※この作品はR-18です。

俺ガイル 日常の何気ないエロス。   作:高橋徹

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 留美とベンチに並んで座る。遠くも近くもない、絶妙な距離感。

 

「……遠い」

 

 いきなりダメ出しを受けた。

 尻を動かしてにじりにじりと詰め寄る。

 すると、俺が動いた分と同じだけ留美が遠ざかった。

 

「……なんで?」

「……なんか、動きが……」

「…………」

 

 ……気持ち悪かったですかね……。

 少なからず自覚はあるけど、他の人に指摘されるとめこめこに凹むことって、あるよね。

 虚ろな目でぼうっとしていると、留美がくすりと笑った。

 

「冗談だって。八幡のそういうとこ、もう見慣れてるし」

「それは冗談って言えるのか……」

 

 気持ち悪さを感じないのではなくて、慣れたってことだよね?

 俺が更に凹んでいると、留美が眉を八の字に曲げて心配そうに俺を見つめてきた。そしてベンチに手を添えたかと思うと、俺がしていたのと同じ動きでにじりにじりと詰め寄ってきた。若干恥ずかしそうに頬を赤らめて、お尻をくいくいと動かす様は……ただただ、可愛かった。

 

「何だそれ、可愛いな。もうちょっとやってみせてくれ」

 

 そう言って腰を浮かせてベンチの端まで遠ざかると、留美が頬を赤らめたままぷるぷると震えた。睨んでいるようだが可愛げしか感じない。

 

「……せっかく慰めてあげようと思ったのに……」

「…………」

 

 無言で元の位置に戻り、更に近付いた。留美は俺の行動にぷっと小さく噴き出し、小さな手を俺の頭に乗せた。くしくしと撫でられて、柔らかな気持ち良さに自然と瞼が落ちて来る。

 

「……八幡、気持ち良い?」

「ん、やばい。今なら何でも言うことを聞いてしまいそうだ」

「撫でなくても、八幡は私のお願いごと何でも聞いてくれそうだけど」

「…………」

 

 ……よっぽど無理なことでない限りは、確かに聞いてしまいそうだ。

 留美の性格上、お願いごと自体あんまり無さそうだけど。

 

「こういうの何て言うんだろう……調教?」

「ちょっとその手を離そうか留美お嬢さん」

 

 可愛く首を傾げながら言う台詞ではない。

 俺が手を掴むと、留美は不機嫌そうに片頬を膨らませた。

 すかさず膨らんだ頬を人差し指で突く。

 ぷすり。

 

「…………」

 

 両手で頭を撫でられた。

 

「やめろやめろやめろ」

 頭が鳥の巣にされる!

「蜂の巣にしないだけマシだと思って」

「こええよ!」

 

 ていうか何で心の中の比喩が読まれたの今!?

 ようやく解放されて、取り敢えずひと息つく。

 ふいー。

 

「八幡、それ……」

 

 俺の手にあるMAXコーヒーを指差した。興味津々のようだ。

 

「ん、俺が最も愛している飲み物だ。飲んだことないのか?」

「うん。ダイエット中の友達が『彼氏に勧められて1本飲んだらそのカロリーに絶望した。あれは女の敵。あまりにもびっくりして彼氏におしおきしちゃった』って言ってたから、何か恐くて……」

「…………」

 

 ……そんなに?

 ていうか彼氏さん、おしおきされたの……? 恐いよその子……。

 缶の上部を指で摘まんでくりんと回し、成分表示を見る。

 

「……そこまで高くねえと思うんだが。カロリー」

「え、そうなの?」

 

 二人の真ん中辺りに缶を持って行くと、留美が文字を読もうと顔をこちらに寄せた。自然と互いの頬がくっつきそうな程近付き、ぱちりと目が合った。

 

「……んっ」

 

 留美が目を閉じて、唇を重ねるだけの軽い口付けをしてきた。目を僅かに細めたかと思うと、すぐに表情を元に戻して缶の文字を読み始める。何この辻斬りみたいなキス。

 

「……何で加糖練乳が初めに表示されてるの?」

「……『これは甘いですよ』っていう最大級の意思表示なんじゃねえかな」

 

 思い付きの返事をしながら、辻斬りキスのお返しに留美の頬をぷにぷにと突く。どんな表情をするかと思ったら、成分表示を見たまま、突かれている頬をぷくりと膨らませて押し返してきた。俺を悶え死にさせるつもりだろうか。

