予想を超える、という言葉がある。
何か物事についてある程度予想をしていても、それを上回る事態が起きた時、人は慌て、あるいは思考が止まる。
例えば天上世界を滑走する飛空艇を、家の近くから見ている時。そこから物が落ちて来るということは、可能性としては低いものの考えられなくはないだろう。しかしそれで実際に落ちてきたのが少女だったなんていう事態は、完全に予想の範疇を超えている。
例えば由比ヶ浜が先日実験(調理)にチャレンジした時。「家で何回も練習したから! ママにも味見してもらったから!」とさんざっぱら安全であることを強調していたが、それでも心のどこかで「んなこと言っても、何だかんだでやべぇんだろ」という思いはあった。その後実際食べた瞬間のことは忘れられない。まさか自分の口から白い煙状の、うっすら自分の顔の形になっているものが出て行くのを見ることになるなんて思わなかった。ちなみに雪乃の料理を口に入れられて蘇生したので、その場に居合わせた材木座が、俺と話す時だけ雪乃の事を「ザオリク使い」と呼ぶようになった。俺はそれをアレンジして、たまに心の中で「絶壁僧侶」と呼んでいる。心の中で呼んでいるだけなのにたまにバレそうになる。マジで恐い。誰が悪いって全部俺が悪いんだけども。
そんな感じで、前置きが長くなりましたが。
「私の足を、舐めなさい」
「……はい?」
……この言葉、完全に俺の予想の範疇を超えてます。
× × ×
元々、今日の雪乃の様子からして、いつか何かを仕掛けてくるとは思っていた。全力で甘えて俺を恥ずかしがらせるだけという可能性もあったが、やはり何かしてくるだろうと考えていた。
しかし、これは完全に想定の範囲外だった。
一体誰が、料理激ウマツンデレドМ彼女が突然「足を舐めなさい」なんて言ってくると思うだろう。
「ほら、どうしたの?」
俺の前で雪乃の足がぴこぴこと動く。知ってるぞこれ、猫じゃらしでカマクラと遊んでる時の感じだぞ。すげぇ楽しそうに笑ってらっしゃいますけども。
「……えーと、説明を求む」
雪乃の足から一歩分遠ざかり、どっかりと胡坐をかく。このペースに巻き込まれると非常にまずい気がするから、全力で抵抗する。
雪乃は俺の言葉を聞いて、足を組んだままふんっと笑った。おおう、出会った頃ばりの偉そうな態度……。
「最近、あなたにしてやられてばかりだったから。どこかでお返ししようと思っていたのよ」
「……だから、俺に対してあんなに積極的だったのか?」
「そうよ。あなたの心を引っ掻き回しつつ、恩を売る為に」
「恩?」
「私があれだけ尽くしてくれたんだから、足を舐めるくらいしてくれたって良いでしょう?」
蠱惑的に微笑み、俺の前で足を艶めかしくくねらせる。ちょっとやめて欲しい。もうジーンズがぱんぱんなんです。
「……『思った通り』って言ったのは?」
足の動きから目を逸らし尋ねると、雪乃が得意気に笑った。
「あなた、いつも私の反応が大きいことを良いことに好き勝手やっているでしょう? 私、色々調べる中で興味深い記述を見付けたのよ。『自分から責めている時は、相手からの責めに対する反応に鈍く、強くなる』って」
「……ああ、なるほど」
確かに、雪乃が咥えてくれてる時に身体に触っても、いつもより反応が薄かったっけな。
雪乃の言葉から、今日の一連の行動の意味が、やっと全て分かり、繋がった。
俺の動揺を誘い。
俺に対して恩(というか負い目)を売り。
そして、俺に対して攻めの姿勢を貫く。
「普段なら、俺がお前に命令されて足を舐めるなんてことはまずしない。それにもし舐めた所で、お前がすぐにギブアップして終わりだもんな」
「そう……よ。……だから、今回あなたにきついお灸を据えてあげようと思って」
さりげなくぶっこんでみたが、ぎりぎり平静を保たれた。言葉に詰まった所が死ぬ程可愛いかったけど。
……んん? そう言えば……。
「雪乃。そんな調べものしてたのか?」
「……うるさい」
お、顔を背けた。
「……ていうか、普段なら舐められたらすぐギブアップするっていうのは認めるんだな」
「……うるさい」
耳まで赤くなってる。どうしよう、楽しくなってきた。
「大体、お前からしたら俺を攻めてるつもりなんだろうけど。そりゃ確かに俺の心臓はばくばくしてたぞ。でもそれはお前が死ぬ程可愛いからであっ――」
