留美との別れ際の表情が、家に帰るまでも帰ってからもずっと気にかかっていた。
単純に心配する、という感情ももちろんあるが、それ以上に、留美の中で何かが芽生えているような、そんな漠然とした予感があった。
だから電話をしてみた訳だが、正直、留美のあんな声を聞くとは思わなかった。
留美の艶めいた声に舞い上がってしまっていたとはいえ、
『……一人で、してるのか?』
留美に対してこの言葉を投げかけた時は、緊張で心臓が爆発しそうだった。
けれど、いざ口にしてみれば、状況はあっと言う間に動いた。
『あ……っ、うぁ……っ』
留美が困惑した声を漏らしたが、その中に混じる色香を見逃すことは無かった。
『そ、そんな、こと、してない……っ』
まるで子供がだだをこねるような幼い口調なのに、声音は大人の女性そのものだ。己の欲望がぎちぎちといきり立ち、ズボンの生地を無理やりに伸ばす。
『うそをつくなよ。うそをつくと、明日はしてやらないぞ』
『あ、うっ、うぅ……っ』
留美は今にも泣きそうだ。けれど、今まで留美を近くで見ていた経験から、確かに分かることがある。
留美は、いやがっていない。
いや、それどころか、むしろ――。
『一人でしてるんだろ?』
『あ、うぁ、う、うぅ……っ』
留美の声がより近くなる。きっと、画面に顔を押し付けるくらい近付けてるんだろう。何も言葉を発していなくとも、静かに息を荒げているのが手に取るように分かる。
『……て、る……』
『ん? 何だって? わるい、聞こえなかった』
『……から、……てる……』
『はっきり言うんだ』
『だから……私、一人で、してる……してるの……っ』
留美が目の前にいなくて、本当に良かったと思う。
今の留美が浮かべている表情を見たら、俺はきっと、何の容赦もなくあの子をめちゃくちゃにしてしまっていただろうから。
『……そうか』
俺の返事の声も、上ずるのを必死で抑えている。留美の声も、俺の声も、震えていた。
『留美、俺たちは今、電話してる訳だよな』
『え……? う、うん……』
『電話だと、留美が何をどうしてるのかさっぱり分からないんだ』
留美がひゅっと息を吸った。俺が次に何を言うのか容易に想像がついたのだろう。
『だから……留美。今、具体的に何をしてるのか、俺に教えてくれないか』
『……っ』
ほんの少し冷静になれば、洒落にならないことを言っているのは分かっている。
けれど、俺は今、2人の間に醸成された雰囲気に酔っていた。
互いの声のやりとりが、互いの音のやりとりが、俺と留美の感情をどこまでも昂ぶらせる。ひりつくような空間に心が搦めとられ、溺れていた。
『……教えて、くれるか?』
努めて優しい声で語り掛ける。
強制したくはないんだと。
無理はしなくていいんだと。
優しく、甘露のような言葉を留美の背後に垂らす。
今からでも戻れるように、何事も無かったかのごとく引き返せるように。
『……わ、私……っ』
けれど、留美は。
『……今、ベッドの上に寝て、胸を、さわっ、てる……の……っ』
――背後の甘露よりも、目の前の情欲の沼に足をそっと入れた。
ごくりと息を呑んだが、敢えてその音を留美に聞こえるようにする。俺も興奮しているのだと言外に知らせることで、留美の官能がより高まると思ったからだ。
『……服の上からか?』
『……うん。その、お風呂も入って、今、下着着けてないから……その……っ』
わざわざ興奮を煽ることを言ってくれる。
『その、なんだ?』
『……服が、こすれて……気持ち良い……っ』
自分の歯が、かちかちと鳴った。
留美が息を荒げる。切実な声が持つ熱が、電話越しに伝わりそうだ。
『両手で揉んでるのか』
『う、うん……』
『じゃあ、もっと激しく揉むんだ。特に、自分が一番気持ち良いと思うところを入念に』
『……っ、そ、それ……っ』
『いいから』
『あ……ぅあ……っ、……んっ、くぅっ、はっ、んくぅ……っ、んふぁぁっ!?』
突然留美の声が跳ね上がる。
『はぁっ、はぁっ、だ、だめ、八幡、私なんだか変、これ以上は無理、無理なの……っ』
『そうか。じゃあ続けてくれ』
『う、うそ……っ』
『いいから』
『んくぅ……っ、わかった……っ。……あっ、んっ、ひっ、あっ、あぁぁ……っ』
『自分が気持ち良いと思う所を、両手の人差し指と親指でつまむんだ』
『え……こ、こうすればいいの……んはぁぁっ!?』
『もっと強く、こするように』
『うそ、んくっ、こんな、んふぁぁっ、やだ、ひっ、あぁっ、あぁぁぁ……っ』
『止めちゃだめだぞ。もっと気持ち良くなるんだ』
『あっ、やっ、だめっ、これ、ほんとに、あっ、んくぅっ!?』
留美の声はどんどん艶を帯びて、聞いているだけで狂いそうな程に高まる。
『なに、これ、何なの……あふぁぁっ!?』
『っ……? 留美、大丈夫か……って、あれ?』
留美の声が激しく跳ねた瞬間――通話が途切れた。
留美との繋がりが途切れて一人に戻った瞬間。
言い得ぬ後悔が、身体中を包んだ。
× × ×
今のは、なに?
