留美と手を繋いで公園を出る。歩きながらこの後の予定を話し合う。
「留美、これからどうする」
「これから……」
「待て、なんかおかしいぞ。違うぞ」
「違うの?」
「あ、や、ええと……」
今日、事故率高くない?
何だろう、ことあるごとに死ぬ程恥ずかしいことをしている気がする。
外堀を埋められて、本丸に攻め込まれて、眼前に刀の刃先を突きつけられてるとこまで行ってる気がするんだけども。
「カフェだよカフェ。この先にさっき降りたバス停があるから、ちょっと待てばすぐ行けるんだが」
少し上ずった俺の声を聞いて、留美が上機嫌に目を細める。口で何か言う訳ではないが、にぎにぎと握ってくる手がくすぐったくてもどかしい。
「んー……ちょっと歩きたいかも。遠い?」
留美が並木道を見回して尋ねる。俺はスマホでルートや距離を確認した。
「……多分、歩いても三十分くらいで着くと思う」
「そ。じゃあ、歩こう?」
提案をしてくるその表情は、どこかうきうきとしている。未知の土地に気分が昂揚しているのか、見ているだけで気持ちが和む表情だ。
「おう。しゃあねえな、付き合ってやるよ」
ふっと笑って言うと、留美が頬を赤らめて俯いた。
「付き合う……」
「うぐ……」
手を繋いでると、逃げられない上にお互いの気持ちが分かってしまうからやたらと恥ずかしいな……なんてことを思った。
× × ×
二人で並木道をぽてぽてと歩く。程好い木陰を歩いている時に吹く風は涼しいのに温かくて、これから訪れる夏という季節への期待感を高めてくれる。
並木道はかなりの長さで続いているようで、ちょこちょこと曲がりくねりつつ分岐しつつ、ずっと先まで伸びていた。
「八幡。この道、どれくらい続いてるの?」
「ん」
留美の問いも最もだなと思い、取り出したスマホをすいすいといじる。
「枝分かれもしてるけど……メインの道はぐるっと円を作ってて、全長が5kmくらいあるらしい」
「そんなに……」
何故か留美がげんなりとする。別に一周する決まりがある訳じゃないんだから良いだろうに。
留美はげんなりしたかと思うと、今度は空を仰ぎながら考え込む素振りを見せた。ちらりと見やると、にっこりと目を細める。
「それくらいの長さを一人で歩いたら絶対大変だけど、八幡と一緒だったらすぐ終わっちゃいそう」
「……そうなのか」
留美の発言に、声が裏返りそうになる。目を逸らしながら答えると、留美がくすりと笑った。
「だって、八幡を見てると退屈しないし。風が吹く度に小さな声で『おぉ……』とか言うし、猫みたいに目を細めるし。分かりやすいなって」
「俺どんだけ見られてんだよ……」
何気なく返すと、留美が顔を逸らした。ちらりと流し目を送って、おずおずと尋ねてくる。
「……迷惑だった?」
「全然、全然、全然。もう超見て。ありったけ見て」
少し哀しげな目をされたために慌てて答えると、留美はきょとんとした表情を浮かべた。そして顎に手を当ててくすくすと笑う。
「……そんなに見ないって。だって、そんなに見つめちゃったら……」
「……見つめちゃったら?」
「……何でもない」
「言ってくれねぇのかよ……」
何その、『続きはWebで!』の感じ。
こんな談笑を続けながらも、カフェへと歩を進める。
歩きながら、ふと気付いたことがある。
並木道は整然と整えられていて、本当に見ていて気持ちが良い。けれど、何だかんだで気が付けばずっと留美を見て話してしまっていて、三十分程歩いた中で景色を楽しんでいた時間はほとんど無かった。
留美の手は小さく、柔らかく、温かい。
表情は、出会った頃の影を帯びた雰囲気が何だったのかと思えるくらいに明るく、豊かになった。
この子と居ることが、本当に楽しい。
この時間がいつまでも続いてほしい――なんていう、一体いつから言われているのかも分からない台詞が頭に浮かぶ。ほんの少し前までは、こんな言葉は使わないどころか頭に浮かぶことさえ無いだろうと思っていたのだけど。
