小町の提案により、俺・小町・川崎・毒虫(=大志)・京華の5人で夕食の買い出し及びご飯会を行うことになった。こんな家族ぐるみの付き合いをするのって、普通幼馴染とかじゃないんだろうか。俺に幼馴染の設定ってねぇなぁ。あ、違うか。幼い頃に一緒の幼稚園や小学校に居たやつは沢山いる。けどその後誰とも継続的な関係を築いてないだけだった。幼馴染って言うか幼馴染まないだな。何言ってるんだろう俺。
俺の隣を楽し気に歩く小町はホットパンツを穿いていて、健康的な脚線美をこれでもかと言う程見せつけてくれている。ファッションとしては素敵この上無いが、まだ夜は冷え込む時期だから心配だ。それとこの生足に釣られて大志のような羽虫どもが寄ってこないかも心配だ。小町から見えない位置で誘蛾灯でも仕掛けようかしら。
「やー、楽しみだねー」
小町がうきうきとした様子で言う。
小町の言葉に、俺は一体何を楽しみにすれば良いだろうかと考える。
うーん。
あ、これだ。
「……そうだな、小町の料理を食べるのが楽しみだ」
「今日の計画がまるで意味を成してないよごみいちゃん……」
俺がせっかく考えた返答に対して、げんなりとした目をして小町が言う。全く以てその通りだから反論出来ない。
駅から歩きながらスマホの画面を見る。今日の朝になって、大志伝いで川崎からLINEのメッセージが送られてきて強制的にお友達になっていた。連絡先が増えることに喜びを覚えない人種なので何とも言えなかったが、川崎とならさばさばしたメッセージくらいしか交わさないと思うのでまあ良しとする。
ティコン、という音がしてメッセージが届く。
『今どこ?』
シンプルすぎるよ川崎さん。
約束の時刻まではまだ時間がある。どれ、ちょっとユーモアを見せてやろうか。
指をすいすい動かしてメッセージを送る。
『私メリーさん。今あなたの家の前にいるの』
『え、もう着いたの?』
『ボケ殺しにも程があるだろ』
何か泣きそうになったんだけど。
『着いてない。駅から向かってる途中』
そもそも細かい場所を知らないのに。
『初めからそう言いなって』
ちくしょう……。
そのうち、川崎の笑いのツボを見付けて腹筋が攣るまで笑かしてやろうと思った。
『で、どこ』
『私メリーさん、今どこにいると思う?』
『知らない。で、どこ?』
『ねえ俺恥ずかしくて死にそうなんだけど』
冷静に受け流される哀しみというものを知りました。こんな哀しみ、知りたくなかった……。
そんな会話をしている内に、進行方向の先によく見るコンビニのチェーン店を見付けた。
『今セブンまで来てる。向かいに薬局がある所』
『そこまで来たなら大丈夫。そのまま真っ直ぐ行けば100mくらいであたしん家。道路に出て待ってるから』
『わかった』
俺の最後の言葉に既読がつかない。どうやら即座にトーク画面を閉じたようだ。気の早いことだ。
小町が後ろ手に組んで、俺の隣に並んでにひひと笑う。こんな可愛い悪代官がいたら思わず子分になってしまいそうだ。
「沙希さんと順調に仲良くなってるねぇ」
「どこがだよ……」
顔を近付けてきた小町をしっしっと手で払うと、あざとく片頬を膨らませた。膨らんだ頬を人差し指でぷすりと刺すと「はぷっ」と可愛い声が漏れた。そしてすんごく睨まれた。思いの外恐い……。
小町から逃げるように顔を逸らすと、歩いている方向の延長線上に見覚えのある青みがかった黒髪が見えた。小町も気付いたようで、「およ?」と言っておでこの上に手をかざす。いけない、可愛すぎて血を吐きそうだ。
「沙希さーん!」
小町が満面の笑みで、手を振りながら川崎の下へ駆けていく。川崎は小町のコミュ力全開モードでの接近に大いに全力で慌てている。まだ遠いので声は聞こえないが、顔を引き攣らせて辺りにせわしなく視線を巡らせている。ご近所への印象を大事にしているんだろうか。
小町が川崎の目の前まで行きテンション高く話し始めてから、遅れること数十秒。のらりくらりと歩いていくと、川崎と小町が立っていたのはマンションの前だった。どうやら川崎はこのマンションに住んでいるらしい。二人を見ると、小町がにこにこ笑顔なのに対して川崎は疲れ切っていた。どう見ても小町が川崎の元気をドレインしてるようにしか見えない……。
「あんた……この妹どうにかしてよ」
川崎が疲弊しきった瞳で俺を見る。俺はうんうんと頷いて、にこやかに笑った。
