袋を開けて、その中身をテーブルの上に転がす。
転がり出てきたのは、いくつものピンク色の器具。簡単なスイッチが付いた部分と、ピンクの楕円形の部分は線で繋がれている。
「これって……っ」
留美が目の前に転がるものをじっと見て、淡く頬を染めた。てっきりきょとんとすると思っていたので、意外な反応につい楽しくなってしまう。
「どうした、知ってるのか?」
つい、からかうように。
口を端を吊り上げて言ってしまった。
さぞや邪悪な顔になっていたのだろう。
その証拠に。
「……………………」
殻の取れた蝸牛を見るような、細く細くなった目。訝しみ、と言う言葉の最高潮とも言えるこの表情に晒されて、背中にじんわりと嫌な汗をかく。
「……す、すまん」
水分の抜け落ちた声で謝ると、留美は幾分嫌悪感を和らげた顔を向けた。
「……私、知らないもん、別に……」
「……へ?」
よく見ると、眉を八の字に曲げて、子供のようにむくれている。いつもならとてもからかい甲斐のある表情だと思うのだけれど、如何せん状況が状況なのでどうしたら良いか分からない。
「……そ、そうか、知らないか」
「……うん」
「……これは『ローター』と言ってだな……」
「……っ」
高速で顔を逸らした。
こいつ、知ってやがる……っ!
「……ふ、ふうん、そうなんだ。別に、興味無いけど」
自分から地雷を踏みに行くスタイル、嫌いじゃない。
段々調子を取り戻してきた。
「よく見ておいてくれ。このスイッチを入れると……」
言って、スイッチを回して「中」にする。すると、ローターの1つがテーブルの上で踊り出し、かかかかっと軽快な音を立てて跳ねた。
「……っ!」
留美はまるで生き物のように踊る道具に目を奪われ、瞬きも忘れて凝視している。
「試しに手で包んで持ってみてくれ」
「え、こ、こう……? きゃ……っ!」
テーブルの上を震えながら移動する器具を、留美の小さい手が包み込んだ。その途端に振動音はくぐもったものになり、暴れ馬はすっかり鳴りを潜める。
「うわ、わ、わ……っ」
年相応の子供らしい声を上げて、留美が手の中の振動に驚いている。
――この時、俺の脳内であるシーンが過ぎった。
きっと誰もが見たことのある、または名前だけでも知っている、とある作品の1シーンだ。
あの光景を思い出し、そして今から俺が留美に対して起こそうとしている行動。
それは、あまりにも自然なことなのだ。
宇宙から星が生まれて、その中で生命が誕生し、育まれ、愛を知っていくように。
それくらい、自然なことなのだ。俺が今から起こす行動と言うものは。
器具のスイッチを止める。
留美が不思議そうな顔をした。
留美、手を開いてくれるか――と、優しく、愛おしむように言う。
留美は不思議がりながらも、そっと手を開いた。
そして、俺は留美にこう言った。
「留美、今から俺が言う台詞を繰り返してくれるか?」
「ん、なに?」
喉をごくりと鳴らす。
ここに来て迷いが生じる。
本当に良いのだろうか。
この子の純粋さを貶めているような気さえする。
しかし、言わずにはいられない。
一度考えてしまったら、ゴールするまで止まる訳にはいかないのだ。
留美と目が合う。留美が僅かに目を見開いた。もしかしたら、これから俺が何を言おうとしているか分かったのかもしれない。
言おう、今だ、言うしかない。
勇気を振り絞るんだ、比企谷八幡。
行くぞ、行くぞ、行くぞー―
「……『なんでホタルすぐ死んでしまうん?』って言ってほし「私あの映画好きだからそう言う冗談はだめ」ごめんなさい!」
覚悟の割に。
一瞬で終わった。
留美を見る。さっきよりも表情が怪訝だ。この世の最底辺を見下ろしているかのような目だ。端的に言って怖い。超怖い。
留美がこちらににじり寄る。俺は同じ分だけ遠ざかる。
留美が俺の袖を摘まんだ。「逃げないで」と言われた。もはや逃げ場は無い。
