※この作品はR-18です。

俺ガイル 日常の何気ないエロス。   作:高橋徹

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(16)

 川崎の家に行った2日後の、月曜日。

 いつも通り学校に行くと、俺の隣の席に既に川崎が座っていた。

 

「うっす」

 

 さりげない挨拶を心がけながら鞄を下ろすと、川崎がびくりと反応した。

 

「おおおおはよう」

「…………」

 

 心の底から「どうしたの?」という目で見ていると、川崎は耳まで真っ赤にして俯いてしまった。会話のネタを多少考えていたのにまるで活かせない……。

 机がくっついているので、俯いた女の子と目が腐った野郎が並んで座っているという状況の奇異さがより際立ってしまう。これはまずい。

 

「……あー、なんだ、机離した方が良いか?」

 

 状況を打開しようとして提案してみると、川崎はちらりと俺を見た。涙目で上目遣い気味且つ流し目という凶悪すぎるコンボに変な気持ちが芽生えそうになる。

 

「……いい、大丈夫だから」

 

 ぽそりと呟かれた言葉の可愛いこと可愛いこと。

 

「……んー、でも、やっぱ離した方が良くないか? 人には話しやすい距離ってあると思うし」

 

 意地悪く言いながら机をずらそうとすると、その腕をがっと掴まれた。力は強くないが意思の強さを感じる。

 

「……だから、いいってば……大丈夫だから……っ」

「あ、ああ、そうか、わりいわりい」

 

 本気で泣かんばかりに目を潤ませた川崎の表情に狼狽えて、慌てて手を引っ込める。

 掴まれた部分を制服の上からさすりながら、窓の外を見る。

 後頭部に視線を感じて振り向いたが、川崎は相変わらず俯いたままだった。

 

       ×  ×  ×

 

 昼休みになると、俺の前方の空間が腐った。

 意訳しすぎた。

 昼休みになると、またしても同じクラスになった、腐り姫こと海老名姫菜さんが腐海から人間界に舞い降りた。それはもうオウムの如く。もしくはシシ神様のごとく。

 

「ヒキタニくん、はろはろ~」

「……うっす」

 

 俺の壮大な心の独り言とは無関係に、海老名さんは今日もゆるい。ぱっと見は大人しくてさりげなく可愛くて影で男子に人気があるタイプだ。実際結構告白されているらしいし。異性に興味を持たれるって何なの……そんな幻多分知らない……。

 海老名さんは俺と挨拶をした後、何やら周りをきょろきょろとし始めた。何ぞやという目を向けると、海老名さんは「うーん……」と小声で唸って首を傾げた。

 

「ヒキタニくん、サキサキ知らない?」

「ん、あれ? そういやどこ行ったんだ……?」

 

 横を見ると、確かに川崎の席はもぬけの殻だった。海老名さんが来たのは昼休みになって数分しか経っていない時だったから、川崎はそれよりも早く教室を出たことになる。

 俺の返事に、海老名さんは「そっかー」とさしてショックでもない風に呟く。

 

「ま、こんな日もあるよね。サキサキから聞きたい話があるから、お昼誘おうとしたんだけど」

「ん、何だそれ? 聞きたいこと?」

 

 自分が思わず発した言葉に驚く。

 俺は今、あまりにも自然に川崎の中に踏み込むようなことを尋ねた。ここで海老名さんがどう答えようと、俺が踏み込もうとした事実は変わりない。

 俺が自分自身に驚くのと同じように、海老名さんも目をぱちくりとさせて俺を見た。そして数秒もすると、口の端を吊り上げてにやりと笑う。

 

「おやおや……ヒキタニくん、サキサキの内情に興味あり……? おやおや……?」

「……やっぱ忘れてくれ」

「まあまあ、そう言わずに。……ヒキタニくん、もしかしたら他人事じゃないかもしれないし」

 

 そう言ってふっと微笑む海老名さんの表情は、驚く程純粋で優しいものだった。

 

「あれは、そう、サキサキを見かけた時に気付いたこと……」

「え、なに、そんな前置きから始まるの?」

 

 昼ご飯を食べる時間がなくなるんだけど。

 

「そう……それは、今朝のこと……」

「思いの外ついさっきのことだな……」

 

 肩の力が大いに抜けた。

 

