もうじき日も暮れる時間。
そばに誰もいない、公園の芝生。
俺は両手を芝生に置いて、空を仰ぐように座っている。両足は伸ばしていた。
留美は、俺の足の根本に跨っている。俺の腰に手を添えて俯いていて、長い黒髪が表情を隠している。
くちゅり。
くちゅ。
くちゅ、くちゅり。
「あっ……あっ、あ……っ」
互いの下腹部が擦れ合う度に、留美の細い肢体が波打ち、スカートの中のショーツがくにくにと押し付けられる。いやらしい水音は、回数を重ねるごとに淫らに変質していく。
「……八幡、……いやらしいこと、したくてたまらないでしょ?」
今二人が行っている行為がいやらしいことと言えないなら、一体何が当てはまるのか――そんなツッコミも、今はしない方が良い気がした。
「……もう少しってところだな」
「……うそ。腰、動いてる」
「あー……これはアレだ。たまたま勝手に動いてるだけだ。そんな日もある」
何を言ってるんだ俺は……と思うような言葉に対して、留美は、
「……そっか、それならいっか」
と、ぽそりと呟いた。
……いいのかよ。
留美は女の子座りで俺に跨ったまま、静かに息を荒げている。視線は二人が重なっている所に向いていて、すっかり夢中になっているのだと気付く。
くちゅり。
くちゅっ、ちゅく。
くちゅくちゅ、くちゅ。
「はっ、はぁっ、あっ、あっ、あぁ……っ」
留美の腰が、前後に加えて左右にも動き始める。たまらず愉悦の声が漏れると、俺の声を聞いた留美の口の端が微かに上がった。二人の間の空気がぐにゃりぐにゃりと歪んで行く。
悪戯心で、留美が腰を後ろから前にずらした瞬間、それに合わせるようにぐいと腰を突き出した。
「んあぁぁ……っ!?」
留美がおとがいを上げて甘い嬌声を上げ、白い喉元をおしげもなく晒す。見惚れる程の美しさと、目を背けたくなる程のいやらしさを湛えていた。
「あっ、あっ、あぁ……っ」
留美がぺたりと俺に抱き付くようにへたり込んで来た。俺は寝転がって留美を抱きしめると、夕暮れの中巣に帰ろうとする鳥の群れをぼんやりと眺めた。
「……八幡」
「ん、なんだ」
「私の誘惑、どう?」
「興奮して死にそうだ」
「それでも襲ってくれないの?」
「馬鹿を言うな。俺の理性を舐めるなよ」
「じゃあ、もっと誘惑していい?」
「ああ、どんどんこい。俺の五感をフルに使わせるつもりでな」
言うと、留美が俺をじっと見つめて考え込んだ。まあ、いきなり案が浮かぶ訳も――
「……今、八幡の顔に跨るのは……どう? 視覚も触覚も嗅覚も満たせると思うけど」
やべぇのがきた。
「留美、流石にそれは、な? 俺が変態としての覇道を歩むことになるから」
「……あ、味覚と聴覚も……いけるかも」
「いけてないいけてない、全然いけてない」
この子、真面目な顔して何を言ってんの? いや、よく見たら顔真っ赤だな。セルフ羞恥プレイとかレベル高いですね留美さん……。
留美は立ち上がると、俺を見下ろして優しく微笑んだ。
「じゃ、するから」
「待て待て待て待て」
芝生に手を付いて、身体を高速で後退させて。
留美の足の間から、すぽんと抜けた。
尻が芝生とこすれてしゅるるる……と変な音がした。若干青臭い匂いがする。
俺が息を荒げて慌てていると、留美は悪戯っぽく笑った。
「……冗談なのに」
「絶対うそだろそれ」
「ん、だから冗談って言った」
「や、俺が言ったのはそこに対してじゃなくて」
「ん、どこ?」
からかうように笑うと、留美は俺の下へ歩み寄り、身体を屈めて唇を重ねてきた。まるで年上のお姉さんに遊ばれているような気がした。
「……そろそろ、帰るか」
「ん」
立ち上がると、留美が何も言わずに抱き付いてきた。胸元に顔をうずめた留美の頭をぽんぽんと撫で、しばし立ち尽くす。
辺りが段々暗くなっていき、留美の表情もはっきりと見えなくなっていた。ぽつぽつと街灯が灯り始めるのを見て、留美の肩を抱いて身体を離し、二人並んで歩き始める。
手を繋いでいると、留美が腕を抱いてきた。
「すげぇ恥ずかしいんだけど、これ」
「私は恥ずかしくないから大丈夫」
