比企谷家と川崎家の子供たちが、スーパーの中をのんびり歩く。この店の規模はそんなに大きくないが通路が広く、俺と川崎は京華と手を繋いだまま歩いていた。邪魔になるだろうと思ったが、まだ夕方のピークの手前だからかあまり客がおらず、その上向かいから人が来ても「あらあらまあまあ……うふふふ、どうぞどうぞ」と眩し過ぎる笑顔で道を譲ってくれるからやめるにやめられない。しかも歩を進めるごとに周囲の生温い視線が増えていく。なんで? なんで皆赤の他人にそんな興味津々なの?
小町はカートを押して、せわしなく両サイドに視線を向けている。大志がその隣を歩いていて、やたらそわそわしていて鬱陶しい。折を見て鎖骨にチョップしようと思う。あ、こっち見た。俺の殺気が漏れたのか、物凄い怯えた顔をして真正面を向いた。なんかごめんね……。反省はしてないし、後悔もしてないけど。
「うーんと、これとこれと、後は……あ、キャベツも要るんだった。お兄ちゃん、そこのキャベツ取って」
「ん、これか」
「そうそう」
俺の前を歩いていた小町が、ちょうど俺が通りがかったキャベツの売り場を指差した。
「えーと、じゃあこれで良いか」
言いながらひょいと手前の一玉を手に取ると、
「や、お兄ちゃん、それよりもっと……」「こっちの方が良いでしょ」
小町の声に川崎がかぶせて、俺が取ったものの少し奥にあったキャベツを手に取った。京華と手を繋いだまま、いつの間にか回り込んでいたようだ。私服でも胸元が緩い為、豊かな谷間がちらりと見えてしまった。いけない、バレたら殺される。下着も見えた気がするけど言わないでおこう。
川崎は自分が手に取ったキャベツと俺の持っているキャベツ、そして他のキャベツを見比べる。
「……うん、これが一番鮮度が良い。これくらいの方が料理のし甲斐があるから」
川崎の言葉に、小町は目を輝かせて「さ、流石やでぇ……っ!」と目を輝かせている。喋ってはいない。目で言っている。
川崎の言葉を聞いて、改めてキャベツの群れに視線を巡らせる。
「……あー、たしかに。ってかすげぇなお前、一瞬で一番良いのを選んだのか。女子力ってか……嫁度がたけぇな」
俺が何気なく言った言葉で、川崎の顔が見る間に真っ赤に染まった。
「……っ!? な、んな、なな、何言ってんだあんたは!? 嫁!? はぁ、嫁!? あ、あたしが、その、なんで……よよ、嫁、嫁って……っ」
「落ち着け落ち着けいてっ、なんでそんないてっ、テンぱっていてっ」
川崎が高速で首を振っている為に、青みがかったロングの黒髪が物凄い速度で俺の頬に往復ビンタをかましてくる。京華は俺がいたぶられている姿を見て、ほけーっとした顔をしている。京華よ、これが大人の痴態ってやつだよ……。
俺と川崎のやりとりを見ていた小町が、目を細めてにやりと笑った。
「うわぁ……お兄ちゃん、たらしだ、捻デレだ、ジゴロだ……」
「最初と最後はマジでだめだろそれ」
俺にそんな高度なコミュニケーションスキルはねぇよ……とジト目を小町に送っていると、大志が俺を見て目を輝かせた。
「お兄さん、たらしなんすね! ジゴロなんすね! これからお兄さんのことをジゴロ―兄さんと呼ぶっす!」
「黙れあらぬ角度で投げ飛ばして重傷を負わせるぞ」
「柔道技っすか!?」
大志が調子に乗って俺をイジり始めたら、本当に容赦なく投げる気がする。素人が投げるのが一番危険だからな、良い子は真似しないように。被害者は大志だけで十分だ。
ふと、もう落ち着いたのだろうかと思い川崎の様子を見てみる。
「あ、ああ、あんた、あたし、嫁……っ」
外国の方?
