「おお……」
視界を彩る品の数々に、感嘆のため息が漏れた。
時間は夕方。
場所は雪乃宅のリビング。
テーブルに並べられたのは、ほかほかのご飯に若鶏の唐揚げ、肉じゃがなどなど。家庭的でありつつも、雪乃フィルターを通すことでそのクオリティは凄まじいことになっている。
俺がほへーと間抜けな声を漏らしていると、雪乃がふっと微笑んだ。柔らかな笑みが心音を心地良く高鳴らせる。
「デザートもあるわ。冷蔵庫にあるから、後で出すわね」
「マジか……」
感嘆のため息(十秒ぶり二回目)が漏れる。至れり尽くせりとはこういうことを言うんではあるまいか。胡坐をかいた膝に手を置き、テンションの上昇により意味も無く膝を上下に揺らす。
「ふふ、なぁに? 落ち着きがないわね」
お姉さんっぽい口調でくすくすと笑う雪乃が、心底楽しそうで。ちょっと幸せすぎて死にそうだったりする。
「や、だってな。こんな美味そうな料理を作ってもらったらテンション上がるって」
実際、本当に嬉しかった。冗談抜きで毎日作ってほしいと思ってしまう。しかしこれを願ったらその気にされてしまいそうで怖い。や、怖くはないんだけど。家族総出で俺を見送って、住所変更とかされてしまったら俺は泣くぞ、色んな意味で。
「それに、沢山食べた後のことを考えたら」
「え」
「あ」
「……」
「……」
はい。
失言。
二人して俯き、しばし黙る。
「……八幡」
「……何でございましょう」
「……ばか」
「……ちょっと可愛すぎて何言ってるのか分からない」
「いい加減になさい」
「ほめんまはい(ごめんなさい)……」
頬をつねられた。全然痛くないけど、何でこの子こんなに嬉しそうな顔をしてらっしゃるのでしょうか。女王さまのご機嫌を取るのも大変である。何様だよ俺。
雪乃は頬をつねる手を離して、自分がつねっていた場所を優しく撫でてくれた。くすりと微笑んで、穏やかに目を細める。
「ほら、食べましょう?」
「そうだな……いただきます」
この家での俺専用の箸を手に持って両手を合わせて。
二人で、きちんと挨拶をした。
× × ×
目で見ても楽しめる雪乃の料理だが、口にして改めて「ただでさえ美味しかった料理が更に進歩している」と実感した。
まず、若鶏の唐揚げ。
今まで生きてきた中で、数え切れない程の唐揚げを食べてきた訳だが。
この唐揚げを食べてしまうと、「今まで食べてきたものは何だったのか」と思わざるを得ないクオリティだった。
一口齧った瞬間に、中からじゅわりと幸せの肉汁が溢れ出てくる。さくっとした衣の歯応えと、中の肉の柔らかさのコントラストと言ったら。
一緒にかき込むご飯に、これがまたよく合う。唐揚げも好きになるし、白米も好きになる。何かもはや日本が好きになる。テンションが上がり過ぎて器が大きくなっている気がする。気のせいか。
続いて、肉じゃが。
お袋の味代表みたいな扱いだが、実際はどの程度の人が作っているのだろう。実際そこまで頻繁に食べていた記憶はない。何となく、「このおかずがあればご飯ががっつり食える!」という類ではないと思っていた。
けれど、その認識が今日で終わった。
いきなりじゃがいもを食べると熱そうなので、まず肉から食べてみる。これは牛肉か。あむっと口にすると、良い塩梅に出汁のきいた味わい深い肉の味が食道を伝い身体中に染みる。程好く汁気を帯びて濃厚な味わいになった肉は、自然とご飯が進む、進む。続いてじゃがいもを箸で割ると湯気が立ち、ほっくりとした温かさが伝わる。口に運び、はふはふとしながら味わうと、これまた出汁がきいていて美味い。続いて肉じゃがに彩りを咥えている人参や玉ねぎ、糸こんにゃくも味わう。どれも出汁が染み込んでいて、その中でもそれぞれの食感が楽しめて、どこまでも幸せな気分になる。
「あ……」
気付けば茶碗の中が空になっていて、ぽけっと口を開けてしまう。
「ふふ、そんなに美味しそうに食べてもらえると、作り甲斐があるわね。ほら、お茶碗を貸してちょうだい」
「あ、ああ、すまん、ありがとう。……や、マジで美味い。毎日でも……」
「え」
「あ」
「……」
「……」
「……はい、ご飯」
「……ありがとう」
いかん、どうにもテンションが天井知らずに上がってしまっている。
この後も舌鼓を打っては失言を繰り返し、幾度と無く互いに俯いて頬を赤らめた。
× × ×
それからしばらくして。
「食った……」