「俺の意見は反映されないのか……」
そうは言いつつも、何だかんだでそこまで気にならない。
何故ならば、暗くなった途端にカップルがわらわらと増えたからだ。さっきまでいた場所にカップルが吸い込まれていく。きっとこれからあれやこれやとするのだろう。
「……あの人たち、いやらしいこと、するの?」
留美がきゅっと俺の腕を抱きしめて、上目遣いで尋ねて来る。
ふむ、と顎に手を当てて考えた。
「留美の方がいやらしいから大丈夫だ」
さっきまでの妖艶な仕草を思い出して至極真面目に答えたのだけど。
「八幡」
「ん」
「ほっぺた、こっちに寄せて」
「なんだ、キスでもしてくれんむっ」
つねられた。
うにうに。
うにー。
「……ならくらいか(長くないか)?」
罰にしては妙に長いつねられ時間(妙な言葉だ)に思わずツッコむと、思い出したかのようにパッと手を離された。
「楽しくなっちゃった」
自由か。
お返しに頭をくしゃりと撫でると、留美は猫の様に目を細めた。
× × ×
留美の家に向かってぽてぽて歩く。留美は途中から腕を抱くのをやめ、手を繋いでいた。恥ずかしくなったのかと聞いたら、「ずっとやってると背筋が曲がりそう」とえらく健康志向な返事をされた。やべぇ、また好きになっちまう。自分のツボが分からない……。
しばらく何も話さないで歩いていると、留美が顔をくりんと向けた。
「八幡はどういう誘惑をされたいの?」
真顔で言う質問か、それ?
「あー……その、なんだ。男が喜ぶようなことは、まあ、大抵クラっとくるぞ」
「……そ。じゃあ、勉強しておくから」
あっさりとした調子で言ったかと思えば、あごに手を当てて小声で「あのサイトで調べて……あ、本を買うのもありかも。雑誌にも載ってるかな……あ、まずは綾乃に聞いてみよう」などと呟いている。本気で研究する気ですやんこの子……。
これから一体何をされるやらと期待に胸を膨らませていると(雪ノ下には辛い言葉だ)、留美の家に着いた。
「ありがと」
留美ははにかむと、軽い口付けをしてきた。ここで軽くしかしないのは、わざとなのだろうか。単純に家の前だから抑えているんだろうか。どっちも有り得る。
「また明日な」
「ん」
留美は今度は目を閉じて、顎を上げた。あら、もう一回ですか。
仕方のないお姫様だこと……と内心微笑みながら唇を重ねると、今度は唇が中々離れない。
試しに舌で留美の上下の唇の境目をなぞると、小さな体がぶるりと震えた。
あ、まずい。
スイッチが入りそうだ。
この場合、俺も、留美も。
危機感を抱いて早めに唇を離す。すると留美が不満げに唇を尖らせた。
「……お忘れかもしれませんが、ここって貴方様のご自宅の前でございますよ」
俺の言葉遣いに、留美は目をぱちくりとさせて、
「……何その言い方」
――呆れたように、くすりと笑った。
留美はくるりと反転して家に向かって歩き出したが、途中でぴたりと止まって振り返った。
「八幡」
「ん」
「大好き。……また明日」
そう言う留美の顔は、ほんのりと朱に染まっていて。
「……おう」
最後の俺の返事は、留美が聞き取れたか分からない程小さな声だった。
留美を見送ると、頭をがしがしと掻く。
「あー……これは、本当に時間の問題だなぁ……」
こんなことを言いながらも、俺の顔はにやけているんだろう。
留美とのこのぎりぎりの距離感は、今でしか味わえないものだ。
今はこの時間を、目一杯楽しみたい。
それが終わったら、それはそれ。
今度は踏み込んでからの時間を楽しめば良い。
街灯が灯る夜道を一人で歩くが、まるで寂しくない。
それが、不思議で、むずがゆくて。
たまらなく、幸せに思えた。
続く。
☆☆☆祝・400話達成☆☆☆
わーーーーーー!!!
皆さん、いつもありがとうございます(^^)!!
ルミルミでした。全部で一体何話になることやら。
明日は定休日です。
それでは、また【明後日】ここでお会いしましょう(^^)!
今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!