何に魅力を感じるかというのは、人それぞれだと思うんです。
みんな違ってみんな良いと思うんです。
「ここがたまらない!」と思う、多種多様のつぼ、ツボ、壺。
みんなちがってみんないい。
それで良い、それが良いと思うんです。
何を言っているのかって?
僕にも分かりません。
まあ、強いて説明をするならば――
予防線です。
しかもだいぶ情けないやつ。
× × ×
川崎と隣同士になった翌日。
春眠暁を覚えずなんて言葉もあるが、この日はやけに目覚めが良かった。いつもより30分程早く目覚めると、やけにすっきりしていた。カーテンを開けて差し込む陽の光が、僅かに残った眠気を容易く霧散させてくれる。
眠くはないがいつもの癖であくびをしながらリビングに入ると、既に小町が朝食の準備を終えていた。
「およ? お兄ちゃんも早起きさんだね。おはよー」
「ん、おはよ。何でそんなに早く起きたんだ?」
俺の問いに、小町は人差し指を顎に当てて考え込む。考えるというよりは、ただただ俺に「やだ、この子すごく可愛い……!」と思わせる為だけの仕草に思える。実際可愛く思ってしまうのだから手に負えない。手に負えないくらい可愛い。
「んー……お兄ちゃんが楽しいことになりそうだなって思ったら、次の日がすごく楽しみになっちゃって!」
目を輝かせながら、小町はそんなことを言う。何のことやら。
「ん、そうか。俺もそんな感じだ」
「うへぇ……お兄ちゃんの面構えで棒読みすると、しっくりきすぎて何かやだ」
「漠然と嫌悪感を示すなよ……」
軽口を交わしながら、対面に座って手を合わせ、いただきますの挨拶をする。
トーストと野菜サラダを食べながら、比企谷家の緩やかな朝が過ぎていった。
× × ×
朝早く起きたと言っても、30分という中途半端な時間だ。何かをやる気も起きなかったので、さっさと学校へ行くことにした。きぃこきぃこと自転車に乗っていると、ほんの少し登校の時間が違うだけで景色がまるで違って見える。
街行く人の顔つきや服装がまるで違ったり。
散歩している仲睦まじい老夫婦がいたり。
元気よく登校する、ランドセルを背負った小学生がいたり。
桜が咲いている場所も所々に見受けられて、春を実感する。じっとりと汗ばんでいることに気付いて、のろのろと運転しながら片手でワイシャツのボタンを1つ開け、ぱたぱたと扇いだ。
早起きも存外悪くない。けれど、明日以降続ける気はあるかと聞かれたらぶっちぎりでノーと言える。たまにやるからこそ良いと思うんだ、早起きは。
そんなことをつらつら考えている内に、気が付けば学校に着いていた。
× × ×
「……ん?」
ひと気のない廊下を歩き、自分の教室に辿り着く。すると、誰かが既にいるのに気付いた。今まではそれなりに教室が人で埋まった頃にするりと入り込んでいたから気付かなかったが、普段から早く来ている人もいるんだろうか。
教室後ろの入口からちらりと覗くと、見覚えのある青みがかった黒髪のポニーテールが見えた。
「……おう」
「あっ、お、お……おは、よ」
近付いて挨拶してみると、川崎は机の上にノートを開いていた。こういう時席が離れていれば何の問題も無いのだけど、如何せん窓際最後列で隣同士だから中々気まずい。机もくっつけてあるし。
下手に机を離そうものなら余計に気まずくなると思い、そのまま座る事にする。
腰を下ろすと、ものの見事に静寂が訪れた。
漫画だったら「しーん」という効果音が付きそうだが、この場合は『…………』という表現の方がしっくりくる。お互いが会話の糸口をたぐるような、冷や汗を流しそうな時間。
「……いつも、こんなに早く来てんのか」
尋ねて、ちらりと視線を向ける。俺の言葉に川崎はぴくりと肩を跳ねて、そろりと視線を向けた。
「……今日は何か、早く起きちゃって。だから、その……昨日済ませた予習の見直しをしようと思って……」
川崎が手元のノートにちらりと目線を落とす。古文のノートで、昨日の続きの部分の現代語訳や単語の意味のメモなどが丁寧にまとめられていた。
「予習の復習って斬新だな……」
何とはなしに言ってみたら、川崎がぼっと頬を赤らめた。
「べ、別に、いいでしょ……っ」
声を震わせて顔を背ける川崎。耳が真っ赤になっているのを見てやってしまったとため息を吐く。
「別に悪く言ってるつもりはねぇよ。むしろ褒めてる。俺も何故か早く起きちまったけど、何にもする気が起きないから何となく学校に来ただけだからな。その時間をそのまま勉強に充てようとするのはすげぇよ」
俺の言葉に、川崎がちらりと視線を送った。ぐずっている子供の機嫌が直ったような、大人の美女が流し目を送るような、様々な心情が混じった視線。
「……そ、そう」
ぽそりと呟いて俯いてしまう。今度は不機嫌ではなさそうだけど、もう少し喋ってほしい。俺も口数が多い方ではないから、このままではTwitterで仲が良い人が飛ばし合う素っ気ないリプライみたいなやりとりになってしまう。