 このファンキーな飲み物がよっぽどツボにハマったのだろうか、留美は成分表示を事細かに読んで小さな声でツッコミ続けている。反撃されないのを良いことに、留美の頬をぷにぷにつつきながら横顔を眺める。

 

 ぷにぷに。

 ぷにぷに。

 ぷにぷに。

 ぷにぷ――

 

「んっ」

「んっ!?」

 

 突然キスされた。

 まるで黙れと言わんばかりのキスだった。

 顔がものすごく熱い。俺ばっか動揺丸出しで恥ずかしい……と思ったら、留美の顔もやっぱりちょっと赤かった。

 

「私も飲んでみたい」

 

 くりんと顔をこちらに向けて、留美がそんなことを言い出す。俺の太ももをさりげなくぺちぺちとしている。え、なんでこの子こんなあざとくなってんの……!? ぜひ今後も継続して頂きたい。

 

 ……ていうか今のセリフ、何か……。

 …………。

 

「八幡?」

「すみませんなんでもないですごめんなさい」

 

 高速で謝った。

 こほんこほんと咳払いして仕切り直す。

 

「そこの自販機にあるみたいだぞ。買うか?」

「ん、八幡ので良い」

 

 おっと?

 留美さん、俺の返事を聞く前に既に缶を掴んでいるぞ?

 

「だめ?」

「その聞き方をされて断る男はこの世にいないぞ」

 

 俺の返事を聞いてくすりと笑い、留美がMAXコーヒーを口にする。

 くぴっ、と飲み込む音がした後、留美は何とも言えない顔をした。色んな表情がごちゃ混ぜになっている。

 

「……なんか、すごい……」

「……まあ、そうなるよな……」

 

 明らかに無理という訳でもないようだが、あまりハマらなかったようだ。

 しかし、この缶はどうしたものか。

 いっそ留美にあげてしまうか……慣れてもらう意味でも……などと考えていると。

 

「八幡、飲んでみて」

「え、なんで?」

「だって八幡のでしょ」

「え、や、そうだけど、しかしMAXコーヒーは全千葉民のものであって俺のものという訳ではないから……」

「いいから」

「あ、はい、ごめんなさい」

 

 言いくるめられて口に含む。

 ……留美が口にしたという事実が頭の中にちらついて味が分からん。

 MAXコーヒーの甘味だけじゃない気がしたけど、それを確かめる術はもうない。

 留美は一体何のつもりなんだ……と思っていると。

 

「もう一口飲ませて」

「え」

「ん……っ」

「え、ちょ、おい」

「ぷはっ。はい、八幡も飲んで」

「え、ターン制なの?」

「いいから」

「あ、はい、ごめんなさい」

 

 この流れが繰り返されて、結果5往復した。その間、ずっと味は分からなかった。

 

「ちょっと好きになったかも」

 

 げんなりした俺とは対照的に、留美は目を輝かせている。人をいじめながら飲んだら好きになるって、Sにも程があるだろ。

 

「……なんか、すげえ疲れた……」

 

 留美の行動に心底驚いて疲れ果てていると。

 

「八幡、キスは大丈夫なのに間接キスはだめなんだ。可愛い」

 

 そう言って、年下の女の子に頭を撫でられる。この流れが気に入り始めているのが何よりも恥ずかしい。

 

「……うるせえ、別腹なんだよ別腹」

「キスにそんなのあるんだ……」

 

 自分で言って恥ずかしくなった。なんだよキスの別腹って。

 

――ああ、それにしても。

 今日はとても和やかだ。

 キスこそすれど、それも可愛らしいもので、純情そのものだった。

 二日前の濃密な空間が、まるで嘘のようだ。

 

 気付けば、辺りはとっぷりと日が暮れていた。行き交う人はぱったりと途絶え、昼から夜へと空の色合いが変わってゆく。日が沈むその上で、既に星が瞬いている。

 

 今日はのんびり過ごすだけでも十分かな――なんて思っていると。

 太ももに、留美の手が添えられた。

 今留美がしたのは、手をほんの数センチ移動させるというだけの行為だ。

 

 それなのに、たったそれだけの行為が。

 空の移り変わりよりもはっきりと、突き付けるように、二人の空間をぐにゃりと歪める。

 

 留美の瞳を見つめる。

 街灯と街灯の間にいる為、留美の顔ははっきりとは見えないのに。

 このまま終わらせはしない――と言っている気がした。

 

 

 

 続く。

 

 

 

 




 ルミルミでした。遂に50話台!
 久しぶりにのほほんとしたやりとりを書いてみました。

急ですが明日はお休みします。明後日または3日後に更新出来ればと思います。

 今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!
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