「るるるる留美ちゃん? い、今、何て? 何て……っ?」
「あ、いや、だから、ね? その、この間、八幡と、その、最後まで……」
「くくくく詳しく聞かせて! お願い!」
「う、うん、分かったから落ち着いて? ね?」
小動物然とした顔立ちを興奮一色で染めて、テーブルに両手を付いて身を乗り出し捲し立ててくる。
目の前の友達の動揺っぷりは、いっそ面白いくらいだった。
――八幡と色々なことがあった日からしばらくした後。
私はクラスメイトの綾乃(あやの)――私と同じく、5つ上の恋仲の相手がいる可愛らしい女の子――と、久しぶりに2人で遊んでいた。久しぶりと言ってもそこまで時間は経っていない筈なんだけれど……それまで過ごした時間――主に八幡と過ごした時間――が濃すぎて、実際の時間よりもずっと時間が経っているような気がした。
前回2人でカラオケで話した時は、私はまだキスだけ、そして綾乃は口で……と、綾乃が私の先を行っている状況だったけれど。
「うぅぅ……留美ちゃんに先を越されたぁ……わたしだってまだ彼と最後までしてないのに……」
「綾乃、今午前中、あとここファミレスだから。気を付けて」
「うぅぅ……わたしが口でするのをのんびり研究してる間に……」
「綾乃、ねえ、聞いてる?」
……と、どうやら、私は意図せずして綾乃を追い越してしまったらしい。元々競うようなものでも無いんだから別に良いとも思うんだけど。
遊びに行くと決めた所で、綾乃が真っ先に「近況報告をしたい」と言ったので、こうして午前中からファミレスに来ていた。ドリンクバーでのんびりと過ごして、お昼になったらこのままご飯も食べようとしていた。幸い店内は空いていたので、店にそこまで迷惑はかからない……はず。
冷房が寒いからとホットにしたコーヒーにミルクを混ぜながら、未だ興奮冷めやらぬ友人を見つめる。
「……綾乃、髪は切らないの? 前髪だけでも」
「え? ああ……」
私の報告に取り乱している綾乃を一旦落ち着けようと、別の話題を切り出す。綾乃の綺麗なショートカットの髪は少し伸びてきていて、彼女のチャームポイントとも言えるくりくりとした大きな瞳が隠れがちになっていたのが気になっていた。
これはね……と綾乃が照れたように俯いて、毛先をくるくると指で遊ぶ。
「髪が伸びてることに気付いた彼がね? 『普段他の人にあんまり目を見せないでおいて、こうやって俺にだけ見せてくれる感じ、すごく、何ていうかこう、クる』って言ってくれたの。だから、本当に邪魔になるまで伸ばしておこうかなって……」
「…………」
八幡がたまに見せる、ちょっと鬱陶しい所(そこも含めて好きではあるんだけど)を凝縮したような台詞……。
「綾乃、今日中に前髪を切ろう」
「えっ!? なんで!?」
「綾乃の彼氏、良い人だと思うけどその台詞はちょっと鬱陶しい」
「ひどい!?」
こんなやりとりを経て、結局本当に綾乃は髪を切ることにした。最初は言い過ぎたか……と後悔したけれど、「うぅ……確かに彼、そう言う台詞よく言うかも……」と綾乃が呟いたことで罪悪感が吹き飛んだ。違和感の芽は早めに摘んだ方が良いと思う。
席を立ってアイスコーヒーを注いできた綾乃が、ストローでくぴくぴとコーヒーを飲んだ後、おずおずと私に尋ねてきた。
「そ、それで……どうだったの? やっぱり痛かった?」
「…………」
綾乃の質問に、さっきはきちんと結末まで説明しきれていなかったことに気付く。
「その……実は、最後までしようと思って、出来なかったの」
「え」
「えっと、実際そう言う所まで行ったんだけど。八幡……あ、彼のことね? 八幡の……その、あの、……もの、が……おっきくて……だから……その……って、なにニヤついてるの……っ?」
綾乃が見たこともないくらいにんまりと笑っていた。「んーん? 留美ちゃん、可愛いなーと思って」と目を弓なりにして言われる。顔は熱いし妙に腹が立ったけど、それでも何とか話を続ける。
「……本当に痛くなっちゃって、その……その日は、途中で止めたの」
最後は消え入りそうな声で呟くと、綾乃は今さっきまでとは打って変わって真剣な表情になった。
「……そうだったんだ。……それで、留美ちゃんたちはこれからどうするつもりなの? 日を改めれば大丈夫、って問題でもないでしょ?」
「……うん」
八幡が今日はもうやめようと言った時に、私が抱いた疑問と同じことを綾乃は考えていた。これに対する答えは決まっているんだけど。
決まっているんだけど。
……。
…………。
「……留美ちゃん?」