「八幡」
「は、はひっ」
「もう一度言うけど、私あの映画好きなの。小さい時に見て泣いちゃったの」
「そ、そうなのか」
「だから、笑いのタネにするのはだめ。人によっては良いかもしれないけど、少なくとも私はだめ」
「……ごめんなさい」
素で凹んでしまった。
女子中学生に叱られる男子高校生という構図は、傍から見れば地獄そのものだろう。
一時のテンションが原因で死にたい程の羞恥の炎に身を焼かれていると、いつもより猫背になった頭をそっと撫でられた。
「よしよし、慰めてあげる」
「……やめてくれ……」
留美の顔をよく見ると、明らかににんまりと笑っている。完璧にからかわれている。
結局この後、苦々しい茶を飲んだような顔をした俺と、そんな俺をにこにこしながら撫でる留美という奇妙な光景が続いた。
× × ×
20分後。
「ごめんって。ね?」
「…………」
「からかいすぎたって。ね?」
「…………」
「もう……」
「…………」
場所は部屋のベッドの上に移り、留美に散々からかわれた俺は、ベッドの隅で体育座りをして顔をうずめいじけ倒していた。留美は子供をあやすように謝りながら頭を撫でている。みっともなさが加速していた。
俺の機嫌を直そうとしているのか、留美は段々、撫でながら顔を近付けてきた。2人の間の空間が狭まり、徐々に身体が熱を帯びてくる。いじけてようが何だろうが、留美の甘い匂いに幼稚な意識は勝てなかった。
ふと顔を上げると、四つん這いで俺の目の前まで留美が迫っていた。俺の足の間に割って入って、吐息が混ざり合う程の距離で留美が微笑む。心臓がとくんと波打った。
ここで不意に、視線を下ろす。留美が今日着ていた服は胸元が緩く、四つん這いになっている為に控えめな胸の谷間と下着が見えてしまっていた。俺の視線に気付いた留美がくすっと笑うと、再び羞恥心で心がどよめく。
「ん……っ」
留美がうっとりと目を細めて、首を傾けた。抵抗する間も無く唇が重なり、痺れるような甘味が身体を包み込む。
留美が舌を絡めてくる。小さな舌が口内に侵入してきて、それを唇で挟んで啜ると、留美は綺麗な瞳を開いては閉じて陶酔してゆく。いつの間にか羞恥心やいじけた心は消え失せていて、今は少しでもこの身体を貪りたかった。
留美の双丘を両手で包み込み、指を波打たせて感触を味わう。
「ふっ、んん……っ、ちゅっ、くちゅっ、ちゅぷ……んふぅぅ……っ」
少女の瞳が徐々に情欲に染まり、口付けと言う行為にはまり込んでいく。乳房の先端に指を這わせると、衣服越しでもその反応は顕著になり、細い肢体が波打って悶える。唾液を流し込むと、細い喉がこくりと鳴った。
2人の唇が離れると、留美は幸せそうに目を細めた。
「……元気出た?」
「……すげぇ出た……けど、何だろう、今のは反則だと思う」
「……八幡を元気にするには、これが一番早いと思ったんだけど……だめだった?」
「だめじゃない、全然だめじゃない。全く以て正解だわ」
言いながら、ふっと呆れ笑いを浮かべて留美の髪を撫でる。
「……うし、だいぶ脱線しちまったけど……そろそろ始めるか」
「……これ、本当に使うの?」
横に置いていたローターをちらりと見やり、留美が頬を赤らめる。
「ああ、徹底的にほぐして柔らかくするからな」
「は、はっきり言わないで……っ」
留美の顔が一瞬で茹立ち、女の子座りになって両手で顔を覆った。
「……ゆっくりやるから、な?」
「……うん」
指の隙間からちらりと顔を覗かせる留美が、たまらなく愛おしい。
さあ、ここからが勝負だ。
続く。
ルミルミでした。今日はいつになく書いていて「何だこれw」となりました。そんな日もある。
それでは、今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!