※この作品はR-18です。

俺ガイル 日常の何気ないエロス。   作:高橋徹

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(14)

 留美と二人で駅の改札を抜ける。改札の先に立つと、四カ所以上のエスカレーターや階段が見えた。どれを上ってもさして変わらなそうなので、適当に奥の方の階段を選ぶ。

 

「わぁ……」

 

 階段を上がって外に出ると、留美が強い日差しに目を細めながら、感嘆の声を小さく漏らした。そこには、適度な緑が広がる、東京などの都心部とはまた雰囲気の違う都会の景色が広がっていた。天気は非常に良くて、街路樹や近くの公園の緑は、これから夏に向かうという生気に満ち満ちている。移動した時間帯がたまたま人が少ないだけだったのか、外には休みでどこか浮かれた空気の人が沢山練り歩いている。それでいて歩道などのスペースは広いため、まるで混んでいる感じがしない。不思議な街だ。

 

「ここからバスに乗っていくんだけど……ああ、あそこがバスターミナルか」

 

 交差点の向こう側に、円形のバスターミナルが見える。「1」「2」などの番号と、ここからではよく見えないがそれぞれの行き先と思われる文字が書かれている。横断歩道の前まで来て信号待ちをしていると、繋いだ手がくいくいと引かれた。

 

「バス、いっぱいある……どれに乗るの?」

 

 留美がきょろきょろしながら尋ねてくる。若干不安が混じった声音に、苦笑しながら頭を撫でた。

 

「心配すんな。ルートは一通り調べてるし、時間に余裕は持たせてるから」

 

 柔らかい声音を意識して答えると、留美の頬がほっと緩んだ。この子の安らいだ表情を見ると、身体の底からぽかぽかとした温かな感情が湧く。

 

「そっか……八幡、今日ってお昼はそのカフェで食べようとしてた?」

 

 留美からの質問に、はてと首を傾げる。

 

「一応そのつもりだったけど……別に、昼は別の所で食べても良いぞ。どこかで食べたいのか?」

 

 聞くと、留美が小さくぷるぷると首を振った。

 

「ううん……その、お弁当、作ってきたから」

「なんだって」

 

 驚いて、思わずサスペンス口調になってしまった。と、ここで信号が青になったので、二人でとっとことっとこ横断歩道を渡る。途中、上品な雰囲気を纏ったセレブな女性とすれ違った。近くに大きな国立大学があり、そこの研究員や職員が家族と住んだりするパターンも多いらしい。今の人もその類なのだろうか。

 

「……マジで?」

 

 少しばかり時間差で聞き返す。人波を避けるようにして歩いたので、会話の流れが妙なずれを起こしてしまった。立ち止まって目当てのバス乗り場を探していると、留美は俺の問いにこくりと頷き、上目遣いで見つめてきた。

 

「だから、その、出来たら、どこかでお弁当を食べて、それからカフェに行きたいなって……だめ?」

 

 ちょっとためて言われた。日射しの熱さとは別の熱が身体の内側に籠る。

 

「……何の問題も無いな」

 

 頬をぽりぽりと掻きながら答えると、留美がくすりと笑った。

 

「素直に嬉しいって言えば良いのに」

「うるせ……」

 

 向かい合わせになって頭をくしゃくしゃと撫でると、留美が気持ち良さそうに目を細めた。あんまり続けると俺も夢中になってしまいそうなので早めに離す。

 

「もっと撫でても良いのに」

「公衆の面前でそんなに長く撫でられるか……今のでもぎりぎりだぞ」

 

 ぎりぎりセーフかもしれないし、ぎりぎりアウトかもしれない。

 

「誰も見てなかったら良いんだ」

「うぐ……」

 

 ついさっきも同じようなくだりがあったな……と思いながら、留美から目を逸らす。「あ」逸らした矢先に目当てのバス乗り場を見付けた。

 

「俺も留美も初めて来たし、バスに乗って丁度良い場所があったら降りるか」

「うん、それで良い」

 

賛同を得られた所で、留美の手を引いて乗り場に向かうと、丁度バスがターミナル内に入ってきた所だった。

 

「うし、乗るか」

「うん」

 

 思ったより行き当たりばったりな旅になりそうだが、それもまた楽しそうだ――と、普段に比べて数倍前向きになっている自分にむず痒さを覚えながら、二人でバスに乗り込んだ。

 

       ×  ×  ×

 

「うぅ……」

「留美、大丈夫か、大丈夫じゃねぇよな……」

 

 なんというか。

 イエス、早速の計算外!

