『小町、気難しい年頃の子を遊びに連れていくとしたら例えばどんな候補が挙げられるだろう』
『お兄ちゃん、電話してまだ三十分くらいしか経ってないよ』
『いや待て、俺は誰も留美とは言っていない』
『言ってる言ってる。自分から超言ってる。引いた。すごい引いた』
『そんなにか』
『そんなにだ』
『口調が変わる程か』
『口調が変わる程だ』
『……調べてはいるんだが、いまいち良い所が分かんなくてな……小町、力を貸してくれ』
『…………』
『どうした』
『お、お兄ちゃん……留美ちゃんの為に、くだらない意地を捨てて小町に助力を乞うなんて……大人になったね……』
『うるせぇ……恥ずかしいこと言うな……』
『まあ、でも』
『?』
『お兄ちゃんがそれだけ誠意を持ってるなら、何処に行ったって留美ちゃんは喜んでくれるよ』
『そんな……もんか? や、俺は信じない』
『想像以上に性根が腐ってる……』
『知ってる』
『お兄ちゃん……』
『やめろ、哀れむ目で見るな。だってお前、その言い方は《ごはん何食べたい?》《何でも良いよ》《じゃあここにしよっか》《え……》と同じパターンだろ。泣くぞ』
『意外とそれっぽい所を突いてきた……鬱陶しい……』
『鬱陶しいって言うな……』
『それでも大丈夫』
『何がだ』
『お兄ちゃんが軽蔑してる世の中の女の人と、小町は違うでしょ?』
『違うな。全く違う。比べるのも甚だ馬鹿げてる。次元さえ異なる。世の女性は二次元で小町は四次元だ』
『お兄ちゃん、何言ってんの?』
『すまん』
『もぐぞ』
『謝ったのに!?』
『まあそれはいずれということで。お兄ちゃんの中で小町が他の人とは違う特別な存在に思えるなら、きっと留美ちゃんも同じように特別に見え始めてるはずだよ、きっと』
『む。……そう、なのか……?』
『だから、大丈夫。お兄ちゃん、やれることをやってみなよ。留美ちゃんを喜ばせて娶る為だと思って』
『後半おかしくない?』
『もぐぞ?』
『お前それ使い方強引だな!?』
『まあまあ。自分で頑張ってみんさい。頑張れ! ビーアンカンシャス!』
『それまさか《大志を抱け》って言いたかったのか? Be unconsious? 文法が不自然な気がするけど、ざっくり訳すと《意識を失え!》だぞ』
『もぐかー』
『言いたいことはしょりすぎだし超怖い』
『ま、頑張れ、お兄ちゃん』
『……おう』
そんな会話をしたのが、三時間程前のこと。
そして今、俺は。
「むぅ……」
部屋のPCにへばりつき、夜中と呼べる時間帯になってもまだネットサーフィンを続けている。
「……大体、なんで俺はこんなに必死になってんだ……?」
いくつも並行して表示された様々なスポット(どんなスポットとは言わない)のページやそのレポートやレビューを見ながら、頭を抱えている。
大体、世の中にはそういうスポットが溢れすぎなんだ。もっとまとめろよ。
各都道府県に三ヶ所ずつくらいで良いだろ。
それで週末は大混雑になればいい。
……しかし、まあ。
「……笑った顔が見られるなら、それに越したことは無いよなぁ……」
独り言ちて、ふっと笑う。
疲労が蓄積されてきて、一度目的を見失いかけていたけれど。
何だかんだで、俺は、あのわがまま姫さまを喜ばせたいらしい。
「……もう少し、頑張るか」
リビングに行って、インスタントコーヒーを作る。
誰も居ない、半分は灯りが点いていないリビングを静かに見つめる。
夜はまだ、ホットコーヒーが心地良く感じるくらいには冷え込む。
自分の手を見つめて、繋いだ手の温もりを思い出す。
「……うっし、やるか」
どうした俺、熱血系になってるぞ。キャラじゃないぞ。
そんなツッコミを自分にしながら、けれどどこか、楽しんでいる自分に気付いた。
部屋に戻り、再びPCに張り付く。
「……あれ?」
ふとスマホを見ると、三時間程前、つまり小町と話していた時間帯に、留美からLINEのメッセージが届いていた。
『(スタンプ)』
癒し系のクマさんのスタンプが送られていた。
「……ああもう、可愛いやつめ」
言って、身体の中が焼ける程恥ずかしくなるのを感じながら。
再び、ネットの海を泳ぎ始めた。
× × ×
翌朝。
「……ねっむ……」
寝ぼけ眼をこすりながら、駅前の建物の壁にもたれかかる。
昨日は何だかんだで何も決めてなかったので、朝8時くらいに留美に連絡をした。
『おはよう』
『おはよう』
2秒で既読がついて2秒で返ってきた。
『今日なんだが』
『うん』
