回し蹴りでもしたのかしらん。
「…………」
何となく、今のメッセージを打った留美が幸せそうに微笑んでいる画が浮かんで、想像しただけで心がぽかぽかと温まった。
気を取り直して、すいすいと返信を打つ。
『うっせ。そしたら撫で返してやる』
大人げガン無視の返信である。マジクール。
少し間を空けてしまったけど、留美は待ってくれていたのか、すぐに既読がついて返信が来た。
『よろしく』
おうふ、この子文面だと強気なんですかね。
『言ったな?』
ちょっと、というかかなり変態仕様になったなとは思いつつも返信。
『変態』
ごもっともです。
『そんなことより』
『なに? 変態』
『待て待て、俺の呼び方を変態に改変するんじゃねえ。泣くぞ』
あ、勢いでまた書いてしまった。
『変態を撫でる趣味は無いんだけど』
『変態じゃなかったら撫でてくれるのか』
なんか更に変態性が増したぞおかしいな。
『八幡ならいくらでも撫でてあげる』
『よろしくお願いします』
『うん』
あれ、テンポ重視で会話してたら、いつの間にか俺が留美に撫でられるのを予約してたぞ? なんでだ?
『なんか俺、変態にしか見えないんだけど』
『今頃気付いたんだ』
『待て待て待て』
画面の向こうの留美が悪い笑みを浮かべているのが手に取るように分かった。
『そんなことより』
『なに? 変態』
『戻ってる。戻ってるから』
いいように弄ばれている。
『明日のこと、決めなくていいのか』
変態トークから逃れる為にも、本題に切り替えることにする。
この会話が何気に楽しいから少しもったいない気もするけど、楽しいと引き換えに変態という悲しい烙印を押されたくはない。既に手遅れな気はするけど。
なるべく本題を引き伸ばして、変態云々を忘れさせよう。
変態って書き過ぎて余計に変態になってる気がするけどまあ良いや。
『明日は放課後に総武高近くの公園の噴水前に集合。以上』
『俺の意思は何処に行った』
『変態の意思?』
一瞬で本題を締められて、これまた一瞬で話題を引き戻された。
『おい。その言い方やばい匂いしかしねぇだろうが。ていうか変態変態言うとお前も変な感じになるぞ』
『私は八幡と違って変態じゃないから大丈夫。あとお前じゃない、留美』
もはや決定事項らしい。ちゃんと訂正も入れるという手際の良さ。
『なんかあれだな』
『なに』
『こうやって文字で会話すると、いつもより会話出来るな』
少しばかりの間が空く。
『そうかも』
『何だかんだ、留美と話した時間って今日以外はまだあんまり無いし、段々慣れると良いなお互い』
会話は少ないが、その一回一回がとても印象的ではあるんだけど。
それでも、まだ圧倒的に会話量は少ないのは確かだ。
そんなことを考えていると、返信が来た。
『私は、今まで八幡と話したこと、はっきり覚えてる』
「…………」
留美も、同じことを思ってくれていたらしい。なんだか、妙にくすぐったい気持ちになった。
『俺もだ』
頭をがしがしと掻いて、次に打つ文を考える。
わがまま姫の指示で明日会う事には、いつの間にやらまるで抵抗が無くなってしまっていたけれど、それはそれでありなのかもしれない。
しばし考えて、文字を打つ。
『もっと仲良くなれたら良いな』
留美の既読がつく。
留美が返信を考えているであろうタイミングで、ふと思い出したことを打つ。
『あと、留美。綺麗になったな』
これがいけなかったのだろうか、既読がついた後、30分程返信が来なかった。
今日は諦めて寝ようかと思った時、手短に、
『ばか』
『おやすみ』
と、二言が送られてきた。可愛いやつめ。
『留美、どうしたの? お部屋から変な音とか声が聞こえたけど』
『何でもない。お母さん、何でも無いから』
『? 留美、顔赤いわよ? 熱でもあるの……あ』
