その場で決めた上映作品のチケットを購入すると、間も無く上映が始まる丁度良い時間帯だった。ふかふかの床を歩いて指定された番号の部屋へ進む。重い扉を押し開けると、目に入ったのは薄暗い空間と真っ暗なスクリーン、そしてまばらな客。上映期間も終わり際で、あまり世間の話題にも上らなかった映画の去り際は、何とも寂し気なものだった。
留美の手を取って、入り口から向かいの壁際、最後列に歩を進める。ぱらぱらと散っている客の分布も真ん中・前列に固まっていて、足を進めて行くにつれてまるで街から一歩出て田んぼ道を歩いているかのような気分になった。
席に座るまで、留美はずっと無言だった。俺が先に座ると、もふんと心地良く尻が沈み込む。久しぶりに座ったが、映画館の椅子と言うのはどうしてこうも重厚感があるのか。心地良さと同時に湧く非現実的な感覚に気持ちがむずむずする。
この映画館にはカップルシートなる物があって、試しにそれに座ることにした。調べると映画館によっては豪奢なソファなんかで二人っきりの空間を演出している所もあるようだが、この映画館のカップルシートは2人を隔てる肘掛を無くして座る部分の生地を繋げたような物だった。普通の座席と見比べても色や生地の質が変わっている訳では無い。安易な改装だな……とは思ったが、肘掛が無いのを実際に見てみると、思った以上に距離が近い。これからの時間を考えると、妙にどきどきした。
「? 留美、どうした、座らないのか」
俺の右隣り、壁際の席の前で、留美はすぐに座らずに何やらバッグの中に手を入れている。何事かと思っていると、やけに厚手のタオルが出てきた。留美は徐にタオルを椅子に敷くと、俺を軽く睨みながらワンピースの裾を捲り、真っ白な双丘を直接タオルに着地させた。睨んだのは「あんまりこっちを見るな」と言う意思表示だったらしい。
「……準備が良いな」
ぽそりと呟くと、留美がぷいと壁を向いた。
「……暑いし、汗かくなって思っただけ」
「……随分と汗をかく気だったんだな」
「……ぱっと取ったのがこれだったの」
「ふーん……」
にやけそうになるのを堪えていると、留美が壁を向いたまま手を伸ばしてきた。
ぐに。
「留美、そこ、あご、あごです、あご」
「…………」
こちらを見ないでやったから狙いが外れたのか、いつもつねっている頬ではなく、何故かすぐ下の顎をつねってきた。肉が薄いからすごくやりづらそうだし、恥ずかしいのか訂正しようとしない留美がぐいぐいと顎を引っ張ってくる。あんまり無い経験だよね、顎を引っ張られるって。
しょうもないやりとりをしている内に、室内が真っ暗になり、スクリーンにお馴染みのキャラクターが映った。
「……ばか」
小さく呟いた留美の頭をくしくしと撫でて、俺たちは前を向いた。
× × ×
映画はごく普通のヒューマンドラマだった。平凡な家族が平凡に悩み、平凡に不和が生じ、平凡に幸せを掴み取っていく。時代設定が昭和のようで、出てくる子供や親が着ている服は自分の親世代も着たことが無いであろうぼろぼろのランニングや割烹着だ。ちゃぶ台ってひっくり返す為の物ってイメージしか無いな……と思いながら、ちらりと横の留美を見やる。
ぱちりと目が合った。
留美が慌てて目を逸らす。
……最初くらいは普通に映画を見ようと思っていたけれど。留美はもはや気が気でないらしい。
期待に胸を膨らませ、バッグから7つのリモコンを取り出した。
…………。
「……留美」
「……なに?」
「一応リモコンに番号の付箋を貼ってたんだが、暗くて手元が見えない。どれがどれに対応してるか確認して良いか」
「……ばかじゃないの……?」
「うぐ……っ」
比較的本気の声音にたじろぐ。い、良いから良いから……と呟いて、まずは手に取っているリモコンのスイッチをオンにした。
「んん……っ」
ジト目で俺を睨んでいた留美の口から甘い声が漏れて、急いで口を噤む。ぶぶぶ……と微かな音が聞こえるが、映画のBGMに紛れて音の出所が分からない。
「留美、今どれが動いてる?」
「い、言える訳無いでしょ、ばかぁ……っ」
留美が身を捩りながら涙声で訴える。余程恥ずかしいらしい。
留美との距離を詰め、二の腕が触れ合うまで接近する。留美の心拍数が上がったような気がした。 留美の華奢な背中に腕を回して、両手で乳房を包み込む。
「んんん……っ!?」
「ん、右の……右か」
「ばか、ばか、ばか……っ!」
右の乳頭を挟んでいる2つの内の、更に右側のローター。己で確かめてうんうんと頷いて、未だに俺をばかばかと罵る留美を尻目にリモコンを止める。脇に置くと、新たな一つを手に取る。
「うんんん……っ!」
今度は左の、右。
「んうぅぅ……っ!」
右の、左。
「うぅぅぅ……っ!」
左の、左。
適当に取り出したリモコンは、ちょうど留美の上半身を責め立てるものばかりだった。
次のリモコンのスイッチを入れると、留美の背中が弓なりに反り返り、整った顔が天を仰いだ。
「うぁ……っ!」
留美は咄嗟に手で口を覆った。艶めかしい姿にぞわりとして、ワンピースの裾を捲る。ぶるぶると震えていたのは、クリトリスを挟んでいる内の一つだった。
ごくりと息を呑んで――今度はリモコンのスイッチを切らないままもう一つにスイッチを入れる。
「んぐ……っ!」
留美の声に苦悶と喜悦が混じり、身体が不自然な程がくがくと揺れる。確認すると、クリトリスを挟むもう片方が振動していた。
2つのスイッチを入れたまま、最後の一つのスイッチを入れる。
「……っ」
留美は音も声も無く、俺の胸に抱き付いた。寄る辺を求めて、もしくは口を塞ぐ場所を求めて、或いはその両方か。淫裂を触ると、ぐっしょりと濡れた膣口の奥が微かに震えていた。
留美が不意に顔を上げて見つめてくる。瞬間的に明るくなったスクリーンに照らされた横顔は、上気して涙ぐんでいた。
「こんなの、だめ、だめ……っ」
留美の言葉に、股間が痛い程張る。これだけのことをされていても、留美は決してリモコンに手を出さない。その事実が、俺をどこまでも興奮させる。
「……留美。言っとくけど、今まで点けたやつ、全部『弱・中・強』がある内の『弱』だからな」
「……え……っ」
留美の表情が固まる。唖然としている留美を他所に、スイッチを一旦全て切った。
耳元に唇を寄せて囁く。
「楽しみだな」
「……ぅ……ぁ……っ」
二人の会話は、周りの誰にも届かない。何列分も離れた他の客は、当たり前だが皆映画に集中している。
短くて捻りの無い言葉でも、他の誰とも共有せず目の前のたった一人に伝えることで、秘匿性が高まる。背徳的な行為に関わる言葉であれば、粘度と湿度が高まり、より淫靡なものとなる。
耳元で囁かれた留美は、口をぱくぱくとさせて、すがるようにキスをしてきた。柔らかな感触を堪能する暇も無くすぐに唇を離すと、俺に寄りかかって映画を観始める。
寄り添う留美と、脇に置いた7つのリモコンを見やって――俺は、ごくりと息を呑んだ。
続く。
ルミルミでした。どきどき。
それでは、今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!