 留美さん、バス酔いになりました。ものの10分程で。

 まあ、留美が酔うのも分かる。バス運転手がアレなのか、バス会社全体としてアレなのかは分からないが、とにかくバスががたがたと揺れる。路面の凹凸が大きい所はあるが、それにしてもバスの運転が荒いという状況に出くわしたことが無い身としては動揺が隠せない。

 俺と留美は最後列に座った。窓際に座った留美が、初めこそ周りから見えないように俺と手を握っていたものの、その幸せな状態はアフリカかどこかのオフロードコースさながらの揺れによりあっという間に崩れてしまった。

 まだしばらくの間乗っておいて、目的のカフェにある程度近い所でぶらつこうと思ったが……この状況ではしょうがない。

 

「留美、次の所で降りるぞ」

「うん……」

「……」

 

 息がか細くなり、目を細めて俺に身体を預ける留美が妙に色っぽく見えて。それと、艶やかな黒髪が日の光を浴びて柔らかな香りを漂わせていて頭がくらくらする。うん、これは早くバスを降りた方が良い。電車でのくだりが相俟って、ちょっと今日は色々と怖い、色々と。

 そこから数分で次のバス停に着いたので、留美の肩を抱きながら料金を払いに行く。周りの視線はこの際気にしていられなかった。降り際に運転手をちょっとだけ(ほんとにちょっとだけ)恨めし気に見て、何事も無かったかのようにバスが去るのを見届ける。他にも結構な人が乗ってたけど、皆平気なのか……? 慣れって怖いなぁ。

 

「留美……歩けるか?」

「うん、降りたら結構楽になった……ありがとう」

 

 幸い、降りた場所は街路樹というか林に囲まれた場所で日陰になっていて、心地良い風が吹いている。大学が出来るのに伴って大学の敷地や住宅地用に一気に開拓したと言う話を読んではいたが、周りを見渡して納得した。

 少しばかり歩くと、人が居ない上に日陰にベンチがある公園があった。正に今の二人にとってベストプレイスと呼べる場所だ。

 ベンチに腰を下ろして、留美の様子を見る。バスに乗っている時よりは確かに大丈夫そうだが、それでもまだまだ弱っている。

 

「留美、何か飲むか」

「ん……ありがと」

 

 留美が弱々しく目を細める。さて何か飲み物を……と思ったら、俺が半分程飲んだアフタヌーン的な紅茶が一本しかない。留美のバッグの中は見ない方が良いだろう。あれ、これどうしたもんでっしゃろ……。

 

「……」

 

 や、俺くらいの年になってこんなことを気にすることもあるまいとは思うんだけど、出来れば自販機なりコンビニなりで新しいのを買いたい。しかし自販機もコンビニも、見た限り数十メートル以上離れた場所にしかない。留美が弱っている状態でほったらかしには出来ない。

 迷った末にキャップを開け、留美に差し出す。

 

「ほら、飲んでくれ」

「ん……」

 

 留美が俺に顔を向ける。うん、ぷるぷるの唇だ。すげえ柔らかそう。や、そうじゃなくて。

 

「え、あの、留美?」

 

 留美が手をぴくりとも動かさないことに疑問を覚えて呼び掛けるが、

 

「ん……」

 

 留美はほけっとした顔で目を細めたまま、微動だにしない。思っていたより弱っているらしい。

 留美の視線がペットボトルを捉え、ゆらりと動いて次に俺を捉える。ここで、留美が何を望んでいることに気付いた。気が付いてしまった。

 ……え、そう言う流れ? ほんとに?

 動揺を隠せぬままに、留美の顔を見つめる。留美は本当に余裕が無いのか、いたずら心でやっているのか、虚ろな表情からは判別出来ない。

 ええい、ままよ。

 ……誰も通りかかりませんように……。

 

「じゃあ、飲ますからな……?」

 

 恐る恐る聞くと、留美が頷いたかどうか判断しづらい程度に首を動かす。う、うおお、なんか色々と大丈夫か今の状況……!?

