小町と川崎が料理に集中し出すと、俺と京華と……ええっと……あ、そうそう、大志が再び暇になった。京華は大志とじゃれ合っていた時と違い、飽きることなく俺と遊び続けている。ちなみに今はあっちむいてホイをかれこれ5分程やっている。ずっと連続で。まあまあストイックじゃないでしょうか。
「じゃんけんぽん」
俺が負ける。
「あっちむいてホイ。かったー!」
京華に負ける。
「お兄さん、弱いっすね……」
「うるせえ、お前なんか惚れた女子が皆『大志くん? ああ、良い人だけどね……』って女友達と話すのをたまたま通りがかった時に聞いてしまえ」
「やめてー! 考えただけで死にそうっす……!」
大志が頭を抱える。ざまあ。
ちなみに京華との戦績としては、大体8割程俺が負けている。これにはちゃんとした理由がある。
あっちむいてホイをする。
この言葉を聞けば、「ああ、さっきまで京華が股座に座ってたけど、今はソファで横並びにでもなって顔を突き合わせて遊んでるのかな」と思うだろう。
しかし、実際は京華は俺の股座にすっぽり収まったままである。
あっちむいてホイをするということになって、京華を離そうとしたら「やっ」と一言で一蹴されてしまった。俺が「むっ……」と唸るのを、小町が微かに笑っていた気がするけどきっと気のせいだと思いたい。
そんな訳で、お互い同じ向きのままあっちむいてホイをする運びと相成った。
俺は京華の顔のすぐ前に手を出して、京華はそれをぽけっと見ながら自分の手を出す。俺が勝てばそのまま上下左右のどれかを指差すが、京華の場合は俺の顔の前に手を伸ばす。つまり、自分の手を真上に上げて、上下左右のどれかを指差すのだ。
この行動により何が起きるかと言うと、京華の人差し指がしょっちゅう俺の頬やら顎をどつくのだ。痛くはない。というか可愛い。どこを指差すのか考えあぐねて「うーん……こっち!」とルール無視の掛け声と共に左を差すと、俺の頬にぷにりと刺さる。抵抗して他の向きにすることは勿論出来るのだけど、可愛すぎてそんな抵抗は出来ない。今の所京華の意思に反して避けた時の「むぅ……」と眉を八の字にする表情よりも、俺に勝ってにこぱっと笑う表情の方が可愛いからひたすら負けてあげているのである。もし俺が勝った時の京華の表情を見たくなったら、それはもうみっともないくらい鬼となって勝ちまくる所存だ。
…………。
「…………」
…………。
「お兄さん、どうしたんすか?」
「……いや、何でもない」
なんで俺、あっちむいてホイについてこんなに事細かに説明してるんだ……。
× × ×
「出来たー!」
小町の元気の良い声がリビングに響く。こちらでお腹を空かせて待っていた3人が振り向くと、小町と川崎がやり遂げたような爽やかな笑みを浮かべていた。
「ん、じゃあ並べるの手伝うわ」
言って、京華の脇に手を入れてひょいと持ち上げる。「ひゃー」とアトラクションにでも乗ったかのようにはしゃぐ京華が鬼のように可愛い。
「いや、早くして? ごみいちゃん」
立ち上がった時の目的を忘れて京華を高い高いして遊んでいると、小町がまあまあ冷ややかな声で言った。ご、ごめんなさい……。
鍋を運び、単品で既に皿に乗っているものはそのままテーブルに持っていく。運んでいる時妙に視線を感じたので、周りを見回したら川崎とばちっと視線が合った。川崎はすぐに顔を逸らしたが、頬を仄かに朱に染めていた。
「おお……」
テーブルに料理を並べ終えて、小町の隣、川崎の真向かいに座って改めて料理を並べると、思わず感嘆の声が漏れた。
ほうれん草のおひたし。
ねぎとかつお節を散らした豆腐。
なめこと豆腐のお味噌汁。
回鍋肉。
鶏の唐揚げ。
それと――里芋のにっころがし。
男2人がいるからなのか、回鍋肉と唐揚げはかなりの分量だった。あと、俺の前に置かれている里芋のにっころがしだけ明らかに量が多い。美味そうだけど、こんなに……? と思ってちらりと正面に目をやると、川崎がぷいと顔を逸らした。
『頂きます』
5人で手を合わせる。
すっかり腹が減っていたこともあり、正直かなりテンションが上がっている。いきなり肉にがっつくとそればかり食べてしまいそうなので、まずは里芋のにっころがしを頂く。
「……あむっ」