気付けばご飯を三杯食べて、凄まじい満足感に包まれていた。本当はもっと食べることは出来たんだけど、この後のデザートがあるのでその辺は考慮した。
「大したものね……」
雪乃が素直な感想を述べている。
雪乃も食べてはいたが、一口食べては俺の食いっぷりを鑑賞するという流れを繰り返していたので、大して食べていない。元々小食だからその辺は良いんだけど、ずっと見られていたのはだいぶ気恥ずかしい。
「それじゃあ、デザートを持ってくるわね」
「後は頼んだ……」
満腹感と満足感でまるで動けず、手伝いを断念する。
「あなた……死ぬの?」
言い方がアレだったからか、雪乃がきょとんとした顔で俺を見つめる。ふっと笑って雪乃の質問に答える。
「俺はここでは死なない。死因は腹上死と決めている」
「……」
調子に乗ったら室温が下がった。
「ごめんなさい。何でもするから許してください」
「なら、この家に住みなさい」
「え」
「冗談よ。声、上ずってるわよ?」
言って、雪乃がひらひらと手を振ってリビングを出る。俺をからかうように言った割に、俺の反応を見て顔を赤くしてたのは気のせいじゃないよなぁ。
しかし、何だろう。
すごく幸せな時間だったんだけど、何だか妙だ。違和感がある。食べている時は夢中で気付かなかったけれど。
ああ、そうだ。
雪乃は、俺が料理を食べてる間に何も仕掛けてこなかったんだ。
ご飯を食べる前までの攻めに攻めてくる感じが、食事中はてんでなかった。
まあ、それはそれで良いか――と思っていたのだけど。
「お待たせ」
雪乃がリビングに戻って来た時の妖しい笑みを見て、一瞬で今の状況が何も解決・解消されていないことに気付いた。
× × ×
妖しい笑みに内心激しく動揺したが、その心の揺れも雪乃が運んできた皿の上の料理を見て鳴りを潜めた。
「これは……ティラミス、か……?」
「ええ、そうよ」
雪乃が運んできたのは、茶色と白で見事な断層を築いているティラミスだった。二人で食べるように切り分けられていて、その形や香りの良さ、確かに漂う美味しさの予感に胸が高鳴る。
「ていうかこれ、え、手作り? え?」
パッと見、洒落たお店で売っているような、プロがこしらえたものにしか見えない。
「ええ、そうよ」
先程と同じ台詞だが、雪乃は髪を掻き上げて不敵に笑った。おうふ、相変わらず自信満々な仕草が似合う女王さまですこと……。
「すげぇな……。それじゃ、いただきま……?」
――す、と言い切る前に、目の前で起きた事態に戸惑いが隠せなくなる。
雪乃が俺の真横に座り、互いの二の腕ががっつり触れた状態でにっこり微笑んだ。
……えぇ……? そういう感じで来ますのん?
「はい、八幡、あーん」
蠱惑的に微笑んだ雪乃が、ティラミスをスプーンで掬ってそれはそれは楽しそうに俺の口元に持ってくる。
……これ、ただのあーんで終わるんでしょうか。
……終わらないですよね。今日の雪乃お嬢さま、明らかに一味違いますもんね。
本当にどうなるんだろうとどきどきしながら。
口を開けて、雪乃が作った極上ティラミスを口に迎え入れた。
続く。
☆☆☆☆☆祝・300話達成☆☆☆☆☆
大台に突入しました。長かったようで長かった……!!
UAが伸びて少し落ちてまた少しずつ伸びて……を繰り返して、気付けば本当に沢山の方に読んで頂ける作品になりました。
「雪ノ下雪乃の肩を揉んでみる。」の第1話を初めて見て、俺ガイルSSを初めて書く緊張が読み取れて、何ともむずがゆい気持ちになりましたw
これまでお読み頂いた皆さん、本当にありがとうございます。
これからもどうぞよろしくお願いします。
300話のタイミングで、ちょうど「次はゆきのんかなー」と思っていたのでそのままゆきのんを書きました。ちなみにこの作品では、何気に一番最初に喋っていたのはガハマさんだったという驚き。
毎日投稿をいつまで続けるかを今考えているんですが、今連載しているエピソードが大方終わる頃に改めて考えようと思います。ペースを落とすとしても週4~5くらいに落とすのが第一段階かなと考えてます。
もっと可愛く、もっと甘く、もっとエロく。
皆さんの日々の楽しみになれるように。
楽しみます。頑張ります。
それでは、また明日ここでお会いしましょう(^^)!
今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!