雪乃の家のリビングに入り、荷物を下ろそうとした所でふと思い出す。
「あ、そうだ。雪乃」
「何かしら? ……え?」
バッグと一緒に持ってきていた物を、雪乃にひょいと手渡す。
雪乃が、きょとんとした表情で目をぱちぱちと瞬かせた。
雪乃の手には、可愛らしくラッピングされたものが乗っている。
「開けてみてくれ」
「え、ええ」
雪乃が袋を丁寧にテーブルに置いて座り、しゅるしゅると紐を解く。
「……あ……っ」
雪乃が、ほわっと息を吐いた。
中身は、可愛らしい猫のクッション。
三毛猫の愛嬌たっぷりで大きな顔が、気持ち良さそうに寝ている。
枕にも使えるような、そこまで大きくないサイズのものだ。
「これ……」
雪乃が嬉しさと驚きを同居させた視線を送ってくる。
恥ずかしさに頬をぽりぽりと掻きながら、説明を始める。
「この間、店でお前が欲しそうにぽーっと見てたろ。あの時買おうかと思ったんだけど、生憎あの時は時間が無かったからな……だから、ちょっと時間差だけど」
別に何かの記念日という訳ではないけど、まあプレゼントみてぇなもんかな……と、ぽそぽそ呟く。
しかし人間というものは、一度欲しいと思ったものも時間が経てばその気が無くなったりするものだ。いくら雪乃が猫好きだからと言っても、今もあの時ほど欲しがっているのかは分からない。
恐る恐る雪乃の表情を窺って……ほっとした。
雪乃は口元を猫のクッションにうずめて、目だけこちらに向けている。
その瞳はとても嬉しそうで、けれど恥ずかしそうで……たまらなく、可憐なものだった。
「……その、とても……嬉しいわ。……ありが、とう……」
「お、おう……」
口が塞がっているため、妙にこもった声でお礼を言われる。
けれどそんな状況でも、赤面した頬は垣間見えてしまう。
お礼を言われただけなのに、物凄く悶えたくなった。
雪乃の隣に腰を下ろして、様子を見守る。
雪乃は俺を見て、「……いい?」と目で問い掛けてくる。
俺が頷くと、雪乃はクッションから顔を離し、腕を伸ばして愛嬌のある猫の顔の全貌をまじまじと見つめる。よほど気に入っていたんだろう。
抱き寄せて、猫と自分のおでこをすりすりと擦り合わせる。
耳をくいくいと引っ張る。その度に、猫の顔がみょいーんと伸びて奇妙な顔つきになった。
その顔もツボだったのか、雪乃は耳を引っ張ったまま、目を見開いてじっと見つめている。
今度は耳を引っ張ったまま、おでことおでこをくっつけた。
今度は胸元に抱き寄せ、母親のように頭をぽんぽんと撫でる。
そしてもう一度顔をまじまじと見つめ、おでこをぴとりとくっつける。
「…………」
……なんか、もう、うん。
写真集にしたい。
そして部屋に金庫を設置して、そこにしまおう。最優先財産だ。家宝とも言う。
雪乃の様子に内心悶絶しながら、雪乃の頭にぽんと手を置く。
愛おしむように撫でていると、雪乃が俺の肩に体重を預けてきた。
愛情いっぱいの視線は尚も猫クッションに注がれているが、表情が一段と柔らかくなる。
「……にゃー」
「……っ」
猫と見つめ合っている雪乃が、目を細めて猫の鳴き声を上げた。
唐突な不意打ち(頭痛が痛いみたいになってる)に胸を撃ち抜かれ、姿勢を崩さないので精一杯になる。
「にゃー、にゃー? にゃにゃー。……ふふ」
「…………」
死にそうではあるんだけれど。
うん。
このまま、二時間は行ける。
その後もしばらくの間、猫クッションを愛でる雪乃を愛でるという幸せすぎるくだりを続けた。
