「八幡……その……これ……っ」
準備を済ませて家を出ようとすると、留美が俯きながら袖を引いてきた。ワンピースの裾を掴んで頬を赤らめていて、明らかに恥ずかしがっているのが分かる。
「どうした、行くぞ」
「……ばか……っ」
震える声を搾り出して、留美は俺の手を握った。
――朝、家に来る時の留美の服装は、淡い水色のワンピースと、フリルの付いた白の下着だった。
それが今は、上下の下着を着けていない。薄手のワンピースに、留美の素肌がぴったりと張りついていた。
出かけるに当たって留美にやってもらったのは、これだけではない。
「……こんなこと……別にしなくても……ひぁっ!?」
かちりと音を鳴らすと、留美の上体がびくりと震えた。
――ワンピースの下には、合計7つのローターを着けている。
2つの乳頭を挟んだ分で4つ。
クリトリスを挟んだ分で2つ。
膣内に挿入した分で1つ。
本来であれば膣内の1つで十分ではあるのだけど、残りは興奮を助長させる為に着けた。
「それじゃ、行くか」
「……変態……っ」
顔を赤らめた留美に脇腹をつねられ、地味に痛いな……と思いながら家を出た。
× × ×
まずは映画館に向かうことにした。
7月も半ばを迎えた今の季節は、上から降り注ぐ日射しとコンクリートが蓄えた輻射熱とで街中ではほとんど逃げ場が無い。道行く人も皆、気が滅入っているようだ。羽織っている薄手のシャツを指で摘まんでぱたぱたと扇いで、容赦無い日差しに耐えながら歩いて行く。
「ん……うんん……っ」
「…………」
隣を並んで歩く留美が、ひどく悩ましい声を漏らす。つばの広い真っ白な帽子をかぶっていてとてもよく似合うのだが、この帽子は日射しを防ぐと言うよりも、留美の火照った顔を道行く人から隠すと言うのが一番の役割になっていた。
「……大丈夫か」
「……大丈夫……っ」
ふわふわとした声音で留美が答える。具合が悪いのでは無いことは分かった。
「……大丈夫か、ルミルミ」
「……大丈夫……っ」
あれ、ツッコんでくれない。
大丈夫ではないらしい。
「もうじき着くから、暑いと思うけど辛抱してくれ」
「……大丈夫……っ」
いかん、Siriの方がよっぽど会話のし甲斐があるぞ。
「……留美の得意教科って何なんだ?」
「……大丈夫……っ」
何が?
何が大丈夫なの?
「……全部いっぺんに動かして良いか?」
「……大丈……っ」
途中で留美がぴたりと止まる。
「……それは、だめ」
「大丈夫ではないか」
「……立ってられなくなるから……」
消え入るような声音で呟いて、留美が帽子のつばをつまみながら上目遣いに見つめてくる。理知的な双眸はしっとりと潤んでいて、夏に似合う清楚な出で立ちの中に、明らかな違和感として浮き上がっている。ごくりと息を呑んだ時、ふと周りの視線に気が付いた。
「……ん?」
次々とすれ違う、年齢も性別も様々な人たちが俺と留美をちらちらと見てくる。年の離れた男女が歩いているだけならば、顔が全く似ていなくても親戚なり何なりどうとでも説明が付けられると思うが……。
「…………」
熱を孕んだ瞳で俺をじっと見ている留美は、周りの視線などまるで気が付いていないようだ前を見るのも忘れ、俺だけを見つめている。
――留美のこの表情が、決して俺との関係が親戚や何かでは無いという事を何よりも証明している。
留美がしっとりと汗をかくにつれて、華奢な肢体に色艶が灯ってくる。下着を着けていないことでささやかな胸の膨らみがはっきりと浮き出ていて、その上よく見れば乳頭には計4つのバイブの形が浮かんでいる。すれ違うくらいではまず気付かれないであろうが、内心気が気では無かった。