 留美の背中に右腕を回し、回した手で留美の顎をくいと上げる。そして半開きになった留美の口に蓋を開けたペットボトルを近付ける。

 

「……んむっ」

 

 留美がペットボトルの飲み口の縁を上下の唇で挟み込んだ。……うん、そうだね、これは子犬にミルクをやってるようなものだと思えば……いやいやいやいや無理だろこの考え方。傍から見た図なんて怖すぎて想像したくもない。

 勇気を出して、慎重にゆっくりペットボトルを傾ける。茶色の液体がゆっくりと留美の口に向かって流れていく。

 

「んっく、んっ、んっく……」

 

 留美が小さく喉を鳴らす度に、細い喉が艶っぽく動く。ぼうっと目を細めた留美の表情がやけに色っぽくて目を逸らしそうになるが、零れると悪いのでそれも出来ない。おっかなびっくり傾けているので液体の流れが断続的になりつつも、何とか飲ませることが出来た。

 

「んっく、んっく……んんっ?」

「あ」

 

 安心して油断してしまったのか、少し多めに流し込んでしまった。留美の小さな唇から液体が零れ、顎を押さえていた俺の右手に伝う。留美の下唇のすぐ下に置いていた人差し指に沿って、液体がつつっと広がった。

 

「わりぃ、今拭いて……」

「……んむっ」

「っ!?」

 

 目の前の光景を疑った。

 留美は、顔の向きを僅かに下向きにして、紅茶が滴った俺の人差し指をぱくりと咥え込んだ。そしてそのまま、口の中で猫さながらに指を舐め始める。

 

「んむっ……ちゅっ、ぴちゃっ、ちゅっ……」

「(待て待て待て待てマジでちょっと待て待て待て待て待て……っ!)」

 

 尋常でない程慌てるが、大声を出す訳にもいかず。押し殺した声で、必死で留美を止める。しかし頭を押さえた所で意味は無く、未だにぼうっとした留美を無理やり引き離すのも気が引けて実行出来ない。

 留美は俺を挑発する時のように見つめてくる訳ではないが、弱りながら一心不乱に指を舐める光景は、あまりにも扇情的で。

 目を逸らして周りを窺い、それでも時折留美の姿態を吸い寄せられるように見入るというのを繰り返す事、数分。

 

「……ぷはっ」

 

留美が唇を離したことで、思いの外長かった天国兼地獄の時間が終わった。心の底から深い息を吐くと、留美が俺の胸元に顔をうずめてきた。

 

「ん……っ」

 

 まるで遊び疲れた猫のように、自由気ままに甘えてくる。

 

「……ったく、何なんだよ……」

 

 呆れながらも、自分の声に愛情が満ちていることに気付いて、片眉を上げて笑みを浮かべてしまう。

 やがて留美の口から小さな寝息が聞こえてきたので、そこからしばらくは俺もゆったりくつろぐことにした。

 

       ×  ×  ×

 

 三十分程経っただろうか、留美が目を覚ました。俺と目が合うと、明らかに動揺し始めた。

 

「……は、八幡……」

「おう、もう大丈夫か」

「う、うん、ありがとう。あと、その、えっと……」

 

 留美が何やら顔を真っ赤にしている。何を言い出すのか分かっているから俺も既に顔が熱い。

 

「さ、さっきは、その、えっと……」

「……まあ、気にすんな。酔ってたんだからしゃあねえよ」

「勝手にお酒飲んだみたいな扱いしないで……」

「酔ってるって意味では同じだったろ」

「その……ごめん」

「や、まあ、うん、大丈夫だから、な? だからこの話はあんまり……」

「……いやだった?」

「……それは、反則だっつうのに……」

 

 俺の胸に顔をうずめたまま、潤んだ瞳で見上げてくる。これで拒絶の意を示す輩が居たら軽蔑を通り越してもはや拍手を送りたい。

 

「……別に、いやではなかったぞ」

「……良かった」

「心臓には悪かったけどな」

「……ごめん」

「や、別に悪い意味ではないんだぞ? な? どきどきしただけっていうか」

「……良かった」

「や、だから……」

 

 フォローしてるのか何をしてるのかもよく分からぬまま。

 本来ぶり返すべきでない、死ぬ程恥ずかしいイベントを、二人で心行くまで(力尽きるまで)反芻した。

 

 ……人差し指をじっと見つめてさっきの感触を思い出すと、ちょっと本気でまずいことになる。

 

 ……はい、深呼吸深呼吸。

 

 むせた。

 

 

 

 続く。

 

 

 




 ルミルミでした。書いてる途中で急にこんな展開が浮かびました、はい。

 それでは、また明日ここでお会いしましょう(^^)!
 今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!
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