※この作品はR-18です。

俺ガイル 日常の何気ないエロス。   作:高橋徹

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(2)

 川崎が黒レース事変(風でスカートが捲れたトラブル)により顔を真っ赤にして離れた後、俺はゆっくりと校舎に足を踏み入れた。

 校舎に入ると、昇降口を始めとしてあちらこちらに新しいクラスの一覧の紙が貼られていて、そこに新二・三年生が群がっている。どこもかしこも「うわー! 俺の担任マジかよ……」やら「きゃー! また一緒だね!」やらと、何だかんだで楽しそうな声が聞こえてくる。どんなイベントもあっと言う間に青春風味に仕立て上げてしまう君たちに脱帽だよと思いながら、人混みを書き分けて紙を見る。あくまで俺がどのクラスに居るか知りさえすれば良いので、自分の名前を探すことに専念する。えーと、「赤城」や「新木」よりは確実に後ろで、「川岸」や「さがら」よりもずっと後ろ、かといって「渡」ほど後ろにはいないから……お、あったあった。

 青い背表紙が並べられた自宅の本棚を思い浮かべながら、自分の名が書かれていたクラスに向かう。探してる途中は集中していたから気付かなかったが、遠ざかると後ろでまたしても先程と同様の喧騒が聞こえてきた。まあ、人生の楽しみ方は人それぞれだろう。

 廊下に出て、多少は密度は減ったもののそれでも人の多い空間に目を細めながら、ぽてぽてと足を進めた。

 

       ×  ×  ×

 

 のんびりと歩いていると、目的の教室に辿り着いた。あまりにも気持ちが呑気すぎて、このまま行けばすみっこぐらしのキャラの一員になれるのではないかと思う程だ。なれねえよ。

 

「……あ」

「……おう」

 

 数歩先で同じ教室に入ろうとしていたのは、川崎・黒レース・沙希だった。

 

「……あんた、何か失礼なこと考えてない?」

 

 慌てて目を逸らす。おかしいな、何でバレたんだろう。

 

「えーと、その、なんだ、また一緒だな。よろしく」

 

 話題をずらさねば死ぬかもしれないという思いから、全くキャラでない言葉を口にする。しかしその効果は結構あったようで、黒レ……川崎が頬を赤らめて俯いた。

 

「……うん、よろしく……」

 

 しどろもどろにそう言うと、川崎がちらりとこちらを上目遣いで見やった。

 ……え、本当にこの子どないしてん……?

 気が動転して似非関西弁でモノローグをお届けしていると、川崎は足早に教室に入っていってしまった。

 頭をがしがしと掻いて、俺も教室の中へと足を踏み入れる。

 

       ×  ×  ×

 

 皆さん、天使の存在は信じますか?

 僕は、信じます。

 違います、宗教のお誘いではありません。

 これはただの事実報告なんです。

 今僕の目の前にいる――

 

「八幡!」

 

――戸塚という、天使の存在を、皆さんにお知らせしているに過ぎません。

 

「……戸塚……っ!」

 

 感動しすぎて無駄にドラマチックなテンションになってしまった。

 教室に入るなり最初に目に飛び込んできたのは、可愛すぎて身内にしたい、いやもはや身内なんじゃなかろうかとさえ思っている戸塚だった。そう言えば朝ごはんを一緒に食べた気がする。うん、気のせいだな。

 念の為教室のプレートを確認しようと、高速でバックステップをかます。身体を不自然に逸らすと身体が軋んだ。だが、戸塚と再び一緒に居られるということが夢でないことを確認するための行動なのだから、この程度の痛みは何でもない。何だよこのテンション。

 

「八幡、すごいね。やっぱ運動神経良いなぁ……」

 

 テンションに任せた俺の愚行に、戸塚が目をキラキラとさせている。いかん、浄化されて灰になりそう。灰を集めたら、どうか海風に流してください……。

 

「……戸塚も、このクラスなんだな……?」

 

 恐る恐る尋ねると、戸塚は胸の前で両手をぐっと握ってお日さまのような笑みを浮かべた。

 

「うん、そうだよ! ……八幡、また一緒になれて嬉しいな……」

 

 はじける笑顔から一転、頬を赤らめて顔を逸らし、髪の毛の先を指で摘まみながらこちらに流し目を送ってくる。

 こらこら、そんな可愛い仕草を見せちゃったら危ないぞ? 主に俺の心臓が。

 ばっくばっくと元気に鳴っている心臓を押さえながら、精一杯の返事をする。

 

「ああ、俺も嬉しい。ところで戸塚、今日は男子の制服なんだな」

 

 嬉し過ぎて質問がおかしくなった。

 テンションに任せた失言に固まっていると、戸塚はきょとんとした顔で首を傾げる。俺今ここで死んでもいい。うそ、ちゃんと生きてこの子のそばにいたい。

 

「もう……八幡ってば。僕、男の子だよ? ……忘れちゃったの?」

 

 とてとてと寄ってきて俺の袖をちょんと摘まむと、拗ねたように上目遣いを向けてくる。

 あかん。

 死ぬ。

 

