※この作品はR-18です。

俺ガイル 日常の何気ないエロス。   作:高橋徹

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(13)

 電車のボックス席に、留美と並んで座る。

 向かい合って座っても十分距離は近いというのに、留美は俺の隣に座った。

 そして今、留美は髪をかき上げて、俺に自分の耳をさらけ出している。

 ……。

 ……や、何なんだよ、この状況?

 

「八幡……」

 

 留美がぽそりと呟き、婀娜っぽい流し目を送る。いつもの大人びた態度とはまた違う、色香を纏った瞳に目を奪われる。

 周りを見渡した。誰かが居るのを見逃していれば、それを口実にこの状況は回避出来る。

 

「……誰もいないって」

 

 俺の心情を見透かしたのか、留美がくすりと笑って俺の手を握る。身体の末端に触れられただけなのに、まるで心臓を掴まれたような気分になる。

 大人しく諦めて、前を向いたままゆっくり手を上げると、留美がぴくりと動いた。髪をかき上げたまま、俺と同様にじっと前を見ているようだが、さりげなくこちらをちらちらと窺っている。横を見やる視線が時折交錯する、奇妙な時間が流れた。

 

「んっ……」

 

 留美の耳に手が触れると、小さな口から吐息が漏れた。本当に小さくて可愛らしい耳だ。留美の反応を見ると、人はこんなにも耳で反応するものなのかと思ってしまうが、自分で撫でても分からないから何とも言えない。それでも留美がこれだけの反応を示すというのは事実だ。

 今は……自分の中の何かが決壊しないように、努力しよう。

 しゅるしゅると留美の耳を撫で始めると、留美は手を下げて、膝の上に手を置いてきゅっと握り込んだ。

 

「んく……っ、んっ、んん……っ」

「……っ」

 

 目をぎゅっと瞑って口を引き結ぶ姿が、あまりにも艶っぽくて。湿り気を帯びていく吐息が、ボックス席の狭い四方の空間を妖しく歪めていく。あくまで車両の中にいるはずなのに、まるで鍵を掛けた部屋にいるような感覚に見舞われた。

 周りを一瞥する。車掌が来るとも限らないから、慎重にならなければならない。

 留美の表情を見ると、俺の手が止まっているからか、微かに息を弾ませて俺をじっと見ている。続きをねだっているのが丸分かりだ。

 ごくりと喉を鳴らして、留美のもう片方の耳にも手を伸ばす。

 

「あっ……」

 

 自然と抱き寄せる形になると、留美は儚げに声を漏らして、抵抗することなく俺に寄り添った。両手でしゅるしゅると撫で始めると、留美が真正面を向いたまま弱々しく震える。

 

「あぁぁ……んふぅっ、あっ、あぁっ、んんんん……っ」

 

 とろとろに蕩けた瞳はまるで自制が利いていないようで、気付けば留美の手が俺の太ももに触れて、不安げに撫でさすっていた。その動きがまた官能的で、指の一本一本の動きを目で追ってしまう。留美を抱きしめたことにより甘い匂いが鼻腔を貫いて、益々陶然としていく。

 

「……びっくりして動くなよ。あぶねぇから」

「え……んはぁぁ……っ?」

 

 しゅるり、と。

 留美の両耳に人差し指を挿し込むと、留美が唇を戦慄かせた。

 

「んふぁぁぁ……な、に、これっ……音、音がぁ……っ」

「……音? ……ああ、そういうことか」

 

 どうやら留美は、俺に指で耳の穴を塞がれたことにより、乾いた摩擦音がダイレクトに耳の奥に響いているようだ。触覚に加えて聴覚まで責められて、留美の目は焦点が定まらなくなってくる。視線こそ前に向けているものの、どこを見ているのか分からない。

 

 しゅるり、しゅる、しゅるり。

 

 ゆっくりと留美の耳の中を撫で擦り、耳たぶを指で挟み、反応を具に見つめる。

 

「んあぁぁ……んっく、んふぅあぁぁ……っ」

 

 俺の太ももを掴む手に、徐々に力がこもっていく。

 もっと、もっと、もっと……という、身体の奥底から湧き起こる情欲の炎を感じ取って、ふと冷静になった。

 ……これ以上は、やめておくか。

 

「……留美。この辺にしておくか」

 

 指を離して自分の意思を告げると、留美はぼーっとした表情で俺を見つめる。いつもはきりりとした顔つきなのに、今は目尻が下がり、口も微かに開いている。普通の人であればだらしないの一言で片付けられるのに、顔立ちの整った留美の脱力した表情は、何でこうも扇情的に見えるのか。

 

「……やめ、るの……?」

「……っ、や、だって、それは流石に……っ」

 

 劣情を煽る表情を浮かべたまま、留美がくりんと首を傾げる。俺の太ももをゆっくりと撫でさすっているのは、無意識か、それとも挑発しているのか。

 留美がずいと顔を寄せる。甘い吐息が理性を掠め、巧みに揺らしてくる。

 その時、

 

『間も無く~……』

 

 車内にアナウンスが響いた。留美は俺が何も言わずとも手の動きを止め、身を隠す訳でも無いのに息を潜めた。

 緩やかに電車が減速し、ぷしゅーという音が立つと共に一人乗り込んで来た。

 

「……人、入ってきたな」

 