なんだか、すごい波が来そうだった……?
「そんな……うわ……っ」
半信半疑のまま視線を下ろすと、自分の身体に起きている変化に愕然とした。
お風呂に入ってパジャマを着ている私の足の間が……水でもこぼしたのかと思うくらいに濡れている。
……下着、履いてるのに?
うそでしょ?
顔が、火が出そうなくらい熱い。
私の身体、どうしちゃったの……?
混乱しながらも、汗ばんでる上に服をこんなにしては寝られないと思い、お風呂に入り直すことにする。
脱衣所で服を脱いでいると、着信音が響いた。
画面を見て、すぐに電話に出る。
『もしもし』
『もしもし。……あー、その、さっきはなんだ、やりすぎたかもしれん。すまん』
『……別に良いのに』
八幡の声は、さっきまでと違っていつもの優しい声に戻っていて。安心すると同時に、少し寂しくもあった。
『それよりも』
『ん、なんだ?』
『私今、着替え中なんだけど』
『え、うおぉ!? それはすまん……って、電話に出たのは留美だろ』
『八幡のエッチ』
『うぐぉぉ……っ』
八幡が悶絶してる。どうやらすっかりいつも通りの八幡になったみたい。とは言え、からかうように言ったのが伝わったみたいで、唸ってる八幡の声もどこかおどけてる。
さっきまで、あんなすごいことを私に囁いてたのに……。何だか急に初心になったみたいで、それがすごく可愛い。
『ねえ、八幡』
『どうした』
『私、明日も八幡とキスしたい』
『……大歓迎だ』
『もっと誘惑してあげるから。八幡が私を襲いたくなるように』
『……望むところだ』
『八幡』
『おう』
『大好き』
『おう……って、おぉ!? 急にそんな』
電話を切った。
ちょっとだけ、勝った気分。
浴室に入ると、自然と鼻唄を歌い出した自分に気付く。
なんでこんなに楽しい気分なんだろうと考えたけど、理由は単純だった。
電話を通して、八幡と一緒に居られたからだ。
明日会ったら何を話そう。
急にキスして困らせようかな。
「……八幡……」
今日も、明日も、これからずっと先も。
私は、八幡が、好き。
大好き。
続く。
<お知らせ>
木・日は定休日にすると決めていたのを忘れていました。明日はお休みします!
日付が変わる3時間前になってこの後書きを変更しましたので、日曜もやると思ってお待ちになっている方がいましたらすみません!
ルミルミでした。
可愛さとエロさを突き詰めていけば行く程、自分の好みやら性癖がよく分からなくなって行きます。そんな感覚も楽しみつつ。
☆☆☆祝・お気に入り6000件突破☆☆☆
大台に乗りました。皆さん、いつも本当にありがとうございます(^^)!!
夏コミに向けての執筆を進めています。ゆったりペースで。委託を望まれる方が結構な数いらっしゃるので、何かしらの策を講じようと思います。時間はかかるかもしれませんが!
それでは、また【明後日】ここでお会いしましょう(^^)!
今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!