映画は続く。普通に見れば身の毛もよだつ、最後まで見ることさえ厳しい程恐い映画が。
しかし今は、その映画の内容もほとんど頭に入ってこない。
カップルシートとして用意された、人一人横になれるソファ。そこに俺が仰向けになり、川崎が覆いかぶさっている。
川崎は身長が高い割にとても軽く、そして上から下まで柔らかい。男と女でこうも違うものなのかと驚く。
川崎を見るとどこか惚けていて、時折聞こえて来るホラーシーンの悲鳴にびくりと反応するが、すぐにまたぽーっとした表情に戻る。このソファの内と外で、時間の流れさえ違う気がした。
「か、川崎」
「……ん、なに?」
「その、なんだ、いつまでこの体勢を維持すると良いでありましょうか」
いつの時代の人なのかも分からない言葉を使ってしまった。川崎はくすりと笑ったが、映画にびくついて身体を密着させてきた。
「……この映画が終わるまでは、離れるのは無理かも」
生殺し宣告を受けた。
「……その、良いのか?」
色々な意味を込めて言う。柔らかい女体と重なって既に下腹部は全力で反応してしまっていて、正直言えばこの状態がバレる前に一刻も早く離れてほしかった。肩を抱くとかでも十分ではと思ったが、
「……ん、大丈夫」
と言って、あろうことか甘えるように抱き付いてきた。そうか、行為の時は甘えるタイプか……などと考えた瞬間、下半身に更に血流が集まってしまう。このタイミングでいかがわしい想像をするのは不可抗力だと思う。
居心地の良い場所を探しているのか、川崎がもぞもぞと腰を動かす。まずいと思い止めようとしたが、間に合わなかった。
「……ん? 比企谷、これ……って……っ」
「…………」
無言の肯定をすると、川崎は俺の胸板に顔をうずめてぷるぷると震えた。しばらくすると、上目遣いで俺を見た。
「……変態……っ」
スクリーンの光に照らされた顔は真っ赤に染まっていて。申し訳無いという気持ち以上に、悪戯心が湧いてしまった。こほんと咳払いをして、川崎の顔を真っ直ぐ見つめる。
「……いや、この状況でこうならない方が男としてまずいと思う」
「え……っ、そ、そうなの?」
「だって川崎とこんな風に抱き合ってるんだぞ。めっちゃ柔らかいし、良い匂いするし、正直俺に襲われないのを感謝してほしいくらいだな」
言い過ぎたか……と思ったのだけど、川崎は無言で抱きしめてきた。川崎の背中にそろりと両腕を回して抱きしめると、思ったより細い川崎の身体がびくりと跳ねる。
「……ぁ……っ」
消えそうな程小さい声を漏らして、川崎は身を委ねてくる。
これは、一体どういうことなんだろうか。どこまで許してもらえるのだろうか。
周りの音に耳を澄ますと、あちらこちらからあられもない声が聞こえてくる。肉と肉がぶつかり合うような音も聞こえて、この部屋の中が完全にピンクな空間と化しているのが分かる。俺も川崎の、この空気の影響を多分に受けていることが分かる。
ごくりと喉を鳴らして、右腕を川崎の背中から脇腹へと滑らせる。川崎はぴくりと反応したが何も言ってこない。静かな息遣いが微かに聞こえるだけだ。
川崎を背中から尻にかけてじっくりと撫でる。
「ぅあ……っ、あっ、んっ、んんん……っ」
顔を俺の胸にうずめたまま、悩ましい声を漏らす。Tシャツ越しにでも温度が伝わりそうな程熱い息が、ゆっくりと官能をかき立ててくる。
両膝を立てて、川崎を強く抱きしめると同時に股間を押し付ける。スカートよりも柔らかい感触がすると同時に、川崎が急に顔を上げた。泣きそうな顔で口元を歪め、自分の頬を俺の頬にくっつけるように抱き付いてくる。
「だめ、何やってんのばか、だめだって……っ」
言葉では力強く止めてくるが、声は弱々しく震えていて、嗜虐心を煽ってくる。川崎の肌は汗でしっとりと湿っていて、素肌が微かにでも触れ合うと甘い痺れが走った。
抱きしめる腕に力を込めて、下腹部を押し付ける。柔らかい生地をぐにぐにと押し込む度に、川崎は俺の腕の中で豊満な身体をくねらせ、艶っぽい息を漏らした。
「あっ、んんっ、だめ、ほんと、だめ……だめだから……っ」
耳元で熱っぽい声で何度も囁かれて、止めるどころか更に腰を動かしてしまう。川崎は身体をよじって逃げようとするが、本気で抵抗しているようには思えなかった。
「……本当にだめなのか?」
耳元で囁くと、川崎は可愛らしく眉を八の字にして睨んで来た。
「……ばか……っ、信じらんない……っ」
身体の奥底がざわりと波打つ。行為を止めるという選択肢が頭の中から消え去った。両手で川崎の尻を掴むと、指が容易く沈み込んだ。
「っ!? ちょっと、何触って……んぁぅぅっ!」