× × ×
およそ、三十分後。
「……あ」
雪乃が、突然何か思い出したかのような声を上げた。
俺を見て頬を赤らめると、頭を撫でている手に自分の手をぽんと重ねた。触れ慣れた温もりが、優しい安心感をもたらす。
「……あ、あなたにしては、気が、利く、じゃない……っ」
「……まあな」
や、もはや何について言ってるのか分からないんだけど。
多分、プレゼントのことだよね、うん。
返事をすると、雪乃は立ち上がってクッションをソファに置き(ちなみにソファの上には他の猫やパンさんのクッションが大量にある。並べればダイブも出来そうだが、以前提案してみたらこっぴどく叱られた)、俺の前に立つ。
「ど、どうした?」
さっきの玄関でのやりとりをふと思い出し、気持ちが落ち着かなくなる。
雪乃はふるふると首を振って、頬を両手でぱしんと叩いた。
「……よし」
「…………」
……何が『よし』なのか全然分かんねぇ……。
本当に、今日の雪乃はどうしたんだろうと思っていると――突然、雪乃が腰を下ろし、膝立ちになって俺に抱き付いてきた。
そして戸惑う暇も無い内に、唇を奪われる。
「んっ……ちゅるっ、ちゅるるっ、ちゅっ、ちゅりゅっ、ちゅぴ……っ、……はい、お終い」
「え……」
唇を割り開いて雪乃の舌が口内に侵入して来たものの、ヒット&アウェイで俺が舌を絡める前に舌を抜いてしまい、それを数回繰り返したところで唇を離してしまった。
いつもならこのまま抱き寄せて、あわよくば胸も触って……という流れになる所なので、玄関でのやりとりも相俟って欲求不満が募る。
抱きしめて逃がすまいとする俺の腕をすり抜けて立ち上がり、雪乃はいたずらっぽく微笑んで俺の唇に人差し指を当てた。
「ふふ……もう少し待ちなさい。ね?」
蠱惑的に囁くと、人差し指を下唇にむにりと優しく押し込んで、ぱっと離して背を向けた。
「…………」
唇に手を当てて、思案する。
何となく、雪乃の意図が読めてきた。
最終的な目的は分からないけど、どうやら雪乃は主導権を握って、且つ俺を焦らしたいらしい。
「お料理を作るから、少し待っていてちょうだい。……様子を見に来る分には、いくらでも構わないから」
エプロンを身に纏い、さりげなく俺に見せるようにふわりと振り向いて、小悪魔のような笑みを浮かべる。
……雪乃の目論見は、正直力押しで簡単に崩せそうなものではあるんだけど。
しかし、今日の雪乃は新鮮で、可愛いか超可愛いかで言ったら死ぬ程可愛くてもはや死ぬ。俺何言ってんだろう。
「……もう少し、様子見してみるか……」
キッチンへ向かう雪乃にひらひらと手を振った後、小さく独り言ちる。
雪乃の意図は分からないけれど。
乗ってみた方が、楽しそうだ。
それも、物凄く。
程なくして聞こえてきた、とんとんと小気味よく包丁で材料を切る音を聞きながら。
この後待受ける展開に、思いを馳せた。
× × ×
雪乃が料理を始めて、ほんの十分後。
「……気になる」
読んでいた文庫本をぱたりと閉じて、ぼそりと呟いた。
本を読んでいてもまるで内容が頭に入ってこないくらいには、雪乃のことが気になっていた。
さっきは何でわざわざ、様子を見に来て良いだなんて言い方をしたのか。
猛烈に気になる。
そろりと立ち上がり、キッチンの様子を見に行く。
扉を開けると、雪乃はいつも通りの様子で料理をしていた。
……何か、違うのか……?