片言どころじゃないぞ。
小町は川崎が未だに落ち着かない所を見て、きゅぴーんと目を光らせた。ヤマピカリャー。
「そうですよねー、沙希さん嫁度がとっても高いですもんねー。それにお兄ちゃんのことを『あんた』って呼ぶのもなんだか奥さんっぽくて素敵ですよねー」
「っ!? は、ちょ、な、何言って、んだ、この妹……何、を……っ」
恥ずかしさのあまりまともに喋れなくなった川崎、と言うよりは。
ちょっとだけ言葉を覚えた林檎、と言った方が近いかもしれない。真っ赤っ赤な何かが懸命に喋ってます。
小町は川崎の言葉に、はてと首を傾げた。
「妹……いもうと……あ、義妹ですね☆」
「は、はぁ!? 違う、妹!」
「義妹?」
「い、も、う、と!」
「(義理の)い、も、う、と?」
「……もう、いい……」
おうふ……川崎が折れた……。うちの妹がごめんなさい。でも可愛いから許して。
このやりとりを終えると、川崎はしばらくの間耳まで真っ赤にして俯いていた。京華が「さーちゃん、なんであかいのー?」と聞いてきたので、面白おかしく説明してやろうと思ったら信じられないくらい恐ろしい形相で睨まれたので止めておいた。すごいよ川崎さん、視線だけで人の心臓を止めようとしたのかい?
× × ×
買い物を終え、帰り道。
俺と川崎で買い物袋を持つと、後ろから小町が俺・京華・川崎の3ショットをめっちゃ撮っていた。何で連写にしたんだお前……。
「お兄さん、何かこの構図がどんどん板についてきてるっす! 姉ちゃんと手を繋いでみてはどうっすか?」
俺も川崎も何も言わないことで勢いづいたのか、大志がとっても鬱陶しいことを言い出した。
「おいこら、調子乗んなよ大志。っていうか何だお前。『っす』『っす』『っす』って。破擦音がうるさいっつの」
「うぐ……っ、く、癖なんでそこはなんとか……っ」
「いいや許さん。罰としてお前の『っす』の発音を『su』じゃなくて『th』にしろ」
「は、え、ええ?」
「いいから」
「……わ、わかった……っth」
やべえ。
笑って死にそうだ。
突然混ざってきたローマ字の異質さよ。
「な、お兄さん、そんなに笑わないでほしいっth! ていうか姉ちゃんまで!? 比企谷さんもそんなに笑わないでくださいっth!」
「やめろ……俺を殺す気か……っ」
「お兄さんが言い出したんっthよ!?」
くっそ……死ぬ……。英語の発音得意なキャラなのかよ……無駄にthの発音がうめぇよ……死ぬ……。
川崎を見ると、顔を背けてぷるぷるしてる。ツボだったらしい。小町は腹を抱えて座り込んでしまった。腹痛で震えてるようにも見えるが、「ぷっ……くく……っ、無駄に発音上手い……」という声が漏れてきてるので大丈夫だろう。俺と同じ感想なのね、妹よ……。
「もう……俺はどうしたらいいんすか……」
「ちゃんと義務を果たせよ」
「これ義務だったんっthか!?」
「やめろ、死ぬ……割れる……っ」
「何が!? 何が割れるんthか!? 教えてくださいっth!」
大志が言葉を発する度に、俺と小町と川崎が瀕死の重傷を負う。京華は大志の面白さは分かっていないが、悶絶する3人を見てけらけらと笑っていた。
「た、大志……あんた、バカやってんじゃないよ……っ」
「お兄さんがやれって言ったんだって! ねえ、お兄さん!? お兄さんが言ったんっthよね!?」
「た、大志……もうあたし、限界……」
「何で!? 何で!?」
「あ」
「? どうしたんthか? お兄さん」
「腹……攣った……っ」
『わーっ!!』
この後、ぷち騒ぎになった。そうは言っても背中を反らすようにして腹を伸ばしていたら割とすぐ治ったんだけど。
そうか……大志にもこんな道があったのか……。これがあればきっとこいつも学校で人気者に「お兄さん、どうしたんthか?」腹がやばい腹がやばい腹がやばい……!
ひどいやりとりをしている内に、川崎家に着いた。
明日は筋肉痛だな……。
続く。
どうもでth。サキサキでした。
普段、仕事帰りの車の中でその日書くネタを考えるんですが、もう少し笑いを入れたいなー、大志を活用出来ないかなー、あ、「th」にしよう!という思考過程を辿りました。訳分からんですね。
ルミルミとはまた違った感じで、のんびり行きたいと思います(^^)
予告していた通り、明日はお休みです!小説情報にも書いておこうと思います。
それでは、また【明後日】ここでお会いしましょう(^^)!
今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!