「サキサキと朝の挨拶したの。サキサキはいつもなら、ちょっと笑顔にしようと頑張るけど何だかんだで不器用だから仏頂面で挨拶するんだけど」

「そこまで見抜いてるのを本人には言ってやるなよ。恥ずかしさで死ぬから」

「あはは、確かにそうかもね」

 

 この人がこういう冗談にさらりと乗っかると割と怖い。

 

「でもね、今朝は何か違ったの。何かすごく自然な微笑みを浮かべたの。私、思わず見惚れちゃった」

 

 海老名さんの言葉に、心が重みをふわりと失う。

 

「……直前に弟とメールしてたからとかじゃないのか」

「んーん、違うと思う。サキサキが弟さんとメールしてる時に笑顔になるのは見たことあるけど、今朝みたいな笑い方はしてなかったから。あれはそう……何て言うか……」

 

 海老名さんが、俺に意味深な表情を向ける。短い言葉を告げようと薄い唇の形が変わった瞬間――

 

「海老名―、早く来なってー」

 

 三浦の声が、海老名さんの最後の言葉をかき消した。通常の話し声なら聞こえていただろうが、海老名さんは思わせぶりに言おうとしたのか、最後に言おうとした言葉だけは三浦の声にかき消されるくらいの音量だったようだ。誰に聞き取られるでもなく霧散した言葉の跡地に、言い知れぬしこりが残る。

 

「……ん、ヒキタニくん。この話はまた、その内にでもしよっか。じゃね~」

 

 悪戯っぽく微笑むと、海老名さんは「今行く~」とゆるい口調で答えて足早に去って行った。

 何を言いかけたのか、ほんの二文字程度だったような気もするが。

 

 ……それより、何よりも、海老名さんに対して強く感じたこと。

 ……男×男の話題じゃないと、あの人ほんと普通だなぁ……。

 

 去年の修学旅行ではだいぶ話したが、それ以来は普段ほとんど話すことがないので、何だか久しぶりにまともな海老名さんを見た気がした。すげえ失礼だな俺。

 

「……パン買いに行くか……」

 

 なんだかんだでそれなりに時間が経っていたので、急いで購買に向かう。今なら好きなパンが無くなっている代わりに、並ぶことなくストレスフリーで買うことが出来るだろう。

 昼休みになってすぐにいなくなった川崎のことを頭の隅に留めながら、ポケットに手を突っ込んで教室を出た。

 

       ×  ×  ×

 

 購買でパンを買って、いつも通りベストプレイスに向かうか……と思ったところで、ふと気分の変化が起きた。

 何となく、屋上に行きたくなったのだ。

 これだけ聞けば「え、その日によって食べる場所を変えて気分転換をするのは良いことなんじゃないの?」と思う人もいるかもしれない。

 

 しかし、俺はそんなタイプではない。

 俺は同じ場所で同じ時間に同じことをやるということに安心感を覚えるタチなのだ。よく行く店ならラーメンだろうが定食だろうが、基本同じメニュー。たまに違うものを食べると「なんか違う……俺にはやっぱりこいつしかいない」みたいに思って結局「いつもの」に戻る。

 

 ましてや今俺が行こうとしていたのはベストプレイスだ。どれだけの愛着を持っているか分からない。戸塚が部活を引退したら俺の中で一気に価値を無くすかもしれないという危機は孕んでいるが、それでもやはり安寧の場所であることには変わりがない。

 それが、今になって急に屋上に行きたいなどとこの心はおっしゃる。一体どういう了見だろう。

 

 はて、屋上にはどんな思い出があったろう。

 まずは……文化祭。

 ……思い出すのはやめておこう。

 その前は……ああ、うん、そうか。

 

「……今日は風が強いな……」

 

 何を言ってるんだ俺はと思いながら、頭をがしがしと掻いて屋上に向かう。

 そういえば川崎は結局どこにいるんだろうな……とぼんやり考える。

 

 思考はのんびりしているのに、足取りは妙に軽かった。

 

 

 

 続く。

 

 

 




 二夜連続サキサキでした。のんびりのんびり。

 明日はお休みです!皆さん、良い休日を(^^)!
 それでは、また【明後日】ここでお会いしましょう(^^)!
 今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!
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