※この作品はR-18です。

俺ガイル 日常の何気ないエロス。   作:高橋徹

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(28)

 留美が静かに目を閉じる。身体をこちら側に向けて、俺を待っている。

 もう一度視線を巡らせて、目を細めた。

 留美の肩を掴むと、小さな肩がぴくりと揺れる。顔を近付けると、華奢な身体が震えているのが分かった。

 

「……んっ……」

 

 唇を重ねると、チョコクリームの甘さが鼻腔をくすぐった。同じものを食べたのだから口の中の糖度は同じの筈なのに、まるで違う甘さに思える。女性そのものの甘味が加わっている気がした。

 

 ……ん?

 ……キスはまだ良いけど、チョコを取るのって……舐める必要がある?

 ……あれ? 大丈夫か、俺?

 

「…………」

 

 一旦やり直そう……と思って恐る恐る口を離すと、留美が眉根をひそめた。その目には不満がありありと投影されている。

 

「……チョコ、付いたままだよ? 私」

 

 そう言って、俺の胸に手を添えて上目遣いをする留美の可愛さは強烈で。

 改めて視線を巡らせる。自分の小心さにいやになるが、俺はまだしも留美が傷付くのは耐えられない。

 

「……八幡」

 

――俺の考えが見透かされたのだろうか、留美が俺の名を呼ぶ。その目には、ほんの少しばかりの不機嫌さと、その何倍もの優しさが見える。

 

「私は、例え知り合いに見られても平気だよ。私が八幡を選んで、八幡が私を選んでくれたんだから……気にしないで。ううん、気にしちゃだめ」

 

 もちろん、人目は気にする必要はあるから、そこは適宜――なんてことを尻すぼみに言って、頬を赤らめた可愛らしい顔が俯く。少し前までなら、俯くという行為は相手の心が「益々」読み取れなくなる行為だったのに、今はまるで気にならない。留美が俯こうが、俺が目を閉じていようが、その声音で大体のことが分かる。人の心が全部分かるだなんて自惚れは一切無いが、それでも、留美と俺は共に嘘をつかない。その事実が、随分と心を安らげてくれる。

 

「……八幡。私、気にしないから。だから、その……」

 

 ……考え事をしすぎてしまった。待たせ過ぎは悪い。

 

「……行くぞ」

「ん……」

 

 留美の髪をさらりと撫でると、留美がまるで眠るように目を閉じた。顎を上げて相手を待ち望む姿は、童話に出てきそうな程に美しい。

 留美の顔の、今度は唇の端に口付けして――ぺろりと、チョコを舐め取った。

 

「んん……っ」

 

 舌が留美の唇に微かに触れたためか、留美がぎゅっと目を瞑った。いやがってはおらず、未知の感覚に戸惑っているような、そんな表情。

 留美の表情に艶を感じた瞬間、身体の奥底で何かがずくんと疼いた。

 滑らかな黒髪をかき上げ、2つの小さな耳に手を触れる。留美が漏らした吐息に、ほんの僅かに色香が混じった。耳の中に人差し指をそっと挿し込んで、こしょこしょとくすぐる。

 

「ふぁ……っ、んんっ、あっ……八幡……っ?」

 

 うっとりと目を細めて、俺を見つめながら首を傾げる留美を目の前でじっと見つめる。留美の吐息が震えているのに気付いて、ふつふつと欲情が湧き上がってくる。

 さっきチョコが付いていた場所をもう一度舐める。今度は留美の唇に触れないようにする。頬を舌先でちろちろとなぞると、留美が不安げに俺の二の腕を掴んだ。

 

「あっ……うっく……んん……っ」

 

 恋慕の情と、情欲が混じった声。少女の殻が破れかけた、過渡期とも言える声。自分がその殻を剥いでいるのだと思うと、この子の一生に関わることをしているのだと思うと、とんでもない責任感に苛まれると同時に震えるような興奮が身体の中を駆け巡る。

 舌先を唇の端に付けると、留美が俺を掴む手にいっそう力を込めた。唇は固く引き結んでいて、明らかに緊張していた。

 背中を抱きしめて頭も撫でる。張り詰めていた表情が僅かにほぐれるのを確認すると、上下の唇の合わせ目をゆっくりなぞり始めた。

 

「んっく……ふぅっ、んんん……ふっ、んんん……っ」

 

