京華の無差別破壊(語弊しかない)により一度は全員が崩れ落ちたが、数分経って何とか持ち直した。
「じゃ、じゃあ、沙希さん……お料理、しま、しょう……っ、」
「あ、ああ……」
小町と川崎の足ががくがくと震えている。エプロンを着たバンビが2頭……。
2人が調理に取り掛かると、俺と大志と京華は途端に暇になった。京華は大志の股座にぽすりと収まると、ぽへーっと宙空を見つめ始めた。何か見えるのかしら……。
「大志、俺は暇だ」
「何すかそのタチの悪い殿様みたいな態度……」
呆れたように言いながら、大志は京華のほっぺたを指でつっついている。ツッコミが若干テクニカルで腹が立った。京華は何が楽しいのか分からないが、きゃっきゃとはしゃいでいる。うむ、これはこれで良いな……絵面的に大志が邪魔だけど……すげえ邪魔だけど……。
京華はしばらく大志にされるがまま(語弊しかない)になっていたが、やがて飽きたのか、頬をつつかれても目を細めるだけであまり反応を示さなくなった。大志がショックを受けている。ざまあ。
「はーちゃん……」
京華が俺を呼ぶと、ぽけっとした顔でじっと見つめてきた。
「ん、どうした」
幼い小町と接していた時と同じように優しく語り掛けると、京華以外の3人がぎょっとした。小町と川崎に至っては調理の手を止めて物凄い勢いで振り返った。失礼すぎない?
当の京華は俺の反応に気を良くしたのか、ソファを降りて大志の傍から離れると、とてとてと俺の方に寄って来た。くるりと身体の向きを変え、今度は俺の股座にすっぽりと収まる。やだぴったり……。
「と、取られたっす……やっぱりお兄さんはジゴロっす……」
「黙れ、これからの人生で受ける全てのテストで名前を書き忘れる呪いをかけるぞ」
「そ、それかなりエグいっす……っ!」
学校の試験だけならまだしも、受験だの資格試験だのの時も書き忘れる。地獄だ。
「はーちゃん、はーちゃん」
まだ何をした訳でもないのに、京華が楽しそうにはしゃいでいる。明らかに大志と遊んでいる時よりもテンションが高い。大志が更に凹んでいる。可哀想だけど、まあ、何て言うか……ざまあ。
小町がくるりと振り返り、おたまを持ったまま目を細めて俺を見た。
「ロリいちゃん……」
「やめろ、ごみいちゃんの方がまだマシだ」
小町がくりんと首を傾げる。
「じゃあ……比企谷ペド幡?」
「すげえ気持ちわりい響きになったぞ」
語感が似てるのは……ベビメタヘドバン? 強引だった。しかもだいぶ。
気が付けば川崎も振り向いていて、白い目を向けている。小町は川崎をちらりと見て、むふふと笑った。
「お兄ちゃん、くれぐれも……手を出す相手は間違えないでね?」
小町の露骨な態度に、川崎の顔が一気に赤くなった。
「は、はあ!? だからあんたは何言って……っ」
「はいはーい、そろそろ次に移りましょうかー」
「え、あ、うぅ……っ」
川崎が慌てた末に、情けない声を出して再びキッチンに向き直る。うーん、川崎の困った顔って結構そそるなあ……。
…………。
……俺、何言ってるんだろう。
心を浄化すべく、京華のほっぺをむにむに。
むにむに。
むにに。
むにー。
京華はおうおうとオットセイみたいな妙な声を出している。ああ、癒し……。
「んむ?」
京華が顔を上げてこちらを向いたかと思うと、お返しと言わんばかりに俺の頬をつまんできた。面白い、ここからはむにり合いだ。何だむにり合いって。
むにむにむにむに。
むににむにに。
むにーむにー。
お互いオットセイみたいな声を出している。京華の声はすこぶる可愛いが、俺の声は我ながら誇らしいくらい気持ち悪い。
京華の両頬をつまむ。
「うにー」
目を細めて変な声を出した。お前はどこの青色サヴァンだ。アニメ化おめでとうございます。
幼子との癒し度200%のやりとりをしていると、かしゃりと言う音が聞こえた。顔を上げると大志がスマホで俺と京華を撮っていた。
「事務所を通してください。それと死んでください」
「後半要るんすか!?」
「今夜は月が綺麗ですが、とりあえず死ね」
「あ、それ知ってます。面白いんすかね?」
「今度買ってみるつもりだが……あ、そうそう、死ぬか?」
「そんなついでみたいなノリで恐いこと言わないでほしいっすよ!?」
「話の本筋からそれちゃいけないだろう」
「本筋がそれなんすか?」
「あ、違ったっけ。何写真撮ってんだこら」
「ここに至るまで長かったっす……」
大志は撮った写真を眺めて頬を緩めた。
「これ、他の人に送っていいっすか?」
「そんなのを送られて誰が幸せになるんだ。ていうか普通にいやだぞ。この場に居る人以外に送ったら亡き者にするからな」
「ええ……って、あれ? 姉ちゃんにも送って良いんすか?」
大志の視線が川崎に送られる。
「や、別に良いけど……要らねえだろ?」
確認のつもりで川崎を見ると、川崎とぱっちり目が合った。
高速で顔を逸らされた。
顔が真っ赤だったのは気のせいだろうか。
……なんでなのん?