スカートの上からでも豊満な尻の感触が分かり陶然とする。沈み込む時はどこまでも柔らかいのに、きちんと跳ね返す弾力を備えている。むにむにと触りながら、尻をこちらの下腹部に近付けて、隆起した部分に川崎の大事な部分を押し付けた。
……にちっ、にゅちっ、にゅちゅ……っ。
「あっ、やっ、うそ……っ」
微かな、けれどはっきりとした水音が聞こえて、川崎の顔が急に熱くなる。何の音であるかは互いに分かっていて、俺は更に興奮し、川崎は羞恥のあまり動かなくなってしまった。
そこからは、互いに無言だった。
俺は聞こえてくる水音が少しでも大きくなるように身体を押し付け、川崎は俺の耳元で荒い呼吸を繰り返す。
甘い匂いに包まれて、心が惚けたまま映画は終わりへと近付いていく。
川崎は、もう怖がっていなかった。
「……ぁ……ぅあ……っ、……んぁ……っ」
微かに漏れる声が、映画の終わりまで興奮をかき立て続け、勃起が収まることはなかった。
× × ×
映画が終わった後。
「……何か言いたいことはある?」
「ここで土下座するとよろしいでしょうか」
「そんな恥ずかしいことしなくていいから」
「はい……」
会話だけ聞けば、尻に敷かれているように見えるだろう。
しかし実際は、映画館の中のベンチに川崎が座り、俺は川崎の前に立ってぽりぽりと頬を掻いていた。川崎は頬を赤らめて、上目遣いで俺を睨んでいる。俺を説教したいようだが、恥ずかしさで声が上ずっているため可愛いとしか思えない。
隣に座ると、すかさず川崎が距離をとった。
…………。
無言で距離を詰めると、同じ分だけ川崎が遠ざかる。磁石が反発してるのかってくらい自然に遠ざかる。
…………。
それでも距離を詰めると、川崎は俺から遠ざかろうとした直後に壁に右肩がぶつかり、逃げ場が無いことに気付いた。あわあわと慌てている間に俺が密着寸前まで近付くと、川崎は顔を真っ赤にして口をぱくぱくさせた。
「あ、ちょ、こら、ほんと、今はだめ、だめだから……っ」
たどたどしく喋ると、膝に手を置いて背筋を伸ばしたまま俯いた。じっと様子を見る俺と目が合うと、目を泳がせてまたすぐ俯いてしまう。
…………。
……何この可愛い生き物?
しかし、川崎と接すれば接する程思う。
この子、絶対Мですやん。
邪なことを考えて頬がひくつきかけたが、そんな光景を見られたら本気で引かれるので必死で抑えた。
「……映画、その内また行きたいんだけど、どうだ」
「よく言えたねそれ……」
「お前は行きたくないのか?」
「……っ、……普通の映画になら行きたい」
「普通か。それも良いけど、今回みたいなのはいやか?」
「……し、心臓に悪い……っ」
「それは映画が? それとも俺たちの……」
「ほ、ほら、もう行くよ。混んできたし」
首まで赤くしながら、川崎が無理やりに言葉を切って立ち上がる。振り返りもせずに歩き出したので、俺は慌てて付いていった。
この後は2人で適当に行きたい場所を考えて巡った。手が触れるだけでも内心動揺したが、川崎の方が何倍も大袈裟な反応をしていた。
川崎の胸や尻に視線が行くと、その度に手の甲を優しくつねられた。
最近特に色々見る事が出来るようになった川崎の表情を思い浮かべて、ふと思う。
多くの女性は笑顔が素敵で魅力的なのだと思う。
川崎の控えめな笑顔もとても素敵なのだけど、性格上満面の笑みを浮かべるようなタイプではない。
俺は川崎の笑みも好きだけど、顔を真っ赤にして目に涙をためて、眉をひそめて上目遣いで俺を睨む表情が一番好きかもしれない。
……どんだけピンポイントなんだ、俺のツボは。
続く。
サキサキでした。
この作品の初期に書いたサキサキ編を読んで頂いた上で今回のお話の最後のくだりを読んだ方は分かると思うのですが、何だかんだで僕がサキサキに求めるのは泣き顔なんだなと気付きました。何の告白なんでしょうか、これ。
最近仕事の都合で、平日休みが前後してます。それで更新がどうしても厳しい場合が増えています。日曜は基本的に休みなので月曜日の更新は確実なんですが、以前言った「木・日はお休み」というのが中々守れていない状況になっています。
なので、ざっくりと「大体週5更新」という認識で見守って頂ければと思います。
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「また明日ここで~」と書いた後に書き直すケースが何度もあったので、今後は確実にそれが言えるタイミング以外で書くのは控えておきます!申し訳ありません。
それでは、今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!