口に入れると、何とも懐かしい味がする。みりんの柔らかな甘みと、里芋の優しい味わいが口腔を包み込む。懐かしさというのは、年齢がどれだけ若くても感じるものなのだと知った。日本人の遺伝子に刻まれているのかもしれない。
「ど、どう……?」
川崎が恐る恐る聞いてくる。じっくり噛んで呑み込むと、川崎と目を合わせた。
「ん、すげえ旨い。ありがとな」
「……っ、そ、そう、それなら、良かった……っ」
川崎は顔を真っ赤にして俯いた後、自分も箸を手に取った。どうやら俺が食べるのを見届けていたらしい。ううむ、恥ずかしい……。小町がぴゅーぴゅー口笛を鳴らして鬱陶しかったので、頭にぽすんとチョップをくれてやった。
ほうれん草のおひたし、豆腐、唐揚げ、なめこの味噌汁、回鍋肉と次々に口に運んでいく。変に気取らない家庭的な味わいに箸が止まらず、気付けば無言で食べまくっていた。
「さーちゃん、これなんていうの?」
京華が川崎の袖を引き、回鍋肉を指差す。川崎の頬が物凄く緩んだ。
「これはね、ホイコーローって言うんだよ」
「コイホーロー?」
恋放浪? やだ、厨二チック……。
「ううん、ホイコーロー」
「ホイローコー!」
京華の中で最終判断がついたらしい。言い間違えたまま目を輝かせて、川崎が「う、うん、そうだね……」と諦めた顔で苦笑いを浮かべている。
「……後で訂正しとけよ。数年以内に訂正しとけば、京華も恥かかないで済むだろうから」
「ああ、そうだね……」
日常会話で回鍋肉なんて言葉はそうそう使わないだろう。小学校低学年くらいまでにきちんと訂正しておけば、後はどうとでもなるはずだ。
京華と川崎のやりとりにほっこりした所で、再び料理を堪能する。あっと言う間にご飯がなくなり、しまった……と思っていると、目の前にすっと手が伸びた。
「おかわりしたいんでしょ?」
「あ、ああ、わりい、頼む」
「ん」
川崎が柔らかな笑みを浮かべて、俺の茶碗を受け取って炊飯器を開ける。その様をぽけっと見ていると、小町がにっしっしと笑った。
「お兄ちゃん。お兄ちゃんの中で、沙希さんのポイントががんがん上がってるでしょ? でしょ?」
「うるせえ……」
頭をぐりぐりと撫でる。「にゃー!」と可愛い声が上がった。また今度やってみよう。
結局この後もおかわりをして、合計3杯をぺろりとたいらげた。
食べ終わってみんなでごちそう様をすると、小町が脇腹を小突いてきた。
「お兄ちゃん、今日の料理、実は全部沙希さんが作ったんだよ?」
「え、マジで? ほんとに?」
「そうそう。最初は小町も作ろうとしてたんだけど、ちょっと方針を変えて沙希さんのサポートに回ったの。って言っても小町のサポートが要らないくらい、沙希さんの料理の腕前はすごかったけどね」
ほえーと間抜けな声を漏らしながら川崎の背中を見つめると、川崎がちらりと振り向いた。
「……あんたの手伝いがあったから、いつもより捗ったよ」
「……っ! さ、沙希さん……っ!」
「や、やめろ、今皿持ってるから近付くな……っ!」
「おおっと~? その言い方からすると皿を置きさえすれば小町が抱き付いても良いということですかな~? ほっほっほぴやっ!?」
川崎がシンクに皿を置いて、小町の顎をがしりと掴んだ。
「あんたね……」
「ぴやああ……」
懲りねえなあ……と思いながら2人のやりとりを眺めていると、川崎が小町から手を離し、こちらに視線を向けた。頬を赤らめていて妙に色っぽい流し目になっていて、心臓がどきりと跳ねる。
「……という訳なんだけど、その、どうだった……?」
「……あー、その、なんだ、毎日食いたいくらい旨かったぞ。ごちそう様」
「……ま、毎日……っ!」
川崎が首まで真っ赤になり、両手で顔を覆った。
……やってしまった。
俺の横に来た大志が、呆れたように笑う。
「お兄さん、これでジゴロの自覚が無いんだったらよっぽどっすよ……」
「…………」
この時ばかりは、ちょっと反撃出来なかった。
続く。
サキサキでした。のんびりのんびり。
明日は定休日です。
それでは、また【明後日】ここでお会いしましょう(^^)!
今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!