× × ×
まったりした時間は続く。
さびしさは鳴る。
間違えた。語感が良くてつい言ってしまった。ごめんなさい。どうでも良いけど「祇園精舎の鐘の声」ってつい言いたくなるよね。ならないね。
小町と川崎はどちらも料理慣れしている上に、親との共同作業などにも慣れているのだろうか、連携に淀みが無い。ソーマのサポートを見ているみたいだ。
ただ、聞こえてくる会話が所々おかしい。
「沙希さん、こっちの火はもう止めますね。あ、あと今それとなくお尻を振るとお兄ちゃんを誘惑出来ますよ」
「は、はあ!? だから何言って……あ、火は止めて大丈夫。ありがと」
「真面目だ……沙希さん、すごく真面目だ……それでいて身体つきがエロい……」
「あんたね……」
「ぴやああ……」
小町が火を止めた途端に、川崎が小町のあごをぐわしと掴んだ。そのまま睨むかと思いきや、あごを掴んだ手でそのまま小町の頬をむにむにと触っている。どうやら柔らかさに驚いているらしい。仄かに笑みさえ浮かべている。あれ、怒りはどこへ? そんなに気持ち良いのだろうか。
「小町のほっぺ、柔らかいよな」
何気なく口を挟むと、高速で手を離した。夢中になっていたことを時間差で自覚したらしい。
「はあああ……怖かった……けど沙希さんってアレですね、気を許すとどこまでも甘やかしてくれそうですね」
「え? いや、何で急にそんなことを……」
「やー、だって、今さっきの沙希さんの表情、大志君や京華ちゃんと接してる時の表情に似てたなーって。何か今おねだりとかしたら何でも聞いてくれそうな雰囲気でしたもんで」
「あんたってやつは……」
「ぴやああ……」
はい、リピート。
「はあああ……怖かった……。ふう。……沙希さんのそういうとこ、お兄ちゃんと似てます。というかそっくりです」
「……どこが」
「お? もう一度説明しますかー? 耐えられますかー? きっと恥ずかしくなって死んじゃいますよー? おおっとー! 今度はそう簡単に掴ませませんよ! 沙希さんの間合いは把握しましっ!?」
一歩踏み込んだ川崎に、今度は頭をがっしりと掴まれた僕の妹・小町ちゃん。
「ふおぉぉぉ……」
アイアンクローをくらっている小町が、何か変な声を上げている。
何だかなあ……と思っていると、頬を小さな手がつねってきた。
「はーちゃん、こっち見てくんなきゃだめー」
「はっはっは、わりいな。うりうり」
「うにー」
京華とじゃれていると、大志がスマホを構えながら切なげな表情を浮かべている。
「うぐ……なんかのけ者になってるような……寂しいっす……」
ひどい返しの言葉はいくつも浮かんだが、今は京華とじゃれあうのに忙しいので、大志を見てにやりと笑うだけにしておいた。ものすごいショックを受けていた。
最初はどうなることやらと思っていた集まりだけども。
思いの外、和やかに過ごせている。
ここには、緩い空気と時間が穏やかに流れていた。
――そう、思っていたのだけども。
――ごめん、特にそんな妙な急展開なんてないです。
続く。
サキサキでした。悪ふざけを前面に。
それでは、また明日ここでお会いしましょう(^^)!
今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!