 拒絶しているのではないが、留美は頑なに唇を開こうとしない。俺も、無理に押し開こうとはしない。互いに今のこの状況を楽しもうとしている。

 

 つっ、つつっ、ぐりぐり、つつつ。

 

「ふぅっ、んんっ……んふぅぅっ? んふぅぅ……っ」

 

 唇の継ぎ目を何往復もして、時折押し破ろうと少しだけ力を入れる。留美もぎりぎり侵入を許さない程度に力を込める。気付けば、留美の両手は俺の背中を抱きしめていた。

 舌と唇を一旦離す。

 

「はっ、んんっ、ふぅっ、ふぅぅ……っ、んっく……っ」

 

 留美が陶酔した表情で口をぱくぱくとさせて、更なる唇のまぐわいをこいねがう。留美が口を開けた瞬間に舌をねじ込むか、なんてことも考えたが。今は穏やかに楽しみたいのでやめておく。

 もう一度、留美と唇を重ねる。先程と同じように唇の合わせ目を舌でなぞるが、今度は口内への侵入の意思をより顕著にするため、舌先に込める力を一気に強める。

 

 ちゅっ、ずっ、ずぐぐ……ずるっ、ずっ、ずず……っ。

 

「んっ、んくぅっ、んんんん……んふぅっ!? んっ、んんん……っ」

 

 一瞬、殆ど突破しかけたが、留美は何とか堪える。

 留美を抱きしめる力を強め、焼け付くような視線を向けた。留美は俺の瞳を見つめると、目を見開いて唇の力を抜いた。

 小さな唇の真ん中に、舌先を突き立てる。

 

 今度は、何の抵抗もなく――

 

 ずるり。

 

「んふぅぅぅ……っ」

 

 留美の口内に、舌が入り込んだ。

 自分の口と、留美の口。同じ人間の口なのに、こうも違うものなのか。

 熱も、湿度も、感触も、まるで違う。

 もしかしたら、口というのはその人の最もプライベートな空間なのかもしれない。

 唇を割り開いて、口内をまさぐる。舌を這い回らせると、ざらりとした感触に行き当たった。「それ」に触れた瞬間、留美が目を見開き、やがて細める。

 ああ、今、俺が動かしているものと同じものに触れたんだ。

 そう気付いたら、もう我慢出来なかった。

 留美を抱き寄せて、小さな私空間を赤い粘膜で蹂躙する。

 

「ふぅっ!? んっ、んちゅ、れる……っ、ちゅっ、ちゅるる……ふぅぅ……っ、んふぅ、ふぅぅぅ……っ」

 

 悩ましく蠢く留美の舌と何度も交わると、留美の目から滴が伝った。息が苦しいのかと思ったが、俺を抱きしめる力を強めるのを見た限り、そうとも思えない。

 舌を絡め合い、唇を啄み、見つめ合う。

 テクニックなんてものは何もない。それはこれからいくらでも伴ってくる。

 今は、ただひたすらに、互いの唇を、心を求め合っていたい。

 夢中で留美を貪り続けて、やっとのことで身体を離す。互いに息を切らしていた。

 

「……留美、なんで泣いてたんだ……?」

 

 問い掛けながら指で留美の涙を拭うと、穏やかな笑みが咲いた。

 

「……嬉しくて。ああ、私、八幡とこういうことが出来るようになったんだって……思った……ら……っ」

「る、留美?」

 

 言葉を続けるごとに見る見る顔を赤くした留美が、俯いて両手で顔を覆った。どうやら急に恥ずかしくなったらしい。やがて、顔の下半分を隠して熱っぽい上目遣いで見つめてきた。

 

「…………」

 

 何を言うかと思ったら、もう一度目を閉じて、唇を軽くすぼめた。

 微笑ましく思いながら、唇を重ねる。

 どうやら、留美も、俺も。

 口付けという行為に、完全にハマってしまったらしい。

 その日のデートは、ぷらぷらと歩きながら、少しでも人目につかない所を見付けてはキスを繰り返した。

 

 

 

 続く。

 

 

 




 キスで1話丸々。こういう感じ、久しぶりです。
 地の文を充実させるのって大変だなと思いながら書いてまして。所々の描写は石田衣良先生を意識しています。書いては読んで、読んでは書いてを繰り返して精進します(^^)

 それでは、また明日ここでお会いしましょう(^^)!
 今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!
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