『駅前集合にしたら何時までに来られる?』
『もう準備は全部済ませてるから、何時でも良い』
予想の斜め上を行く答えだった。
『じゃあ、9時な』
『八幡、それ遅すぎ』
『お前が早いんだよ』
こんな会話だった。
ゴールデンウィーク初日とあって、駅前は大層な人だかりが出来ている。
こんな中では、駅の中を動き回るだけでも億劫になる。
実際、今日の行程を思えば、最悪留美に断られることも考えられる。
さてどうなることやら……と思っていると。
「八幡」
聞き慣れた、けれど少しばかり上ずった声が聞こえた。
振り返り、その姿を見付けると、
「……よう」
平静を装うのは、何とも大変だった。
留美の服装は、ふわふわのシフォンワンピースにショートジャケットという、何ともお嬢様然とした格好だった。
留美の大人っぽさと品の良さがマッチして、信じられないくらいに似合っている。
ほけーっと見惚れていると、留美がとてとてと寄ってきて、俺の袖をちょんとつまんだ。
「……感想は」
「……え……」
「感想」
これ以上説明する気は無いらしい。
いつもの口調で言われても、上目遣いで見つめられては、ただただ頬が緩んでしまう。
留美の頭をくしゃりと撫でる。
「……可愛いっての。似合いすぎ」
「……ばか」
留美が俺の手に自分の手を重ねて、ふわりと微笑む。
通りがかった人の何人かが「がはぁっ!」と言って倒れたのは、もしかしたら俺が不慮の事故(エンカウンター)のスキルを身に付けたからかもしれない。
いつの間に目覚めたんだ、俺は……。
材木座病(中二病)が発症したところで。
「それで、どこに連れてってくれるの」
明らかに機嫌の良い顔で目を細め、留美が尋ねてきた。何この子可愛い……。
「ああ。それなんだけどな……ここなんだけど」
言って、スマホの画面を見せる。
「……結構遠い」
「そうだな」
俺が指定したのは、人が多いであろう都市圏を避けた、とあるカフェだった。
「ゴールデンウィークだと、どこもすげぇ混むからな。あちこち調べたけど、メジャーな娯楽どころはみんな止めといた方が良いと思った」
それで、と言葉を繋ぐ。
「カフェでのんびりするのも良いかなって思ったんだわ。それで、どうせカフェでくつろぐなら、店だけでなくてその周りも静かな場所に行ってみるかなって思って。移動で混むのは途中までだし、カフェまでの道程でも留美と色々話せるかなって考えたんだが……」
実際、いくらカフェの雰囲気が良くても、店を一歩出れば車ががんがん通っている場所というのは、どうしても店から出てすぐに現実に引き戻される感じがしてしまう。
そういったことも含めて考えて、色々調べて、俺なりに出した結論だった。
留美は俺の言葉を一通り聞いて、目を丸くしている。
そして、穏やかに目を細めた。
小さな花が咲いたような可憐な笑みに、鼓動がとくんと高鳴る。
「……八幡。ありがとう」
「……っ」
「嬉しい。行こう」
「……そうか」
ああ、本当だ。
小町の言う通りだった。
散々調べて悩みはしたが、決して点数の高い結論とは言えないなと思って、かなり悩んでいたけれど。
留美が浮かべる何の屈託も無い笑みが、俺の小さな悩みを柔らかく包み込んでくれた。
「……よし。じゃあ、行くか」
「うん」
駅に向かおうとすると、留美がすっと手を差し出す。
……まあ、ね。はぐれたら困るし、うん。
気恥ずかしさから、顔は前を向いたまま、留美と手を重ねる。
すると、留美はすかさず指を絡めてきた。
……ううん、最初から飛ばしてくるなぁ……。
二人でぽてぽて歩くと、駅の喧騒もまるで気にならない。
今日という一日は、中々長くなるような。
そんな予感がした。
続く。
ルミルミでした。書いたことの無いシーンの繋ぎ目を書くと、すごい勉強になります。
今後はこういうシーンを書く度に上達すると信じて(^^)
☆☆☆☆☆祝・一日のUA1万突破☆☆☆☆☆
初めてです。年明けからUAがぐいぐいと伸び始めて、ちょこちょことベストを更新するようになっていたんですが……この祝日に、一気に伸びました。
毎日書いても、ちょっとずつ進歩していても。
多分、1万の大台は越えることは無いんだろうなとは思っていたので。
本当に、本当に嬉しいです。
ありがとうございます!!!
それでは、また明日ここでお会いしましょう(^^)!
今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!