『……なに』
『ははぁ~……さては……』
『……っ。もういい、もういいから。おやすみ、お母さん』
『うふふ、おやすみなさい』
× × ×
翌日、朝起きると留美からディスティニーのキャラが英語で挨拶しているスタンプが送られてきていた。
ナニカのスタンプで返すとすかさず『キモい』と言われて満足すると(この言い方、誤解無くやばい)、軽やかな気持ちで出発の準備を始めた。
春特有の浮ついた空気感が漂う教室で授業を受けると、それはそれは心地良い眠気に誘われる。昨日は留美とLINEをしていた時間帯も健全な時間だったのできちんと寝てはいるんだけど、春の眠気は別腹だ。眠気の別腹ってタチ悪いな。
「ヒッキー、もう昼休みだよ」
肩をとんとんと叩かれて顔を上げると、由比ヶ浜が苦笑いをして立っていた。
あれ、さっきの地の文は夢の中だったのだろうか。やだ斬新……。
「ヒッキー、いくら数学の授業だからって寝すぎだって。昨日あんま寝てないの?」
「や、いつも通りそれなりに寝た。あれだ、春の眠気は別腹だ」
言うと、由比ヶ浜がきょとんとした顔をして、それからくすりと呆れ笑いを浮かべた。
「あはは、何それ。でもそれわかるかも……くぁぁ……っ」
俺の眠そうな顔と言葉に釣られたのか、由比ヶ浜が両手で顔の下半分を隠してあくびをした。なんだそれ可愛いな。
目尻に浮かんだ涙をこしこしと拭って、由比ヶ浜がてへっと笑う。
「ヒッキーはいつものとこでご飯食べるの?」
「そうだな。お前は部室か」
予定調和の会話のつもりだったのだけど、俺がそう言った途端由比ヶ浜の目がどんよりと曇った、というかもはや腐った。
わ、すげぇ。小町もそうだったけど、どんな女の子でも目が腐ると可愛くなくなる……。
「……喧嘩でもしたのか」
一体どのタイミングでしたのか気になるところではあるが……と思いながら尋ねると、由比ヶ浜はぷるぷると首を横に振った。
「ううん、違うの。この間の小テストの結果をゆきのんに見せたら……すごい青ざめた顔しちゃって。『ゆきのん、大丈夫? 貧血?』って聞いたら『あなたのせいで貧血になりそうだわ……』って言われちゃって」
質問がバカすぎるだろ。なんだこのファンタジスタは。
それでね、と由比ヶ浜が益々目を腐らせて続ける。み、見たくない、この子のこんな瞳……!
「……ゆきのんが、つきっきりで勉強を見てあげる、って」
「…………そ、そうか……」
追及が抜群にしづらい話題だった。
「じゃ、あたし行くね……」
「お、おう」
なんだか戦地に向かう人を見送るような気持ちで、内心敬礼しながら由比ヶ浜のいつもより小さく見える背中を見送った。
最後はいつも通りの目に戻ってたけど……雪ノ下さん、どんだけこってり絞る気なんでしょうか。わたし、気になります。うそ、知るのが恐いです。
由比ヶ浜のあくびを思い出したら、釣られて欠伸がしたくなってきた。
手で口を覆ってくあぁと小さく声を漏らすと、口をむにゃむにゃさせながらいつもの場所へ向かった。
続く。
☆☆☆祝・200万UA達成☆☆
途方もない数字に達したなとしみじみしています。常連の方も通りすがりの方も、本当にありがとうございます。これからもどうぞよろしくお願い致します^_^!
ゆるゆるです。こういう空気の流れをもっと意図的に作って行きたいところです。
はるのん編なんですが、めぐりん編よりも先にラストシーンに近付いているなと思ったので現在更新頻度を調整しています。楽しみにして下さっている方には申し訳無いですがよろしくお願いします。
それでは、また明日ここでお会いしましょう(^^)!
今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!