ゴールデンウィークの3日目。
初日に留美と出かけて色々(以下略)あって、一日置いてもう一度会おうとしている。一昨日の出来事が出来事だった為に、正直すぐにでも会いたいと思っていたけれど昨日は会うことが出来なかった。留美は用事があったからしょうがない。
今日は近場をぷらぷらするつもりで、特に何もプランは決めていない。本当はもっと調べようとしていたけれど、留美と昨日電話した時に「何も調べなくて良いからね? むしろ調べちゃだめ」と言われてしまった。あそこまで言われてしまっては、流石に調べることは出来ない。
時刻は午前8時半。待ち合わせ場所のショッピングモールの入口にもうすぐ着くところだ。
「……ん?」
どの辺りなら分かりやすいかな……と考えていると、ふと、道行く人がちらちらと何かを見ていることに気付いた。特に男が視線をよく向けている印象。
何事かと思い視線の先を辿ると、思わずにやけそうになってしまった。
道行く人の視線を吸い寄せていたのは、留美だった。
薄緑のカーディガンを羽織って、下は黒のロングスカート。時折そよぐ風がカーディガンとスカートをたなびかせて、集まる視線の密度が増す。太陽が眩しいのか、留美は時折目を細めて、不安げに口元をもにょもにょと動かして辺りに視線を巡らせていた。
物憂げに吐いたため息にさえ魅力を感じる。
美少女が佇む姿に、俺はただただ、俺は見惚れていた。本当に俺を待ってくれているのかと疑ってしまう程に、留美の存在は行き交う人の中で際立っていた。
雑踏の中で思わず足を止めて留美に魅入っていると、留美と目が合った。はっと目を見開いて俺を見つめる。
「おはよう。わりぃ、待ってたか」
慌てて小走りで近寄ると、留美がジト目を向けてきた。
「おはよう。私が早く来ちゃっただけだから、それは大丈夫。……それより、何ですぐに来てくれなかったの? 立ち止まってたでしょ」
言って、留美が通行人に視線を巡らせる。今なお集める注目は、留美にとって居心地の悪いもののようだ。すぐにでも傍に来て、無遠慮な目から守るべきだった。
「……それは本当にすまん。つい見惚れて……あ」
「え……」
ぽろりと、本音を溢してしまった。
「…………」
「…………」
見つめ合ったまま、2人とも黙る。時間差で、留美の顔が見る見る赤くなった。1人でいるときとはまるで違う魅力が顔を出して、心臓がとくんと脈打つ。俺はこっちの方が好きだな、なんて思いながら、がしがしと頭を掻く。
「……えっと、その、なんだ、……行くか」
「……うん」
留美が俯いて、俺の袖を摘まむ。こちらからはあまり表情は見えないが、どうやら機嫌は直してくれたようだ。
そっと手を握ると、留美はゆっくりと顔を上げて微笑んだ。
見慣れた街の雑踏に、綺麗な花がふわりと咲いた。
× × ×
本当にぷらぷらと歩き回る。気紛れにウインドウショッピングをしたり、ゲーセンに行ってみたり、自由気ままに。
お互い外出に慣れていないからか、どこに行ってもその場所に合った楽しみ方というのがあまり出来ない。なんともぎこちない2人だ。
しかし、それでも。
どこへ行っても、留美は優し気に笑ってくれる。それが嬉しくてたまらない。どうやら俺にとって、留美に会えなかった1日の大きさは想像以上に大きかったようだ。
「あ、八幡。あれ食べたい」
留美が俺の手の甲をぺちぺちと叩いた。留美が指差す先にあるのはクレープ屋だ。
「ん、良いぞ。買うか」
俺の言葉に頷いて、留美が財布を取り出す。
「や、ここは、な?」
それとなく言うと、留美がむっと片頬を膨らませた。
「……そういうの、大丈夫。八幡は優しすぎ」
「む……」
留美の言葉に、どうしたものかと考える。
「……中1と高3では小遣いが違う。これでどうだ? 俺がちょっと多めに払うとかでもいいから。義務とかじゃなくて、俺がこうしたいんだよ。……どうだ?」
試しに言ってみると、留美は顎に手を当てて、ふむと頷いた。
「……それなら、まあ、納得は出来る」
留美の言葉に、ほっと息を吐いた。
クレープ屋に並んでいる間ずっとそんなやりとりをしていると、気が付けば一番前に来ていた。店員の女性2人がにこにことこちらを見ている。
「うふふ……初々しいですね~!」
「え、あ、はあ、ども」
あっさりと2人の関係を見透かされた。
正直、見た目から考えれば……良くて兄妹悪くて通報もの(語感は良い)だと思っていたんだけど。これが女の勘ってやつなんだろうか。
「ああ……可愛い……汚れを知らない純粋な瞳……ああ……っ」
すぐ隣のメガネをかけた女の人が、何やら妖しい目で留美を見ている。よだれ垂らしてるのは気のせい? 留美が俺の腕を強く抱いた。警戒心丸出しじゃん。