「……暑い……」
俯いたまま、川崎が手で自分の顔をぱたぱたと扇いだ。
うーんと唸って、次の会話のネタを探す。川崎が食いつきそうなネタ……毒虫か。しかし川崎が話しやすくても、俺が聞きたくない。これだからブラコンは……。
……あ。
「……今日予習してきたとこで、訳しづらいとこあったと思うんだけど。あそこは訳せたか」
鞄から古文の教科書を取り出し、ぺらぺらとページを捲ってある一文を指差す。単語の意味は簡単でも、時代背景を理解していないとピンとくる訳が出来ない文だった。
川崎は俺が指差した所をじっと見つめて、目を見開く。
「……そこ、調べても分かんなかったとこだ。あんた分かったの?」
「ああ、一応。前にこの時代について書かれてる本を読んだことがあったから、こういうことを言いたいんだろうなっていう見当はついた」
「え……それ、教えてほしい」
よほど考えていたのだろうか。川崎の目に見慣れない光が宿る。テンションが上がったように見える様を見て、何故だか無性に嬉しくなった。
「ノート見せてくれるか」
「分かった」
川崎が問題の文についての訳を書いたページを開いて、ノートを2人の机の間に寄せたところで――あることに気付く。
今日は暑い。朝から、微かに夏の予感さえする程に。
俺も、登校する時に手で扇いでいた。
そして、川崎も今さっき手で扇いでいた。
衣替えはまだ先だが、川崎は暑かったからか上着を脱いで椅子に掛けている。つまり、今はワイシャツ姿だ。
俺が来るまで、川崎は一人で勉強していた。一人で勉強するということは、つまり、人目を気にする必要がない。誰か来てもすぐに切り替えればそれで済む話だったが、川崎は俺が声を掛けたらかなり驚いていて、恐らく服装を直す余裕は無かったんだろうと思う。
何よりも、普段から川崎は制服の着こなしが緩い。彼女に不良っぽいというかヤンキーっぽい印象を抱く理由としては、服装が大きな要素を占めていると思う。
と、まあ、長々と述べたけれど。
「えぇっと、あたしはこう訳したんだけど」
――川崎が俺に身体を寄せた拍子に、いつもよりボタンが多く開けられたワイシャツの胸元から、豊かな谷間が覗いていた。ノートを指差すことで結果的に胸を寄せて、ワイシャツの下のブラまで僅かに見えてしまっている。
素早く顔を逸らした。
「……どうしたの?」
訝し気な声を川崎が発する。
……あれ、何か前より大きくなってる気が……。
成長期ですかね?
「……や、その、すまん」
顔を戻して、視線を川崎の顔より下に落とさないようにして謝る。
「? 何言っ……て……っ」
視線を何気なく下に落とした川崎が、俺の言葉の意味を察したようで。
見る間に耳まで真っ赤になる。
「あっ、うっ、ご、ごご、ごめん……っ」
物凄い速度で椅子ごと廊下側を向いてボタンをかける。廊下側に人がいたら丸見えだと思うが、今の時間帯なら大丈夫だろう。
「…………」
本当に、変わったなと思う。
1年前だったら、俺の反応に対して冷淡な言葉を投げかけるだけだったのに。
一体何が原因でここまで振る舞いが氷解して、柔らかな人間性を見せるようになったのか。
そんなことを思いながら、ふむと考え込む。
「……大きくなったな」
「あんた死にたいの?」
「ごめんなさい何でもないです許して」
光速で頭を下げた。
ちなみにこの日、川崎は一番上までボタンを留めていた。しかし豊満な胸元が却って強調されてしまい、廊下で海老名さんと川崎が出くわした際に「わ~……サキサキ、それすごくエロいよ? エロスだよ? どうしたの?」と言われて思い切り慌てていた。結局翌日はいつものスタイルに戻っていたけど……一回り大きいやつを着れば良いだけなのでは、と思った。しかしそれを俺が言うのも難だなと思ってやめておいた。
何に魅力を感じるかというのは、人それぞれだと思うんです。
みんな違ってみんな良いと思うんです。
「ここがたまらない!」と思う、多種多様のつぼ、ツボ、壺。
みんなちがってみんないい。
それで良い、それが良いと思うんです。
何が言いたいのかって?
僕は女の人の胸が大好きだということです。
わざわざ言う意味が分かりませんね。
なんでこんなことを言ったのか、自分でも分かりません。
春だからでしょうか。
春だからでしょうか。
続く。
サキサキでした。
メタネタで浴びる程のエロを書いて、ルミルミで微エロ(キスだけだけど)を書いて、そこから一気にほんわかと。
冒頭と最後で遊んでみようとあれこれ考えて書いてみたら、変なのが出来ました。実験って大事。
月曜日、頑張りましょう。あ、この言葉久しぶりに書いた気がする。
それでは、また明日ここでお会いしましょう(^^)!
今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!