あと数分もすれば映画館に着くのだが、それでも心配は続く。ちょっと攻め過ぎたと自省する。留美が益々ぽーっとしてきて危ないので手を繋いでいると、前から3人組の小学生男子のグループが歩いてきた。夏休み前にはしゃいでいるのか、会話の声がこちらにも聞こえてくる。
「今日俺ん家来る? うちのお母さんが作るクッキー、絶品だぞ」
「お前、清々しいくらいにマザコンだな……」
「うちのママだって負けてねえぞ」
「あれ、2対1で俺がマイノリティ?」
小学生にしては良いツッコミだな……なんて思っていると、クッキー云々と言っていたマザコンA(村人A的なノリ)が留美をちらりと見てぎょっとする。留美に視線を向けると、未だにぽーっと俺を見つめていた。微かに口を開けている様がやたらと色っぽい。
「? どうしたんだ……よ……っ?」
マザコンBも続いて留美に視線を向け、ぴたりと固まる。そして残されたツッコミくんも留美を見る。3人とも口をぱっくりと開けてぽかーんとしている。
――次の瞬間。
『……~~~~っ!?』
ツッコミくんが唐突に顔を真っ赤にして俯き、両手で股間を隠した。続いてマザコンA・Bも赤面して同じように両手で股間を隠す。3人ともやや内股である。真正面から見ると抜群にシュールな光景だ。
「……? 八幡、どうしたの?」
俺が前屈み三人衆を見ていると、留美が俺と同様に前方に視線を向ける。留美は妙な体勢になっている3人を見て、くりんと小首を傾げた。
『~~~~っ!!』
留美の可愛らしい仕草がとどめとなったようで。
3人は両手で股間を隠して、前屈みのままで俺たちの横を疾風の如く駆け抜けていった。ツッコミくんが「年上のお姉さん……良い……っ!」と呟いていた。彼はツッコミくんから年上好きにジョブチェンジしようとしているのだろうか。
「……今の子たちみたいなポーズ、最近学校でよく見る……」
「え」
さらりと衝撃的な事を聞いた直後、俺たちは映画館に着いた。
× × ×
ドアを潜ると、薄暗い空間の奥に受け付けがあり、左右に分かれた通路に各映画を上映している部屋の番号が見えた。開けた広い空間はひんやりと冷房が効いていて、汗が心地良く引いていくのが分かる。
「あー良かった、これ以上汗臭くなりたくはないからな」
俺の言葉に留美は小首を傾げ、後ろ手を組んでこちらの胸に顔を寄せ、すんすんと鼻を鳴らした。
「え、なに、何してんの急に」
顔が熱くなるのを感じながら仰け反ると、留美は「んー……」と可愛らしく唸った。
「八幡の汗の匂い、私は好きだけど」
「……お、おう、そうか」
背中にぞわりと背徳的な波が伝って、声が裏返りそうになった。
こほんと咳払いをして、映画一覧を見る。
「さて、どれを見るか……」
「私、あれが見たい」
楽しさを表情に浮かべた留美が指差したのは、今日本で一番流行っているであろう映画だった。
「あれだよな、淡水と海水が入れ替わる映画だよな」
「それ大変なことにならない?」
Twitterで回ってきたネタツイートをボケに使ったら、淡々とツッコまれた。留美のシンプルなツッコミが結構好きだったりする。
しかし……と、顎に手を当てて考える。
「他の映画にした方が良いな」
「え、なんで?」
「多分、まともに見る余裕は無いからな」
「……っ」
俺の言葉に、留美が目を見開く。
そして、細い腕で自分をぎゅっと抱きしめた。
薄い唇を戦慄かせ、視線を横に逸らす。
年相応に楽しんでいた少女の顔が、確かに艶めいた色を帯びる。
細い喉が、こくりと鳴った。
「……取り敢えず、あれにするか」
無難な作品を選ぶと、留美は上目遣いでこくりと頷いた。
続く。
ルミルミでした。前屈み三人衆は書いていて楽しかったです。
それでは、今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!