留美と過ごす時間は、いつまでも続いてほしい――誇張することなしに、そう思えた。
× × ×
別にさっきの文が悲劇(事故とか病気とか事件とか)の前フリという訳でもなんでもなく。
「……お、あそこだな」
俺と留美は、特に何の問題もなくカフェに辿り着いた。
もし臨時休業していたらどうしよう……という不安はあったのだけど、店の入口のドアに「Open」の文字が書かれたプレートが掛けられていて安心する。
入口のドアを開ける前に、留美と繋いでいた手をぱっと離すと、留美が眉根を寄せて口を尖らせた。
「……や、店に入る時まで繋いでたら、流石に恥ずかしいだろ?」
「……別にいいのに」
「俺が恥ずかしさで死んじまうんだよ……」
言うと、留美が三日月のように目を細めた。
あ、やばい。
これ、何か仕掛けてくる時の目だ。
「じゃあ……こうする?」
言って、留美が俺と腕を組んだ。不意に近付いた瞬間、艶やかな黒髪から漂う甘い香りが鼻腔を擽り、なるべく意識しないようにしていた留美の女性の部分が柔らかく押し付けられる。
「ばっ、ちょっ、おまっ……」
突然訪れた緊急事態に目が泳ぐ。縦横無尽に泳ぐ。しかし俺の目は泳ぎつつも徐々に留美の身体の一点に視線を集めてしまう。これが万乳引力……控えめでもきちんと働くんだな……。
そんなことを考えていると、留美が俺の腕を抱きしめる力を強めた。強く抱きしめたのにより柔らかくなる。はて、これいかに。
「……今、何か失礼なこと考えてなかった?」
バレてた。助けて。
「何でもない、柔らかなんでもない」
慌てすぎて失言が漏れた。
「柔らか……?」
留美が怪訝そうに目を細める。そして視線を自分の胸元に移すと、俺の腕に押し付けたものに気付き、耳まで赤くなる。よし、罵倒はされるだろうが、それでも腕は離すだろうから万々歳だ。このままだと俺の心臓がメトロノームで測れない速度で脈動してしまう。要は寿命が縮む。
さあ、その腕を離すんだ。名残惜しいが俺の寿命を縮めないためにもご協力ください……なんて考えていると。
「……別に、これくらい何でもないし」
「……へ?」
留美が、抱きしめる腕に一層力を込めた。ふにゅりとした柔らかなものが腕に当たる面積が増え、心臓が爆発しそうになる。そうか、今日は俺の命日なんだね!
留美をちらりと見やる。頬を紅潮させて顔を逸らしながら俺を上目遣いで見ていて、殺人的に魅力的だ。
綺麗な瞳に吸い寄せられてごくりと息を呑むと――
店の内側から、ドアが開いた。
「あの、いかがなさいました……か……失礼、しま、し、た……」
若い女性――恐らく大学生のアルバイトか何かだろうか、俺の二つ三つ上くらいに見える――が、柔らかな表情で俺たちの様子を確認しにきた。その途端に真っ赤になり、しどろもどろに言葉を紡ぎながらドアを閉めた。
『…………』
俺と留美が、固まる。パントマイムのプロかよってくらいに、ぴたりと。
そうだよね、ここ、店の入口の真ん前だもんね。
留美の頭をぽんぽんと撫でる。
「……一旦、離れるか」
「……うん」
お互い、恥ずかしすぎて目を合わせられない。さっきのJDE以上の衝撃だった。
留美は腕を離したが、その代わりなのかなんなのか、俺の袖をちょんと摘んだ。心の奥がむずむずする感覚に包まれながら、ドアを開ける。
来店を歓迎してくれるドアベルが、心地良くからんと鳴った。
続く。
ルミルミでした。
久しぶりに描写がバチッとハマりそうな官能小説を買ったので、しっかり読もうと思います。もう一皮剥きたいと思いつつも苦戦中です。
それでは、また明日ここでお会いしましょう(^^)!
今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!