家に帰ると、母への挨拶もそこそこに自室に入りベッドに飛び込んだ。
ずっとお世話になっているベッドが聞き慣れない軋んだ音を立てて、反動で私の身体をぐいと押し上げる。身体はこうして浮かび上がったのに、心はどこか深い所に沈んだままだった。
枕に顔をうずめて、毛布を足で挟んで、横向きに寝転がる。身体を目一杯縮こまらせて、今にも爆発してしまいそうな感情のやり場を必死で探す。
八幡と、あんなことが出来るなんて。
もちろん、そうするつもりで――誘惑するつもりで行ったのだけど。そのために、綾乃にだって協力してもらった。
それでも、本当にあそこまで行くなんて。
八幡の身体を、私の身体が。
私の身体が、八幡の身体に。
あんな風に触れ合って、熱を分かち合って、気持ちを分かち合えるだなんて。
思い出すだけで、身体の奥の、一番大事な部分がじんと熱くなる。
仰向けになって枕を離し、八幡が触れた部分を一つずつ触っていく。自分の手が触れる度に、八幡の指の感触がはっきりと蘇って唇が震える。
今日は最後までするつもりはなかった。単純にまだ怖いと言うこともあるけれど、それ以上に――いきなり八幡とそこまでしてしまったら、きっと今の生活が壊れるくらい夢中になってしまいそうだったから。その思いは、八幡との行為が進むにつれてより強いものになっていき、予感が確信に変わっていた。
現時点でも相当危ういところにはいるけれど、何とか自制心は保てている。きっと八幡も同じように考えていたから、明日は会わないでおこうと言ったんだと思う。
「……ん……っ」
身体をまさぐる手が下半身に伸びる。下着越しに割れ目に指を這わせた時、八幡の指がずぶりと入っていく感触を思い出して、それだけで身体が泣きそうな程に喜んだ。
今、自分でしても、きっと満足出来ない。
それでも、ちょっとだけ、ちょっとだけ……と思っていたら。
部屋のドアを、こんこんとノックされた。
「留美ー? どうしたの、大丈夫ー?」
「え、お、お母さん……っ!?」
湿った中指を慌てて引っ込めて、毛布に包まる。まるでミノムシのように丸まったまま会話を続ける。
「すぐに引っ込んじゃったからどうしたのかと思ったんだけど、大丈夫?」
「う、うん、大丈夫。大丈夫だから。ご飯はもうすぐ?」
自分の声が洞窟の奥から聞こえるかのようにくぐもっているけれど、今は母のいるドアの方さえ恥ずかしくて見ることが出来なかった。
「そうね、もうすぐ出来るわ。待っててちょうだい」
「わかった、ありがとう」
短い会話を終えて、ふっとひと息つく。母にはとても今日のことは話せそうにない。
――それでも、いつかは、きっと。
ふっと息を吐いて、何気なく自分のバッグに目をやる。
「……あ」
……下着、自分で洗わなきゃ。
お母さんが見たら、多分気絶しちゃう。
熱の燻った身体をベッドから出して、頭の中がたった一人のことで埋まったまま、バッグの中を確かめて洗面所に向かった。
× × ×
留美を送って部屋に戻った途端、すぐさま勃起してしまった。
「……何だこれ……」
換気や掃除はしたのに、部屋の中には生々しい男女の匂いが満ち満ちていた。治療しても消えない後遺症のように、濃厚な気配が部屋のカーペットやベッドに染みついている。一旦落ち着こうと思っていたのに、この場所と匂いが一瞬でさっきまでの記憶を炙り出す。
ぼうっとしたまま、ふらふらと歩いてベッド際に座る。
さっきまでの行為のほんの一部を反芻することにした。
下着姿で、うっとりした表情を浮かべて肉棒をしゃぶる留美。
純朴な少女を淫猥な色に染め抜いたことに背徳感と罪悪感が湧くが、その何倍もの幸福感が波のように押し寄せている。
興奮で震えた両手を前に出す。
小さな頭を掴んで、がぼがぼと乱暴なくらいに喉奥を突く。
留美の人形のように綺麗な顔が苦悶に歪むが、虚ろな目はしっかりと俺を見つめている。
漏れる声は苦しそうなのに、どこか喜悦が混じっている。
口内を力ずくで犯しているのに、その最中も肉竿に舌を這わせてくる。
嗜虐心が波立って肌の上を撫でていき、全身で感じて溢れ出す快感が、肌の裏を撫でて下腹部に集まっていく。
白い欲望をぶちまけると、留美は顔を引くどころか俺の腰に腕を回して抱き付き、必死に飲み込んでくれる。
気持ち良くて、愛おしくて、気持ち良い。
狂いそうな程の多幸感に包まれながら、幾度となく繰り返される口淫。
栓の壊れた蛇口のように、白濁は溢れ出し続ける。