俯く私を、綾乃が上目がちに覗き込んで来た。恥ずかしさで震える唇をきゅっと引き結んで覚悟を決める。
「……その、徐々に、広げて行こう、って……」
「……っ!」
綾乃が目を見開き、両手でコップを持ったまま固まる。
数秒の間完全に時間が停止していたかと思うと、さっき以上の勢いでテーブルに両手を付いて身を乗り出し捲し立ててくる。
「え、ど、どうやって!? ていうか留美ちゃん分かってる!? 今すごくエッチなこと言ってるんだよ!? きゃー! きゃー! え、うそ、そんなことになるんだ、じゃあわたしもこんな展開があるかも……きゃー! それでそれで、詳細は!?」
「綾乃っ、今午前中っ、ここファミレスだから……っ」
近くを通ったウェイトレスの人が不思議そうにこっちを見ている。恋の話で盛り上がる女子中学生なんてきっといくらでもいるんだろうな……とお盆を持つ彼女の大して動揺しない様子から察する。幸い綾乃は声が小さいので他の人に聞かれることは無かった。
そこから綾乃には質問責めにあったが、肝心な部分には答えることが出来なかった。別に言うのが恥ずかしいとか秘密にしなきゃいけないなんて言う訳ではない。
具体的にどうするか――それを、明日八幡の家に行った時に聞くことになっていたからだ。
× × ×
「うっす。上がってくれ」
「……うん」
いつもの気だるい雰囲気を身に纏いながら、八幡が家に迎え入れてくれる。
綾乃と会った次の日、私は八幡の家を訪れていた。もう何回来たか分からないくらいで、八幡の妹さんの小町さんともすっかり仲良くなっていた。私から進んで話せる訳ではないけど、いつも小町さんが「ふへへぇ……留美ちゃんはかわえぇのぉ……っ」とか言いながら抱き付いて頬ずりしてくる。仲良くなるにつれてスキンシップが激しくなっている。
…………。
……小町さん、明るいし可愛いしすごく良い人だけど……ちょっと変だ。あの可愛らしさが無かったら犯罪の匂いさえするくらいには。
八幡に招かれて部屋に入ると、背の低いテーブルの上に見慣れない紙袋が置いてあった。中身の見えない袋の中には何かが隙間なく詰まっているようで、ぱんぱんに膨らんでいる。
「取り敢えず座ってくれ」
八幡が言うので、先にクッションの上に腰を下ろし、八幡を見ながら自分の太ももをぽんぽんと叩いた。八幡は左手で顔を覆って「くっそ……何だこの可愛い生き物……」と呟いた。八幡は私のさりげない悪戯に弱い。こういう悪戯は八幡がやけになって乗ってきた場合お互いが恥ずかし過ぎて大変なことになるんだけど。
嬉しいがまずは普通に話したいから……と真面目な理由で断られて、片頬を膨らませながら八幡をじっと見る。八幡は私の反応を見ると目を見開いて、今度は両手で顔を覆って「死ぬ……っ」と呟いてから、顔をぶんぶんと振って私の隣に座った。
「さて、早速本題なんだが……」
私が手を握ったせいかちょっと声を上ずらせた八幡が、「ちょっと待っててくれ」と言って繋いだ手を離した。離し際に優しく手を撫でられたものだから頬が熱い。
八幡が目の前にある袋を開けると、思わず目を見開いてしまった。
「俺自身色々努力はするつもりだけど、こういう物の力も借りようと思って」
唖然とする私の隣で、八幡は心持ち興奮した声で言った。私は八幡が言う「こういう物」を眺めて、口をぽかんと開けて言葉を失ってしまう。
……八幡って、やっぱり変態なんだろうか。
続く。
ルミルミでした。60話達成!そして久しぶりの綾乃登場でした。前回の登場が(25)~(26)でほぼ半年ぶりの登場です。
今までの諸々の疲れだったり生活習慣の負担が溜まったのか、盛大に体調を壊して仕事も休んでいました。楽しみにして頂いている皆さん、申し訳ありませんでした!
執筆の余力も無くひたすら読書をしていました。「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか」をここぞとばかりに読み漁りまして、4日間で本編の7~8巻、ソードオラトリアの1~3巻を読み終えました。気に入った作品を一気に読むとその先生の書き方の呼吸が見える気がしました。最近伸び悩んでいたので、これを機にまた伸ばしたい所です。ベル程じゃなくても着実に。
ちなみに8巻のヘファイストスの可愛さに死にました。何なのあのギャップ。
それでは、今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!
……あ、9月ですね!長いようで物凄く長かった8月でした。