疑問に思いながら、漫然と近付いていく。
俺に気付いた雪乃が、振り向いてにこりと微笑んだ。
「あら、本当に来たのね」
「なんとなく、な」
「そう。もう少しだから」
短く答えて、雪乃は再び料理に集中する。
何か仕掛けてくるのではと内心どきどきしていたから、何もなくて拍子抜けしてしまう。
何もされないことで、何かされた時よりも却って気になって。
ふらふらと、誘蛾灯に引き寄せられるかのように、近付いていく。
背後に立つと、雪乃は何も言わずに鍋の火を消した。
調理は半端な所で止まっている。
「……どうしたの?」
「……あ、や、その……」
鍋を見つめたまま問い掛けられて、しどろもどろになってしまう。
雪乃がこちらに顔を向けた。
婀娜っぽい流し目に、得も言われぬ期待感が高まる。
しかし、またすぐに前を向いてしまった。
その表情は窺い知れない。
俺の両手は所在無げに宙を彷徨っている。
雪乃の腰に手を添えたい。
細くて、しなやかで、それでいて艶っぽい腰に。
手を動かすと、震えていることに気付く。
腰に近付ける途中で、雪乃から尻を押し付けてきた。
「っ!?」
びくりと跳ねて、手が固まる。
雪乃の手が俺の手を掴み、腰に誘導した。
傍から見れば、結合しているようにしか見えない状況。
けれどこの状況は、雪乃から作り出したものだ。
何が起きているのか、何が起きようとしているのか、まるで分からない。
「…………」
雪乃が無言のまま、俺の手に自分の手を重ねて固定して、ゆっくりと腰を回すように押し付けてくる。
ミニスカートの生地がぐりぐりと押し付けられて、臀丘の柔らかさと摩擦とであっと言う間にがちがちに欲情してしまう。
雪乃が振り向く。口は閉じたままで、艶っぽい視線を送る。
「うっ……くぁぁ……っ」
じっくりと尻を動かされ、たまらず腰を引く。
すると、雪乃は俺の手をぐいと引っ張って、強制的に尻を押し付けた。
そんな強引なことをしながらも、尻を動かす速度は変えない。
右に回って。
左に回って。
割れ目に挟んで左右に振って。
割れ目に沿って上下に振る。
「うぅ……あぁ……っ」
鈴口の先からカウパーが滲み出ているのが、手に取るように分かる。
好きなように翻弄されていると、雪乃の左手が俺の手から離れ、身体を捻じって俺の耳元に手を伸ばしてきた。
そして俺の顔の向きを変えて、ちゅっと口付けをする。
一度離して、もう一度。
今度は、舌を差し入れてきた。
口内をぬるりと舐め回されて陶然としていると、尻の動きが小刻みに変化する。
急に快感の種類が変わって、射精衝動が一気に湧く。
「んっ……んむ……っ!」
やばい、やばい、と目で伝えるが、雪乃は笑って意に介さない。
ぐりぐりと腰を妖艶に回す様は、まるでポールダンサーのようだ。
見ているだけでもぎちぎちに反り返ってしまうであろう艶姿だというのに、今はその動きで極めて肉感的に責められている。
こんなの、我慢出来る訳が無いだろう――。
いよいよ下半身の決壊が近付いた、その時。
不意に、雪乃の唇と手、尻が離れた。
「あ……っ?」
突然訪れた安寧に呆然としていると、雪乃が人差し指を俺の唇に押し当てた。
「もう……だから言ったでしょう? もうすぐ出来るって。……待っててちょうだい」
唇から頬に手が伸びて、宥めるように撫でられる。
くすりと微笑むと、雪乃はキッチンに向き直り、鍋を火にかけた。
「…………」
名残惜しんでしばし雪乃の姿をじっと見つめるが、用は済んだと言わんばかりに、何も反応が返ってこない。
無言のまま、ふらふらとリビングに戻る。
二人の空間を隔てるドアを閉めると、ドアに体重を預けてへなへなと座り込んだ。
「……本当に、何なんだ……」
今日は雪乃から責めてくると分かっていて、それなりの心構えをしているはずなのに。
想像を遥かに超えた攻撃力に、身も心ももはや陥落寸前だった。
続く。
ゆきのんからの責めをしっかり書こうと思ったら、思いの外凄いことになりました。こういうシーンももっと艶っぽく書きたいなぁ……。
年が明けてからアクセスが増えました。嬉しいです。本当にありがとうございます(^^)!
それでは、金曜日も頑張りましょう。
また明日ここでお会いしましょう(^^)!
今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!