「そ、そそ、そうだよな、わりぃわりぃ、気が動転してた……」

 

 何ら嘘はついていなかった。

 戸塚は俺の言葉を聞いて、顔を上げてくすりと微笑む。

 

「ふふ……変な八幡」

 

 変っていうよりはこれは恋かもしれなんでもないですごめんなさい。

 

       ×  ×  ×

 

 天使とのびっくりハッピーエンカウントを終えて、教室を見回す。黒板には「ひとまず自由な席に座っておくように」と書かれていた。見慣れた文字を見て、この後席がどう決まるのかが若干不安になる。

 

「あ、ヒッキー」

「おう」

 

 適当な席に座ると、由比ヶ浜と目があった。嬉しそうにこちらに近寄る姿は飼い主を見付けた犬そのもので、思わずリードを着けたくなる。うそうそ、三浦さん殺さないで!

 俺の前でぴたりと止まると、その拍子に豊満な胸元がぷるんと揺れた。ブラや制服でも固定しきれないその凶器……雪ノ下に分けてあげてほしい。あの子多分裸でも揺れないから。

 

「えへへ……また一緒だね」

「おう、そうだな」

 

 ごく普通に受け答えしたつもりだが、由比ヶ浜がむーと唸って頬を膨らませる。なんだよフグかよ。外敵でもいんの?

 

「どうした」

「ヒッキー……さっきさいちゃんと話した時とテンション違いすぎない?」

 

 見てたのかよ。まあ、教室の入口であんなやりとりをしていては、自然と目に付くとは思うが。

 こほんと咳払いをして、落ち着き払った対応を心がける。

 

「ばっ、おまっ、俺と戸塚はそんなんじゃねぇしっ」

 

 努めてバカげたテンションで答えると、由比ヶ浜が怪訝な顔つきでごみを見るかのような目で見る。

 

「ヒッキー……新年一発目からそれはキモすぎるよ……」

 

 ボケにボケをかぶせてきやがった。しかも天然もの。本当にフグなのかもしれない。胸の辺りがぷっくり膨らんでるし。その凶悪なまで豊満な膨らみは、男を惑わす毒とも言える。俺何言ってんだろう。

 

「今日って一月だっけ? 初詣行くか?」

「ちょ……ひ、ヒッキーのばか!」

 

 やはり新年度と間違えていたようで、ツッコんだ途端に由比ヶ浜の顔が見る間に赤くなる。その様子自体は至極可愛らしいものではあるが、如何せんバカが過ぎて冷静になってしまう。

 

「結衣―」

 

 聞き覚えのある女子の声が聞こえると、由比ヶ浜がはっと後ろを振り返る。

 

「ごめんね、今行く! ……ヒッキー、ごめんね? また後でね」

「あいよ、気にすんな」

 

 ひらひらと手を振って、由比ヶ浜を見送る。見ると葉山やら戸部やら三浦やら海老名さんやら、去年何だかんだで割と関わった上位カースト組が軒並み同じクラスだということに気付く。こんなこともあるんだなと少し驚いた。他の目立たないヤツらはいないようだ。ええと、童貞風見鶏と……もう思い出せない。まあいいか。また一緒になれた、っていう幸せに満ちた表情で三浦が葉山を見ていて、どんだけ乙女なんだよと感心する。あんな怖い見た目をしておきながら……。

 ちらりと視線を巡らせると、既に席に着いた戸塚と目が合った。えへへと笑いながら手を振ってくれる。SOSを求める時くらいの勢いで愛情を示したいと思いながら、小さく手を振り返した。

 さらに視線を巡らせると、川崎と目が合った。あわあわと視線を泳がせて、ちらりと流し目で俺を見て、やがて俯いてしまった。俺何かしたっけ、本当に……?

 耳を澄ませば、廊下や昇降口で広がっていた喧騒が、徐々に各教室に押し込められて行っているのが分かる。俺はただ騒がしいなと思うだけだが、こういった状況をもっと楽しめるようになったら俺もタカコさんみたいになれるんだろうか。俺あんなに耳良くねぇけども。

 つらつらと雑考に耽っていると、教室のドアががらりと開いた。見慣れたスーツと白衣姿で、スタイル抜群の黒髪美人(ただし行き遅れ気味)が教壇に上がる。

 

「さあ、HRを始めるぞ。まずは適当で良いので席に着きたまえ」

 

 平塚先生の言葉に、教室でやいやいと騒いでいた連中が席に座っていく。俺や戸塚や川崎のように既にソロで座っている人も多かった為、最後辺りは若干椅子取りゲームの様相を呈していた。実にシュールだ。

 平塚先生が教卓に両手を乗せ、凛とした表情で皆を見回す。

 

――ようこそ、実力至上主義の教室へ。

 

 ……とか言いそうな顔つきだなーなんて思いながら、周りの生徒と同様に、先生の言葉を待った。

 

 

 

 続く。

 




 サキサキでした。戸塚ルートではありません。
 ゆるっゆるです。超ゆるっゆるです。

 それでは、また明日ここでお会いしましょう(^^)!
 今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!
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