 独り言のような、留美に告げるような、そんな声音でぼそりと呟く。

 乗り込んできた人は高校生くらい――俺と同じくらいだろうか――の女性で、どこに乗るかときょろきょろと視線を巡らせると、俺とぱちりと目が合った。するりと視線の交錯を解くと、俺と留美が座るボックス席と、電車の出入り口との間にある二人掛けのシートに腰を下ろす。動向を二人で見守っていると、その人はイヤホンを着けて俯き、ゆっくりと目を閉じた。

 

「……八幡」

「どうした」

 

 二人の視線の先には、既に目を閉じてうとうととしている女性が居る。あまりじろじろ見てはならないとは思いつつも、留美の言葉がきっかけで思わず女性への視線を強めてしまう。

 

「あの人、寝ちゃったね」

 

 留美の声音が、どこか柔らかい。

 

「……そうだな」

「イヤホン、着けたね」

 

 留美が俺の手を握る。俺は視線を前方から動かせずにいる。

 

「……そう、だな」

「八幡……」

「……っ」

 

 しな垂れかかるように、留美が俺に体重を預けてくる。俺の肩に留美の頭がこてんと当たると、微かな重みを感じた。

 どうやら、人がいようがなんだろうが、逃げ場は無いらしい。

 

「……バレないように、そっとな」

「……うん」

 

 短く言葉を交わして、留美の両耳に手を伸ばす。

 

「んはぁぁぁ……っ」

 

 艶めいた吐息が漏れて、すぐ目の前にいる女性に視線を向ける。ボックス席の背もたれを挟んでいるとは言え、起きて少しばかり背筋を伸ばせば、俺たちが何をやっているかが丸見えになってしまう。奇妙な興奮が身体を包んだ。留美の身体が先程よりも密着しているから、余計にそう思うのかもしれない。

 

「あんまり、声出すなよ」

「んん……っ、うん、じゃあこうする」

「え……」

 

 留美が片手を俺の太ももに添えたまま、もう片方の手で自分の口を塞ぎ、俺をじっと見つめた。

 ……この状態で、触るの?

 無言で俺を見つめる留美と目を合わせて、恐る恐る再び指を這わせる。

 

「んんんんん……っ」

 

 留美のくぐもった声が耳朶を焼く。ぞくぞくとした感覚が足元から頭のてっぺんまで駆け抜け、下半身がざわつく。

 これは、だめなんじゃないか……?

 そう思っていると、また次の駅に着いた。しかし今度は誰も入ってこない。女性は寝たままだ。留美は尚も俺を見つめている。

 留美の耳を嬲る俺の手が、いつの間にか震えている。それでも、止められない。もはや、止めさせてもらえないのか、止めたくないのか、分からなくなっていた。

 

「んふぅぅぅ……っ」

 

 目を潤ませ、ふるふると震える留美を。

そこから三十分程、俺たちが電車から降りるまで、ひたすらに嬲り続けた。

 

       ×  ×  ×

 

 電車から降りると、すぐに歩き出すことはせずに、まずは駅のホームにあるベンチに二人並んで腰かけた。

 

「……大丈夫か?」

「……八幡の変態」

「否定は出来ねぇ……」

 

 留美が頬を赤らめて俺を睨んでくる。全然怖くないし可愛いしでもう大変だ。

 留美は熱でもあるかのように頭がふらふらと揺れている。もちろん、さっきまではこんな風には全くなっていなかった。

 

「八幡、あれ、今後も続けたいよね」

「え」

 

 何その付加疑問文?

 まさかの質問に面食らう。俺は恥ずかし過ぎて、この話題を口にすることは、少なくとも今日のところはもう無いなと思っていたんだけど。

 

「や、あれは流石に、ねえ? 恥ずかし過ぎるし」

「やりたくないの?」

「……」

 

 俺の本能と倫理観が、ばっちばちのバトルを繰り広げている……。

 

「その、あれは本当に、な? ましてや人目があるところでなんて……」

「人目が無ければいいの?」

「あ」

「……」

「……」

「……」

「……まあ」

「まあ?」

「前向きに……検討しとく」

「……なにその言い方」

 

 留美が言葉とは裏腹に嬉しそうに笑い、すっくと立ち上がる。まだ座っている俺との目線があまり変わらなくて、改めて可愛らしいなと思った。

 

「うっし、じゃあそろそろ行くか」

「ん」

 

 留美がひょいと手を出す。羞恥心から俺が視線をひゅんひゅん巡らせていると、留美の手が上下にぷいぷいと揺れた。早く繋げということらしい。手を握ると、留美がするりと指を絡めてくる。

 

「まずは駅を出るか」

「ん」

「それからなんだが――」

 

 深く繋がった手と手に、心音がとくんと高鳴るのを感じる。

 連休だと言うのに人があまり居ないホームが、程好い開放感をもたらしてくれる。

 隣を見ると、留美がどこか楽し気に頬を緩ませていて。

 幸せな気分で、ホームを歩き始めた。

 二人のちょっとした旅は、まだまだこれからだ。

 

 

 

 続く。

 

 

 




 ルミルミでした。まだまだまだまだ続きます。

 めぐりん編のラストで、久しぶりに物凄く沢山の感想を頂きました。本当にありがとうございます。超ありがとうございます。元気がもりもり。めぐりんアフターのリクエストの多さがw益々書きたくなりました、めぐりんアフター。

 それでは、また明日ここでお会いしましょう(^^)!
 今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!
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