「トッピングは如何なさいますか?」
正常な方の店員(失礼)に聞かれて、メニューを眺める。
「えーっと、じゃあこのダブルクリームチョコで。留美はどうする」
「ん……私も同じので」
「はーい、かしこまりましたー」
俺たちが注文をすると、店員が元気よく返事をした。快活な笑顔は見ているだけで活力を貰える。
メガネをかけた危ない店員(失礼……でもないか)がスピーディーに作業をしながら、時折留美を見て怪しげな笑みを浮かべる。
「うふふ……クリーム……可愛い女の子の口に……白いクリームがはっ!?」
『!?』
聞くに堪えない下ネタを言いかけたメガネちゃん(今命名した)が、突然ごつい悲鳴を上げた。頭を押さえて「ふぉぉぉ……滾ってアドレナリンが出ているせいかあまり痛みを感じないんだけど叩かれた反射でつい屈んでしまうぅぅ……」とやたら丁寧な説明をしながら唸っている。
「ごめんなさいね、この子良い子なんだけど……ちょっと頭がアレなの。とってもアレなの」
まともな人(言い方がひどい)が俺たちに苦笑いを浮かべながら謝る。片手でメガネちゃんの頭をぎりぎりと掴んでいて、メガネちゃんが「あー! 割れる! 割れる! あ、別にメガネが割れるって言ってる訳じゃないよ? ぎゃー! しょうもないこと言ってごめんなさーい!」などと叫んでいる。どうやら2人の仲はとても良いようだ。ていうかメガネちゃん、頭を割られそうになりながらもクレープを手早く作っている。作ってなかったらそれはそれで考えものだけど、それにしてもすごくないか?
「はい、ダブルクリームチョコお2人分で」
まともな人が俺たちに手渡して、お会計をする。留美をちらりと見ると、にっこりと微笑んだ。大人の女性の柔らかな笑みに、留美の頬が仄かに赤くなる。
個性的な2人に見送られて、俺たちはクレープ屋を後にした。
× × ×
ここまでは、平和なデートであったと言えるだろう。
けれど、俺は油断していた。
ゴールデンウィークに入る前までと今とでは、2人の関係が決定的に違っている。
その事による影響が、今、色濃く出ていた。
「……はむっ」
面倒な言い回しを使った訳ですが。
要は、留美の食事をまともに見られなくなってます。
今までなら「あー、食べる時は結構年相応って感じで可愛いなぁ」くらいに思ってたんだけども。
クレープの生地に食い込む、瑞々しい唇が。
一昨日の出来事を色濃く思い出させてしまう。身体の芯から熱が染み出してくる。
「……八幡、どうしたの?」
公園のベンチで足をぷらぷらさせながら、留美が言う。
「あ、や、何でも無い」
「……本当にどうしたの?」
1回目の問いかけはきょとんと首を傾げながらだったが、2回目の問いかけは俺の反応を見て明らかに訝し気な視線を送ってきた。
「や、本当に、何でもないぞ? クレープ美味しいよな」
「まだ一口も食べてないじゃん……」
自爆した。
あかん。
「……本当に、どうしたの?」
本格的に心配し始めた留美に対して申し訳無くなり、ふっと息を吐いて白状することにした。
「……あー、その、なんだ、すまん。留美の唇に見惚れてた」
「え……え……っ?」
留美の目が見る見る開いて、顔が真っ赤になっていく。白い肌が朱に染まり、表情が少女から女性に変貌を遂げる。
「……そっか」
留美が目を逸らして、黙々とクレープを食べ始める。俺も口を付けたが、ほとんど味が分からなかった。
ふと、留美が俺の手を握った。手の感触を味わうように指を波打たせてまさぐる。ぞくりとして留美に視線を向けると、口の端にチョコが付いていた。留美の上品な食べ方からすれば、どう考えても不自然な付き方だ。
留美と目が合う。艶っぽく細められた目は俺を捉えたままで、チョコを口の端に付けたまま留美は食べ続ける。
「……留美、チョコ付いてるぞ」
「……そ」
ぽそりと呟いて、留美は食べ続ける。どうやら、俺の行動に選択肢は与えられていないらしい。
視線を巡らせる。それほど人のいない公園だが、ちょうど今は人通りが途絶えていた。
「……チョコ、取るぞ」
「……ん」
留美が頷く。俺も留美も、気が付けばクレープを食べ終えていた。
留美がこちらを向いて、ゆっくりと目を閉じた。
続く。
メタネタを終えて、久しぶりの本編でした。感覚を思い出さねば……。
ルミルミ編はじわじわと燃え上がる感じをお楽しみください(^^)!
それでは、また明日ここでお会いしましょう(^^)!
今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!