「可愛いだろ。やらんぞ」
「別にいい……」
川崎が何気なく言った言葉に、小町は「何ですとー!?」とやたらオーバーな反応をしていた。何かこの子、いつもよりはしゃいでるなぁ……と思ったら、小町がとてとてと俺の下へ寄り、そっと耳打ちをしてきた。
「沙希さん、きっと緊張してるだろうから、初めにほぐそうと思ったんだけど……ちょっと失敗しちゃったみたい。ごめんね」
言うと、小町は口から舌をぺろりと出した。可愛すぎて二日分くらいの記憶が一瞬全部飛んだ。危うく学校に行くところだったぜ……。
「何話してんの?」
「ああ、や、何でもない」
川崎が俺たちのやりとりを訝し気に見ているのに気付き、どうこの場を取り繕おうかと考えていると……マンションの玄関から見覚えのある顔が出てきた。
「お兄さん、お久しぶりっす!」
「はーちゃんだー!」
「よお、京華。久しぶり。見ない間に大きくなったな」
「うん、おっきくなったー!」
「お兄さん、お久しぶりっす!」
「いいぞいいぞ。どんどんおっきくなれよ」
「うん、おっきくなるー!」
「お兄さん、お久しぶりっす!」
「黙れ貴様はどこの村人Aだ。ていうか誰だ。大体今の時代、Siriの方がよっぽど気の利いた対応を出来るぞ。ていうか誰だ。いい加減お前も現実を見ろ。あと誰だ」
「な、泣きそうっす……っ!」
久しぶりなので加減が分からないままぼこぼこにしたら、大志が目に見えて挫けた。ウケる。
……や、これは流石にやり過ぎたか……。
「あー、すまん。ちょっと言い過ぎ……ん?」
肩にずしんと重みがかかり、何事かと振り向くと川崎が物凄い形相で俺を睨んでいた。死相が見えるぜ! 俺にな!
「……あんた、死にたいの?」
「ごごごごごめんなさい」
俺の肩を握り砕かんばかりに力を込める川崎から何とか逃れつつ、全力で謝る。ちなみにこういうどもった言い方の亜種は「どどどど童貞ちゃうわ」な。俺は実際童貞だけど。
小町は一連のやりとりを見ると、肩を竦めて「これだからごみいちゃんは……」と呟いた。腹が立つけど可愛い。苛立ちは全て大志にぶつけよう。俺ひどいな。
「……お姉ちゃん、どなた?」
あどけない声が聞こえて視線を下に向けると、京華が顎に人差し指を当てて首をくりんと傾げている。おっと、川崎と小町のハートが撃ち抜かれたようです。
「かかかか可愛い……っ!」
どもり方は兄妹で似るらしい。
小町は屈んで手を膝に添えると、京華に満面の笑みを向けた。素敵で柔らかい笑みに、俺と大志の頬が緩む。なんか腹立つから大志には後でビンタしておこう。
「比企谷小町だよ。よろしくね」
京華は小町の自己紹介を聞いて、ぽわんとした表情を浮かべる。
「こまち……ちーちゃん? ちーちゃん!」
「そ、そこをチョイスするんだ……」
小町は京華のネーミングセンスに若干顔を引き攣らせたものの、「ま、いいか」とあっさり切り替えて京華に手を差し出した。京華は小さな両手で小町の手を包むと、「かわさきけーかっ!」と元気よく自己紹介してにぱっと笑った。川崎が悶え苦しんでるけど反応しないでおく。このシスコンめ……。
「そろそろ行くか」
これで挨拶を交わしていない初対面の組み合わせはもういないことを確認して、ちらりと川崎を見やる。
「ん、そうだね。大志、けーちゃん、行くよ」
川崎の言葉に、大志と京華が頷く。
「それじゃあ沙希さん。ここからは小町と頑張りましょうねー!」
「あ、ああ……」
「ん? 何だ、仕切ってくれるのか?」
小町の言葉にはてと首を傾げる。小町はくるりと振り返ると楽しそうに笑った。
「うん。この中で料理がまともに出来るのは小町と沙希さんだけだから、どこに行くかとかをざっくり話し合ってたんだ」
「お、おう、そうなのか」
お兄ちゃんに全く知らせてくれない、こういうドライな面も実は結構好きですよ。
「それではー? レッツゴーショッピーング!」
小町が握り拳をぶんと振り上げると、川崎はどん引いて、大志は両拳を握って気合を入れ、京華は小町を見てきゃーきゃーはしゃいでいる。
何だか、だいぶ賑やかな道中になりそうだなぁ……なんて思いながら、俺は小町の後ろをのそのそとついて行った。
続く。
サキサキでした。のんびりのんびり。
それでは、また明日ここでお会いしましょう(^^)!
今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!