雪乃が一瞬俺をすごい目で睨んで。
俺の言葉を遮るように、ソファからするりと立ち上がって俺を押し倒してきた。
流れるような動きに、あっと言う間に唇を奪われて、
「んちゅるるるる……ちゅる、じゅぷ、ぢゅりゅ、ちゅりゅりゅ、ずぞぞぞ、ちゅぴちゅぴちゅぴ……っ」
「~~~~~~~~っ」
頭を固定され、一気に口内と思考を蹂躙された。ちらりと目を開けると、雪乃が獰猛な猫のような目で俺を睨め付けていた。
カーペットに手を食い込ませて耐えること、数十秒。
「……少しは懲りたかしら?」
「……は……いぃっ!?」
唇が離れてやっと解放されたと思ったら、チャックとパンツを下ろされて肉棒がぶるりと飛び出た。ぎちぎちに反り返った肉棒が天を突くようにそびえ立っている。
雪乃は肉棒をすべすべの手でぎゅっと握ると、それだけしてすぐにソファに戻った。一分前と雪乃は同じ体勢に戻ったが、俺はあられもない姿(自主規制)で大の字に寝そべっている。地獄絵図だなこれ。
「これもあなたの羞恥を煽るためよ」
「……足でしてくれても、お前が優位に立てるんじゃないか?」
白磁のごとき美しい白色の足を見つめながら言うと、雪乃の顔にふっと赤みが差す。
「……あなた、まだ優位に立ちたいのかしら。……この、変態」
「……や、せっかくだからこの状況を楽しんでみようかと」
「あなた、どれだけ貪欲なの……」
足を組んだまま、こめかみに手を当てて儚げなため息を吐く。あまりにも絵になる光景に、思わず見惚れた。俺自身の今現在の格好は省みないでおく。
雪乃が俺に向かって顎でしゃくった。どうやら起き上がれということらしい。むくりと起き上がって胡坐に戻り、ついでにチャックを上げてしまおうとしたら女王様の眉根が寄った。どうやらこの恥ずかしい格好は維持しなければならないらしい。
「それで、どうするの? 舐めるの? 積極的に舐めるの?」
「なんで舐めるしか選択肢がねぇんだよ……」
すげぇ会話してんな、さっきから。
あれ、そう言えば。
「雪乃。なんでさっきシャワーに行ったんだ? すぐに戻ってきてたけど。それにスリッパも替えてた……し……」
自分で喋りながら、雪乃の行動の意図に気付く。雪乃を見ると、恥ずかし気に俯いていた。
「……足を、一応洗ったのよ。洗った後でいつも使ってるスリッパを履いたら意味が無いから、足を拭いた後に新しいスリッパを出したのよ」
俺をちらりと見て、ふいと顔を背ける。言及されて答えたのがよほど恥ずかしかったのか、口を尖らせて拗ねたような顔をしている。目の前には、依然としてほかほかとした熱を帯びている、さらさらの肌をした美脚がある。
「……」
……何この、律儀で可愛すぎる女の子?
「……そこまでしてもらったら、しない訳にはいかないな」
頭をがしがしと掻きながら、承諾の言葉を紡ぐ。
「……そう。それじゃ、もう一度言うわね」
どこか安心したような顔をして、雪乃が艶っぽい笑みを浮かべる。
「八幡。私の足を、舐めなさい」
「……はい」
答えると、雪乃が両腕で自分を抱いてぶるりと震えた。あれ、何か変なのに目覚めさせちゃったか?
「胡坐では締まらないわ。そうね、両手で私の足を支えるようにして、膝立ちになりなさい」
「……はい」
ちょっと冷静になってしまったんだけど。
俺、なんで雪乃の足を舐めようとしてんだろう。
そんな風に思いながらも、雪乃のふくらはぎと踵に手を添えて、雪乃の表情を見た時。
両腕で自分を抱いたまま、雪乃が愉悦に震える様が恐ろしい程に艶美で。
下腹部に血流が一気に集まって、ごくりと息を呑んだ。
続く。
ゆきのんでした。今まで書いた事の無い種類のテイストだったので、慣れないなーと思いながらも楽しめました。せっかく何百話と書いているんだから、もっと色々な雰囲気の話を書いてみようと思います。むん。
風邪から復活しました。楽しみに読んで頂いてる方々には申し訳ありませんでした!良い感じで元気もりもりになったので、また頑張ります(^^)
1月も終わりですね。ゆきのんの誕生日に合わせてこのエピソードを書き始めたんだな―そう言えばと思いました。
それでは、また明日ここでお会いしましょう(^^)!
今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!