そのお返しに指で留美の身体を何度も嬲る。
触る度に感度を増していく留美の身体。
華奢な身体を立たせて後ろから抱きすくめ、下着越しに乳頭を執拗にいじると、留美の身体は生まれたての子羊のように震える。
敢えて身体を支えず乳頭だけいじっていると、留美は立ったまま何とか耐えようとして俺の腕を掴み、服従を示すかのように腕にキスの雨を降らせる。
留美が目に涙を浮かべて、牝の匂いを撒き散らしながら足元のカーペットの色を変える程の淫汁を滴らせる様は、きっと一生忘れることはない。
――匂いさえ漂う鮮明な記憶を辿っていると、気が付けばチャックを下ろして肉竿に手を添えていた。
それでも。
「……明後日まで、我慢するか……」
今は自分で処理するよりも、もっと楽しいことを知っている。
そう思い、自慰はやめておいた。
× × ×
日曜日を挟んだ、月曜日。
留美に会えると言っても、朝から会える訳ではない。お互い学校に通って、部活もして、その後にやっと会えるのだ。そんな当たり前の事実を当日の朝起きた瞬間に実感するくらいには、留美のことを恋い焦がれていた。
……そんな状態だったので。
「えー、では次の文を……比企谷、読んでみようか」
「え、あ、はい。『John stood and said……』」
「比企谷、私の担当科目を覚えているかね?」
「……英語ではないですね」
「よろしい、後で職員室に来なさい」
平塚先生はとても素敵な笑みを浮かべた。でも心の内の修羅が透けて見える。あかん、これ死ぬやつや。
「職員室までの廊下がゴルゴダの丘にならないですかね?」
教室と職員室の間の廊下が最後の旅路になんてなってほしくない……と恐怖に打ち震えながら尋ねると、平塚先生は細めていた目をゆっくりと開けた。瞳から人間らしい温かみが感じられない。あ、こめかみに青筋。火山みたいに怒りが漏れ出てる。
「それは君の反省文のクオリティに依るな」
「頑張ります……」
こんなやりとりをしていたり。
生半可なクオリティの反省文では本当にやられてしまいそうだったので、他の授業中にきちんと反省文の内容を考えておいた。その授業の内容は当然頭に入らないので、見事な悪循環である。それでも死にたくはなかった。
――そんなこんなで迎えた放課後。
部活も終えて、よく留美と会っている公園に向かう。
走るのは必死な奴に見えてみっともない気がしたが、気が付けば随分と早歩きをしていた。見上げれば上空の風の流れは速いようで、雲が見慣れない速度で形を変えていく。空を仰いで、雲と競争するように大股で歩いた。
気持ちを落ち着けようとMAXコーヒーを飲みながら歩いていると、ベンチに留美が座って待っていた。先に着いていたようだ。
「留……っ」
留美の姿を間近に捉えると、言葉半ばに自分の声が途絶えた。
ベンチに座って、静かに本を読む少女。
例え周りの景色が全て焼け野原になろうと、一つの絵画のように変わらず映えるであろう美しい姿に、こちらから干渉するのが躊躇われた。触れてはいけない世界が目の前に広がっている気がした。
近くまで寄って立ち止まって見惚れていると、留美がこちらに気付いて本を閉じた。留美の意識が本からこちらへ向けられた瞬間、一枚の絵画から天使が飛び出したような気がした。
「八幡、どうしたの?」
「……いや、なんでもない。待たせたな」
「ううん、待つのも楽しいから」
「……そうか」
絵の中から飛び出してきたらきたで、また別の魅力で俺を捉えてしまう。
うーん。
人目をはばからず抱き付いてしまいそうだ。
犬の散歩をしているジャージを着た主婦が通り過ぎたことで、降って湧いた衝動を何とか抑えることが出来た。
続く。
☆☆☆祝・UA350万&PV1700万到達☆☆☆
思えば遠くへ来たもんだ。いつもありがとうございます!引き続きよろしくお願いします!
ルミルミでした。地の文を強化中です。
<夏コミ宣伝(再掲)>
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takahashi_toru_
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平日が始まりますね。頑張りましょう。
それでは、また明日ここでお会いしましょう(^^)!
今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!